『Ribbon』は1995年にPC98用として、ボンびいボンボン!から発売されました。
いろんな意味で、ふと昔を思い出してしまう、そんな作品でしたね。
<概要>
本作は一応は恋愛ゲームになるのですが、全体としては3部構成になっていまして、1部では全ての女の子に手を出しまくるナンパゲー的な感じになっています。
他方で、2部では一転して、メインヒロインとの純愛を扱っていて、3部はH三昧のオマケみたいなものですね。
<感想>
キャラがエロゲテンプレというのではなくて、比較的現実的な感じであり、それが本作の1つの特徴とも言えるのかもしれませんが、基本的には普通の作品だと思います。
グラフィックはロリ系で可愛らしいので、その手が好きならより楽しめるのではないでしょうか。
個人的にはちょっと髪の量が気になったりもしたのですが、ボンびいは一時期もっとやばい絵柄のときもありましたし、それと比べれば十分許容範囲内ってところでしょうね。
<ゲームデザイン>
まぁここら辺までは、3部構成の珍しさ以外は普通の作品なんですけどね。
何か妙に印象深かったのが、ゲームシステムだったわけでして。
いやデザインというか、むしろ文体と言った方が相応しいのか。
言い方は難しいのですが、何れにしろちょっとした異質さを感じたのです。
『Ribbon』では、画面下段のテキストを読み進めつつ、会話の途中にときどき出てくる選択肢を選ぶことでゲームが進行します。
もっとも、これに場所移動の選択が加わるので、厳密には今のノベルとは異なるのでしょう。
しかし、会話内の選択肢が中心ということで、大枠では現行のノベル系ゲームと一緒なんです。
選択を間違えるとバッドエンドになるのでマルチエンドではあるものの、大筋では一本道であり、つまりは一本道系のノベルとなるわけですね。
ここまでは普通のノベル系ADVと同じなのですが、異質さを感じたのはテキスト部分で、文体がキミは~をしたとか、それは~で~なんだなって感じで、主人公とは別のコンピューターの人格みたいなのがあって、それが主人公に語りかける感じで進行するのです。
プレイヤーは主人公を通じてヒロインらと会話をするわけですが、基本的な進行部分で、そのコンピューターとのやりとりがあるわけですね。
ボンびいボンボン!は、『ヌーク』などの過去作で、天の声システムと呼ばれるものを導入していました。
その時は画面上部に枠を作り、その中で、まさに空から天の声が届くような感じで、プレイヤーにツッコミを入れてきていたのです。
それを今度は上部の枠でなく、下部テキスト欄の地の文でやったということなのでしょう。
ボンびいボンボン!内における作品の変遷的にはそうなるのですが、これを更に大きな視点で言い換えれば、昔のコマンド入力式であるとか、最初期のコマンド選択式のADVの構造と似通っているのです。
だからこの構造は今のノベル系しか知らない人だと、下手糞な2人称のテキストに見えて、抵抗を感じてしまうかもしれません。
しかし私には、ある意味非常に懐かしいもののように感じました。
コマンド選択式や入力式とノベル系ADVとでは、そもそも構造自体が異なります。
とは言いつつも、長い歴史の中で、コマンド選択式自体も少しずつ変遷しているのです。
ちょっと話がそれてしまいますが、ADVにおけるゲーム性の観点からは、90年代より80年代のPCゲーの方が実は優れていて、多数のコマンドを用意しつつも適切なコマンドだけ選べば先に進めたり、どれを選べば良いかも上手く誘導してくれた作品もあります。
いろんな制約を課すことで総当りを不可能にしたり、総当りできたとしてもそれは非効率的で、あくまで馬鹿なプレイヤーのための最終手段であり、何をすべきか自分で考えた方が早いってゲームも多数ありました。
もっとも、こういうゲーム性という側面の進化・追求は次第に弱くなり、90年代以降はストーリーを重視するにつれ、あえて総当りさせる作品が増えるなど、年が経つにごとにゲーム性も次第に弱くなっていくわけです。
だから後期の作品しか知らないと選択式=総当りと思いがちなのですが、何でもかんでも一緒にされたら困るんですよね。
まぁポイント&クリック式ADVまで総当りと言い出す馬鹿が今でもいるので、そんなのがいる限り誤解は残り続けるのでしょうが・・・
細かい部分はここでは関係ないので後は割愛しますが、他にも初期と後期ではテキスト面の構造でも違いがありました。
即ち後期はコマンド選択式という形は同じでも、ストーリーを読み進めることが中心になっていくことにより、テキストの構造が小説に近い形式になっていきます。
つまり後期のコマンド選択式はノベル系と似た構造になっていき、両者の垣根が曖昧になっているものも多いんですね。
近年にもコマンド選択式と形式的には分類できるものがありますが、形式上は選択式でも実質面がノベルに近いものが大半です。
他方で初期のコマンド選択式は入力式の影響が強く残っていたこともあり、主人公や物語内のキャラとは異なる、コンピューターの人格みたいなものがあるゲームも多かったです。
今風に言えば、メタ的な感じだったんですよね。
ニュアンス的にはTRPGのマスターとのやりとりみたいな感じで、それが初期のADVのテキスト面での構造でもありました。
この段階では今のノベルゲーとテキスト面での構造が明らかに異なります。
時系列に沿って整理しなおすと、初期のTRPGに似たテキストの構造と、選択式や入力式というシステムの構造がまずあったわけです。
それが次第にストーリー重視の流れになるにつれ、小説に近い形へとテキストの構造が変化していきます。
しかしテキスト面での変化が生じたものの、これにシステム面の変化が伴っていきませんでした。
テキストは変わったのにシステムが変わらない。
そういう状況・作品が後期の選択式には多かったのです。
コマンド選択におけるゲーム性の追求を放棄するだけでなく、システムがテキストとマッチしなくなったことも相まって、コマンド選択が単なる時間稼ぎにしか見えなくなってきてしまった。
それが後期のコマンド選択式の大きな課題でもあったわけですね。
しかしその逆、システムは変わったのにテキストが変わらない、つまり形式的にはノベル系かそれに類する構造なのに、実質的なテキスト面での構造が入力式みたいなゲームってのは、かなり珍しいのではないでしょうか。
上記の歴史的な変遷から見てみても、かなり異質に思えます。
これを2人称で読みにくいとバッサリ切るのは簡単ですが、そうでない本質的・実質的な部分での違いが、私には非常に興味深かったように思います。
そもそも、この辺の捉え方次第でプレイヤーの年代、或いは経験ってのが見えてくる気がしますね。
まぁ当然のことではありますが、選択式やノベル系の構造それ自体に優劣はありません。
仮にどの構造をとったとしても、そこからすぐに面白さに直結するわけではないのです。
『Ribbon』だって特別面白いというわけではないですし、むしろシステムとテキストがマッチしていないということで、マイナスに評価されることの方が多いでしょう。
私もこのミスマッチからくる違和感については、マイナスに考えるべきと思っています。
ただ、当事者以外の視点を交える構造自体に関しては、ボンびいボンボン!はかなり慣れていたわけでして。
よって、そのマイナスは最小限にとどまったと思うんですけどね。
また、上記の3部構成による異なる楽しみ方や、コンフィグの親切さやセーブ数の多さなど細かい面での配慮もあり、トータルではむしろプラスに考えて良いくらいだったのではないかと。
加えて、サウンドも独特の雰囲気で良かったですしね。
<評価>
総合では、ギリギリ良作ってところでしょうか。
純粋なストーリーという側面では2部こそ結構良かったものの、1部やテキストの構造が足かせになり佳作程度に感じるかもしれません。
しかし、サウンドや細かいシステム周りなども合わせると、良作扱いでも構わないのかなと思います。
評価に関してはそんなところですが、上記のように評価以上に印象深い作品でもありました。
今回は多くの人には興味のない話ばかりだったかもしれませんが、私の感じた異質さを数人でもいいから感じ取ってもらえればなと思います。
ランク:B-(良作)
Last Updated on 2024-10-25 by katan
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