38万キロの虚空

1989

『38万キロの虚空』は1989年にPC98用として、システムサコムから発売されました。

サコムのノベルウェアシリーズの5作目であり、代表作の一つですね。

<概要>

ゲームジャンルはノベル系ADVになります。

本作は近未来を舞台にしたSF作品であり、ストーリーの大まかなあらすじは以下の通りです。

「西暦2049年、地球人口は増加の一途をたどり、まさに飽和状態を迎えていた。
この状況を打破するため宇宙殖民計画が開始され、スペースコロニー(SC)が作られた。
しかし、SCが本当に人類全ての幸福のためだろうか?
本当に安全移住空間なのだろうか?
反対派はなぜ反対するのか?このまま黙ってオープンを見過ごすのか?
プレイヤーが見て、感じて、行動する事によって展開が変わる。」

<総論>

ノベルゲームが小説と異なる点。
それは物語に音と絵がつくこと。
ストーリーをより楽しませるために、読むことに特化させようという試みは80年代から既にあり、その代表例がシステムサコムのノベルウェアでした。

もっとも、ノベルウェアにも変遷があり、当初は読みやすくというシステム的な面が強調されていました。
それが最後の『闇の血族』あたりになると、アニメーションも導入したりして、「絵」という見た目にもかなりこだわった作品になっています。
『38万キロの虚空』はノベルウェアの中でも、後期に当たる作品になります。
本作では、当時まだ珍しかったMIDI音源にいち早く対応し、「音」に対するこだわりを見せていました。

つまり、大雑把にいうと、読みやすいノベル構造の導入→効果的なサウンドの導入により聴覚的にもストーリーをサポート→アニメーションなどの導入により視覚的にもストーリーをサポート・・・といった感じで、少しずつ段階を経てきたわけですね。

こうして音と絵でストーリーを盛り上げる、いわゆる読ませるタイプのノベルゲームが誕生すると共に、今につながるノベルゲームの基礎が築かれたと言えるのでしょう。

余談ですが、これより数年後にノベル構造+サウンドという面で、ゲーム機ではチュンソフトの『弟切草』が出てきますし、PS2の作品頃になるとグラフィックにも力を入れだします。
後追いながらも、やっぱり同じような流れを経ている感じですよね。

さて、上記のように『38万キロの虚空』はMIDI音源に対応したことで、他所のADVより優れたサウンドを感じさせてくれましたし、ストーリーを非常に盛り上げてくれました。
ゲーム史的な意味あいからすると、おそらくこの部分が最も大きいとなるのでしょうね。

<感想>

もっとも、何だかんだいっても、ノベルは読ませることに主眼を置いた作品ですからね、MIDI音源がどうのこうのと言ったところで、最終的にはストーリーが面白くなければ、あまり楽しめなくなってしまいかねません。

その点、本作は、ストーリーも非常に評価の高い作品でした。
というか、客観的な特徴ということで、まず最初にMIDIの件を書きましたが、本作をプレイした人に対し、本作の一番の特徴は何かと聞いたら、おそらくほとんどの人がストーリーを挙げるのではないでしょうか。
システムサコムはノベルゲームを幾つも作っていますが、単純なストーリーの出来だけなら、本作が最高峰だったようにも思います。

他方で、グラフィックは白黒で渋めでした。
まだアニメーションでこだわる段階には至ってないにしても、これまでにも色つきはありましたからね。
シンキングラビットと同じような発想で、ストーリーとサウンドに絶対の自信があるから、それだけで勝負だよってことの表れだったんですかね。

<評価>

上記のとおり、本作は方向性が非常にハッキリしています。
好きな人は好きだろうし、実際名作との声も良く聞きます。
ノベルウェアが読ませることに重点を置いている以上、ストーリーが最も良い作品が評価されるのも納得できますしね。
だから本作を名作という意見にも、ノベルウェアの最高傑作と評する意見にも、それはそれで十分納得できる話だよなって思えます。

ただ、個人的な感想としては、普通のSF作品も散々扱われて飽き始めていたことと、この年になってやっぱり白黒はないだろって思ったこと、それと個性的なシステムのゲームとかに惹かれたことなどから、当初は名作とまでは思えませんでした。
それでずっと良作扱いだったのですが、私の場合はサウンドに関して軽視する傾向があるよなと思いまして。
ノベルゲームにおけるサウンドの重要性を理解し、いち早くMIDIに対応させた本作は、これはこれで意義があったと考え直しました。
そのため、総合でも名作としておきます。

ランク:A-(名作)

Last Updated on 2025-04-30 by katan

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