『遺作』は1995年にPC98用として、エルフから発売されました。
いまだに根強い人気があるんじゃないかと思われる○作シリーズ。
その第1弾が、この『遺作』でした。
<概要>
○作シリーズは現時点で3本発売されています。
もっとも、キモいオヤジが罠を張って少女らを陵辱するという共通点、オヤジらは兄弟という設定を除けば、各作品につながりはありません。
また、ゲームジャンルも広義にはADVになるものの、細かいジャンルは異なります。
本作は○作シリーズの1作目であり、国産ADVでは珍しいP&C(ポイント&クリック)式ADVでした。
商品紹介ないしあらすじ・・・
夏休みを楽しんでいた主人公は、ある日一通の手紙により学園の旧校舎に呼び出されます。
しかしそこにはクラスメイトや先生も同じように呼び出されていました。
誰が?何の目的で?
全てが理解出来ないまま、ひとり、またひとりと仲間が姿を消していきます。
主人公はこの狂った空間から脱出しなければなりません。
しかも頼りになるのは、旧校舎に残されたアイテムと自分の頭脳だけです。
アイテムを取り、アイテムを使い、考えて解くゲーム『遺作』。
はたしてあなたは、何人の美少女を助けることができるだろうか・・・。
アイテム探しとアイテムの使い方はプレイヤー次第。
アイテムの使い方を間違えたらハッピーエンドにたどり着けない、そんな緊迫感がゲームをさらに盛り上げます。
ダークなストーリーとハードなHシーンをご堪能ください。
<ストーリー>
いわゆる脱出ものになります。
アイテムを拾い、それを使いながら進んでいくのですが、上手く進まないと仲間の少女らがさらわれてしまいます。
そして拾ったビデオテープを見ると、そこにされわれた少女らが遺作に陵辱される光景が映し出されているのです。
脱出ものは、ADVとしては定番ジャンルであるものの、アダルトゲームでは数が非常に少ないです。
ましてや本作が発売された当時は、数える程しかなかったでしょう。
その脱出もので、不可欠な要素として、きちんとアダルト要素を組み合わせてきたわけですから、ゲームデザインにおける新鮮さも相まって新鮮に感じられたものです。
<グラフィック>
旧校舎から脱出するというシンプルなストーリーで、もちろんそこにはハラハラさせるイベントが用意されているのですが、このストーリーを楽しませてくれた要因に、キャラの濃さや魅力があることは間違いないのでしょう。
そして本作の原画は、横田守さんです。
そろそろ知らない人も出てきているかもしれませんが、当時は既に有名人であり、絶大な人気を有していました。
横田さんの絵は私も大好きなのですが、個人的には、この頃の絵柄が一番好きですね。
本作でも、どのキャラもとっても魅力的でした。
ちなみに、一番好きなのは久美先生でしたね。
魅力的な美少女を描ける絵師は他にもいますが、魅力的な大人の女性を描ける絵師は更に限られてきますから。
横田さんの描く大人の女性は本当に最高でした。
加えてPC98末期のエルフの塗りは、芸術の域に達してると言っても過言でないくらい綺麗でした。
そのため、原画の良さが更に際立ってましたね。
特に本作は、256色とかでリメイクした作品よりも、16色だったオリジナル版の方が寂れた旧校舎の質感が出ていまして。
この作品の良さはこの時期でしか表現しえなかったということで、98後期という、この時期に発売されたことは、少なくとも本作には大きかったように思います。
<感想>
何だかんだ言っても、やっぱり『遺作』の一番の特徴は、ゲームデザイン部分にあるのでしょう。
上記のように、基本的にはP&C式のADVとなります。
もっとも、外国産のP&C式ADVの多くが3rd-person perspectiveであり、すなわち自分の操るキャラの姿が映っているのに対し、『遺作』は1st-person perspectiveの形をとっており、主人公視点のため、主人公の姿は映っていませんでした。
だから何なの?って聞かれると、特に何もないってなるんですが、ただ単純に珍しいなと。
この形式はエルフ作品には標準的であるものの、P&Cタイプ全般となると結構珍しいのではないかと思われますね。
さて、近年では難しいという意見も聞かれるこのゲーム。
ノベルに慣れた人にはそう感じるのかもしれませんが、外国産のADVとかに慣れた人には、むしろかなり簡単な部類に属すると思います。
ただ、簡単だから駄目なのかと言うと、決してそうではありません。
『遺作』はP&Cタイプということもあり、画面のあちこちをクリックします。
出来の悪いP&Cタイプはクリックできる箇所も少ないし、加えて正解と関係のない場所をクリックした場合、反応がなかったり、味気ないコメントがかえってくるのです。
しかし『遺作』は、反応ポイントの数も多かったですし、また、かえってくる反応も非常に面白いものでした。
何と言ってもクリックする回数の多いゲームですからね、
クリックしたときの反応が楽しいというのは、それだけでも嬉しいですよね。
つまり難易度そのものは決して高くないものの、以上のような点を総合的に判断すれば、P&C式としての狭義のゲーム性はむしろ優秀な方に属すると思います。
しかもクリアするためには、無駄なく進まなければならないのに、Hシーンを見るためには、ビデオテープを回収しなきゃ駄目だったんですよね。
クリアを狙うかビデオ回収を目指すか、マルチエンドであるという構造を上手く活かしていたわけで、このジレンマというか行動の選択を迫られるあたりは新鮮でしたね。
本来、このシステムはこうあるべきというのはないはずですが、それまでのP&Cタイプは分岐要素のないゲームがほとんどでした。
『遺作』は確かにP&Cとしての難易度は高くないものの、その分をちょっとした分岐要素でも補っていますし、その点も考慮するとかなり優秀だったのかなと。
いずれにしろ狭義のゲーム性だけでなく、ゲームデザイン部分において独自性も含んだ作品と言えるでしょう。
そのようなP&CタイプのADVって、探してもあまりないし、かなり珍しいタイプなのだと思います。
他に被る作品も後に発売されていないですし、今でもやってみる価値は大いにあるのではないでしょうか。
ところで、P&Cタイプは時として、なぜそんなにクリックする必要があるのか?って疑問が生じる場合もあります。
例えば、恋愛ものとクリックさせることに必然性はなく、恋愛ものにはあまり有効なシステムとは思えないですしね。
しかし、本作の場合、遺作という親父が罠を仕掛けた旧校舎から、主人公達が脱出を図るというストーリーです。
罠がないか調べながら脱出を図るってストーリーと、あちこち画面をクリックするP&Cタイプは、非常に相性が良いと言えるでしょう。
両者を併せて脱出ものと認識する人もいますが、脱出という内容とP&Cというシステムは必ずしもセットではありません。
しかしセットで用いられることも多いくらい、相性が良いのです。
ストーリーとシステムがマッチしているものだから、感情移入もしやすかったのです。
これはシナリオとシステムが融合されているということでもあり、非常に好印象でしたね。
<評価>
欠点という欠点がなさそうなこのゲーム。
しいていうなら、ボリュームがやや少なめなところでしょうか。
まぁ、謎解きにどれくらい時間がかかったかでも変わりますからね。
難しく感じた人はそれだけクリアに時間もかかっているでしょうから、そういう人なら気にもならなかったでしょうけど。
ということで、基本的には文句なしの名作だと思います。
ただ、本作が出た95年には、他にも似た形式の作品で、『東京トワイライトバスターズ』という傑作ゲームがありました。
海外作品も含めれば、『Beast Within』なんて超大物もありましたし。
アダルトゲームに限定すれば本作の様な作品は珍しいけれど、ADV全体では決して珍しいジャンルではないですから。
これはもう、競合相手が悪すぎましたね。
そういうのもあって私の本作に対する評価は、相対的に沈んだものになった感じです。
もう少し発売が早ければ、傑作扱いしていたかもしれませんね。
私の場合はアダルトゲームと他とを区別しないので、逆に比較対象にもなったりします。
しかしアダルトゲームにしか興味のない人もいるでしょうし、アダルトゲームに限れば替えの利かないゲームですからね。
その意味では、今なお色褪せない作品でしょうから、未プレイの人にもプレイしてもらいたいですね。
ランク:A(名作)
Last Updated on 2024-11-02 by katan
コメント
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こんにちわ
自分はエルフのゲームはかなり知ってますが
ADVとしてはゲーム性が高いと常々思ってました。
ただ海外ゲームはあまり知らなくてブログを読んでると海外ゲームに興味が沸きました
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>>京さん
こんにちは。
海外のADVにも面白い物は多いですよ。
単純に難しさや頭で考えることを求めるならば、
MYST系のADVや海外製のP&CタイプのADVは最適でしょうね。
ノベルしかやらない人は肌に合わない場合もあるでしょうが、
エルフの『YU-NO』や『DE・JA2』、『遺作』なんかが好きな人は、
きっと楽しめると思います。
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ちわす
実はMYSTはプレイしたことがあるんですが
難しすぎて何をやればいい分からなかったです^^;
洋ゲーで好きなのはCIVです。これ以外はプレイしたことないです
歴史ゲームが好きで太閤立志伝や大航海時代は凄い好きです
「DEJA2」は1本道ゲームですよね
エルフでは同級生、野々村病院の人々、遺作、臭作、ユーノあたりがゲーム性高く好きでした。
どうもMYSTのようなシナリオがなさすぎるゲームはダメなのかもしれません
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>>京さん
こんばんは。
CIVや光栄のリコエイションゲームは面白いですよね。
いずれは書きたいとは思いつつも、SLGはどうも後回しになってますけど・・・
MYST系が駄目となると、P&C系が良いかもですね。
遺作やYU-NOもP&C系になりますから。
P&C系の名作は既に幾つか書いてますが、ほとんど英語だったりします。
しいて1本あげるとするならば、『The Longest Journey』ですかね。
これは本当に凄い作品でした。
日本語版がないのが、本当に残念です。
日本語版が出ているP&C系で面白くて新しいのとなると、『SYBERIA』になるでしょうか。
これもADV部門の賞を総ナメした作品でしたから、
日本語化の話を聞いた時は凄く興奮しました。
ついでに、今月末に『ヴァンパイア ストーリー』の日本語版が発売されます。
海外では昨年発売されていて高評価だったりするので、
個人的には楽しみにしています。
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SYBERIAの映像を見ましたが、やっぱり洋ゲーだなぁと思いました
日本のゲームとは感覚的に違いますね
遺作の影響を受けたのかSSで慟哭というゲームがありましたが
これも難しすぎてゲームの面白さを感じませんでした
エルフはわりと最低限はクリアできるレベルで作ってるのが自分に合ってたのかもしれませんw
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>>kyouさん
SYBERIAはThe Longest Journey(TLJ)以来の大物って騒がれて、
とかくTLJと比較されたりしていました。
確かに表面上の共通項も多いのですが、私には本質面が違うように思えます。
SYBERIAはP&Cの形をとっていますが、
世界観を文章ではなく肌で感じる点や謎解きの質の面で、
むしろMYST系に通じる面があり、その比重も大きいと思います。
そういう意味では文章で楽しませる生粋のP&C系(TLJやYU-NO、遺作)とは、
方向性が異なってくるんですよね。
なので、SYBERIAはP&C系が好きな人よりもMYST系が好きな人の方が
向いている気がします。
そしてMYST系の共通点は1つに難易度が高いことが挙げられますが、
もう1つ逆に欠点として挙げられることは反応ポイントの少なさがあります。
海外でもMYST系を苦手とするADVファンも結構いて、
多くはクリックできる箇所の少なさや反応の乏しさに不満を抱いているようです。
この欠点は慟哭にも当てはまりますよね。
難易度は遺作より上がりましたが、
クリックした時の反応が味気なく遺作よりも面白さに欠けていました。
(慟哭はそれでいてMYST系程の謎解きの質もなかったところが
また辛いところでもありましたね。)
難易度もそうですが、kyouさんの場合はMYST系に見られる反応の乏しさが
肌に合わないんじゃないかなとも思います。
とりあえずSYBERIAは肌に合わなそうな気はしますね。
もしやるならば、TLJやルーカス系の生粋のP&C系の方が良いかと思います。