この大空に、翼をひろげて

2012

『この大空に、翼をひろげて』は2012年にWIN用として、PULLTOPから発売されました。

メインスタッフが入れ替わった、新生PULLTOPの試金石となる作品でした。

<概要>

ゲームジャンルはノベル系ADVになります。

概要・・・
ダメチームの成長物語を、ラブコメタッチで描いた青春グライダー物語。
グライダー部解散の危機という挫折とチーム再編成からのサクセスストーリーに絡めたヒロインたちとの恋愛を描き、時に青臭く、時に眩しすぎるほどの王道青春アドベンチャーです。
シナリオには、甘酸っぱい青春群像劇に定評のある紺野アスタ氏、そして叙述レトリックと繊細な心理描写を得意とする七烏未奏氏が担当しております。

<グラフィック>

PULLTOPの今後はどうなるのだろうと心配した人もいたでしょうが、個人的には特に思い入れはありませんので、ただ単純に作品が気になっただけです。
我ながら単純だと思うのですが、絵に惹かれたのですよ。

キャラデザは、個人的にはかなり好きですね。
可愛くてあっさりした感じで、萌え系ではあるものの必要以上にロリ化させていませんし。

また、演出面も良かったでしょう。
少々くどく感じることもありましたけれど。
本作は最近増えているワイド画面固定タイプになります。
ワイド画面の作品はかなり増えてきているものの、ただディスプレイの形に合わせたというだけで、十分に使いこなせていない作品も多いです。
むしろ、ワイド画面で良かったと思える作品なんてほとんどありません。
もっとも、本作は、グライダーが単純に横長画面に映えるというのもありますが、それだけにとどまらず、キャラの配置の仕方やSD絵の使い方など、全体的に上手く使いこなせていたように思います。
単なるエフェクトの技術の進化だけでなく、こういう部分にも数年前の作品との違いが見てとれますね。

個人的に好みの絵柄ということもありますが、演出面も含め基本的に年間でもトップクラスのグラフィックと言えるでしょう。
もっとも、これだけで名作足りうるほどに抜き出ているかとなると、そこまでのインパクトはなかったのかなと。

<ゲームデザイン>

ジャンルはノベル系のADVになります。
プレイ時間は結構あるのですが、その間に選択肢は数個しかでてきません。
数時間経って、忘れてきた頃に出てくる感じです。
狙ったキャラを選べば良いので攻略も楽ですし、純粋に読むことに集中できるでしょう。
なお、シナリオロックもありますし、全部読めば広がりはあるものの、必ずしも全クリ必須とまでは言えないのかなと。
普段は気にしない部分ですが、この作品に関しては結構重要になってきますので。

細かいシステム面は、マウスジェスチャー機能は便利でしたし、基本的には良好なのでしょう。
しかし、上記のように選択肢が極端に少ない上に、後述するストーリーとの関係もあり、既読スキップだけではストレスが溜まってしまいます。
次の選択肢まで進むとかシーンを飛ばすとか、方法はいろいろあったでしょうに。
一般論でなく、この作品に最も欲しい機能が欠けているという点で、ゲームデザイン的には少し配慮が欠けているのかなと。
まぁ、この辺は、他の大作系ノベルの大半にも言えますけどね。

<感想>

グライダーとソアリング部を題材にし空に想いをはせる、王道青春恋愛ストーリーといったところでしょうか。

まず良い点は、個々のテキストは結構合いましたので、絵柄が好みということとも相まって、楽しく読めました。
珍しく好きなキャラばかりですしね。

しかし逆にストーリーに関しては、いろいろひっかかる部分もあるわけでして。
主人公は工業系の学校とありますが、これは高専でしょうか。
その点で一般的な高校と違ってくるのですが、それでもソアリング部という費用もかかる題材で、あえて大学を避ける必要があるのかなと。
大学を舞台にして、「男」女がもっと真剣に取り組む姿を描いていれば、もっと面白くなったように思うのですが。
学園を舞台にしなければ企画が通りませんとか、そんなところ?

まぁ高専でも構わないのですけど、女性ばっかりなので違和感があるのですよ。
主人公は女子寮の寮母としてアルバイトしていますので、寮内は女性ばかりです。
本作は寮と部活で大半を占めるのですが、その部活の方も女性ばっかりなんですよね。
なまじワイド画面で一杯キャラが写るようになったものだから、絶えず女性に囲まれている印象が強くなってしまい、結局のところは学園ハーレムゲーなのだなって思ってしまいます。
今うけやすい、まさに今風のゲームだなと思いますし、それはそれで個人的には構わないのですが、男性キャラを重視するような人は少し注意が必要かもしれません。
特にこの題材なんかは、男性の存在も無視できないと思うのですけどね、男性キャラは批判回避&困った時の便利キャラとして用意されているだけなので、少しあざとく感じてしまいました。

グライダーに関する構造的な説明は本作でもなされていますし、あまり長々と説明されても面白くないので分量も問題ないでしょう。
しかし、構造的な説明がなされ最初のフライトに成功した後は、扱いがぞんざいです。
ある題材を描くというのは、グライダーの構造がどうとか、そういう部分だけが全てではないでしょ。
グライダーのことは詳しくないのですが、それでも製作の過程にはその分野ならではの話題っていうのもあるでしょう。
それが薄いものだから、あまり努力の様子が伝わらないわけで。
普通の掛け合いの占める割合が多いこともあって、ほんのスパイスとして珍しそうなソアリング部を持ち出して釣っただけで、本質的には普通の学園ハーレムゲーと変わらないよなって思ってしまいます。
せっかく楽しかったはずの日常会話も、これでは単なるごまかしの尺稼ぎに見えてしまう。

空に想いを馳せる作品なんてのは他にもいろいろありますが、本作ならではの新しい側面が見えるどころか、この作品から空への強烈な想いというものが伝わってきませんでした。
だから余計にも、女の子とのハーレムな青春だけを描きたいのかなと、そんな風に思ってしまうのです。

まぁ、それでもね、ストーリーなんて二の次、イチャラブが全てって作品もありだと思うのですよ。
その方面で突き抜けてくれれば、何ら問題ない。
むしろ私は本作のキャラが好きなのですから、望むところです。
しかし、そっち方面でも部活という制約ゆえに展開の幅は限られますし、個別シナリオが弱いこともあって萌えきれないわけで。

それに加えて、全体的な構造ですね。
モーニンググローリーを見るという目的が共通していることもあり、どのシナリオも似ているのですよ。
だから最初のシナリオは満足度がそれなりにあるものの、シナリオをこなすごとに先が見えてしまいテンションが下がってくるわけで。
体験版・・・名作、最初にプレイした小鳥シナリオ・・・良作、以下は佳作、凡作というような感じで、印象はだだ下がりです。

展開にしても、教師が難題をふっかけてきて、それを皆で解決。
しかも主人公が頑張るのではなく周りの天才か便利屋か、或いは偶然が都合良く出てくることで解決したり。
まぁ、ちょっとした問題があっても、あまり深刻にならない辺りは今風なのでしょうが。
そんなありきたりな、特に秀でているでもない展開を何回見せるのかと。
そんな足かせがあるものだから、キャラの魅力まで削がれかねないのです。
ぶちゃけ、これ小鳥シナリオだけで良いよ。

ストーリーに重点を置きたいのか、それともキャラに重点を置きたいのか。
前者であるなら日常の長い掛け合いを削ってもっと部活の描写に割くべきですし、後者ならメインヒロイン以外はストーリーは異なる展開でも構わないでしょうに。
どうにも中途半端だよなと。

何て言うか、小さく纏まりすぎているのですよ。
女の子に囲まれての青春、加えて空に想いを馳せるとか、ユーザーが好みそうな要素が一杯あります。
ニーズに応えたという意味では良い商品かもしれませんが、ストーリーとして新しいものは何も感じられなかったなと。

<評価>

簡単に言ってしまうならば、ありきたりのストーリーを今うける設定で今の技術で表現した商品。
個々のグラフィックやテキストなどは頑張っているのだけれど、その良い素材の調理に失敗した商品。
つまり完成度が低いのです。

企画がどこまで管理できる位置にいるのか分からないのですが、映画で言うならカメラや脚本や役者など個々の部分は良いのに、監督が駄目な作品という感じです。
ユーザーの好みを反映した良い商品かもしれないけれど、これは作品ではないよなと。
キャラに萌えられた私は元は取ったと思いますが、少なくとも手放しで褒められる作品ではないでしょう。

全クリ必須ではないので、メインシナリオだけやって他は放置という手もあります。
それならギリギリ良作でも構わないかもしれませんけどね。
クリアした直後だからいろいろ書けるものの、おそらく1年後には何も覚えていないような印象の薄い作品ということもあり、良作に近い佳作としておきます。

グラフィックは各社進化しているし、肌に合うライターだって一杯いるわけでして。
それなのに楽しみきれない作品が多数あるというのは、もっと作品全体を統括できる人が業界に一番欠けているんだよなと、そんなことを思いながらプレイした作品でした。

ランク:C(佳作)


この大空に、翼をひろげて
この大空に、翼をひろげて DL版
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Last Updated on 2024-11-23 by katan

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