『街 ~運命の交差点~』は1998年にセガサターン用として、チュンソフトから発売されました。
チュンソフトのサウンドノベルの3作目で、実写を用いた作品でした。
<感想>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
本作の特徴らしきものについて順番に見ていきましょう。
まず、実写を使ったグラフィックですね。
本作の場合、動きのない静止画だけになります。
実写自体はOKです。ってか、むしろ好きで良くやります。
でもね、98年ってのは海外のADVでは、実写ゲームも人間はフルボイスで動きまくりなわけでして。
また実写の背景も、360度全方向パノラマ映像でグルリと見渡せるのです。
国内のゲームに限っても、『ブルーヒート』が水平360度パノラマ映像を実現しています。
国産の同じサターンに限ったとしても、『RAMPO』とかの方が実写としては上でしょう。
それでも『風雨来記』のように中々行けない場所だったり、二次元キャラと上手く融合させて新境地を開いたっていうならばともかく、それもないですしね。
欠点ではないとしても、決して他を上まわる長所とは言えないのです。
次にシステム面ですが、TIPとZAPとマルチフラグから成り立ちますよね。
一般的にはこれが斬新だとして、一部で好評を博したのでしょう。
でもね、TIP(語句を押して解説を読む)はハイパーテキスト的発想であり、それこそ古くからADVでは使われている手法です。
ノベルゲームでは、確かにこうした手法は使われてなかったかもしれません。
しかし、それはノベルゲームが他のADVより劣っていた部分、つまりは欠けていた弱点を補ったにすぎず長所とは言えないでしょう。
またZAPことザッピングについてですが、これまた既存の作品より劣るのです。
ザッピングシステムが何なのかは「ザッピングとは」に書いてありますが、簡単に言えば次々に切り替えて遊ぶことです。
これまでにも既に幾つものゲームで採用されているシステムです。
※MM、ナイトトラップ、DOTT、EVE、東京TB、LOT等・・・
もっとも、他のザッピングゲームの多くは、いつでも自在にザッピングできました。
中には、どういう風にザッピングするかまで決められる作品までありました。
他方で、本作では、「つづく」とされ、ザッピングを強制させられる場面もしばしばあります。
これではね、いわゆるやらされてる感が非常に強いのです。
いつザッピングするのか、どういうザッピングをするのか、そういう要素が後発にもかかわらず進化どころか退化してさえいます。
そして、マルチフラグメントシステム。
『街』しか知らない人は、とかくザッピングとマルチフラグを混同し、また一緒の物として扱っていますが、本来は全く別物です。
※少なくともファンだけは勘違いするべきではないと思うのですが・・・
フラグを立てるとは、決められた条件を満たすという事ですよね。
Aルートを進むには、①と②と③を満たさなければならないみたいに。
マルチフラグは、その名の通りルートが複数同時に進行するもの。
そして、これの何が楽しいのかというと、まず単純にAルートやBルートが同時に進行することで、ゲームが複雑になり幅を持たせることが出来ます。
加えて、時にはAルートの影響がBにも及ぶ、或いは反対にBルートの影響がAにも及ぶということが出来ることです。
これによって一本道的な流れに横の繋がりも持たせられ、ゲームの幅を更に広げることが出来るのです。
このマルチフラグメントシステム自体も、既に存在していました。
もっとも、システムの起源は何であれ、どちらかというと自由度重視のRPGで発展していった感が強いですけどね。
ADVではむしろ演出的意味合いもかねて、控えめな使用に留まっていましたし。
本作はそれをメインに据えており、ADVとしては珍しいのでしょう。
その試みはある程度は成功したのかもしれません。ある程度はね。。。
というのも、もっとマルチフラグを楽しみたいって点はOKだったんです。
でもね、ただボリュームを増やしただけで他作品を上回る要素が皆無でした。
マルチフラグの魅力は、Aのルートだけでも「完結」するけど、Bルートが「干渉」することでAに違う結末も生じる。
そういった点にあると思います。
本作では「干渉」という部分のみに注目してしまい、Aだけでも「完結」するという点が疎かになってしまいました。
物語は途中でぶつ切れにされ、結果バッドエンド回避のフラグ解除ゲーの様相を呈することになりました。
結局ね、以前からあったシステムを幾つも入れたけれど、そのどれもが既存の作品を上回っていないんです。
あるのはボリュームだけ。
それでも、それを評価する考え方もあるでしょう。
FFの最高傑作はFFⅩ-2で、ドラクエの最高傑作はDQ7っていうのならば、それはそれで姿勢としては一貫していると思います。
しかし残念ながら、私はFFⅩ-2もDQ7も最高傑作とは考えない人なのです。
徒に複雑化しただけのSLGの続編も評価しない人間なんでね、街のような既存作品のボリュームを増やしただけっていうのは、どうにも評価のしようがないのですよ。
ストーリー設定的にもね、渋谷を舞台に8人の人生が交錯する。。。
うん、確かにこういうのには興味をそそられますよ。
でもね、世界を股にかけ7人の思惑が錯綜した『大航海時代2』に比べてスケールダウンしてる感が否めなくて…
まだそれは良いとしても、なぜこのテーマにノベル形式を採用するのか。
私にはそれが解せなかったのです。
行き交う人々それぞれに物語がある、それを視覚的にも演出したいのなら、マップ上にリアルタイムに動くキャラを配置するようなタイプのゲームにした方が効果的だったのではないでしょうか?
テーマがあってそれに見合ったシステムを導入したのではなく、ノベルという形式が先にあってそこに無理やり押込んだ感じがしましたね。
馬鹿の一つ覚えみたいにノベルに拘りすぎた。
そんな印象だけが残りました。
ここら辺は、同じくノベルで有名になりながらノベルスタイルから脱却したleafと対照的ですね。
シナリオ単独でみても、悪くはないけどそれ程惹かれなかったなぁ~
デブのダイエット話とか興味ないし。。。
かまいたちや弟切とかはね、ミステリーやホラーってことでその手の作品が好きな人に需要がありました。
でも街はそういうのがないんですよね。
最初萌えゲーとかに毒された自分だけが楽しめないのかと思い、普段ゲームをしない人にもすすめてみましたが、もっと手厳しい意見が返ってきました。
このシナリオ、普通の人には勧められないです。
かまいたちより売れないのは、一番は物語に惹かれないからです。
方向性の異なる話が幾つもあって、それ全てに興味を持てっていうのはちょっと強引すぎます。
それでも最後に全てが収束するのなら話は別ですが、個々の物語の関連性が低くたまに交錯するだけですからね。
それでいて興味ない話まで読むのが必須となると、興味が薄れた時点で苦痛になっちゃうのですよ。
そうそう、個々の関連性が薄いという意味では、本作がマルチサイトに含まれるかは疑問ですね。
視点が一杯あるという点で、広義にはマルチサイトでしょう。
しかしマルチサイトの魅力を、一つの物語を多角的に捉えるところにあると考えるならば、本作はマルチサイトたりえないでしょうから。
以上のように、『街』に斬新な点はありません。
それでも何かしら既存作品より上まわる要素があれば、きっと高く評価していたでしょう。
しかし、前述のようにそれすらもなかった。
どの要素も既存作品を下回っていましたから。
もっとも、本作はいろんな要素を組み合わせています。
ザッピングとマルチフラグは本来ベクトルを逆にすると考えられます。
ただ組み合わせただけでは、マルチフラグはザッピングが持つ本来の魅力を消すだけなんです。
だからこそ、だからこそ私は、ザッピング+マルチフラグの融合による新たな局面を見てみたかったのです。
ここに何かしらの光明が見えたならば、これまた高く評価していたでしょう。
しかし結局、ただ組合せてボリュームが増えただけに留まりました。
(なお、この方面で光明が見えたのは後発の『同心』でした。)
『街』には決定的な欠点はないでしょう。
だから普通には楽しめたし、決して駄作とは言いません。
でも、私にはあえてプレイする価値を見出せませんでした。
『街』は斬新で面白かったけど、『428』はそれ程でもないな~って感じた人も少なからずいるでしょう。
私はその感覚を、『街』の時点で既に感じてしまったということなんです。
ただよくよく考えると、私が思い浮かべる従前の作品たちは、PCや海外やマイナーな家庭用ゲーム機のゲームばかりなんですね。
FC~SFC~PS・SSみたいに国民機のみを渡り歩いた人には、斬新に思えたのも仕方ないっちゃあ仕方ないのかなとも思ったり。
そして皆が同じゲーム遍歴を辿っているわけではありません。
他人にシステムの紹介をするのに、過去から続く何本ものプレイを強いるわけにはいかないですからね。
(そんなことしたら確実に引かれるし、ただのイタイ奴ですし。。。)
とりあえず1本やらせていろんなシステムを理解してもらうって意味では、本作は手っ取り早く便利でした。
しかもその後のADVはストーリー重視物ばかりになっていきますからね。
結果として、街は長らく各種システムが複合した「最新」のゲームたる位置に居続けました。
私と同世代でDQ3よりDQ7を高く評価する人は、ほぼ皆無でしょう。
でもね、2000年にRPGデビューする人がいて、いきなりやらせたとしたら…
間違いなくDQ7の方が面白いって言うはずなんですよ。
個人的には好きではないというか対極に位置する考え方ではありますが、ゲームを「今」の基準で考える人の方が多いですから。
そういう人には、新しい方のDQ7を勧めるに限ります。
同様に、そういう意味でこれまでは『街』にも存在価値がありました。
だって、その後何でも入れたADVって出なかったんですから。
でも、今は『428』が出てますよね。
同じシステムを「今」遊んで楽しいかの基準で判断したら、それは通常新しいやつの方が面白いに決まってるんです。
それでも、先に発売された方に元祖たるオリジナリティがあれば、私個人としては元祖をまず体験して欲しいって訴えます。
でも『街』にはそうした要素はなく、あったのは最後発ゆえに「今」という基準に適してるって要素のみ。
そしてその要素は『428』に受け継がれました。
だったら今やるのであれば、素直に『428』だけで良いと思うのです。
『428』が名作か否かは別として、「今」の時点でADVの各種システムに触れてみたいと考えるのであれば、私は『428』をやってみてはどうですか?って勧めますね。
ランク:C-(佳作)
Last Updated on 2024-12-25 by katan
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