ELLE

1991

『ELLE』は1991年にPC98用として、エルフから発売されました。

エルフお得意のP&C式のADVで、これが国内では最初の作品でした。

<概要>

ゲームジャンルはP&C式ADVになります。

あらすじ・・・その尽きることのない欲望を満たすため、人々は争いを繰り返し、結果人類は環境破壊という罪を背負ってしまう。
残された未来は、わずかな生存可能地域に争いの無い理想社会を築くこと・・・メガロアース計画の成功にかかっていた。
メガロアース計画を阻止しようとする反政府組織に対し、その壊滅を目的とするスナイパーのメンバーとして相次ぐミステリアスな事件に立ち向かって行く主人公。
新任の彼は、その女好きな性格から同僚の女性スナイパー、エルに誤解ばかりうけてしまうのだが、次々と事件を解決する彼の姿に魅かれていくエル…。
抗争が激化する中、彼女にも迫るその犯行を彼は阻止することが出来るのだろうか。
複雑に絡み合う仕組まれたシナリオと運命・・・全てはA.D2030年から始まろうとしている。

<ゲームデザイン>

国内においては、ADVの主流はコマンド入力式からコマンド選択式に移り、途中幾つか違う形式も出てきたものの、ノベル全盛時代に突入するまではコマンド選択式が中心でした。

しかしながらADVの本場である海外においては、ルーカスアーツの作品をはじめとして、ポイント&クリック(P&C)式のADVが主流だったのです。

P&C式ADVについては、画面クリック型と言った方が解りやすい人もいるかもしれませんね。
画面内をクリックしていく事で進めていくゲームなわけです。
まぁ上記の説明は非常に大雑把なものなので、イコールの関係ではありません。
だから本当はもっと細かく説明すべきなのでしょうが、特徴を最大公約数的に纏めればこういう説明でも大丈夫でしょう。

P&Cは、コマンド選択式よりも広い自由度を保つことが出来、それでいてコマンド入力式のような無限地獄からも開放され、両者の長所を併せ持つスタイルと言えました。

もっとも、可能性が大きい反面、ゲームが面白くなるかについては、手間がかかるうえに、制作者のセンスが問われる形式でもあり、端的に言えば、制作が難しいジャンルなのです。
国内においては、P&C式の多くが高く評価されてるのに反し、作品の絶対数が少ないです。
それもユーザーの需要の高さと、制作が難しいという供給の困難さの現れなのかもしれませんね。

さて、このようなP&C式ADVは、日本語で遊べるゲームは当然海外からの移植物が先になります。
とはいえ、移植物はどうしても違和感がある人もいるでしょうし、やっぱり純国産のゲームも望まれるでしょう。

そして国産で初めて導入し発売されたのが、1991年にエルフからPC98用として発売された『ELLE』だったと記憶しています。

いや、売る方としては確かそんな表現をしていたはずですが、実際の所、ここら辺は定義次第なんですよね。
単に画面クリックということならば、既に80年代からあります。
だから画面クリック式と言ってしまうと、そんなの80年代から既にあるじゃんってなってしまいます。
アイコンクリック式と言い方を変えたところで、同じことです。
アイコンをクリックした後に画面をクリックするゲームも、既に80年代からあるのですから。

しかしアイコン選択後の画面クリックではなく、「マウス」を用いて目的箇所をピンポイントでクリックしていくスタイルとなると、この作品からということになるのでしょう。
ADVの基本システムとデバイスの関係は密接であり、P&C式ADVの本格的な発展は、マウスが標準化されることが必須です。
PC88時代はマウスは標準ではなかったですから、誰でもP&C式の良さが分るようになるには、PC98時代まで待たなければいけなかったと言えるように思います。
また初期のP&C式は2段階の操作が必要な物も多かったので、本作のように画面を直接クリックできることで進行できることは、とても魅力的に感じたんですよね。
その点で、従来の国産の画面クリック式から一段階進化した、新しいタイプのゲームであることを印象付けることができたのでしょう。

もう一つ興味深い点があるとするならば、それは表示形式になるでしょうか。
海外のP&C式ADVの多くは3rd person persoectiveと呼ばれ、すなわち主人公の姿が見えるタイプになります。
キャラを直接動かすタイプと言ってもいいかもしれません。
これは『KING’S QUEST』から始まったのですが、以後も最大手たるシエラ社やルーカスアーツ社が、このような形式を採っていたことに起因するのでしょう。

他方、国内ではもっぱら1st person perspectiveと呼ばれる、主人公の姿が見えないタイプがずっと主流でした。
その流れを受けてか『ELLE』は、P&Cにもかかわらず1st person perspectiveで表現されています。その後、国産のP&C式ADVが幾つか出てくるわけですが、『ELLE』の影響からか、やっぱりほとんどが1st person perspectiveなんです。
もちろん『東京トワイライトバスターズ』のように、3rd person persoectiveの傑作もあります。
ありますが、それは極めて例外で、数としては非常に少ないかと思います。

例えば、海外では水性ボールペンはローラーボールと呼ばれ、ほぼ全てにキャップが付いています。
そしてキャップのついていないボールペンが中性なんですね。
でも、必ずしもキャップの有無と水性中性の区分は一致させる必要はなく、現に日本ではキャップのない水性やキャップのある中性も、たくさんあったりします。

海外では3rd person persoectiveとP&C式が密接に結びつき、1st person perspectiveとMYST系が密接に結びついていますが、日本ではその構図がそのまま当てはまるとは限らないのです。
日本にもキャラを直接動かすタイプのADVも多数ありますが、どちらかと言うとコマンド選択式の派生から生じたケースが多いですしね。
ゲームの出来不出来とは関係はないかもしれませんが、ゲームがその国でどういう発展をしてきたのか、そういうものがこうした点にも表れているようで、個人的には実に興味深いなと思ってしまいます。

話を元に戻しまして、本作は、画面をクリックするタイプのADVです。
画面をクリックするとコメントが返ってきたり、ミニアニメーションで返ってくるわけです。
エルフの作品は蛭田さんがテキストを書いていたところ、蛭田節とも呼ばれる台詞回しが実に楽しく、あちこちクリックする楽しみがありました。
また、時にはコメントではなくクリックしたオブジェクトが動いたりして、そのちょっとしたアニメーションも実に楽しいものでした。
ここをクリックしたら一体どうなるのだろう?
あっちをクリックしたらどうなるのだろう?
さっきクリックしたけどもう一回クリックしたら違う反応がでるのかな?
そう思いながら、クリアには関係ないところまでもあちこちクリックしたものです。
国産のADVとしては初のP&CADVだったわりには、本当に良くADVの面白さを表現できていたのではないでしょうか。

<感想>

ストーリーは近未来を舞台にしたSFモノであり、次々に起こる事件の真相を探る点でミステリーモノでもあります。
結構良く練られた良いストーリーではありましたが、ただ、ラストをめぐっては、当時から賛否両論だったみたいでして。
特にSFに深いこだわりを持ってる人の中には、SFモノでこれをやっちゃ駄目だろって憤慨する人も少なからずいたようです。
私は、上記のとおりゲームとしての価値を最優先するうえ、プレイ中も楽しめたのでEDの一点をもって全否定はしないですが、EDだけに関していうならば否定的な立場になりますかね。
したがって、ストーリー、特にラストを重視する人で、展開に拘りのある人は、場合によっては注意が必要かもしれませんね。

なお、本作を91年のストーリーゲーの代表として挙げているのを見かけたことがありますが、それには少し違和感があります。
確かに、ラストさえ平気ならストーリーの良い作品と言えるのでしょうが、本質的にはシステムとテキストが一番の魅力の作品であり、ストーリーの一点に限ればもっと良い作品もありますからね。

ただ、優れた作品ほどストーリーとテキストとシステムが、密接不可分な関係になっているものです。
単純なストーリーの良し悪しで判断するなら他にもあるだろうけれど、上記のように本作はクリックしながら反応を楽しめる作品なので、それがテキストの良さとリンクし、トータルでの満足度の高さにもつながるのでしょう。

結局のところ注意すべきなのは、自分がどういうタイプなのかってことですね。
私なんかはP&C式が好きだから、ストーリーだけ良い作品よりも、本作のような作品の方が楽しめます。
でも、ADVのシステム面なんか二の次で、とにかくストーリー・シナリオだけを最優先に考える人もいるでしょ。
その考えを一概に否定するわけではありませんが、もしそういう人が、91年の作品をやってみたいのであれば、本作より先に目を付けるべき作品があるでしょってことなんです。
以前に、ストーリー・シナリオにしか興味のない人で、何故かエルフ作品ばかり追っかけている人がいまして。
それを見ていて、何かちょっとずれているよなと思ったものですから。
エルフの作品はストーリーの良い作品も多いけれど、ストーリー・シナリオの観点からは必ずしも最優先ではないし、エルフだけでは全然足らないのですよ。

<評価>

これまでにも何度か書いてきたように、ADVとノベルゲームは楽しみ方が異なります。
ノベル感覚でストーリー本編しか興味ない人は、本作の価値を理解しきれないでしょう。
本作は、初の国産P&C式ADVである古典的名作として名を残す作品ですし、ADVの変遷に興味がある人には、ぜひ触れて欲しい作品ですね。

ランク:A(名作)



CDソフト〔e’l〕

Last Updated on 2024-08-21 by katan

コメント

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    PC98版のELLE、懐かしいです。
    何というか、俺様ヒーローの古典に当たる作品じゃ無いかと思いますね。
    常に自信にあふれ、おちゃらけているが妙に戦闘能力とここぞという時の勘が鋭い。
    今では素人小説にも量産された性格設定ですが、この頃は荒い設定ながらこの作品の主人公はキレがありましたね。
    また、テキストのテンポが良くてそこいらクリックした覚えがあります。
    マウスアイコンが調べる重要場所に応じて変わってくれるなど芸も細かかったです。
    ラストは……度肝を抜かれましたね(笑)
    あ、でもブラスターを嬉々としてクリック連射した記憶があります。

  2. SECRET: 0
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    > 常に自信にあふれ、おちゃらけているが妙に戦闘能力とここぞという時の勘が鋭い。
    > 今では素人小説にも量産された性格設定ですが、この頃は荒い設定ながらこの作品の主人公はキレがありましたね。
    この作品の良さは、主人公の魅力が占める割合も大きいでしょうね。
    個人的には、こういうキャラは好きなんですよね。
    > また、テキストのテンポが良くてそこいらクリックした覚えがあります。
    > マウスアイコンが調べる重要場所に応じて変わってくれるなど芸も細かかったです。
    加えて、クリックに応じて画面も変化することもありましたしね。
    P&C式は作り手によって面白くもなるし、逆に面倒なだけにもなるし、
    センスの問われるシステムだと思います。
    本作における数々の配慮や工夫をみるたびに、
    それがエルフの上手さなのだろうなと思いますね。

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