『新宿物語』は1992年にPC98用として、フェアリーテールから発売されました。
映画を見るようなほろ苦い青春ストーリー。
フェアリーテールの実験作の1つでしたね。
<概要>
まずはじめに、私が、この『新宿物語』をプレイしたのは、実は発売からかなり経っていた頃で、完全にwindowsの時代に入ってからでした。
当初敬遠していた理由は単純で、何だかチンピラだのヤクザみたいなのが映っていたので、ハードボイルド系が得意でない私は、あまり楽しめないだろと思ったからです。
しかし、記憶の保存用に購入したソフトカタログの説明に「青春物語」とあり、それでどういうことなんだろうと興味を持ったわけですね。
本作が発売されたのは1992年です。
この年のアイデス(後のF&C)系の作品は、前年の沙織事件の影響もあり、様々な方向性を模索していました。
以前にもコラムなどで扱いましたが、同じADVであっても、物語の方向性もゲームシステムも、作品ごとに皆違ってきているのです。
『新宿物語』もまた、その中の1つであり、ジャンルは普通のコマンド選択式のADVであるものの、大きな特徴としては18禁ではなく一般作であること、そして映画を意識した作りをしていたことが挙げられます。
<グラフィック>
少し古めの映画を意識したのでしょうか、ゲームは全編セピア調のグラフィックで描かれています。
なお、原画は漫画家の氷室芹夏さんが担当していました。
近年のADVと異なるところとしては、本作には立ち絵がなく、全てが一枚絵であることです。
同年のフェアリーテールの他作品では、基本的に立ち絵と一枚絵があります。
セピア調のグラフィックという点では『夢二』も同じなのですが、あちらは立ち絵があるのにこちらにはありません。
この手法は、ADVにおける理想論としては正しいものの、一般論として正しいとは思えません。
その作品に適合するかは、あくまでもケースバイケースなのでしょうが、『新宿物語』においては、これで正解なのだと思います。
『夢二』とか普通の作品では、立ち絵が欲しくなる作品も多々あります。
特に今主流の恋愛系では、日常会話シーンが多いことから、一枚絵まではいらないものの、逆に立ち絵の存在は必須になるのでしょう。
しかし、物語の種類によっては、必ずしもそうではないのです。
立ち絵を増やすと、容量の関係もあり、どうしても一枚絵は減るでしょう。
それをやっていたら、本作の魅力は半減していたと思います。
動かす必要のないところは同じ絵でつなぎ、動きのあるところは一枚絵を連続でつなげる。
立ち絵を廃した分、一枚絵を増やし、必要なところで大胆に何枚も使う手法は、少なくとも本作では上手く機能していました。
これにより躍動感が生まれ、目的としていた映画のような雰囲気を生み出せたのでしょう。
PC98時代は、見た目のレイアウトであるとか、物語にあわせていろいろ変えていたものも多かったんですよね。
卵と鶏の話のように、どちらがどうとは言えないのですが、見せ方が多様だったのに合わせるようにして、物語の幅も多様だったものです。
それがwindowsの時代に入ってからゼロ年代前半までは、動かぬ立ち絵で進行しつつときどき一枚絵という構造へと、ゲームが一極化していきました。
これはこれで良い面があるのは否定しないのですが(特に原画家の一枚絵の良さだけを伝えたい場合には有用です)、一極化してそればかりになったというのが問題なのです。
その構造に上手く当てはめようとすると、どうしても物語の幅が狭く似たようなものが増えてしまいます。
逆に、物語だけその構造から逸脱しようとすると、システムとの不一致が違和感として残ってしまいます。
ゲームで物語を最大限に活かすためには、その見せ方やシステムからして変更しなければ駄目に思うわけで、この頃のアイデスは、その辺りもいろいろと配慮できていたんですよね。
まぁ、最近になり、つまりはゼロ年代も後半に入ってからは、またグラフィックやエフェクト技術の進化もあり、見せ方にいろいろこだわろうとするブランドも増えてきています。
だからこの問題は今後は減っていくのかもしれませんし、ゼロ年代前半特有の過去の問題になるのかもしれませんけどね。
<サウンド>
カタログを見ていた時には、まずグラフィックが目に入ってきました。
しかし、プレイを開始して、むしろ真っ先に印象に残ったのは、OPムービーとともに流れるMUSEさんの作る軽快なサウンドでした。
このサウンドこそ、『新宿物語』の1つの特徴でもあるのでしょう。
名作と呼ばれる作品には、素晴らしいサウンドが用意されていることが多いです。
たとえばkey作品の場合は、折戸さん抜きには語れないでしょう。
PC98時代の菅野作品だって、梅本竜さんの音楽の存在は大きいですし、アリスの数多くの作品を支えたのはShadeさんの音楽でした。
同様に、PC98時代の多くの優れたアイデス作品を支えたのは、MUSEさんの作る音楽だったのだと思います。
ストーリーの良い作品というと、どうしてもシナリオライターが注目されがちだけど、シナリオライターだけを切り取って語るのはナンセンスであり、優れたサウンドの存在は忘れてはならないのでしょうね。
本作においても、OPからプレイヤーを惹き付けたサウンドは絶妙であり、『新宿物語』という作品はこのサウンド抜きには語れないのでしょう。
正直なところ、私はあまりサウンドにこだわらない方なので、誰が作ったとかほとんど気にしないんですけどね。
でも逆に、普段そんな人間が気になったのだから、それだけ良かったと言えるのかもしれません。
余談になりますが、MUSEさんとF&Cの仲がこじれたとかで、それで黄金期のアイデス作品の多くが移植絶望的なようでして。
つまり、良い作品ほど移植しにくい状況であり、何とも嫌な皮肉な話ですよね。
<OP>
<感想>
ストーリーの簡単な説明をしますと、主人公は失踪した父親の後を継いで骨董屋をやっています。
もっとも、それは表の顔であり、こちらも父の後を継いでいるのですが、裏では何でも屋をやっているのです。
良く言えば銃を扱わないシティーハンターみたいなもので、悪く言えばチンピラみたいなものとなるんですかね。
助けた恩から舎弟みたいになっている相棒もリーゼント頭ですし、良い意味でチンピラ風な主人公たちと言っておきましょうか。
依頼される内容も荷物運びとかですし(中にちょっと白い粉が入ってますけど)、ややアウトローっぽい雰囲気を想像してもらえば良いと思います。
そして、本作で新たに依頼された内容が、女子高生の狂言誘拐になります。
そのため最初は、家出願望のお嬢様のお戯れにつきあうという、ただそれだけの簡単な依頼だったはずなのですが、何故だか殺し屋に狙われ、やがて逃走劇になってしまい~って感じで物語は進みます。
う~ん、この面白さの質を一言で表現するのは難しい気もするのですが、「青春」ストーリーと評した書籍の言葉が、やっぱり最適となるのでしょうか。
逃げる過程で様々な経験をした少女は、外の世界を知り、成長し、最後は家に帰ることを決断します。
でも成長物語というよりは、逃げる過程であるとか、途中の主人公とその相棒と少女との何気ない会話や行動こそが大事であり、全てをひっくるめて若き日の青春の一幕と言うのが、やっぱり一番合っているのかもしれません。
この、一言では表現しにくいという曖昧さもまた魅力なのであり、それがPC98時代のゲームらしいところでもありました。
もちろん、他に類似のゲームがないという点では、既存の98ゲーとは被らないのですけどね。
何が出てくるのか蓋を開けてみないと分からない、他のメディアではやりにくいような、そういう実験的な雰囲気がPC98のゲームっぽいのであり、細かくジャンル分けされその枠に嵌めなければ許されないような今のゲームとの最大の違いなのかもしれません。
まぁ、数年前ならラノベやアニメとか、最近であればWEB漫画とかでやれよという意見もありえるでしょうが、当時はこういう雰囲気の作品を表に出せる機会はほとんどなかったでしょう。
ジョージ・ルーカスでさえ、金がないからゲームでやるってなご時世でしたし、これはこれでありと思えたんですよね。
事件、そしてゲームは、少女の帰還をもって終了となります。
ストーリーとしては完結しているのですが、魅力的なキャラが多いのでいくらでも続編が作れそうなんですよね。
相棒関連で1話、大家さんのところの娘姉妹の話で1話、今回の事件を持ち込んだ美女(オカマ)とオカマバーのメンバーで2話、父親の失踪の話でも2話って感じで。
そもそも、実際にゲームの最後で次回予告とか言って、相棒が刺されて死にかけていますしね。
彼は何年、死にかけたまんまでいなければならないのでしょうw
全部作ればミッシングパーツシリーズみたいな長編にもなれたわけで、何とも惜しい気もしますね。
<評価>
総合では、名作といえるでしょう。
イベントCGを必要なところで必要なだけ大量に投じる手法は、今でも珍しいものですし、当時としては新しい方向性を示したといえますから。
そしてそれにより今でも記憶に残るインパクトがあったわけですから、その点を重視したということですね。
本作は、どちらかと言うと雰囲気系の作品であり、ストーリーそのものが格別優れているというよりも、むしろキャラの魅力から次が見たい、次に期待したくなるというタイプのゲームだったんですよね。
だから点数以上に好きな作品でもあり、もし普段の基準度外視で主観的な好みだけで判断するならば、傑作級に相当する作品でもありました。
それくらい評価以上に、そして偉大な名作らと変わらないくらいか、あるいはそれ以上に大好きな作品でもありました。
ランク:A(名作)
Last Updated on 2024-09-03 by katan
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