『if ~イフ~』は1993年にPC98用として、アクティブから発売されました。
4本のオムニバスで構成されたADVであり、アクティブの代表作の一つでしょうね。
それだけでなく、当時の情勢を把握する上では比較的良い素材かもしれません。
<概要>
『if ~イフ~』は、4本のショートストーリーで構成されたオムニバス形式のADVでした。
『if』ということで、時間も場所も異なる作品世界で、「もしもキミが主人公ならどう振舞うか」がテーマになっています。
作品そのものの話とは少しずれるのですが、恋愛ノベル全盛時の最も売れた恋愛ノベルのように、その年の代表作からその年の情勢が分かる場合も確かにあります。
しかし、PC88やPC98の時代のように、各自が作りたい物を作っていたような時代の代表的名作なんてものは、ある意味その時代にとっても「イレギュラー」な存在なのです。
だから例えば『同級生』だのなんだのと、現在も語り継がれる有名作品をプレイして、この時代のゲームはこうだったと考えるのは、時として極めて危険な過ちをおかす場合があるのです。
むしろ中堅どころの作品の方が、その時代の流行だのを捉えやすい場合があるんですよね。
まぁ、今でも本当に売れている作品は、何かしら挑戦的だったり新しい要素が加えられていることも多いので、テンプレな傾向を掴むには中堅どころの作品の方が分かりやすいという点は、あまり変わっていないのかもしれませんけれど。
いずれにしろ本作もまた、そういう意味で格好の素材と言えるのかもしれません。
まず本作の場合、タイトルからして時代が分かるってものですよね。
テーマに即した簡潔なタイトルであり、昔はこのような短いタイトルも多かったです。
個人的には、当時は、こういうタイトルは好きでした。
しかし、短い上に一般的な用語を用いたタイトルでは、現在は検索がしにくくてかないません。
ネットが普及した後の時代のゲームでは、こういうタイトルの付け方はあまりしないでしょう。
<ゲームデザイン>
次に、繰り返しますように、本作はオムニバス形式のADVです。
オムニバス形式はショートシナリオの集合体ということもあり、個々のシナリオがどうしても短く小粒になってしまうことから、あまり名作として後世まで語られる作品はないように思います。
しかし当時は、こういうオムニバス形式の作品が各社から発売されていました。
オムニバス作品というだけで、何となく時代が分かるってものです。
アクティブの「if」シリーズにしても、その後、3作目まで続いています。
他社にしてもシリーズとして何本も発売するケースが多かったので、それなりに売り上げも伴っていたということなのでしょうね。
また、個々の作品のシステムなのですが、広義にはコマンド選択式のADVとなるのでしょうか。
しかし、ここにも時代の流れが反映されています。
80年代、或いは家庭用ゲーム機のコマンド選択式ADV的な、「みる」「きく」といった汎用のコマンドは存在しません。
場面ごとに用意された個別の選択肢が表示されますので、見た目では今のノベルゲーの選択肢と全く変わらないのです。
この選択肢(コマンド)は1回選べば十分なケースが多く、また多くても2回も選べば先に進めます。ししたがって、「みるを3回」等といった、何度も繰り返し選択する、いわゆる総当りゲーと揶揄されるような作品に見られやすい煩わしさは、本作にはほぼ存在しません。
つまり、プレイしていてノベルゲーとほとんど変わらないんですよね。
ここまでくると「個別の文章による選択肢」に「マルチエンド」という構造から、人によっては「ノベルゲー」と分類するかもしれません。
私も同じコマンドを1回選ぶだけならノベルゲーと表記するのですが、中には同じものを2回選ぶ場面があるので、ここではノベルゲーではなく一応コマンド選択式と表現しておきます。
まぁ、どちらと判断するかはその人次第なので、正直どっちでも構わないのですが、何れにしろ両者の「境界線上の中間的なシステム」であったということです。
これが90年代半ばのPC98の「中堅どころの作るPCのADV」の特徴でもあり、仮にコマンド選択式と表記してあっても、家庭用ゲーム機のコマンド選択式ADVとは少し異なる部分でもあるのです。
なお、コマンドの数は多いときでは4個くらい表示される場合もあるのですが、逆に1個しか表示されない場合もあります。
平均すると、2個くらいの表示が多いですかね。
一時期のノベルゲーは3択ばかりでしたが、最近は2択も増えてきたかなと思います。
3択を基準にすれば本作はそれよりも少なく、2択を基準にすれば、ほぼ同等といった印象になるのでしょうか。
最近でも時々、1択の選択肢を混ぜるゲームがあって、そういうのに初めて触れた人が1択の重みとか、あれこれ考察しだすケースもあるようですけどね。
1択の選択肢のいう存在も、本作を含め当時既に存在したものでした。
とりあえず、ずら~っとたくさんのコマンドが表示されていた、80年代のPCゲーやコンシューマーのADVと本作とが異なるのは明らかであり、この辺もまた90年代に入ってからの、「中堅どころの作るPCのADV」らしさと言えるのでしょう。
つまり、この時期の有名ないし大手ブランドの作品の場合、確かにコマンド数の多いハードなコマンド選択式もありました。
しかしタイトル数の上で多数を占める中小の平均的なブランドの作品には、こういう中間的な構造の物の方が多く、本作のこうした構造から90年代半ばのPCのADVっぽさを感じるのです。
余談ですが、ノベルゲーはノベルゲーで既に存在しており、他方でコマンド選択式も中小ブランドでは簡略化することで、ノベルゲーに近付いて行ったということで、中小ブランドにおける実質ノベルゲー比率は、この時期辺りから増えていったと言えるのでしょう。
(以前書いたコラムでは具体例や本数も交えてきちんと書いたかもしれませんが、本筋とずれるので、ここでは省略します。)
<グラフィック>
最初のタイトル画面が一番綺麗じゃんって気もしないでもないですが、グラフィックにも時代が反映されています。
私には結局あまり良さが分からないままだったのですが、90年代半ばには、スクロールするCGが結構流行っていました。
大画面による迫力を演出するってことらしいのですが、体の一部分だけを見せられてもよくわからないし、私なんかは全部画面内におさめてくれよって思ってしまうのですけどね。
最終的にたどり着いた8画面スクロールなんて、画面内に腿しか映ってないぞってなりましたし。
でも、私の好み云々を除くならば、結構スクロールCGの作品数もありましたし、ということは当時の多くの人には好まれていたのでしょう。
まぁ流行なんて、盲目的なものであり、そんなものなのかもしれません。
2画面スクロールくらいなら、確かに迫力が増したと感じられますし、これくらいなら今でも使用するブランドがあるでしょ。
それが2画面より3画面の方が迫力がある、いやだったら4画面だとかとなっていって、最終的には8画面に辿り着いたと。
後から振り返れば不毛で馬鹿げているのですが、当事者には意外と分らないものですからね。
近年だって、立ち絵の数は豊富な方が良い、頻繁に動かした方が良いという風潮があり、そういう作品が人気を得やすいです。
でも、そうして立ち絵の種類や動きを必要以上に増やし、不自然なまでにパタパタさせる光景は、後に技術が発達しリアルな動きを表現できるようになった頃のユーザーが見れば、何だこれと失笑の対象になりかねません。
どんな分野にしてもそうですが、流行が過ぎてしまえば滑稽に見えてしまうということですね。
閑話休題。
本作はHシーンが2画面スクロールなので、それほど凄いスクロールではありません。
これくらいなら私も楽しめます。
好みの問題は横に置いておくとして、一応スクロールCGということですので、これもまた90年代半ばの作品らしいところなのでしょう。
<ストーリー>
オムニバス形式の良いところ。
それは各シナリオ間の関係性や整合性など一切気にせず、ちゃんぽんできてしまうところでしょうか。
本作には、4本のシナリオが収録されています。
1)恋愛青春ものの『Triangle』、
2)冒険ものの『マディ救出大作戦』、
3)文学調の『桔梗の花』、
4)分岐に重点を置いた『和也君の憂鬱な一日』
方向性は全部バラバラです。
一つ一つのシナリオ自体は可もなく不可もなく普通って感じでもあり、短いこともあって特に秀でているわけでもありません。
しかし、様々な物語を1本で楽しめることで、それなりに満足できたし、何が出てくるか分からないという点でも、この時代らしかったのかなと思います。
特に文学路線を意識したような『桔梗の花』は、当時だけでなく今でも珍しいタイプであり、少なくとも新鮮な感覚でプレイすることはできるのでしょう。
まぁ、本作はそれほどでもないのですが、数日後に掲載予定の続編『if2』はかなりの冒険作でして。
冒険することが怖いブランドはオムニバスの中に1つ混ぜてみるとか、今でも有効な手法と思えるのですけどね。
特に最近は複数ライターの作品が増えているだけに、ライター間の整合性とかで悩んだりするよりも、オムニバスで各ライターの持ち味を活かした作品を集める方が、きっと良い作品も生まれると思うのですけれど。
ボリュームの肥大化した今こそオムニバスを見直すときではないのかなと、個人的には思いますね。
<評価>
作品自体は、特にここが優れていたという部分があるわけでもないですし、主観的に凄く好きというわけでもないので、個人的には佳作としておきます。
ただ、言いたいことは冒頭で書いてしまったのでもう書くこともないのですが、今にしてみれば非常に時代を反映した作品だったわけで、それが特徴でもあり短所でもあったと言えるのでしょう。
いずれにしても、当時のユーザーには懐かしさを感じ過去を振り返る上での材料になれますし、当時を知らない人には過去を知る上での良い素材になるのではないでしょうか。
ランク:C(佳作)
Last Updated on 2024-09-18 by katan
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