クロス探偵物語

1998

『クロス探偵物語』は1998年にセガサターン用として、ワークジャムから発売されました。

古き良きADVを最新の技術で新しいものとして表現した、ADVの可能性を広げた作品でした。

<概要>

ゲームジャンルはコマンド選択式ADVになります。

あらすじ・・・
黒須剣は、母親を早くに亡くし父親と2人暮らしをしていたが、その父も小学生の時に交通事故で帰らぬ人となっていた。
数年後、高校を卒業した剣は亡き父の墓参りに訪れた際、美樹夏子と名乗る一人の女性に出会う。
そして、そこで彼女の口から父親の死は、交通事故のように見せかけた殺人であったと示唆される。
実は剣自身も父に残された保険金が2億と大金であったことから、密かに父の死に疑問を抱いていた。 剣は父の死の謎を抱えつつも、父の正義を守る意思を継いで探偵になる為に、名探偵と噂高い冴木達彦に弟子入りしようと冴木探偵事務所を訪れる。

<マッハシーク>

人とやり取りする会話において、テンポは大事です。
同様にコンピューターとのやり取りであるゲームにだって、テンポは重要でしょう。
ロードばっかりのゲームや、動きのないゲームは楽しくないですから。

推理ADV好きの人には説明不要な作品かとは思いますけど、『クロス探偵物語』という推理ADVがあります。

いわゆるPS等の94年の次世代機以降はCDーROMが採用され、以後の家庭用ゲームではロード時間の問題がつきまとう事になりました。
FC・SFC世代の中には、ロード時間が嫌でやめてく人もいましたし、決して無視できない問題でもあったんですよね。
まぁ、私はPC88を経験していますので、CD-ROMによるロード時間は特に気になりませんでしたけれど。

そして、この問題に対し『クロス探偵物語』では、マッハシークという先読みの技術を導入する事で、この問題を見事に解決しました。
何せ、体感的なロード時間は皆無ですからね。
プレイしてての快適さは抜群でしたし、会話やストーリーにテンポが生まれて面白く感じられたのでしょう。

<グラフィック>

それに加えて『クロス探偵物語』のグラフィック枚数は、サターン版で5000枚あり、PS版では10000枚もあります。
もし本作がフルアニメーションの作品だったならば、これでも足りないかもしれません。
しかし本作では、部分アニメというか差分として使われています。

この意味が解るでしょうか?
こうすることで、動かす必要のある場所のメリハリをつけ、結果として20時間以上のプレイ時間の間、頻繁に画面を動かすことができるのです。
これは、昔のエルフのゲームのようでしたね。
いつも私は、ゲームにおいて何もフルアニメは必要ないのではと思ってます。
フルアニメでは、どうしてもボリューム不足になりますし。
こういう風に必要なところで必要な分だけ部分的に少しずつ動かす方が、ゲームのボリュームと動きの両立が可能となり、ゲームとしては相応しいように思います。

また、フルアニメーションをうりにする作品の場合、どうしても一場面でのインパクトが劣るようなケースが多いです。
一枚絵としての質や意味合いを確保したうえで、そこに必要な動きを加えていく方が、ADVとしては理想のように思いますね。
本作においても、私が今でも一番印象的なシーンって、下の画像の場面ですし。

ロード時間皆無でストレスもなく、それでいて遊んでいる間中、画面が絶えず変化する。
それだけでもプレイヤーを全く飽きさせることなく、ゲームの世界に浸らせてくれたものです。

ストーリー偏重という名の演出軽視に傾きつつある時勢の中で、ADVとはどうあるべきかを再認識させてくれた作品でしたね。

<感想>

以上のようにマッハシークと、膨大なグラフィック枚数からくるテンポの良さが、『クロス探偵物語』の最大の魅力と言えるのでしょう。

もちろん他にも魅力はあり、生き生きとしたキャラたちが、このテンポの良さに拍車をかけていました。

また、服装が毎回違うという細かいこだわりも、キャラが本当に生きて生活しているようで好きでした。

さらに、ピチカートファイヴのOP曲も良かったですね。

ゲームシステムは、コマンド選択式のADVになります。
必ずしも斬新と言えるほどの要素はありません。
しかしながら、要所要所で文字を入力させたり行動によって分岐したりと、ゲーム展開が単調にならないよう配慮されています。
同じシステムであっても、作る人によって雲泥の差が生じうるのであり、本作はADVの面白さを熟知した人が作ったって感じでしたね。
コマンド選択式のADVは、ゲームとして楽しめるADVはこうやって作るんだよっていう、良いお手本なのではないでしょうか。

ストーリーは全7話の構成になっています。
もっとも、第4話は完全なノベルであり、読むだけの作りです。
逆に第6話は、ほとんどストーリーがなく、迷路を抜けるだけです。

なお、本作品は完結しません。
もちろんそれぞれの話は完結しますが、大元の黒幕に関しての部分が持ち越しになっています。
当初は全10話の予定だったらしいですからね。

そういう事情もあって、続編の一日も早い発売が望まれていたのですが・・・
どうやら無理になってしまったみたいです。残念ですね。

<評価>

総合でも文句なしに名作といえるでしょう。
完結しなかったことは今でも心残りですが、SS・PS以降において、そのハードのポテンシャルを活かしきった、数少ない推理ADVの傑作ですからね。
※これ以降、推理ADVで傑作と考えるのは『ミッシングパーツ3』のみです。
推理ADVファンには、ぜひともやってもらいたい作品です。

温故知新という言葉がありますが、従来からのADVにある要素を上手く導入し、そこに最新の技術を組合わせることで全く新しいものに見せてしまう。
伝統的なADVの魅力を継承しつつも、ADVの新しい可能性を見せつけた本作は、本当に素晴らしい作品でした。

ランク:AA(傑作)


クロス探偵物語

Last Updated on 2024-12-27 by katan

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