ハルカの国 ~明治越冬編~

2018

『ハルカの国 ~明治越冬編~』は2018年にWIN用として、スタジオ・おま~じゅから発売されました。

「明治、大正、昭和、そして平成へ――
ハルカとユキカゼ、二人が歩いた道のり
100年のビジュアルノベル」として制作された長編作品の第1作目になります。

<概要>

ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
冒頭でビジュアルノベルという表記がありますが、画面全体にテキストが表示されるわけではなく、通常のADVと同じ表示方法ですので、本作はビジュアルノベルではありません。
選択肢はなく、1本道で読み進めるだけになります。

あらすじ・・・
明治4年
狐の化けであるユキカゼは、新政府に仕えながらも剣の腕を磨いていた。
そこに東北の狼、ハルカの噂が届く。
関東無敵と謳われるハルカに、ユキカゼは修羅を燃やした。
ついに嫉妬の業火に耐えきれず、ハルカ討伐へと旅立つ。
ハルカが住まう国、奥羽の山里には、冬がそこまで迫っていることも知らずに――。
北国の圧倒的な冬の下。
尽きることのない風雪のなかで描かれる、ハルカとユキカゼ、出会いの物語。

<感想>

本作は『ハルカの国』として、全6章が予定されている中の1作目になります。
本作をプレイして、まず率直に思ったこととしては、こういう作品が受け入れられる時代になったのであれば、本当に時代はかわったのだろうなということでした。
なぜなら、これね、ゼロ年代前半のシナリオゲーのアンチテーゼ的なノベルゲーなのですよ。

どういうことかというと、PC98時代までは、恋愛の絡まないようなストーリーの作品もあったし、物語のジャンルもいろいろありました。
しかし、90年代末からゼロ年代に入るころになると、シナリオゲーという名称のもと、恋愛の絡むストーリー以外のジャンルが廃れていきました。
私は以前、ゼロ年代に入り多様性がなくなったというコラムを書いたことがあります。
ストーリーのジャンルなんて、本来はいくらでもあるはずなのに、ゼロ年代前半のノベルゲーは、どれもこれも恋愛に絡めたものばかりで、恋愛ストーリーという枠組みの中で、その中で細分化していっただけなんですよね。

また、この当時のノベルゲーの場合、とにかく派手な展開があれば評価されがちでした。
もちろん、土台や設定がしっかりしたうえで、そのうえで派手な展開がなされるのであれば、それは大歓迎です。
しかし、きちんと調べていなかったり、練られていなかったりして、土台や設定が脆弱であるにもかかわらず、見せかけの派手な展開さえあれば、それで受けたりするようで、一部で評判が良いのに私が文句を言っている作品の多くは、これに該当していました。

さらに、この時期は、どんどんテキスト量が増えていった時期でもあり、クリアまでのボリュームが少ないだけで叩かれがちでした。
小説をみれば分かりますが、文学性の高い作品は、無駄をそぎ落としていくことになりますので、ボリュームは増えなくて当然なのです。
ストーリー性を増すことと、ボリュームを増やすことは、本来矛盾しかねないものですから、ボリュームを増やせば良いという発想は変だと思うのですが、当時はボリュームさえ多ければ大作として持て囃される時代でしたよね。

加えて、音声が付くことで豪華になったとして評価され、フルボイスも必須化していき、音声がないだけで低く見られがちとなっていきました。

ゲーム構造としても、『かまいたちの夜』のように枝分かれするゲームブック構造でなく、読ませることを重視した作品であるにもかかわらず、選択肢だけは多く残し、無駄に難易度だけ高くしている作品も多数ありました。

他方で、本作は、恋愛ベースのストーリーではありません。
当然のことながら、ヒロインとの個別ENDみたいなものもありません。

また、本作は、ハルカとユキカゼの出会いと越冬の物語であり、何も派手な展開はありません。
派手な展開はないものの、制作者が真摯に取り組んで調べた様子は窺えますし、だからこそ、越冬の厳しさというものがこちらにもしっかり伝わってくるのです。

さらに、本作は数時間のプレイですぐにクリアできてしまうので、ボリュームはありません。

そのうえ、音声も付いていないですし、ストーリーを読み進めるのを阻害するような邪魔な選択肢もありません。

つまり、ゼロ年代前半のノベルゲーにありがちな要素、支持されそうな要素を、本作はことごとく外しているのです。
したがって、仮に本作がゼロ年代前半に発売されたとして、技術的にはそれも全然可能だったとは思いますが、当時の支持されるポイントをことごとく外していることから、全然評価されないで埋もれていったことでしょう。
だからこそ、本作が一部の人にであっても刺さるというのであれば、それは時代が変わったということなのだろうなと、しみじみ思ったものでした。

私はまぁ、恋愛以外のストーリーがあっても良いでしょ、もっと調べようよ、設定しっかりしようよ、水増しテキストはいらないよ、読ませるテキストであれば音声は必須ではないよ、読み進めるのが主目的なら、邪魔な選択肢はなくても構わないよと、散々言い続けたような人間なので、本作のような作品が登場し評価されることは、歓迎するところです。

だから本作についても、基本的には好印象です。
ただ、続編以降は演出等も進化しますし、ストーリーにも厚みがついてきて、どんどん面白くなっていくのですが、本作はまだほんの序章に過ぎません。
これからの長編を担っていくハルカとユキカゼというキャラについて、そのキャラを理解してもらうために、越冬という厳しい舞台を通じて表現した作品でしかないのです。
原画自体が上手いと評されるタイプの絵ではないうえに、まだ演出も乏しいことも相まって、本作単独では、あまり高く評価はできないのかなと思います。

ちなみに、グラフィックについて。
キャラデザだけをみると、確かに上手いとは言えないように思います。
しかし、どういう場面なのか見てわかりますし、一枚絵は十分及第点だったと思います。
むしろ間の取り方が上手いというか、余韻を感じさせる構図は、テキストとの相乗効果により、プレイヤーの心にしっかりと刻んでくるように思います。

<評価>

上記のとおり、このシリーズはこの後、面白くなっていきます。
ただ、本作に限っていうならば、まだ長い物語の序盤でしかないことから、単独での内容に関しての評価としては、佳作相当の作品だと思います。

まぁ、このタイプの作品は、シリーズの積み重ねにより段々良くなっていくタイプであること、続きも読んでもらわないことには意味がないということも加味して、ギリギリですが良作とも考えたのですが、如何せんシステム周りが弱すぎて、それだけで1ランクは下がってしまう作品でもあるので、結局は佳作としておきます。

ランク:C(佳作)

Last Updated on 2024-12-24 by katan

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