『久遠の絆』は1998年にPS用として、FOGから発売されました。
こういうのを待っていたのだと、プレイして思ったものです。
個人的にはノベルゲームで最も好きな作品ですね。
<概要>
商品紹介・・・
「輪廻転生」をメインテーマに、現代を中心に平安・元禄・幕末の4つの時代を舞台に繰り広げられる物語。
ゲームはグラフィック上にシナリオが表示されるADV形式で進行。
BGMも相まってまるで映画を見ているかのような感覚を再現。
そこでシネマティツクノベルと名付けました。
選択肢により、「無意識」の感情の裏パラメーターが蓄積され、その結果物語の展開がドラスティックに変化する、「E’s(エス)リアクションシステム」を採用しています。
あらすじ・・・主人公は平凡な高校生。
謎めいた転校生、「万葉」の出現により、彼の身辺は次第に騒がしくなる。
巻き起こる猟奇的な事件、そして本人にとって最大の謎である意味不明の悪夢。
その因が自身の魂に刻まれた「闇の皇子」の力にあることをまだ彼は知らない。
時は遡り、平安の世。天命を果たすべく降臨した「螢」は、ある日一人の陰陽師に命を救われる。彼の名は「鷹久」。
ほどなく二人は恋に落ちるが、螢は彼の体内に潜む「闇の皇子」の資質に気付く。
「真の皇子」を助けるべき天命と、「闇の皇子」との恋の間で揺れる螢。
タブーを破ったものに待つものは・・・。
螢「私を捜して、鷹久・・・なんども、なんども・・・
罪が許されるその日まで・・・ああ鷹久・・・ときが見えるわ・・・」
平安・・・元禄・・・幕末・・・現代。
彼らは時と場所を超えて再び巡り合う。
それは、過去から現代へと続く、辛く悲しい恋物語の再演なのか・・・。
ちなみに、2000年にはDCから新シナリオを追加し、画質等が向上した『久遠の絆~再臨詔~』が発売されています。
<ノベルゲーム>
ゲームにおいて、決してボリュームが全てではありません。
とは言うものの、一般的にボリュームの少ないゲームは、たとえ出来が良くてもそんなに評価されていない気がします。
それだけを理由に駄目との扱いをされる場合も多々ありますし。
現在のADVでは主流のノベルゲーム。
ノベルゲーってのは読むことがほとんどであるため、どうしても小説と比較してしまいがちです。
今では小説も高く、ハードカバーの厚いのなんて1冊でお札が何枚も消えます。
文庫ですら1000円以上とかってのもありますし。
費やす時間と価格から考えると、コストパフォーマンスはゲームも小説もそんなには変らないでしょう。
むしろ絵や音やゲーム性がある分、ゲームの方がかなりコストパフォーマンスは良さそうな場合もあります。
でも、それは今に至っての話。
今より10年以上前はハードカバーは1500円以内、文庫は500円以内というような時代でした。
一方ノベルゲームは、10時間もかからないのに何倍もの値段でしたからね。
下手したら文庫より短いのに文庫の10倍以上もするのですから、グラフィックとかもそれ程発達してなかった点も加味すると、コストパフォーマンスは悪すぎでした。
それこそノベルゲーなんて80年代からあるのですが、多くの人が注目しなかったのは、そういう要因も大きかったのでしょう。
そのため、当時のノベルゲーに対し私は最初は懐疑的でした。
もちろん中には名作と判断したものもありますが、それは後日再評価したケースがほとんどですし、何より傑作にまで至るゲームはありませんでした。
また、深層の部分で、他形式のADVより低く見てしまうような偏見は残っていたと思います。
ぶっちゃけ、小説読んだ方が良いじゃん。
ストーリーだけ求めるなら、本を読めよと。
その考えが180度変ったのが、1998年に発売された『久遠の絆』なのです。
言い換えるならば、本作より前のノベルゲーを再評価し点数をあげたのも、本作があるからとも言えるんですよね。
<ボリューム>
さて、この『久遠の絆』。
今の基準ならば、ボリュームはそれ程多いとは思われないかもしれません。
今ではこれ以上の量のゲームも一杯ありますからね。
しかし発売当時の他のノベルゲーと比べたら、そのボリュームは圧倒的でした。
ノベル系ADVの最大の弱点であったボリューム、ひいてはコストパフォーマンスの悪さは、『久遠の絆』においては完全に克服されました。
<グラフィック>
そして、グラフィックも大変素晴らしかったです。
何せ、雑誌で一目で惹かれ、即刻購入を決意したくらいですし。
何て言うかね、1枚だけでも絵になるな~っていうのが多いんですよ。
そのまま壁紙にしたくなるようなやつがね。
結局、画集の類も全部購入しましたし。
確かに画質の点では、PS2以降のゲームには劣るのかもしれません。
(それも、再臨詔で克服しましたが)
しかし、一枚絵の構図やそのCGだけを見ていても満足できるかという点では、今尚最高レベルにあると思うのです。
私はゼロ年代以降も多数のノベルゲーをプレイし、中にはグラフィック最高とかって言われる作品もありました。
でもね、エフェクトとか立ち絵の動きは豊富になっているけれど、一枚絵で魅了される作品がほとんどありません。
特に最近はワイド化された画面にキャラを大写しにするだけの物が増え、一枚絵の構図とか全体的な質は下がっていると思います。
また塗り・画質も今のゲームには劣るかもってだけで、当時のこの手の分野じゃ群を抜いてましたから、これは非常に大きなポイントになります。
<サウンド>
それからサウンドですね。
グラフィックのあまりの出来の良さに、素人の私なんかは、グラフィックに労力が傾けられていたのかと思っていたんですけどね。
どうやらそれは違っていたみたいで、FOGが一番こだわっていたのはサウンドだったみたいですね。
グラフィックを多少犠牲にしても、使えるメモリの多くをサウンドにまわしていたそうです。
そのおかげもあって、サウンドも凄かったです。
音声は入ってないんだけど、そんなのが全く気にならないくらいに、場面場面に適したサウンドが用意されてました。
このゲームやkeyの作品をやると、つくづく思います。
真にサウンドが優れたゲームの場合には、音声なんてかえって邪魔なんだなって。
これはもう、体験しないと分からないかもしれませんけどね。
だから言葉は悪いのだけれど、何でもかんでも音声付けろって人は、私には機微の分らない鈍感な馬鹿にしか見えないのですよ。
そもそも、OPからして最高でしたね。
おどろおどろしい雰囲気がOPからも良く伝わってきました。
<OP>
<感想>
ストーリーは輪廻転生を扱った伝奇ものです。
今、或いは逆に80年代中頃までは伝奇ものも多いのですが、90年代は手薄になったジャンルでした。
それに輪廻転生ネタは好きなんだけど、意外と正面からどっしりと扱った優れた作品って、意外と名前が出てこないんですよね。
ちょっとしたネタで使う作品ばかりな気がして。
そのため、かえって新鮮でしたね。
今なら、輪廻転生物で何か教えてって聞かれたら、胸を張って本作をオススメ出来ますし。
キャラも正統派美少女の高原万葉はもちろんのこと、天野聡子のミステリアスな雰囲気とかも良かったですね~
薙ちゃんモードの天野先輩も大好きですw
今の萌え路線とは異なるけど、個人的には好きなキャラが多かったです。
他方で、ストーリー重視のノベルゲーということで、ゲーム性は弱かったです。
それでもゲームなのだから単に読むだけではなく、戦闘の部分は実際にプレイヤーに戦わせようとしているわけで、そういった配慮は好印象です。
他ジャンルのゲーム性の高いのと比べれば劣るのは確かですが、他のノベルゲーと比べたら、むしろプラスになるといえるでしょう。
それとゲームの構造に関して、当時はあまり意識していなかったことですが、後のノベルの傾向と比較した話が1点あります。
ある時期以降、個別EDを全てクリアした後に、グランドルートが出るゲームが増えました。
そのような構造では、共通パートを何度もプレイすることが前提になりますし、メインのENDを見るために全てのルートを見ることが強いられてしまいます。
この構造は、全てを楽しめた人は大きな満足感を抱けますが、大きな問題点が二つあります。
1つは、最初からベストなエンドに行けないのだから、プレイヤーの努力をも否定してしまうことです。
昔のノベルゲーは、プレイヤーの努力次第で最初からベストENDに行けたし、プレイヤーの努力に応じた結果があるのがゲームだと思います。
そのプレイヤーの努力を否定してしまうような構造は、ゲームとして好ましくないと考えます。
『久遠の絆』が良かったのは、プレイヤーの努力次第で、最初からベストなエンド行けることにもあります。
もう1つは、全てのルートのクリアを強いられる問題ですね。
クリエイターは全てのルートを見て欲しいかもしれませんが、どのルートを選ぶかも含めてプレイヤーに委ねるのが、ゲームというものでしょう。
『久遠の絆』に限らず、90年代後半までのノベルの多くは、自分の好きなルートだけ見て、それで満足するということが許されました。
嫌なルートがあっても、それを見ないで良いという選択が取れたのです。
大袈裟な言い方かもしれませんが、そのような選択もまたプレイヤーの裁量の範囲内の行為であり、ひいてはゲーム性の一環と言えるのでしょう。
ゼロ年代以降に増えた全ルートクリア必須な構造だと、嫌なルートまで必ずクリアしなければなりません。
つまり自分の目的とするものを得るために、楽しくない時間を何時間も費やさなければならないのです。
オールクリア必須な長編は、はまれば大きな満足度にもつながるのですが、はまれなかった場合にマイナスに評価されうる諸刃の剣でもあるのです。
本作は最初からベストEDに行けますから、サブキャラに興味がなければ最初からベストEDを目指し、それでユーザーが満足できればそれでも構わないのです。
マイナスにされる要因が減ったという意味では、相対的に良かったといえるでしょう。
<評価>
以上のように、ストーリー・キャラ・グラフィック・サウンド・ボリューム。
こうしたノベルに必要な他の要素は、どれもが強力な長所足りえましたね。
そのインパクトは絶大でしたよ。
最大の懸念であったボリュームは下手な小説をも凌駕し、そこに最高水準のCGにサウンド、そして何より最高かつモロにツボなストーリー。
全てが一体となって、私の心をとらえました。
それは、私のこれまでの価値観を覆すには十分すぎる内容でした。
ノベルに付けた点数としては、この『久遠の絆』が最高点になります。
もちろん今の基準で見れば、他にも面白い作品はあるでしょう。
しかし、発売時のインパクトでこれを超える作品は、おそらく今後も出てこないのではないでしょうか。
ノベルにおける最高傑作は『久遠の絆』であると、私は断言して良いのではないかと考えるのです。
初めて雑誌で速報を見かけたとき、まずそのCGの美しさに心を奪われました。
これは、絶対に発売日に買わねばと。
当日、近所の店を何件回ってもなくて、最後の一軒でようやく見つけて、ポストカードも付いてきたのは良い思い出ですね~
というわけでノベルゲー最高傑作との結論に至るわけですが、最後に今の観点から一言。
上記のように、古い作品ゆえに音声はありません。PS2版でもです。
音声が無ければ駄目って人は、あまり向いてないでしょう。
それとね、当時の私は素晴らしいグラフィックやサウンドに酔いしれ、味わうようにしてゆっくりと楽しんでいました。
だから全然気にはならなかったけれど、テキストは良く言えば丁寧であり悪く言えば少しゆったりなんですね。
だからね、「名作」との噂だけを聞いて飛びついて、ストーリー、ストーリーの一点張りで、あせって早く次の展開をって求める人にはあまり向いてないかもですね。
自称シナリオ重視派が陥りやすい悪癖でもあり、一時期の私もそうなりかけたのですが、ストーリーの優れた作品って聞くと、ストーリーの次の展開が気になってそれだけに目が行き、作品全体としてはかえって楽しめてないのですよ。
もちろんレビューを書こうとか、評価を早く下したいみたいな感じで、あせってプレイするのにも適していません。
心を落ち着けて、ゆったりとした気持ちでプレイ出来る状態になったら、ぜひとも味わってもらいたいなって思いますね。
ランク:S-(名作)
Last Updated on 2024-12-27 by katan
コメント
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俺はハッキリ言ってノベルゲームって好きじゃない(ある時期以降ですが)んですが、これは当時結構夢中になってプレイしましたねえ。
初めから繰り返しプレイを想定しているような作りではないのが個人的には好みです。
いわゆるトゥルーエンドに一発で行けたのもラッキーでした。壮大な物語にふさわしい、たいそうなエンディングだったと記憶しておりますw
ただ、その所為もあって、一度しか通してプレイしておりません。いつかまたプレイしたいもんですが・・・
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>>マスター栄者 さん
確かに、繰り返しプレイを前提としたノベルは鬱陶しいですよね。
私もその類はあまり好きではないです。
一発でトゥルーに行けないと、どうしてもやらされてる感が強くって。
久遠の絆はボリュームがありますからね。
短いサイクルで繰り返しってタイプではない気もします。
時間があれば、私も再度プレイしたいですね。