『fault milestone two 上』は2015年にWIN用として、ALICE IN DISSONANCEから発売されました。
シリーズ2作目であり、前作からの飛躍的な進化に驚かされた作品でした。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
商品紹介・・・本作はシネマチックノベル『fault』シリーズ第2話です。
第1話「fault milestone one」のネタバレを多分に含みます。
作品コンセプトは「少年漫画を少女達でやる青年漫画調のヒューマンドラマ冒険譚」
SF色の強めなファンタジー作品です。
独自に開発した3Dカメラシステムを導入することにより、従来のノベルゲームにはつきものの「紙芝居感」を大幅に改善。
100枚以のイラストと、綿密に組まれたカメラワークによる、臨場感溢れる演出をお楽しみ下さい。
あらすじ・・・
故郷ルゼンハイドから地球の裏側へと飛ばされてしまったセルフィーネ姫一行。
無事アウターポールを脱出したセルフィーネ達が辿り着いたのは港町、ビスカンタ国ポート・サセアリー。
旅人達の行き来が盛んなこの町で、少女たちは街案内を生業にしているソルと名乗る1人の少年と出会う。
彼に導かれ、セルフィーネ達は、その美しい町の片鱗を感じながら宿へと足を運んだ。
しかし、サセアリーには水面下に潜むもう1つの顔があった――
<感想>
タイトルに「two 上」と表記されていることから、何だかややこしく感じてしまいますが、本作はfaultシリーズの2作目になります。
内容に関しては文句はないのだけれど、このタイトルだけは、もう少し何とかならんかったのかと。
出来が凄く良いのに国内での知名度が上がりきらないのは、この露骨に中途半端感を漂わせるタイトルが、ユーザーのプレイを躊躇わせているからではないかと、個人的には思ってしまいます。
絶対損しているから、次作は少し考えた方が良いですよ、ホント。
さて、前作で故郷の反対側に飛ばされてしまったセルフィーネ姫一行。
前作ではセルフィーネ姫とリトナの二人でしたが、今作では前作に登場したルーンも加わり、三人での旅となります。
そして故郷に戻るため、途中でサセアリーの街を訪れるのですが、今作は、この街でのエピソードだけで終わってしまいます。
街内でのエピソードとしては完結しているので、一つの物語としては十分に纏まっているのですが、セルフィーネ一行の目的成就の観点からはまだまだということですね。
ちなみに、今作ではフローラやミィシャなど、リトナの親友らが二人を探すべく行動に出ます。
そのため、ゲーム内においても、主人公視点だけでなく、一部ではフローラたちの視点に変わることになります。
今作ではまだ動き出したばかりなのですが、今後は姫一行にフローラたちに故郷の情勢など、複数の視点から物語が広がっていくことも予想され、ますます楽しみが増していきそうな感じですね。
上記のとおり本作は、街の中での話がメインであり、具体的には、ソルとその妹との関係を描いた話になります。
表面上は病弱な妹と、それを必死に看病する兄という構図であるところ、実際には兄の方が精神的に病んでいて、兄妹間の家族愛というだけでなく、最終的にはしがらみを断ち切り成長するソルの姿が描かれています。
まぁ悲しく救われない話ではあるので、ハッピーエンドでないと駄目って人にはどうかとも思いますが、個人的には良い話だったなと。
私の場合、記事内に具体的なストーリーの話を書くとは限らないわけで、書くのはストーリーが良かった場合だけであり、何か最近書いてない気がするなとか自分でも思ったくらいなので、それくらい楽しめたということでもあるのでしょう。
もっとも、本作自体は低価格商品ですし、一つのエピソードでしかないので、面白くはあったけれどストーリーだけで名作と判断するには至らないのでしょう。
むしろどちらかと言うと、前作で物語の導入部分も終わり、また、ルーンが仲間に加わるなどにより、それに伴い各キャラの新たな側面が描かれたりすることによって、キャラの魅力が更に引き出され、より深みが増したことの方が大きかったと思います。
アリスソフトのランスシリーズで例えるならば、志津香やマリアが登場したのは2だけど、その魅力が発揮され始めたのは3であり、本作はランスシリーズでいうところの3のようなものという感じでしょうか。
<グラフィック>
本作について語る場合、やっぱり一番はグラフィックないし演出となるのでしょう。
まず単純に、今作は海底都市が舞台になっているなどの事情もあり、イベントCGを見ているだけでも満足でした。
そして演出ですね。
これがもう、本当に進化していまして、2作目で化けたな~と大いに驚かされました。
本作の場合、アニメーションのように常に動くわけではないのですが、ここぞという場面でムービーを用いたり、あるいは大胆に大量の一枚絵を投下する傾向があります。
簡単に言えば、凄くメリハリがあるということなのですが、つまりは必要のないところでは無駄に立ち絵をパタパタさせることはせず、他方で必要な場面では必要なだけCGを注ぎ込んでおり、大量のCGを用いることで状況がハッキリと伝わってきますし、スピード感も生まれてきます。
これにより、フルアニメーションに勝るとも劣らない効果を生み出しているわけですね。
昔の作品にはなりますが、私の大好きな作品に『新宿物語』(1992年)があります。
『新宿物語』でも大事なここぞという場面で大量の一枚絵を使用し、インパクトやスピード感を生み出していました。
こういう方向性もあるのだと、その時は感心したものですが、本作はその『新宿物語』の方向性を現代の技術で進化させた感じだなと、プレイしながら思ったものでした。
グラフィックの用い方や演出方法は何も一つの方法に限られないわけで、また作品によっても理想の方法は変わってくるのでしょう。
その一つの方向性として『新宿物語』のような方法もあるわけで、本作はその方向性の最先端にいると言えるのでしょうね。
上記のように作品によって最適な方法は異なるのですが、一般論として言うならば、下手なフルアニメは、本家のアニメとかの劣化版にしかならないですし、本作のような方向性こそが正解だと思います。
なお、本作では一部、演出の関係上、ゲームが強制終了したようになります。
こういう演出に慣れていないと慌ててしまうかもしれませんが、あくまでも演出ですので、プレイしていて、あぁこれかと思ったら、慌てずそのまま見ていて下さい。
<評価>
総合でも名作といえるでしょう。
全ての点で、前作から飛躍的に進化しましたね。
前作から2年ほどですが、ここまで進化してきた作品は、近年では他に思い浮かばないくらいです。
最近はADVで進化を感じるケースが少なくなっているだけに、余計にも衝撃的でした。
こういうのが忘れた頃に出てくるから、ゲームはやめられないのですよ。
本作はとても面白かったですし、特に今回は演出面での飛躍が目立ちました。
まぁ前作から今作ほどの進化が同じペースで続くことはないでしょうが、今後はストーリー面での更なる拡がりが期待できるだけに、今回のクオリティを維持できるならば、更に面白くなることも容易に想像できます。
そのため、できるだけ早く続編を発売してもらいたいですね。
ランク:A(名作)
Last Updated on 2024-10-04 by katan
コメント
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ファンタジーもののノベルゲームとしては、久しぶりの当たり作品でした。
話としては区切り良く終わっているので、タイトルの「上」はなくても良かったと思います。
演出面で進化を感じさせる作品でしたね。本作のように、ストーリー上でも魅せたい場面で大量にイベントCGを使う形式の作品は珍しいですね。
思えば、現在のノベルゲームは、立ち絵で動きを表現することに力を入れている作品は多いですが、大事な場面でのイベントCGで動きを表現することに力を入れている作品は少ないですね。
今作から導入された3Dカメラシステムも合わさって、空間の奥行きを感じさせてくれるので、臨場感はバッチリでしたね。
前作で世界観がキッチリ構築され、今作でキャラクターの魅力がしっかり描かれていたので、次回作での更なる広がりを期待しています。
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> 話としては区切り良く終わっているので、タイトルの「上」はなくても良かったと思います。
やっぱりそう思いますよね。
出来の良さのわりに知名度が拡がりにくい作品って、
こういう変なところで損している場合が多いように思います。
>本作のように、ストーリー上でも魅せたい場面で大量にイベントCGを使う形式の作品は珍しいですね。
> 思えば、現在のノベルゲームは、立ち絵で動きを表現することに力を入れている作品は多いですが、大事な場面でのイベントCGで動きを表現することに力を入れている作品は少ないですね。
大事な場面、重要な場面に力を入れる、
そうでない場面とのメリハリをつけるというのは、
何もゲームだけに限った話ではないわけで、
それこそ仕事でも勉強でも何にだって当てはまる話なはず。
イベントCGという手法が拡大した時期にしても、
重要な場面、魅せたい場面を強調したいという思想が根本にあったわけで、
だからこそ、そうした場面に全力を投じると。
そう考えるとここ10年の大多数のエロゲ(ヌキゲ除く)は実に珍妙であり、
立ち絵での表現の進化にばかりこだわり、
重要な場面もそうでない場面もあまり区別せずに平均的に描いていて、
メリハリのない、一般常識に反した迷走をしているようにしか見えないのです。
常識的な考えでいくならば、本作のような方法こそが正しいと思いますね。
今書いていてふと思ったのは、やっぱり新宿物語は凄かったのかなと。
自分自身プレイしたのが大分後だったので、
それで価値観のズレが生じてしまっていたのだけれど、
まだイベントCGで強調するという思想が根付いていない時期に、
重要場面で複数のイベントCGをつなげていくという発想は、
たぶん当時は他にはなかったものだと思いますから。
> 前作で世界観がキッチリ構築され、今作でキャラクターの魅力がしっかり描かれていたので、次回作での更なる広がりを期待しています。
1でベースとなる世界設定を示し、今作でキャラを確立し、
また同時に演出面の進化も示してきましたからね。
もう事前準備は完璧に揃ったわけですから、次回作が非常に楽しみですね。