『夢幻泡影』は1995年にPC98用として、アリスソフトから発売されました。
タイトルは「むげんほうよう」と読みます。
PC98としては珍しい256色専用ソフトということで、グラフィックは抜群に綺麗でした。
また、退廃的な世界観により、アリスらしさを表現した作品でしたね。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
あらすじとしては、不治の病に冒された大金持ちの主人公・土屋久遠は、妹と数人の使用人を従え隠匿生活に入ります。
残り時間を如何に過ごすのか、言い換えれば如何にして死ぬのかという、退廃的な物語でした。
<感想>
主人公である「久遠」は、死を迎えるまで自由に過ごそうとします。
自由、つまりその内容はプレイヤーの決定に委ねられます。
基本的には大正時代風で退廃的な雰囲気の世界観のもと、妹も含めた淫靡な展開が待っているのですが、結構パロディネタも多く方向性は多岐に渡っていましたね。
1つ1つのシナリオは長くても1時間あるかないかくらいなので、1つのシナリオを読ませるというのではなく、数十個のEDを持つ多彩な展開を楽しませようという類の作品になるでしょう。
本来のベースとなる世界観もさることながら、パロディネタなども相まって他にはない独特な雰囲気になっています。
だから合わない人は合わないのでしょうが、逆にこの作品がきっかけでアダルトゲームにはまっていったという話も、結構聞いたりします。
こういうマルチシナリオの館ものは、当時は流行っていたこともあり、結構多かったです。
そのため、どうしても似ているものが出てきます。
今だったら純愛ゲーが分かりやすいでしょうか。
初めてプレイしたときは衝撃的に感じたのに、たくさん数をこなしていると似たような作品に感じられて、次第に熱を失っていった人も多いでしょう。
そういうおそれが、当時の場合は館ものにも秘められていたのですが、本作は後発であったにもかかわらず、他とは被らないアリスらしい雰囲気を表現できた点は、素直に賞賛すべきなのでしょう。
1つ1つのシナリオ自体は特別賞賛に値するほど飛びぬけたものはないのでね、プレイ時はさほどでもなかったのですよ。
でも、後になっていろんな作品も更にこなすようになって、それでも埋没しない本作の異質さに気が付き、あぁ実は良し悪し以前に個性があり続けることが難しいのだと、個人的には後になって良さが分かった作品のように思います。
<ゲームデザイン>
ゲームジャンルは選択肢を選ぶことで進行するノベル系のADVになります。
当時のアダルトゲームに多かった、選択肢によって細かく内容やEDが分岐していくタイプのゲームでしたね。
上記のように、物語のテーマがいかにして死ぬかということもあり、EDでも多様な死に方があります。
どの死に方が好きかでも、その人その人の個性が出てくるでしょうね。
ただ1点だけ、システムには特徴がありました。
マルチシナリオの構造を有するノベルは、再プレイが必須となります。
これは今でも多くのノベルに見られる問題でもあるのですが、再プレイすると何度も同じ展開を見るハメになると思います。
でも、何度も同じ展開を見せられてもつまらないですよね。
その解決方法には幾つか種類があるのでしょうが、例えば今ならテキストスキップだけでなく、シーン自体をスキップしてしまうというものもあるでしょう。
それとは異なる方法として、一度見た展開は次は見ないようにさせるというものもあります。
例えば『弟切草』なども無数に近い分岐パターンが存在し、2回目は1回目と同じ展開にならないように配慮されています。
『夢幻泡影』も『弟切草』と同じ方向性を目指しており、1度選択した選択肢は次には登場しないことで、プレイヤーが同じ展開を見て飽きるということが生じないよう配慮されています。
この構造のおかげで、難易度自体はそんなに高くないのですが、選択肢地獄で同じ展開に苦しめられるよりはよっぽど良いでしょう。
この類の手法は有用だと思うのですが、管理に手間がかかるのか、あまり浸透しませんね。
決して斬新とは言えないので大きなポイントにはなりませんが、マルチシナリオの問題点に解決の姿勢を見せた点は一応評価すべきなのでしょう。
<グラフィック>
ところで、本作は、PC98では珍しかった256色専用でした。
だから256色に対応していないと遊べなかったのです。
その時点でユーザーを限定してしまうので、セールス的には冒険でもあったのでしょうけどね。
256色なだけあって、やっぱり綺麗でしたね。
下の画像とか、一枚の原画に、相当な労力を割いたものもあったようで、かなり気合が入っていたようです。
<評価>
総じて、かなり癖のある作品ゆえに好き嫌いは分かれると思いますが、随所に他との違いを意識した点が垣間見えるのであり、アリスがノベルゲーを制作したらこうなるという違いは、十分にみせつけることができたと思います。
当初は魅力に気付けずに良作と考えたものの、これはこれで名作と言えるのではないかと、今になって思いますね。
ランク:A-(名作)
Last Updated on 2024-10-31 by katan
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