沙耶の唄

2003

『沙耶の唄』は2003年にWIN用として、ニトロプラスから発売されました。

オマージュを肯定的に捉えられるのか。
それが全てなのかもしれません・・・

<概要>

ゲームジャンルはノベル系ADVになります。

あらすじ・・・
事故の後遺症で世界が「狂気」に変貌した青年
悪夢に侵食された光景の中で“彼女”が微笑みかける
ある日、交通事故によって生死の境を彷徨うハメとなってしまった主人公“匂坂郁紀”。
なんとか一命は取りとめたものの、手術のために一時的に視力を失うことに。
そして、治癒が進み、徐々に視力が回復するにしたがって、彼はこの世界が狂気を帯びた姿に変貌していることに気づく。
あらゆるモノがすべて、彼の記憶にないカタチをとり、時として人の言葉さえ異界の響きに感じる。
だが、彼の周囲では見慣れたはずの街並みが広がり、馴染みの友人たちがいて、ありふれた日常が繰り返されていた。
郁紀ただひとりが、当たり前の日常を認識できなくなってしまったのだ。
彼に親しい者たちが異変に気付き、救いの手を差し伸べようにも、友人たちの声は決して郁紀に届かない。
そんな郁紀の前に、一人の謎の少女が現れたとき、彼の狂気は次第に世界を侵蝕しはじめる……。

<感想>

『ファントム』は名作でした。
非常に熱中して読み進んだものです。
『ヴェドゴニア』も面白かったです。
しかし、同時に思ったんですね。
もう同じ路線なら購入する必要がないよなって。
ライターである虚淵さんのテキストは、私自身には合うので、大抵の場合はそれなりに楽しめちゃうのです。
でも、虚淵さんって、いつの間にか一部で文章の上手い人的なイメージが付いていますが、癖のない読みやすい文章ってだけで特に秀でているわけでもありません。
(まぁ最近は厨二的な方向に変に癖が付き始めていますが・・・)

また、引き出しが非常に少ないというか、あちこちから引っ張ってくるだけの知識はあるのでしょうが、書き手としての発想に全く独自性がないので、次の作品を期待させる何かがないんですね。
今は更に顕著になっていますが、良くも悪くも二次創作家なのでしょう。
だから、似た路線ならファントム以上の人気作が出てこない限り、あえてプレイする必要はないなと感じたわけです。
ところが、本作は趣向を変えてホラー物として出されたわけで。
それで違う路線ならば試してみようかと思ったわけです。

さて、その肝心の中身なのですが、設定的には『火の鳥・復活編』のオマージュになっています。
それをクトゥルフ神話風味に仕上げた感じですね。
個人的には、火の鳥に関してはもう詳しくは忘れたよって状態だったし、そもそも基本的にパクリ云々に煩い方でもないので、私はどっかで見たような設定だな程度でしたが、設定のオリジナリティを大事にする人であれば、この作品をプレイする必要性は全くないと思いますし、少なくとも評価することはないのでしょう。
どっかからネタをひっぱってきて、それをつぎはぎする姿勢は、ライターとしてあまり褒めたものではないと思うんですけどね、まぁそれはこの際おいておくとしましょう。

典型的なホラーといえば忍び寄る恐怖となるのでしょうが、主人公はむしろ加害者側なので、こうした要素はあまりありませんでしたね。
ホラーと言えばホラーなのかもしれませんが、安易に皆が想像する類の面白いホラーとは路線が異なると思います。
むしろ主人公の狂気を描いた作品であることから、そっちを期待した方が良いのでしょう。

狂気とその先に展開された恋愛としては普通に楽しめるのですが、アダルトゲームでもたまに見かける題材ですし、そもそもがオマージュ的なものですしね。
もちろん、同じ題材でもそれを上手くアレンジして魅せられるか、或いは更に独自の主張を加えていければ、また違った魅力が出せたのでしょう。
せめてファントムくらいのボリュームがあれば、そうなっていた可能性もあったように思います。

でも、ボリュームが非常に少なかったんですよね。
選択肢も数個しかないし、3時間程度ですぐにコンプしてしまいます。
そのため、ネタ元をなぞって終わっただけという、薄い作品との印象が強く、独自の良さ・プラスアルファってものが見えてきませんでした。

思い返してみると、ファントムだってアダルトゲームには珍しかったよねってだけで、別に設定もストーリーも珍しい部分はありません。
じゃあ何で評価しているのかというと、一番はプレイヤーの選択によって主人公が行動し、選択肢の結果である物語の続きがしっかりと描かれていたからなんですよね。
設定に光る部分がないだけに、余計にも他の部分できっちり描いて欲しいし、ファントムはそれができていたと思い、ひいては小説との違いも感じ取ることができたのでしょう。
ライターの中には無駄が多くて削れよって思う場合も多いのだけれど、こういうライターはむしろしっかり書かなきゃ評価すらできないのです。

また、グロが話題になっていたので期待したのですが、思ったより大したことがなかったなと。
普段恋愛系ばっかやって免疫がないときついのかもしれませんが、濃いエログロを求めた人には中途半端に感じるのではないでしょうか。
ここは主観面も絡んでくるので微妙なのですが、虚淵さんの描くグロはどうも上っ面だけのように感じてしまって。。。
コピー商品を持つなんちゃって女子高生というか、俺は悪だといきがるガキみたいなんですよね。

低価格ゆえにあちこち手抜き感もありますし、いつもと違うことをやるといいながら結果的に同じような路線になって、よくあるネタをこじんまりと纏めた作品って印象が強いのです。
ボリュームが減った分、小粒な印象だけが残ってしまった作品、個人的にはそういうイメージが強いゲームでした。
オマージュ系でこれでは、手抜きと思われても仕方ないかもしれません。

価格の安さを考慮すれば凡作や佳作でも良いのかもしれませんが、出来損ないの二次創作でありこれで得たものが何もなかったということで、少し厳しいかもしれませんが駄作としておきます。

まぁ『火の鳥・復活編』をクトゥルフ風味にしたということで、それを凄いと捉えるのもありなんでしょうけどね。
個人的にはこのライターを創作家として認めたくないという、そんな嫌悪感の方が強くなってしまった作品でした。
プレイ時期は発売から何年か経ってからだったのですが、こういう他所からネタを持ってくるだけで有力ライターと持て囃されることに、いい加減嫌気が差していた時期でもありましたしね。
ファントムの頃は好きだったのですが、それだけに余計に幻滅してしまった感じです。

まぁ私の場合はその後人妻ブームがきたり、何かしら好きになった属性を追ったりしてアダルトゲームを続けていますが、ストーリーにだけ興味があってしかも厳しい観察眼を持っている人ならば、こういう作品が凄いとか言われたら幻滅して去っていくだけでしょう。
ゼロ年代前半のシナリオ重視とやらが消え去っていくのは、当然と言えば当然の成り行きだったのかもしれませんね。

いろいろ長くなりましたが、結局のところ、本作は、過去に漫画でもアニメでも小説でも何でも構わないのですが、そうした他媒体の過去の同系統の作品に触れてこなかった人のみが、高く評価するのでしょう。
そういう意味では、極めて初心者向けの入門作といえるでしょう。
まぁ、ニトロ自体、恋愛や萌えが中心でないというだけで、どの内容も対象年齢低めの初心者向けの作品ばかりですので、ブランドの方向性からすると、このブランドらしい作品とは言えるのでしょうね。

ランク:E(駄作)


Last Updated on 2025-06-06 by katan

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