『VRデート 五月倶楽部』は1995年にPC98用として、デザイアーから発売されました。
立ち絵の豊富さが特徴の作品でしたね。
<概要>
時代はAD2023年の近未来。
就職先も決まり新社会人になるのを待っていた主人公は、仮想空間を使ったデートクラブ「五月倶楽部」に入会。
五月倶楽部、メイ・クラブ、メイク・ラブということですね。
2月半ばから仕事の始まる4月までに彼女を作ろうということで、基本的にはナンパないし恋愛ADVとなります。
<感想>
ジャンルやブームというのは単発のヒット作があっても駄目なわけで、ヒット作に準じるほどの内容を伴った後続の作品があってこそなのでしょう。
館ものブームにしても、メイドブームにしても、どうしても火付け役となった最初の作品に目がいきがちなのですが、ブームとなり定着していくのは続いた作品があったからなのだと思います。
本作は仮想空間を用いた作品であり、この系統の作品はこの頃、特に本作の発売された95年には幾つもあり、95年の1つの特徴とも言えるように思います。
しかし、代表作である『バーチャコール』を除くと、その他の作品の知名度は低く、そのため1つのジャンルとしてカテゴライズされるのを、ほとんど見かけることがないように思います。
ただ、まとめて語られることが少ないだけであり、作品自体は何本もありましたので、今だとこういうジャンルは珍しく思うかもしれませんが、当時としてはあまり珍しくもなかったのかなと。
ストーリー自体はいたって平凡なのかなと思いますが、本作の仮想空間は、基本的に現実をそのまま再現しているという設定でして。
逆にその設定を利用して、大人だと思っていたら中学生だったとか、女だと思っていたら男だったとか、キャラ設定は結構多彩になっており、その捻りが加わっている分だけ楽しめたように思います。
まぁオチは捻ってあるので、良く出来ているとも言えるのですが、その過程部分が普通、具体的には日常的な会話が中心でありつつ、イベントの数が乏しいので、過度に期待すると物足りなく感じてしまうかもしれないってところでしょうか。
<ゲームデザイン>
ゲームジャンルは基本的にノベル系のADVになります。
時間というほど厳密ではないのですが、一応行動の概念があり、また、一日が朝昼夜に分かれています。
まず「五月倶楽部」に行くのか、行ったらどの場所に行くのかを選択します。
後は、キャラがいれば会話になり、選択肢が出る場合はそれを選びます。
仮想空間を用いた作品の中には、デバイスを通して擬似的に会話、すなわちゲーム的には選択肢の連続となるケースもあるのですが、本作は1つの会話で選択肢が1個あるかないかです。
そのため、擬似コミュニケーション的な要素は感じられないのかなと。
擬似装置を用いたコミュニケーションでもなく、構造的にはノベルゲーであるにもかかわらずイベントが足りないのが、作品の方向性の不明確さとしてやや疑問を感じたものです。
本作がマイナーに終わった理由の1つは、おそらくゲームバランスにあるのでしょう。
ヒロインの数は多めなのですが、登場時期が遅いキャラが多いので、ゲーム序盤が退屈なのです。
ナンパしようと仮想空間に繰り出しても誰もいない期間がありますから、どうしても退屈なんですよね。
ここは非常に勿体無かったです。
<グラフィック>
まず前提として、グラフィックが良いというのは、一体何をさすのでしょうか?
私も含め多くの人が何気なく使ってしまう言葉なのですが、一番重視する部分は人により、あるいは時代によっても異なるのかもしれません。
まぁ、キャラデザの良し悪しというのは不偏かもしれませんが、それ以外の部分ですね。
PC98時代の作品でグラフィックが良い作品を挙げよと問うた場合、そこで挙げられる作品の多くが塗りの良い作品だと思います。
何せ16色しかない時代でしたから、余計にも職人技や技術の違いが出てくるのです。
この点で有名なブランドも幾つもありましね。
他にも、エルフは背景のオブジェの動きも含めた全体の演出も良かったです。
キャラの表現の仕方もいろいろあって、カクテルソフトはフェイスウインドウをカットイン的に用いたり多彩な表情を描いていました。
また、多くのブランドが目パチ口パクを導入していました。
これらの演出方法の多くは、WIN95の時代にになり一度衰退し、ようやく近年になり復活しだしたように思います。
さて、そのキャラの描き方として、今日最もポピュラーな方法が豊富な立ち絵と表情の変化による手法なのでしょう。
本作は一枚絵の質や背景も含めた全体の動きは平凡なのですが、立ち絵の動きと表情の変化が非常に豊富でした。
この点に関しては、最近のノベルゲーと何ら差がありません。
もし立ち絵の豊富さを一番重視するのであれば、本作は外せない作品だったように思います。
今でこそ私も、本作の立ち絵の素晴らしさの点を再評価していますが、当初は、実はそれほど評価していなかったわけでして。
まず第一に色数の乏しい時代でしたから、やっぱり一枚絵の職人的な塗りを重視してしまいます。
大事な場面では一枚絵が用いられるわけですから、その一枚絵の優れている作品を評価しやすいということですね。
それから、今でもたまに見かけるのですが、立ち絵だけ豊富でピョンピョンさせても、それこそ紙芝居に見えてしまいます。
目パチ口パクがあった方が生きているような自然な感覚が持てますしね。
まぁ目パチ口パクが上というわけではないですが、各社がそれぞれいろいろやっている中で、立ち絵が豊富の1点だけ優れているという程度では、絶対的なアドバンテージとは思えないわけでして。
それでグラフィックが長所とは思いつつも、それほど大きな長所とも思えなかったのです。
今は、立ち絵重視の考え方も一理あるなと、その考え方ならこの作品だろうなと思って再評価したのですけどね。
それでも、大きなアドバンテージにまではなりえないのでしょう。
<評価>
というわけで、立ち絵や表情の変化の豊富さを考慮して、総合では良作とします。
どこに着目するかで印象が変わってくるのでしょうが、立ち絵や表情の動きという観点からは非常に意義のある作品でした。
ランク:B-(良作)
Last Updated on 2024-10-31 by katan
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