『EVE burst error (イヴ・バーストエラー)』は1995年にPC98用として、シーズウェアから発売されました。
マルチサイトシステムにザッピングシステムを組み合わせ、小次郎とまりなの両者の視点を切り替えながら進むADVでした。
特に、最後のハッキングシーンは鳥肌が立ちましたね。
<概要>
ゲームジャンルはコマンド選択式ADVになります。
そこにマルチサイトシステム及びザッピングシステムの要素が加わり、部分的にマルチフラグメントシステムも含まれることで、コマンド選択式ADVとしての新たな方向性を見出した作品でした。
ストーリーは、いわゆる推理もの、ないし探偵ものになります。
主人公の一人である天城小次郎は、元は有名事務所の敏腕探偵。
今は独立し、事務所を構えています。
そこに高額で胡散臭い美術品捜索の依頼が舞い込んできて、調べるうちに猟奇殺人に巻き込まれていくことになります。
もう一人の主人公は任務達成率99%を誇る、内閣情報調査室の天才エージェント、法条まりな。
新たな任務は某国駐日本大使令嬢の護衛であり、襲撃者を撃退するうちに、その裏側に潜む過酷な政治抗争に巻き込まれていくことになります。
この2つの物語が同時に進行し、やがて一つに融合することになるのです。
<感想>
当時、もっとも続編の発売を望んだゲームの1つ。
それが、『EVE burst error』でした。
あの頃は言葉自体がなかったけれど、今なら泣きゲーないし感動ゲーに分類されるのかな。
今だとすぐに何ゲーってカテゴライズする人が多いけれど、昔はそういうカテゴライズすることが嫌いな人も多かったので、そういう言葉がありませんでした。
また、そもそも、一つの言葉で表現することも避けられていました。
もちろん、他にも感動できるゲームも、泣けるゲームもありましたよ。
でも、このゲームはそれだけじゃないだろという想いが強くあり、個人的には本作を何ゲーと一つの表現で語ることには、未だに抵抗があります。
その上で、あえて若い人向けに現代的に説明しようとすると、感動ゲーとか泣きゲーになるっていうことですね。
基本は推理・探偵ものの路線なのですが、あまりミステリー部分には重点が置かれていません。
ストーリーの良さでも高い評価を得ていましたが、それはラストの感動的な展開であるとかに由来するのでしょう。
この辺は、後述するシステム部分とも絡んできます。
いずれにしろ、ラストの展開にはとても感動したものですが、ただ、ストーリーの1点に関して言うならば、剣乃ゆきひろ氏の他の代表作である『DESIRE』や、あるいは『YU-NO』の方が上なのかもしれません。
しかし私は、その2作品以上に、『EVE burst error』の続編がやりたかったわけでして。
それは他の作品以上に、『EVE burst error』には魅力的なキャラが多かったからなのでしょう。
小次郎、まりな、氷室(個人的には凄くお気に入り)、プリン・・・
あのキャラたちはその後どうなったのか、そしてどのような活躍をしていくのだろう。
クリア後の余韻に浸りながらも、常にそう思ったものです。
(結果=続編については聞かないでくださいorz)
ストーリーの良い作品の場合、大抵はそれで完結しているわけでして。
きっちり完結しているが故に、下手に続きを書かれても、逆にいろいろ綻びが見えてしまいかねません。
だからストーリーの良い作品の続きは、必ずしも見たいとは思いません。
しかし、逆にキャラに魅力のある作品の場合だと、そのキャラがどうなっていくのか続きが気になってしまうのです。
だから私は、いまだにラノベとかも読んでいるのでしょうし。
『EVE burst error』は、とにかくキャラが魅力的だったわけで、だからこそ続きが他の作品以上に気になってしまうのです。
もちろん感動的なストーリーがあることで、『EVE burst error』はストーリーの良い作品でもあるでしょう。
ただ、それ以上にキャラが良かったということで、ストーリー重視であると同時にキャラ重視でもあるのでしょうね。
キャラを立てた作品、あるいはラノベ的な作品というのは、WIN時代にに入ってからは非常に増えていきます。
だけど本作発売当時はまだ珍しかったこともあり、余計にもその個性が際立って見えたのでしょう。
ちなみに、EVEシリーズは、その後も続編が何本も発売されています。
もっとも、剣乃ゆきひろさんが手がけたのは、本作だけです。
別の人が作った作品なんて、金をかけた二次創作と何ら変わりません。
1作目である本作のような水準を保てないことは自明でしょう。
それが分っていても、何本も続編が発売され、そしてファンが買い続けたのは、それだけキャラに魅了された人が多かったということなのでしょうね。
<ゲームデザイン>
かようにストーリー・キャラ共に優れた本作ですが、それ以上にもう1つの大きな価値があります。
具体的には、ゲームデザインですね。
本作は、普通のコマンド選択式のADVなので、基礎システムは特別変わっているわけではありません。
とはいえ、コマンドを何でも選択することにより、様々な返事が返ってきますので、選択式の中では良く出来ていたといえるでしょう。
この辺は、剣乃さんが最も得意とするところでもありますね。
『EVE burst error』は基礎システムではなく、そこに加えられた別のシステムに特徴があったのです。
そもそも『DESIRE』では、コマンド選択式に、マルチサイトシステムが加えられていました。
このシステムは、同時刻に進行している物語を複数の視点から見るというものでした。
一応視点を切り替えるということで、ザッピングシステム要素も含まれていたのですが、切り替える点に重きを置かない作品でしたので、ザッピングゲーと言うと、またちょっと違うとなるのでしょう。
だから、あくまでもマルチサイトのゲームであると。
そして『EVE burst error』では、そのマルチサイトシステムに、視点を切り替えつつ進めるザッピングシステムと、複数のフラグが相互に絡み合うという、マルチフラグメントシステムを融合させたのです。
マルチサイトシステム単体は、ストーリー性の幅を広げるもの。
ザッピングシステムは、単体ならゲーム性を増すもの。
マルチフラグメントシステムは、どっちにもなりうるでしょうか。
これらが融合する事の相乗効果により、ストーリー性もゲーム性も増していかせることに成功したのです。
プレイした人なら、きっと分かってくれるのではないでしょうか。
ハッキングシーンの、緊張感ある展開の素晴らしさが。
ストーリーにおける名場面は幾つもありますが、ストーリーとシステムの全てが融合したあの場面こそが、『EVE burst error』における真骨頂なのでしょう。
近年は、洋ゲーではナラティブという表現が好まれます。
シナリオにしか興味を持てないノベルゲーユーザーには、これは理解されにくい概念なのかもしれません。
しかし、プレイヤーの体験を通して物語を感得させるというのは、そもそも昔の本来のADVが目指していたものでもあるはずです。
ナラティブという言葉自体は、ここ最近になって用いられるようになったのでしょうが、その意味する理念は80年代のゲームから既にあるものです。
本作におけるハッキングシーンも、そんなナラティブな要素を突き詰めたシーンと言えるのでしょう。
たぶんこの場面がなかったならば、『EVE burst error』の語られ方はまた違ったものになったはずです。
ADVだって、様々なシステムがあっていいでしょう。
最近は便利なエンジンを各社が使いまわしていたりします。
それ自体を、完全に否定するつもりは全くありません。
しかし、物語の内容にあったシステムを構築する。
そういったストーリーとシステムの融合を意識できる、ADVにおけるゲームデザインを出来る人が、めっきりいなくなった事が残念なんですよね。
剣乃作品をやるたび、自分はいつもそう思ってしまうのです。
なお、『EVE burst error』に関しては、ザッピングゲーとの認識が一般的だと思います。
マルチサイトかつザッピングなので、マルチサイトという表現でも構わないし、そう紹介するところもあるでしょう。
それはそれで全く構わないのですが、『DESIRE』よりザッピングを活かしている点や、『DESIRE』との比較の観点から、『DESIRE』をマルチサイトとして紹介するのなら、本作はザッピングゲーとして紹介するといった感じで、区別した方が分かりやすいです。
だから個人的にはザッピングゲーと言う場合も多いのですが、それは決してマルチサイトであることを否定する趣旨ではありません。
他方で、本作にはマルチフラグメントの要素も含まれていますが、マルチフラグメントであることが活かされているのは、上記のハッキングシーンくらいなものでしょう。
あまり活用された場面がないので、マルチフラグゲーと言うには、ちょっと遠慮が生じてしまうのです。
だから結局は、短く紹介する場合には、ザッピングを導入した作品という感じになるのでしょう。
まぁ、一言で説明しようとすること自体に無理があり、ナンセンスな話なのかもしれませんし、表記なんて何でも構わないのでしょうけどね。
それと、これは他のゲームをまとめて振り返ることで、最近になって思ったことなのですけどね。
コマンド選択式というジャンルも、ずっと同じ形式だったわけではなく、80年代から90年代半ばまでの間に、少しずつ内容が変容していっているのですよ。
初期の頃はコマンド入力式の代替であり、多数のコマンドの中から正解を選ぶことを要する反面、正解を選べば次に進めることから、総当たりをする必要はありませんでした。
それが次第にコマンド数が減っていき、中には必要なコマンドしか表示されず、その代わりに全部のコマンドを試す必要があるという方向に、方向性が変わりました。
90年代半ばのPC98の、特に中小ブランドの作品を見た場合、コマンドが簡略化され、1つか2つしか表示されない物もあります。
また、そのコマンドも伝統的なコマンド選択式は、「みる」「きく」のような汎用コマンドを用いていましたが、90年代の新型においては、個別の選択肢が表示された物も多数ありました。
つまり、コマンド選択式とは名ばかりで、実質的にはノベルゲーと何ら変わらないような作品が多かったのです。
(個別の選択肢が2個出てくる、それを両方選べば先に進める。中には選択により物語が分岐する。
さて、それと今のノベルゲーとどこが違いますか?
安易に何でもかんでも昔は総当たりと表現する人がいるけれど、今のノベルゲーと当時の中小ブランドの作品の違いを、明確に区別して語れる人はどれだけいますか?)
実質ノベルゲーと呼べる作品が増えていた時代にあって、本作は伝統的なコマンド選択式の構造をしています。
したがって、中小ブランドの同時期他作品と比べると、コマンド数は多めになっています。
方法としてはコマンド数をもっと絞って、読ませることに専念させる作りもできたでしょう。
実際、剣乃さんは、『悦楽の学園』の時に、個別の選択肢が出てくるタイプの新型のコマンド選択式を制作していて既に経験がありますので、本作もその方向で作ることはできたはずなのです。
しかし、散々他で語ってきたので省略し、ここでは結論だけ書きますが、ノベルゲー的構造とマルチサイトは相性が良くないというか、意味がないのです。
野球でいうと、速い速球がある投手ほど、スローカーブもフォークも活きてきます。
それと同じで、マルチサイトやザッピングシステムなんかも、ノベルゲーとしての構造よりも、伝統的コマンド選択式システムにより、主人公≒プレイヤーの関係を強く結びつけた方が効果的なのです。
もし本作をノベルゲーにしてしまったら、本作の持つシステム上の演出的長所は失われてしまうでしょう。
ゲームデザインは総合的な観点からなされるものであり、単体では特徴のないように見えるコマンド選択式も、マルチサイトなど他のシステムを活かす上では、有効に機能しているのです。
同様に、上記のとおり『悦楽の学園』の時には、個別のコマンドが用いられており、汎用コマンドよりも進化していたことからすると、本作は一見すると退化したかのようにみえます。
しかし、そうではないのです。
『DESIRE』の時き書いたことの繰り返しになりますので、詳細はここでは割愛しますが、後述するシステムを活かすためには、ユーザーに理解してもらうためには、新型の個別コマンドタイプよりも、伝統的な汎用コマンドタイプの方が適しているのです。
剣乃さんが、そこまで考えて本作を作っていたのであれば、見事というしかありません。
まぁ、それもコマンドを選択したら面白いテキストが返ってくる、またその内容も毎回変わるという、基礎部分の良さがあったからこそであり、剣乃さんのテキストがあったからこそとも言えるのですけどね。
つまりは、どれが欠けても駄目なわけで、全部が密接に関連しているのです。
<グラフィック・サウンド>
ストーリーやキャラが良く、システムも新要素があり凝っている。
またそのストーリーとシステムが融合しているとなると、それだけで傑作に値すると思います。
もっとも、真に優れた作品は優秀な部分が多いものです。
これまで触れてないですがグラフィックもサウンドも、当時としては一級品でした。
そこらへんも抜かりはなかったです。
特に、梅本竜さんのサウンドは外せないですよね。
なお、『DESIRE』や『YU-NO』は18禁的な部分も重要になってくるものの、それらと比べると本作は18禁的な部分は薄いです。
だから他の2作と異なり、本作に関してはサターン版でも良いかなと思っていましたが、FM音源での梅本サウンドを堪能したい人には、やっぱりオリジナルの98版が一番となるのでしょうね。
感動する作品って、例えばkeyの作品なんかもそうなんだけれど、テキストだけでなくサウンドも重要になってきますからね。
FM音源で梅本さんのサウンドを聴きながらテキストを読めたかでも、感動の度合いは変わってくるのでしょう。
<評価>
数ある名作の中でも、総合的には95年では1番の作品でしたね。
また、剣乃作品の中でも、上述のようにキャラに関しては最も好きな作品でした。
ノベルゲーの感想とかは、プレイ直後に書いた方が良い物ができるでしょう。
しかし本作はシナリオだけでなく、システムなど他にも魅力は多く、またそれらが密接に結びついているわけでして。
しかも、ADVの歴史に詳しい≒過去の作品に詳しい人ほど、考え直す度に新たな側面に気付けるようでもあり、年を経ることで良さを再認識できる作品でもあるわけでして。
全部が計算されたものではないかもしれませんが、あらためて素晴らしい作品だったなと思いますね。
ランク:AAA-(傑作)
Last Updated on 2024-10-30 by katan
コメント
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この画面タイピングでシンクロするところですね。懐かしい。
シーズは禁血でデビューしたころからファンです。
その前は姫屋でしたっけ?最近みかけませんね…
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>>森乃やまね さん
EVEと言ったら、この画面かと思いまして。
当時のシーズは凄く好きでした。
今は開店休業状態みたいで残念です。
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EVE rebirth terrorという続編が出るそうですが…
不安を感じるタイトル。
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続編が出るようですね。
今度は誰が作るのかは知りませんけれど・・・
オリジナルの製作者がかかわらない二次創作を続編として発売するのは、個人的にはやめてもらいたいものです。