『カナン ~約束の地~』は1997年にPC98用として、フォアナインから発売されました。
「GAOGAO!シリーズ」の第4弾にして、完結編となるシリーズ最高傑作でした。
<概要>
ゲームジャンルはコマンド選択式ADVになります。
本作は、いわゆる「GAOGAO!シリーズ」の4作目になります。
一応WIN版への移植の計画はあったみたいで、1作目の『ラジカルシークエンス』だけは、『シルバージーン』のタイトルで移植されています。
もっとも、それ以後が続いていません。
おそらく、もう無理なのでしょうね。
どうせ1作しか移植できないのなら本作か、『GAOGAO! 3rd. ワイルドフォース』にしとけば良かったのに・・・って思った人は、たぶん結構いるかと思います。
シリーズ全体で大きな1つの物語とも言えますので、まずは大まかな説明から入った方が良いでしょうね。
本作の舞台は遠い未来であり、人間は、その存在も文化もほぼ絶滅してしまっています。
代わりに「変異体」と呼ばれる動物の耳や尻尾を持った生物があらわれ、生活をしています。
イメージ的にはいわゆる獣人、女の子ならケモノ娘ってやつですね。
さて、シリーズの1作目『ラジカルシークエンス』は、現代が舞台になります。
人類が滅びることとなる、きっかけの物語です。
2作目の『パンドラの森』は、そこから数百年後。
既に人類は激減し、「変異体」が増殖していく頃の物語です。
3作目の『ワイルドフォース』は、更にそこから数百年が経過しています。
世界はほぼ「変異体」のみで、人類は地下に逃れた、ごく一部のみ。
そのため「ニンゲン」は、一般的には幻の存在となっています。
4作目の『カナン』は、前作から1年後の物語です。
上記のように地下に隠れた「ニンゲン」は幻の存在となって久しく、変異体からも存在を忘れられ始めています。
本作はマルチサイトのゲームであり、一方の主人公は、前作の主人公でもあり「ニンゲン」を探し旅を続けるウルフィです。
もう一方の主人公はニンゲンの少年カイトであり、カイトのいるシェルターで病が流行し、カイト以外が死んでしまいます。
そこでカイトは、一人でこのまま死ぬくらいならと発起し、人間の理想郷とされる「カナン」を目指しシェルターから旅立ち、それが本作の始まりとなります。
シリーズ各作品は、テーマや設定では繋がっているものの、上記のように2作目までと3作目は時代もかけ離れていますし、当然主人公も異なります。
しかし本作は、『ワイルドフォース』の1年後が舞台となっており、主人公や登場人物も結構重なっています。
そのため、舞台背景さえ理解していれば、最初の2作品は飛ばしても構わないかと思います。
もちろん、本当は全部やるのが一番良いのでしょうが、プレイ環境を整えることが難しい上に、今から始めた人は、たぶん挫折します。
というのも、1と2はそれほど評判の良い作品でもなく、このシリーズが大化けしたのは、『ワイルドフォース』からでしたので。
特に初期の作品ほどシステム周りの難が大きくなるので、当時のゲーマーでないと厳しく感じると思います。
逆に『ワイルドフォース』は、出来るだけやった方が良いでしょう。
1年後ということもあり、話が直接繋がっていると言えますから。
また、本作には魅力的なキャラが一杯出てきて、雰囲気的にはアリスのランスシリーズにおける、ランス一行にも似たものがあります。
例えば、下の画像の右側に顔写真が載っていますが、これがその時に一緒に行動しているメンバーとなります。
多いときには10人を超えることもあり、へたすればRPGよりも大規模なパーティとも言えるでしょう。
ランスシリーズだって、単発で6とかから始める人と、ずっとやってきた人ではキャラへの思い入れが全然違いますよね。
本作にも全く同じことが言えると思いますので、出来れば前作もって思うわけです。
<感想>
ここまでが前提知識なのですが、本作の魅力は何と言ってもストーリーにあるでしょう。
全部で4作品にも及ぶ本シリーズは、規模的にも作品内の期間的にも実に壮大な仕上がりとなっています。
これはこれで私の大変好みとするところですが、壮大ってだけでは随所で大絶賛されるとこまでは至らないでしょう。
設定的にも、あまり多くないとはいえ、決してないわけではないですし。
では、何が評価されたのか?
端的に言えば、とにかくストーリーの魅せ方が上手かったのです。
バイオハザードによる文明の衰退というSF的観点から始まり、異なる種族の共存の問題に終わるストーリーは、必ずしも珍しい題材ではないにもかからわず、それでいて落とし所が困難で、大変扱いが難しかったと思います。
その中で本作は、実に良く描けていたかと思います。
「カナン ~約束の地~」とはよく名付けたものですよ。
余談ですが似た題材は、『うたわれるもの』(2002)でも扱っています。
『うたわれるもの』も良作には違いないのですが、この部分に関する出来は雲泥の差があったわけでして。
それで改めて本作の素晴らしさを実感したものでした。
本作を含め、シリーズ全体のライターは三峰奈緒さんです。
以前にも『夢幻夜想曲』のところでも書いたのですが、テーマに即した物語をしっかり描ききる、プレイヤーに魅せる物語を作るという点では、PC98時代或いはアダルトゲーム全体でも最高の人かもしれません。
決して奇抜ではない設定で、しかも結構王道路線を行きますからね、珍しいものが好きで王道路線を褒めることが少ない私は、本来ならこういった類は苦手とするところでしょう。
それなのに、どんどん物語に引き込まれていったわけですからね。
アダルトゲーム界最高のストーリーテラーと言っても、決して過言ではないと思うのです。
プレイをした人の多くが感じるみたいですが、ゲームクリア後には大長編の物語を読みきった時と同じ、大変充実した満足感が訪れることでしょう。
アダルトゲームに何を求めるのかは人それぞれであり、ゲーム性重視の人は特にこのシリーズをやる必要はないかもしれません。
しかしストーリー重視な人で、しかもPC98で遊べる環境があるのにまだやってない人は、確実に損をしていると思います。
ストーリー重視ならばエルフ作品でも剣乃作品でもなく、まずはこれをやれと言いたくなる、そんな作品でしたね。
ちょっと余談になりますが、シナリオライターの系譜みたいな、そんな企画をたまに目にします。
でも、PC98時代のライターとなると、蛭田さんとか剣乃さんの名前ばかりで、他のライターの名前を目にすることがないのですよ。
蛭田さんも剣乃さんも多才な人ですから、アダルトゲーム全般という題材ならば、この両者を外せないというのは確かなのでしょう。
ただね、私が二人の大ファンってのは該当記事からすぐに分ると思いますが、個人的な思い入れを抜きに考えるならば、そもそもこの二人は、ゲームデザインで名を馳せた人でしょうに。
斬新なゲームデザインで有名になった人だけを、シナリオライターの項目で扱うのは、どう考えても変だと思いませんか?
シナリオライターのシナリオ・テキストに注目するのなら、その部分だけで判断しないと。
そして、そういう視点でPC98時代を振り返った場合、ゲームシステムは平凡でも、シナリオは抜群というケースが幾つかあり、その中の一人として三峰さんは絶対に入ってくるはずなんですけどね。。。
まぁ、記事を書いている人にPC98ゲーの経験がないのもあるでしょうが、蛭田さんと剣乃さん以外の名が出てこない記事なんてのは、ぶっちゃけ無価値ですよ。
少しずれてしまいましたが、もう一つ補足しておきますと、このシリーズはもともと『ワイルドフォース』で終了予定だったみたいです。
評判が良かったからか、まだ書き足りないと思ったからかは知りませんが、もう1作追加されたのが本作なわけですね。
しかし予定外の作品だったとはいえ、本作が作られることでテーマを更に深く掘り下げることが出来、結果的には大きくプラスに作用したかと思います。
さて、ストーリー面は大絶賛の本作ですが、ゲームはもちろんそれだけではありません。
まずキャラについてですが、これも既に触れましたね。
多くのキャラが登場しつつも、皆個性的で、非常に良く描かれていました。
<サウンド>
次にサウンドですが、MIDI音源の出来が素晴らしく、98時代でも屈指のサウンドだったと言えるでしょう。
本作の評判の良さは、このサウンド抜きには語れないでしょうね。
素晴らしいサウンドが物語を際立たせているという意味では、近年ではkeyのノベル作品にも通じるものがあるでしょう。
<ゲームデザイン>
ここまでは長所なのですが、問題があるとすればゲーム部分でしょうか。
コマンド選択式のADVなのですが、あまり作り方が上手くありませんでした。
1作目の『ラジカルシークエンス』の頃よりは良くはなっていますが、普通の域を出ることはなかったかと思います。
また上記のように、本作には主人公が2人います。
しかし『EVE バーストエラー』の様に、ゲームとしてザッピングを活かしているわけでもありません。
『DESIRE』のようなマルチサイトに近い感じで、これは物語を多角的に表現することには成功していますが、あくまでもストーリーの魅力を強化するだけであり、ゲーム部分の強化にはつながらないですしね。
<評価>
総じて、本作は雰囲気的に、特にプレイ前は地味に見えるのですよ。
97年にもなってPC98専用のゲームで画面も地味だし、システムにも特徴があるわけではないですからね。
個人的には、名作であることに違いはないけれど、総合的に見ると、少し出たのが遅かったかなって印象でした。
私のつけたランクはAA-になります。
発売が1年早ければAAもありえたし、もし2年早い95年に発売されていたら、『EVEバーストエラー』や『妖獣戦記2』と並んで、AAA-以上の同年の最高レベルの評価をしていたと思います。
それだけに発売時から既に古臭さを感じてしまう時期に発売された点は、少しばかり勿体無かったように思われますね。
決して欠点のない作品ではないけれど、あぁ~この作品に出会えて良かったと、心から思える最高の作品の1本でした。
ランク:AA-(傑作)
Last Updated on 2024-12-08 by katan
コメント
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ワイルドフォース、カナン共にレビュー読ませて頂きました。
私はラジカルからリアルタイムでプレイしていたのですが、当時2、3作目が出るのを楽しみにしていたのを思い出します。
カナンはその時の3作全購入特典の冊子で制作発表され、それはもう飛び上がるほど喜んだのですが、発売はそれから延期に延期を重ね「もう出ないのでは?」と思うほどでした。
唯一シリーズものとしての難を挙げるとすれば、この3作目からカナンまでの間が空きすぎたことでしょうか(笑)
なんとも懐かしい気持ちにさせてくれるレビューありがとうございました!
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はじめまして、コメントありがとうございます。
ラジカルからリアルタイムでというのも、かなり凄いですね。
私はワイルドフォースの評判を聞いて、それで最初からやってみるかとなった口ですから。
カナンに関しては、どうしても遅すぎたって感じてしまいますよね。
95年くらいに出せていれば、知名度は格段に違っていたでしょう。
でもマイナーそうなわりに根強く応援しているサイトさんとかもありますし、それだけ魅力があったということなのでしょうね。
何にせよ、本当に素晴らしいシリーズでした。
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ちなみに私はパンドラの森を推す派です。
過去を引き継ぎ、未来へ遺していったこの中間の作品こそがミューティアクロニクルの中核。
…でも単体じゃ普通。
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失礼ですが、パンドラの森派って少数ではありませんでしたか?
でも、ガンダムで言えば初代を受け継ぎZZや逆襲のシャアへの道を作ったZこそ偉大だったとも思うわけで、同じように考えればパンドラ最高ってのも頷ける気がします。
まぁ、結局はシリーズ全体で1つの物語として最高だったということなんですけどね。
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パンドラの森は寝取られもあったし、シナリオの雰囲気的にもやや暗い話だったから少数派だろうなぁ
クロニクルの部品として見た場合、ワイルドフォースで「こいつジャッキーの血を色濃く残している」とか「ライラの遺伝子受け継がれていたー!」とかいう広がりで、作品を逆行して加点されていったんだよ。たぶん。
全部独立したADVなのにシリーズとして完結した希有な例といえるかも。(シリーズもののフェードアウトとリタイヤはあまりにも多いし)
そういう意味ではどんなに遅れて、OSまで変わっていても、カナンが出てくれてよかった。
私にとってカナンは、もうマラソン大会の表彰式とか閉会式は終わって片づけに入っているのに、最後の走者がフラフラになりながらもとりあえずゴール地点まで走ってきて「お前まだ走ってたのかよ!」という驚きと「ナイスファイト」という感動があった。
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パンドラの森は酷い目にあうキャラが多かったですからね。
やっぱり異色の存在ではあったかもしれませんね。
でも、そうであるがゆえに逆に魅力的でもあったのでしょう。
それとシリーズ全体のつながりをどこで評価するか。
結果が出た時点で判断するならワイルドフォースやカナンになり、種を撒いた時点で判断すればパンドラの森になるって感じで、スタンスの違いでしかないのかも。
>全部独立したADVなのにシリーズとして完結した希有な例といえるかも
それなんですよね。
時代もキャラも異なり、それぞれが独立しているのに、全体で1つの物語として完成しているわけで、長いアダルトゲームの歴史の中でも、いまだに他にはないのではないでしょうか。
そういう意味では、もっと高く評価されても良いように思いますね。
カナンは私は大好きですが、遅れて発売されたのと当初はワイルドフォースで終わりだと思われていたこともあって、蛇足と言う人もいましたからね。
どう捉えるかは人それぞれでしょうが、フビライ犯さんの例えは言いえて妙って感じですね。