『ラストエクスプレス ( The Last Express )』は、1997年にWIN用としてゲームバンクから発売されました。
リアルタイムで進行するミステリーアドベンチャー。
非常にインパクトの強い作品でした。
<概要>
ゲームジャンルは、リアルタイムで進行する、インタラクティブムービーになります。
プレイヤーの行動方法という観点から言えば、ポイント&クリック式とMYST系の中間のようなタイプであり、詳細は後述します。
商品紹介・・・
1914年7月、世界は戦火の渦に巻き込まれようとしていた。
オリエント急行を舞台に、緊迫したドラマが展開する、本格派リアルタイムアドベンチャー「ラストエクスプレス」。
あらすじ・・・
それはヨーロッパ大陸に少しずつ戦争の足音が近づく暗黒の時代。
アメリカ人医師で冒険家でもあるロバート・キャスは、旧友のタイラー・ホイットニーから一通の電報を受け取る。
好奇心旺盛なキャスは、いつもの胡散臭いタイラーの行動に一抹の不安を覚えながらも、指定のパリ発コンスタンチノープル行オリエント急行に乗り込んだ・・・
そこでキャスの見たものは?
そして、ファイアーバードと呼ばれる謎の財宝とは?
<感想>
海外のレビューサイトか何かの記事で見かけた中に、「ADV史上、最高傑作にもなりえた作品」
・・・と紹介されたゲームがありました。
そのゲーム、奇跡的にも日本語版も発売されているのですよ。
その名も『ラストエクスプレス』(The Last Express)といいます。
さて、この『ラストエクスプレス』の最大の魅力となると、やはりゲームシステムになるのでしょうか。
題名である程度察することが出来るかもしれませんが、舞台は最後となるオリエント急行の中です。
そして走り続けるオリエント急行のごとく、ゲームはリアルタイムで進行することとなります。
もっとも、行動に伴い時間が進行する『同級生』等とは異なり、本作では、こちらが何もしなくても時間は進行していきます。
そしてこの時間の経過と共に、登場するキャラたちも勝手に動いていきます。
だから時間経過型ではなく、リアルタイムとなるわけですね。
解りますでしょうか?
主人公(プレイヤー)が何もしなくても、他のキャラたちは勝手に自分のスケジュール通りに行動するし、しかも勝手に音声付で喋り捲ってるんですよ。
人の集まる食堂車が、ある意味このゲームを象徴しているのでしょう。
食堂車の中に入ると、そこには多くの他の乗客がいて、四方八方で既に勝手に会話をしてるのです。
もちろん、フルボイスでね。
この音声に囲まれるという体験は、非常に衝撃的でしたね。
本作が発売されたのは97年です。
この当時、こんな風にあちこちから音声が聞こえてくるゲームが、他にどれだけあったでしょうか。
それどころか、10年経った最近になってようやくって気すらします。
勝手にしゃべっていることは、このゲームの肝でもあり、当然のごとく攻略にも反映されています。
つまり、他人の会話を「盗み聞き」をする事で情報を集めていくわけで、これも攻略にとってとても大事な部分でもあるのです。
フルボイスだけではありません。
上述のように、NPCらは各自の予定に従い勝手に行動しています。
これは、時間によって別の場所に移動するわけですが、国内のゲームでは、いきなりその場所にワープする場合が多いです。
お前、いつの間に移動したんだよって思ったこと多々ありますしね。
でも、『ラストエクスプレス』は違います。
ちゃんと次の移動先に歩いていくんです。
もちろん、アニメーションでね。
絶えず動き、絶えず喋っている人々。
絶えず動いているオリエント急行。
全てが動き、生きているのです。
このゲームが最高傑作になりえたかもしれないといった意味が、わかってもらえたでしょうか。
アダルトゲームをやる人には、『サイファー』と『FOREST』を足して、大幅にグレードアップした物を想像すればわかり易いかな。
とにかくプレイした者全てに衝撃を与え、ADVの新しい方向性を示してくれた気がしたものです。
これをプレイした時には、ADVがますます発展すると信じて疑わないくらいに。
初めてプレイしたときの興奮は、今でも忘れられません・・・
というわけで、非常に大きなインパクトを与えてくれた作品だったのですが、上記のサイトの記事だかでも、最高傑作になりえたかもしれないとあり、最高傑作とまではしていません。
最高傑作になれたかもしれないというのは、裏を返せば最高傑作ではないと考えていることになります。
したがって、当然ながら物足りない面もあるということです。
システムについては、先ほどリアルタイムのADVと書きました。
基本はあちこちクリックするタイプになります。
したがって、基本システムから見ると、ポイント&クリック式(P&C式)ADVの亜種とも考えられますし、逆にテキストでなくムービー主体ということで、インタラクティブムービーやMYST系の亜種と考えることもできます。
この当時は境界線上の作品も結構ありましたし、『ラストエクスプレス』もまたその中の1本なのでしょう。
そして両方の良いとこどりなら文句なかったのですが、細かく見るとですね、クリックできる箇所は『MYST』並、一箇所で出来る事はP&C式ADV並というように、どっちつかずなのです。
それゆえに練りこみが少し足りなく、ヘビーなADVファンはプレイ中に時間を持て余すこともあるでしょう。
まぁ、日本にそんな人がどれだけいるかは謎ですが・・・
もちろん、上記のように本作独自の魅力はありますし、他にもプレイヤーの行動に応じて展開が変わるなど、足りない部分を補うだけの魅力は十分に有しています。
もっとも、解法が複数で行動により展開が変わるという要素も、大袈裟に言うほど優れたものでもなく、微々たる変化だけですしね。
この部分は大きな特徴とまでは言えないのでしょう。
本作は長所に目が行く人には衝撃的で魅力的な作品なのですが、従来のADVの枠に無理やり当てはめて考える保守的な人だと、短所の方に目が行きやすいように思います。
<ストーリー>
ストーリーもオリエント急行の雰囲気は抜群なのだけど、ラストのオチだけは少し弱いんですよね。
基本的にテキストを廃した方向の作品ですし、『MYST』と同じく雰囲気を堪能する類のゲームなのでしょう。
ストーリーそのものというよりも、雰囲気や体験から感じる、今風に言えばナラティブな楽しみをするといった、プレイヤー自身が感じたことを重視する作品ってことですね。
<グラフィック>
グラフィックも綺麗で、CGで描かれたオブジェを見ているだけで満足できます。
そして何より、上述のように、アニメーションで動くキャラたちのインパクトが凄いので、全体としては十分に長所と言えます。
しかし、車内の移動画面は縦長で少し狭いので、人によってはそこが少し気になるかもしれません。
まぁ、自分で書いておきながら、何だかほとんどあら捜しっぽい気もしてきますけどね。
いずれにしろ、問題があるとすればそんなところでしょうね。
<サウンド>
ただ、サウンドだけはケチのつけようがないですね。
オリジナルのサウンドや効果音は雰囲気抜群。
移植作品ということで吹き替えがなされてますが、山寺宏一さん、久川綾さんと実力派が担当してるので、非常に安心して聞けますし。
当時のゲームの音声に関しては『レガシーオブタイム』でも書きましたが、山寺さんって、こんな国内ではマイナーなゲームでも、キッチリと必要な仕事に「+α」をしてくるんですよね。
本当に尊敬に値しますよ。
最近はゲームにおける声の重要度に対する認識も増してますし、上手い人も増えています。
でも当時は、結構適当であったり、ゲームという方式に慣れていないのか、どうにも下手糞な人も多かっただけに、余計にそう思うのです。
<評価>
完成度だけがやや弱いというか、従来のADVの基準で無理やり判断しようとすると、ややもの足りなく感じてしまう類の作品でありますが、逆から言えば従来の枠では決して図ることのできない、それだけ斬新な作品だったということですね。
海外での評価が分かれうるのも、こうした理由からでしょう。
まぁ、完成度より独自性を尊重する私には、本当に素晴らしい作品でしたけどね。
そのため、総合でも文句なしに名作といえるでしょう。
なぜ、これほどの作品が無名なのか。
日本におけるADVへの関心の薄さが顕著に表れてるようで、非常に残念で仕方ありません。
少なくともADVファンを自称する人には、ぜひともやってもらいたいものですね。
ランク:AA(傑作)
Last Updated on 2024-12-08 by katan
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