『桜花裁き』は2017年にWIN用として、IRODORIから発売されました。
エロゲで推理モノ(法廷モノ)のADVって、なんか久しぶりですね。
<概要>
ゲームジャンルは、詳細は後述しますが、基本的にはコマンド選択式+ノベルADVになります。
あらすじ・・・
北町・南町奉行所の緩和のために新設された、中町奉行所。
大岡志明は、そこの新米奉行として着任する。
志明に付いてくる、幼なじみの 平賀理夢。
お目付役として、北町奉行所より派遣された 遠山桜。
そして集まってくる、多くの仲間たち。
そこに着任早々、奉行所に連行されてきた少女・河合小梅。
小梅は桜花の街を騒然とさせた事件の容疑で、明日 裁かれる運命にあった。
小梅の罪状を鑑みるに、このままでは彼女の死罪は避けられない。
しかし志明は事件の不審点や、小梅の必死にすがる姿から、彼女は犯人でないと確信する。真犯人は誰なのか?
志明は、小梅の無実を証明することができるのか!?
中町奉行としての戦いが、今、はじまる――
<ゲームデザイン>
端的に言うならば、エロゲ版逆転裁判となるのでしょう。
ただ、ここで誤解して欲しくないのは、だから本作が劣っているだとか、逆裁が優れているとか、必ずしもそういうことではないってことです。
逆裁が出始めた頃には、他にもエロゲ版逆裁はありましたし、そもそも逆裁以前にも法定モノのADVやエロゲがありましたからね。
逆裁を知らないと、おそらく本作が斬新な作品に見えるでしょう。
それと同じことで、逆裁自体も別に斬新ではないのだけれど、携帯ゲーム機で子供でも遊べたということで、それで初めて触れた人が多かったんだろうなというだけです。
だから、本作が斬新だという人も、逆裁が斬新だという人も、私からすればどっちもどっちとしか見えないわけです。
ただ、その上で、ゲーム機のADVはプレイしている人も多いので、エロゲ版逆裁って言った方が分かる人には分かりやすいかなと思い、そういう表現を使ったまでです。
ということで、分かる人には上の一文だけで分かるのでしょうが、そうでない人に説明するならば、本作は以下の流れになります。
①アドベンチャーパート(ノベルゲー)
②調査パート(コマンド選択式ADV)
③奉行パート(選択肢の連続からなるノベルゲー)
以上から、細かく、かつ一般的な表現に言い直してみると、ノベルゲーの一部にコマンド選択式が混ざった形式と言えるでしょう。
ADVといいつつも、エロゲの場合、特に今世紀に入ってからは、実質的にノベルゲームばかりになっています。
そうなるとね、本来のADVっていうのが何かを、知らない層が増えても当然なんですよね。
ADVとノベルゲーは本来は別ジャンルだったとか、或いはノベルゲーはADVの派生とか亜種とかって感じだったんだけど、ADVの名の下にノベルゲーばかり発売される時代が続いたものだから、むしろノベルゲー=ADVって思っている人も増えても、仕方ない面もあるのでしょう。
だから純粋なるADVである『遺作』とかに対しても、SLGとか言い出す人もいるのでしょうし。
まぁ、何でこんなこと書いているかというと、元々のADVを知らない人からすれば、本作は斬新に見えるのでしょう。
だからなのか、中にはですね、本作に対して、ADVからの脱却という表現したものも見たからでして。
いやいや、そうではなくて、むしろ本来的な昔からのADVに原点回帰したってことなんだよと、そういうことを言いたいわけです。
だから逆にね、エロゲがノベルゲーばかりになって、それで嫌気がさしたような人には、ようやく久しぶりにADVらしいADVが出てきたよってことで、本作をすすめたいわけです。
まぁ、ADVは好きだけど、ノベルゲーばかりでは・・・って人は、そもそも、もうエロゲを引退してそうなので、本作の存在を知ることがないようにも思いますけどね。
でも、私のところを訪れてくれる人だと、最近の作品はあまりプレイしていないけれど、昔の作品の記事目当てって人もいるので、そのような人、同様に、最近のエロゲはプレイする気になれない、でもADVらしいADVがプレイしたいって思っている人で、ここを偶然にでも読んでいる人がいれば、一度検討してみることをすすめます。
さて、そういうわけでゲームデザインとしては、最近のエロゲと異なることから、これが一つの特徴といえることは間違いないのでしょう。
しかし、だからといって、過去に似た形式がある以上、それが即長所にはつながるとは言えないわけでして。
そしてあくまでも昔ながらのADVの形式を復活させただけであり、本作自体の出来としては、ごくごく普通なのです。
調査パートは自由度が少なく誘導されている感が強いし、奉行パートもゲーム性は高くないですしね。
だから、一風変わった作品が出ているということで、本作に興味を持った人もいると思うのですが、実のところ本作は、その一風変わった部分(システム)に魅力があるのではなくて、後述するようにキャラや演出にこそ魅力がある作品なわけで、そこを理解していないと、いざプレイしてみても思惑とずれてしまうおそれはあります。
<感想>
そういうわけで、ゲーム部分は知らない人には新しく見えたかもだけど、昔の基準からすれば、ごく普通のADVってところなのでしょう。
また、法廷モノ、更に範囲を広げれば推理モノといっても良いでしょうが、ストーリー自体も普通なんですよね。
この普通ってのが、実は厄介でもありまして。
奉行パートは犯人を推理し、論理を積み上げていくので、ゲーム部分がストーリーとも密接に絡みあってきます。
つまり、論理性とか、話の流れの説得力が、ゲームの面白さにもつながってしまうのです。
本作の場合、それが証拠になるのとか、それで説得できちゃうのとか、読んでいて、ちょっと強引なところがありましたし、ストーリー自体が優れているとは言えないのでしょう。
それは、ひいてはゲーム部分への印象にもつながってしまいます。
したがって、たとえば本作全体を評価したときに、最終的には素晴らしい作品と言う人がいたとします。
しかし、その素晴らしいという評価だけから、勝手にストーリーが良いと勘違いしてプレイすると、ちょっと思っていたものと違うとなりかねないでしょう。
本作の素晴らしいところは、そこではないからです。
本作は結局のところ、昔ながらのADVで、ストーリーもゲームシステムも普通なんだけれど、それを優れた演出とキャラの魅力で仕上げた作品なんだと思います。
まぁ、それはそれで、昔からのADVを現代的に再構成できたならば、それで十分に名作と言えるとは思います。
そういう観点から名作扱いにした作品もありますしね。
それでまずキャラなのですが、多くのキャラが登場し、個性もあってテキストも楽しく読めましたので、長所の一つとは言えるのでしょう。
ただ、個別ルートが弱かったり展開の幅が狭いこともあって、名作足りうるには、もう一つ突き抜けきれていない感じでもありまして。
次に演出ですが、CG枚数も多く、カットインを含めてその使い方も上手かったです。
墨絵風のCGもあり、バリエーションも豊富でしたしね。
また、本作は「話」単位で進む、いわゆる章仕立ての作品であるところ、次回に続くときの紹介の仕方とかも上手かったです。
ただ、見せる部分という、一番のベース部分が問題でして。
本作は、テキスト欄が右横に縦書きだったり、コマンドが右から横に並べられたりするのですが、これが感覚的にプレイし難かったわけでして。
個々のカットインやCGは優れている部分があるとしても、ゲーム全体として演出やデザインが優れた作品といえるかとなると、少し疑問を持たざるをえないのです。
<評価>
十分に楽しかった作品ではありますが、総合では、もう一つこれという、突き抜けた部分がないことから、良作としておきます。
とはいえ、エロゲでノベルでないADVで、推理(法廷)モノの作品、それでいて十分に楽しめる作品となると、新作では、もうほとんど存在しないという現状からすると、本作は非常に貴重な作品といえます。
そのため、ここ数年に限定すればオンリーワンとも言えるでしょうし、繰り返しになりますけれど、テンプレな恋愛ノベルゲーに飽きたような人には、ぜひともプレイしてもらいたい作品ですね。
ランク:B-(良作)
Last Updated on 2024-08-14 by katan
コメント
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桜花裁きのレビュー待っていました!
ノベルゲーも好きですが、たまにはエロゲでもADVらしい作品(特に推理系)をやりたいなと思っていたところ、このゲームの存在を知り、購入に至りました。
調査パートに関してはご指摘の通り、もう少し自由度が欲しかったです。それこそelfの「遺作」のように多彩なクリックポイントと多彩な反応があったらだいぶ違ったものになってたのかもしれませんが、ストーリーのテンポとか、今のユーザーのことを考えた結果、こういう形に落ち着いたのでしょうね。残念なことに。せめて部屋の移動MAPとかもっと活かしてほしかったなと思ったり。
一方で個人的に良かったと思ったのは、本編と個別ルートを分けたことによって、純粋な推理ゲーとして楽しみたい人と、キャラクターとの絡みも楽しみたい人の棲み分けが出来ていたことですかね。私は前者だったので、この仕様はありがたかったです。もちろんキャラクターは男キャラ含めて魅力的だと思いました。
後は次回予告があるのとないのとではだいぶ違いますね。これに関しては某作品をかなり意識してるのでしょうけど、どうしても続きが気になってしまいますねw
CG・音楽共に豪華で、かつゲームシステムにも力を入れてる作品は数多くないので、このメーカーさんの次回作には期待したいです。
タンテイセブンとか星降る夜のファルネーゼとか最近推理ADVが増えて嬉しい限りです。
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> 調査パートに関してはご指摘の通り、もう少し自由度が欲しかったです。
私が『遺作』の名前を出しちゃったのも悪かったのですが、
あれはP&C式なんでね、そこまでは求めるべきではないのでしょうが、
コマンド選択式でも画面をクリックさせる要素、
いわゆる「しらべる」コマンドはあるわけで、
その「しらべる」コマンドの範囲で考えたにしても、
後発作品だけに、もう少し作り込んで欲しかったですね。
> 一方で個人的に良かったと思ったのは、本編と個別ルートを分けたことによって、純粋な推理ゲーとして楽しみたい人と、キャラクターとの絡みも楽しみたい人の棲み分けが出来ていたことですかね。
これは良かったですね。
いろんなユーザーに配慮しつつも、
自分たちの作りたいものが何であるかを、
最後まできちんと意識し続けられた製作陣だと思います。
> CG・音楽共に豪華で、かつゲームシステムにも力を入れてる作品は数多くないので、このメーカーさんの次回作には期待したいです。
> タンテイセブンとか星降る夜のファルネーゼとか最近推理ADVが増えて嬉しい限りです。
今年は、まだ三分の一ほどしか経過していませんが、
もう既に明確な特徴が出始めているように思います。
一つは旧形態の復興であり、一つは一枚絵の進化です。
推理ADVが増えてきているのは、その最たるもので、
これらの作品を作るブランドは、
今後もがんばって欲しいものですね。