夢幻夜想曲

1995

『夢幻夜想曲』は1995年にPC98用として、アプリコットから発売されました。

98時代屈指のストーリーテラー、三峰奈緒さんの代表作になりますね。

<概要>

ゲームジャンルはコマンド選択式ADVになります。

あらすじ・・・
大自然の中で自己を見詰め直す旅に出た主人公は、突然嵐に巻き込まれて崖から転落し瀕死の重傷を負う。
そして気付けば怪しげな洋館の中に。
館の女主人の献身的な介護により一命を取り止め回復する。
女主人曰く「ここは現実世界とは時間も空間も異なる閉じられた世界。
現実世界に絶望した者、 現実世界での居場所を無くした者、生きる気力を無くした者が迷い込む、無限の迷宮」とのこと。
一度立ち入ったら二度と抜け出せず、代わり映えのしない日常をただ過ごしていくだけ、と。
「貴方はほんの少し人生の歯車が狂ったために、本来訪れる必要の無いこの世界に迷い込んでしまった。
だけど貴方は生きる力に溢れている。貴方なら元の世界に戻れるかも・・・」

<総論>

『夢幻夜想曲』のシナリオは三峰奈緒さんであり、98時代に「GAO GAOシリーズ」(『ラジカルシークエンス』『パンドラの森』『ワイルドフォース』『カナン』)のシナリオも手がけた方ですね。

WIN時代になってからアダルトゲームをプレイし始めた人には、馴染みは薄いかと思います。
でも、設定したテーマに従って物語を魅せるって点では、PC98時代でも屈指の人だったと思います。
その1点に関して言うならば、蛭田さんや剣乃さんらを押さえNO.1と評する人がいても、決して不思議ではない気もします。

ところで、三峰さんの代表作が「GAO GAOシリーズ」であるにしても、シリーズは全部で4作品あります。
ある意味、あわせ技一本みたいなとこがあります。
でも、『夢幻夜想曲』は1本限りですからね。
この1本に三峰奈緒さんの、館ものへの意気込みが全部凝縮されているのです。

成熟した98時代末期の館ゲーの中にあって、それは一際目立つ存在でした。
これこそが、98時代に流行した館ものの、集大成と呼べるのではないでしょうか。

<感想>

そもそも館ものっていうのは、俗世間とは隔離された閉鎖的な世界が舞台となります。
その一方で、本作の館に住んでいるヒロインらは、現実世界からの隔離を望んだ者たちであり、心が閉じているのです。
本作では、その両者の関係に加え、神隠し伝説的な要素も加えてきました。

上手かったですねぇ~
館という物理的な閉鎖の要素と、人の精神的に閉ざされた要素を上手く関連させていました。
そこに神隠し伝説的なものが含まれ、かつ随所で名言やら、哲学めいたミステリアスな言葉が散りばめられてるわけですから。
ゲーム全体を通じた、トータル的なデザインセンスをうかがうことが出来ました。

館もの≒閉鎖的な世界で、そこで繰り広げられる淫靡な世界を描けば、それでOK。
そんな流行に乗っかった安直な作りではなく、館ものの新たな方向性を模索して、1作品として独自の世界を作り上げていましたね。

しかも本作は、後述するように章仕立てなっています。
各章で一人のヒロインを救うことになるのですが、悩みを解消されたヒロインは、その後の章にも当然出てきます。
そして、時には主人公の手伝いをしてくれるわけです。
近年のノベルゲームは、各ヒロインルートに突入すると、その後は他のヒロインが出てこないという作品も多いですよね。
主人公とヒロインの関係だけが注目されて、他の人たちや世界との関わりが、ないがしろにされているケースもしばしばあります。
その点、本作は、作品の始まりから終わりまでの全てが密接に関連しており、纏まりや完成度といったものを感じさせてくれました。

本作は98時代の館ものとしては、かなり後発の部類に属するでしょう。
それにもかかわらず、高い評価を得て口コミで広まったのは、こうしたところにも理由があるのでしょうね。

それと、本作はキャラも可愛かったです。
どのキャラも御伽噺のキャラをモチーフにしています。
結構ロリキャラが多かったので、そっち方面でも楽しめるでしょう。

<ゲームデザイン>

ゲームシステム的にはコマンド選択式ADVになります。
移動は簡易マップ上での移動なうえに、結構広かったです。
とにかく、館の中をうろつき回るって感じでした。
システムだけだと面倒そうに見えますが、館らしさということで、全体的な観点からは問題ないと言えるでしょう。

また、本作は基本的には1本道だけど、章仕立てになっていました。
そして各章で一人のヒロインについて扱うって感じでしたね。
なお、ストーリーの大枠としては1本なのですが、最後の場面で、どのヒロインを選ぶかにより、ラストの展開が異なります。
そのため、END自体は10種類以上ありました。
各章で、それぞれのヒロインのシナリオが描かれていますし、それをふまえての最後のヒロインごとのENDとなるわけですから、実質的には各ヒロインごとの個別ルートがある作品と同じ満足感を得ることができます。

一般論として、マルチエンドの作品はゲームとして様々な楽しさを味わうことができる反面、ライターの本当に言いたいこと、描きたいものがぼやけてしまうという欠点もあります。
メッセージ性の強い作品なんかは、特に1本道の方が効果的であり、マルチエンドだから良いとは一概に言い切れないのでしょう。
マルチエンドにはマルチエンドの魅力があり、1本道には1本道の魅力があります。
その相反する2つの構造とどう向き合うのかについて悩み、そして一つの答えを出したのが、剣乃ゆきひろさんの『YU-NO』でした。
本作もまた、剣乃さんとは違ったアプローチではあるものの、マルチエンドの要素を取り入れつつ、1本道の魅力も取り入れることに成功した作品といえるのでしょう。
この2作品の構造を比較しているところを見かけることはあまりないように思いますが、私は比較してみると面白いと思います。
後のノベルゲー全盛時代に入ってからは、『YU-NO』式の構造の作品が増え、本作のような構造の作品はほとんど見かけないように思いますが、それは本作の構造が駄目ということではないと思います。
本作の構造の方が、ライターの技量が要求されることから、普及しなかったのでしょう。
そういう意味でも、本作がいかに難しいことをしてのけたかが分かるというものです。

もう1点加えると、コマンド選択式という構造と、マルチエンドって相性が悪いです。
どこで分岐しているのかが分かりにくいので、上手く作らないと、プレイヤーのストレスがたまってしまいかねないからです。
本作は、その問題も解決しているわけでして。
一見するとシンプルな構造の作品なのに、よく考えてみると、様々な問題をクリアしているわけで、再評価するたびに、新たな魅力に気付かされるように思いますね。

<サウンド>

それと忘れてならないのが、サウンドですね。
感動的な物語には優れたサウンドがつきものですが、本作にはFM音源のほかにMIDI音源も搭載されており、どちらも良かったです。
ミステリアスな展開と相まって、雰囲気は最高に盛り上げてくれました。

私は音にこだわりのない方なので、FM音源で満足というケースも多かったのですが、当時、音にこだわるプレイヤーは、MIDI音源にこだわる方も多かったと思います。
本作は、そういった方の期待にも応えた作品であり、ここはストーリーと並ぶ最大の特徴でしょうね。

<評価>

以前、『河原崎家の一族』について書いたことがあります。
『河原崎家の一族』の影響もあり、以後のアダルトゲーム市場では、館ものというジャンルは、一ジャンルを築き上げるほどに流行りました。
そのおかげで、私も実に多くの館ものをプレイしてきたように思います。

もっとも、その館ものも、windowsの時代に入り数が激減しました。
理由を一つに断定することはできません。
恋愛ものが流行したためにブームが去ったことが大きいのでしょうが、作る側はネタが尽き、遊ぶ側は飽きたってことも否めないのでしょう。

私自身も、WIN時代に入り、館ものをプレイする気が減ってしまいました。
その理由としては、2つ挙げられるでしょうか。
一つは館もののあの淫靡な雰囲気は、下手糞な256色よりも洗練された16色の方が映えるというのがあります。
館のボロさ具合なんかは、256色だとハリボテに見えたりしますし。
だからWIN用のゲームでは、雰囲気を感じることができなくなったので、やる気がなくなったと。
そしてもう一つは、98時代末期である95年に『夢幻夜想曲』をやったことなのでしょう。

このゲームをプレイしたことで、あぁ~、しばらくはもう、これ以上の館ものには出会えないだろうなぁ~って気がしましたから。
このジャンルの最高傑作をプレイしたがために、劣るであろう他の作品をやる気がなくなったって感じでしょうか。
例えば、後に泣きゲーが流行した時も、『AIR』をプレイしたことで、もう泣きゲーはプレイしなくて良いと思った記憶があります。
私の場合、他ジャンルでもそうですが、あるジャンルで到達点に達したと感じると、もうそれ以上を望まなくなるものですから。

いずれにしろ、私にとっては、かけがえのない作品の1つといえるでしょうし、総合でも文句なしに名作といえるでしょう。
実は私がゲームブログを始めた頃、ブログ名は今と異なり、「現実はひとときの夢、夢は永遠の現実・・・」という名前でした。
プレイした方はお分かりかと思いますが、本作に出てきたフレーズになります。
結局、すぐにかえてしまいましたが、それだけ本作が印象的だったことは間違いないのでしょう。
PC98時代末期の館ものの代表作でもありますし、ライターの代表作の一つでもありますからね。
館ものファンやGAOGAOファンには、ぜひプレイして欲しい作品ですね。

ランク:AA-(傑作)


夢幻夜想曲

Last Updated on 2024-10-30 by katan

コメント

  1. SECRET: 0
    PASS: 14e1b600b1fd579f47433b88e8d85291
    自分の中でもこの作品は館物として一番好きな作品だ。雰囲気もいいし、登場人物たちの描写も上手いだと思う。そういえばこの作品は米国にも発売された。
    好評みたいなので同人小説を書いてネットで売り出したファンもいるらしい(笑)。
    個人的には一番残念なことは、三峰さんは2002年後からまったく新しい作品を作らないということ。
    キャンドルのサイトに新作を発表したが、結局そのまま放置した。

  2. SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    はじめまして、コメントありがとうございます。
    >この作品は米国にも発売された。
    アメリカでも発売されたんですか。
    知らなかったけど、凄いですね。
    何より、好評というのは嬉しいです。
    >個人的には一番残念なことは、三峰さんは2002年後からまったく新しい作品を作らないということ
    これは私も残念です。
    最近は久しぶりにゲーム業界に復帰という人も出てきているので、三峰さんにも復帰してもらいたいものですね。

  3. SECRET: 0
    PASS: 14e1b600b1fd579f47433b88e8d85291
    >これは私も残念です。
    >最近は久しぶりにゲーム業界に復帰という人も出てき>ているので、三峰さんにも復帰してもらいた
    >いものですね。
    そうですよね。
    最近復帰したのは書淫を手がけた深沢さんや黒の断章の大槻とか?深沢さんのセカンドノベル結構楽しめました。黒の断章ならまだクリアしていませんが…
    そういえばYU-NOなどのBGMを作った作曲家梅本さんはお亡くなりになったそうです。彼が手がけた作品の中(全部プレイしたわけではありませんが)で一番印象深いのはXENONのBGMです。その神秘的な雰囲気がとても気に入っています。まだ若いのにとても残念です。

  4. SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    深沢さんの復帰は大きいですね。
    もっとも、まだセカンドノベルは未プレイなのですけれど…
    大槻さんも少し前に復帰して、またちょっと間隔が空いてって感じでしょうか。
    今年に限って言うならば、『猫撫ディストーション』で元長柾木さんと藤木隻さんが戻ってきたのが嬉しかったですね。
    >作曲家梅本さんはお亡くなりになったそうです。
    これは全く知りませんでした。
    98時代のFM音源に関してはこの人が最高だと思っていましたし、私は普段はサントラとか聞かないのですが、YU-NOのサントラはたまに引っ張り出して聞いたものです。
    それだけに、とても残念ですね。

  5. katanさんのPC98ソフトの記事がなければ、私はエルフやシーズウェア、カクテルソフトなど偏ったブランド・クリエイターしか知らずに人生を終えていたと思います。

    PC98を購入して闘神都市2やバクタに出会い、そしてこの『夢幻夜想曲』ですね。
    私にとって、蛭田さんや菅野さんとは、また違った凄い才能の持ち主、三峰奈緒さんの作品を触れることができました。katanさんには本当に感謝しかありません。出会わせてくれてありがとう、こんな素晴らしい作品と。

  6. >メガドラさん

    楽しんでいただけたようで良かったです。
    時期的なものから、ネット上でも情報が得られない作品もありますからね。
    今だと、80年代末から90年代前半の時期と、90年代後半の葉鍵以外の作品については、個人HPがなくなっていったこともあり、情報がどんどん得られにくくなっています。
    ある意味一番やばいのは90年代後半かもですね。
    良い作品がこのまま埋もれていくのだけは、何とか避けたいものです。

    • 確かに80年代末から90年代前半は情報がなかなか得られないので、
      katanさんのサイトがなくなってしまうと、これは私的には詰みます。
      個人HPがなくなってしまっている現状は寂しいです。
      私はPCゲームの情報を集め出したのが遅いので、個人HP、後のブログ全盛の時にもっと情報収集したかったです。
      それぞれの個人HPやブログを作られた人が、どんな意見を持っているのか、一人だけではなく複数の人の感想を読んで比較したり、交流したり楽しめると思うんです。
      懐かしいゲームの感想を探す時には、katanさんがおすすめされていたブログを参考にさせて頂く時があります。
      Edgeworth Box様や幻住庵様などですね。

      ただ、katanさんも以前ブログでおっしゃっていたように『きむちや総本店りた~んず様』の様に90年代後半の作品の情報を数多く発信されているサイトが閉鎖されてしまったのは痛いです。
      私自身は90年代後半のゲームが一番好きな時代ということもあります。
      先人の方たちの様に上手く自分のレビューをまとめることはできないと思いますが、微力ながらその時代の作品も数多く購入しているので、自分なりに言葉に残していければと思います。

      • >メガドラさん

        個人HPの大量閉鎖は、かなり痛いですね。
        アーカイブを漁っても、全部が見られるわけではないですし。
        昔は、例えばサイキックディテクティブシリーズを応援するサイトとか、神谷右京シリーズを応援するサイトのように、好きなシリーズに限定して深く掘り下げるサイトもいろいろあって、管理人のそのシリーズに対する愛が感じられたものです。
        今は、そういうのはどんどん失われるだけなんでしょうね。

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