『ADVの軌跡』は2016年にWIN用として、LEVEL PLUSから発売されました。
タイトルにあるようにADVの歴史を振り返ったものですが、全体ではなく80年代のADVを扱った作品でしたね。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
『セカイの果ての均衡者~BALANCER~』という、同人ゲームのシリーズがありまして。
本作は、その番外編となる作品になります。
本編をプレイしていると、登場キャラに愛着が沸いて、さらに楽しめるのかもしれませんが、本作は内容自体は完全に独立していますので、本作だけのプレイで全く問題はありません。
<感想>
まず良かった点から入りますと、登場キャラたちの会話がテンポも良く楽しかったです。
エフェクトも同人にしては凝っていましたし、読んでいて楽しいのです。
私は本編は未プレイなのですが、これは本編の方も楽しそうだなと思いましたし、そう思わせることに成功した時点で、番外編としてはある程度成功していると言えるのかなと。
本編未プレイ者を本編に勧誘するソフトとしては、良い存在だと思いますね。
ただ、キャラたちのギャグとかの割合が多すぎて、話が脱線することも多いのですよ。
だから、もちろん会話目当ての人は楽しめるのですが、そうでなくてADVについてが知りたい人の場合だと、さっさと内容に入れよと思ってしまうこともあるかもしれません。
それで肝心の本作の中身の方なのですが・・・
本作はタイトルにもありますように、ADVの歴史を扱ったものになります。
ADVの歴史といっても、期間としては80年代までになります。
さて、どう書くか悩んだのですが、とりあえず気になった点を覚えている範囲で順に挙げていくことにします。
・ミステリーハウス
まぁコマンド入力式が不便だの、高く評価されていなかっただの、いかにも今のノベルゲー最高と考える世代が、昔をディスるためにあえて誤導したような表現で、それ自体、非常に違和感があります。
私はコマンド入力式にそれほどハマったわけではないですが、言葉当てとも言えるその方式にハマった人もそれなりにいたわけで、『ミステリーハウス』が高く評価されていないとか言われると、それは間違いとしか言えません。
高く評価されていないのではなくて、そもそもPCを持っている人が少ないので、存在を知らない人が多かったというだけなんですよね。
・コマンド入力式の進化
それから、コマンド入力式は正解の単語を打たないと先に進めず、不便だという点ばかり強調されています。
実際、正解の単語を打たないと先に進めず、それでユーザーを苦しめた作品もあります。
もっとも、ユーザーが打った単語にできるだけ対応しようと、その部分を進化させてきた当時のブランドの努力がスルーされていて、入力式における進化のことが分からないままになっています。
・コマンド選択式ADV
コマンド選択式ADVについて。
『オホーツクに消ゆ』を挙げ、「セカイ初」と書いているのですが、それは誤りです。
これは堀井氏自身も、インタビューで初ではないと述べています。
コマンドを打つのが面倒くさいから、事前に表示してしまえという意味でのコマンド選択式は、オホーツク以前にも何本か存在しています。
もっとも、私はオホーツクを非常に高く評価していますが、それは単にコマンドを表示させるにとどまらなかったからであり、オホーツクを高く評価するには、単なる選択式の導入にとどまらず、もう一段階説明が必要になってくるのです。
それをしないと、どうしても矛盾が解消されません。
・漢字の表記について
当時のPCでは漢字の表記はできない、漢字の変換はわりと後になってからできたシステムと書かれています。
確かに80年代前半のPCゲーに漢字は使われていませんが、85年には漢字のADVも出ているんですよね。
コマンド選択式が一般に有名になったのは、ファミコン版のポートピア(86年)ですが、そのFC版ポートピアが発売されるよりも前に、既に漢字表記のADVはあるということなのですよ。
だからコマンド選択式が有名になった例として、FC版ポートピアの名を挙げて、その後に当時のゲームは漢字で表記できなかったと説明されると、時系列的に矛盾してしまうような誤解を与えてしまいます。
・ジーザス等
80年代のADVの歴史として主に扱われたPCゲーは、結局のところポートピア、オホーツク、ジーザス、スナッチャーだけであり、つまりはファミコンに移植された作品ばかりでして。
ADVの基礎を築いた、80年代PC専用ゲーが挙げられておらず、これでは全く足りません。
制作者の経歴は知りませんが、これだと、いかにも80年代PCゲーを全く知らないけれど、ネットで軽く調べて、それっぽく書いてみたって人との印象になってしまいます。
ゲーム内で扱う作品を厳選するにしても、もう少し気を使うべきだったのでは。
・エロゲ
その後、エロゲの話に入っていくのですが、不毛な元祖探しに加わることをしなかったのは良いと思います。
ただ、初めて18禁要素が入った作品について、『ロリータシンドローム』と書かれてしまうと、他にも既にいろいろ出ているのは明らかですから、誤りと言わざるをえなくなるのかなと。
何を基準にするかで見解がわかれうるところではありますが、どのような基準であっても、『ロリータシンドローム』を元祖とする見解は見たことがなかったことから、何をもってこの作品を挙げたのか、ちょっと驚きでした。
83年の説明で『カオスエンジェルズ』(88年)を出すのも、ちょっと意図が不明ですが、ADV要素のないものを除外するのだとしても、『ロリータシンドローム』より前にアダルトADVはありますので、ちょっと理解しかねました。
・天使たちの午後
上記の理由から、この作品がアダルトADVの元祖というのも、完全に誤りです。
それから、主人公は女の子と書かれているのですが、しかも男が全く出て来ない百合ゲーと書かれているのですが・・・
これ、一体何を見て勘違いしたのでしょう?
少なくとも1の主人公は男性ですし、百合ゲーではありませんので、作品の解説としては完全に誤りです。
このような間違え方も初めて見ました。
・あやよさん
うん、あやよさんは売れたけどね。
でも、それでも年間1位ではないわけでして。
そのあやよさんを例にとって、この時期のユーザーが求めていたのは、シナリオではなく可愛いCGだと決めつけるのは、ちょっと暴論すぎるのではないかなと。
それを言ったらさ、ゼロ年代以降の各年の売上上位には、必ずCGの良さだけでランクインした作品があるわけで。
同じ論理をゼロ年代以降に適用すると、ゼロ年代以降のエロゲユーザーはシナリオなんか求めていなかった、可愛いCGだけを求めていたのだとなってしまいます。
80年代のことは知らないけれど、ゼロ年代以降なら分かるという人も多いと思いますが、もし上記の様な決めつけをされたら、それは違うと異論を唱えたくなる人も多いでしょうに。
それと同じことで、あやよさんの例を持ち上げて、80年代全体のエロゲ全体を決めつけてしまうのは、不快感すら抱いてしまいます。
<評価>
テキスト自体は楽しめるのですが、肝心の部分が付け焼刃の知識すぎて、しかも内容が誤りだらけということもあり、ハッキリ言うと残念すぎる出来でした。
ここまで酷く間違えまくっている紹介も珍しいと思います。
続編も作られる予定らしいですが、制作者が当時のADVのことを知らないようなので、ちょっと期待できないですね。
ランク:E-(駄作)
Last Updated on 2024-09-07 by katan



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