『優子物語』は1990年にPC98用として、ハート電子産業から発売されました。
主人公は小説家であり、弟子入りしてきた優子を官能小説家として育てるのが目的となります。
<概要>
いわゆるハート電子の育成SLG3部作の2作目になります。
世間では育成SLGの元祖は1991年の『プリンセスメーカー』となっていますし、後述するとおり総合的な視点からは、私もそれで合っているかなと思います。
しかし、コマンドによる数値変動を伴う、いわゆる育成SLG的な構造としては、実はハート電子の『ぶりんぐ・あっぷ』の方が先だったりします。
まぁ『ぶりんぐ・あっぷ』を元祖と言って良いかは意見の割れるところであり、私も元祖だとは思っていません。
その理由として、育成が目的になっていないのではというものがあります。
ハート電子の3部作も、作品ごとにゲームシステムが異なっていまして、2作目の本作は弟子を小説家に育てることが目的となります。
したがって、本作では完全に育成を意図したゲームになっているわけですね。
もっとも、本作は章ごとに異なるゲームシステムになっており、コマンド選択式ADV+育成SLGという構造になっていました。
そのため育成SLGとは、これまた言えないことになってしまいますが、とりあえず広い意味での育成ゲームではあったのでしょう。
小説家を育てる育成SLG。
今でも他に見かけない設定ですよね。
漫画家を育てるという『こみっくろーど』が98年にありますが、少なくとも当時他になかったのは間違いないでしょう。
<感想>
ゲームは4つのミッションから成り立っていて、1と3がコマンド選択式のADVで、2と4が育成SLGとなっています。
1と2はどちらからでも始められるのですが、3と4は前のミッションをクリアしないとプレイ出来ません。
つまり具体的なイメージとしては、コマンド選択式ADVパートでシナリオが展開され、その語に育成パートがくるという感じですね。
普通の育成SLGとの差を図るシステムとしては、1日の最後に、優子がその日に書いた文章を閲覧するというものがあります。
育成次第で賞の受賞の有無とか展開も変わりますし、「小説家」という題材を活かし他との差別化を図る要素もある。
こう書くと、何だかとっても面白そうな気がしてきませんか?
実際、発想は凄く良かったと思いますし、だから私はハート電子のゲームが好きなのだし、きちんと作りこめばきっと大傑作になっていたと思うんですよね。
場合によっては、『プリンセスメーカー』が今有している栄光は、全てこのゲームが持っていたかもしれません。
ただ、現実にはそうじゃないんですよね。
単に知名度が低いだけってのもあるでしょうが、それを抜きにしてもゲームの作りこみが甘かったと思います。
やってて、凄く面白いとまでは思えないんですよね。
ハート電子、つまりは後のインターハートですが、インターハートのゲームなら知っている人も格段に増えると思います。
どのゲームも設定上はいろいろやっていて、プレイ前は何か面白そうに見えますよね。
でも、いざやってみると、つまらなくはないけれど期待したほどには面白くないわけで。
(いや、本当につまらない場合も多いか・・・)
このメーカー、いっつもこんな感じなんですよね。
珍しい物好きの私は、期待しては裏切られを何度繰り返したことやら・・・
まぁそれでも、欠点が少ないマンネリ・テンプレゲーよりは、よっぽど好きですけどね。
さて、作り込みが甘いというだけでは、それはお前の主観だろ、育成SLGの構造を有しているのであれば、育成SLGとして認めるべきではとの見解もあるでしょう。
それはごもっともですし、本作を元祖育成SLGという人がいても、不思議ではないと思います。
ただ、結局は何がメインかということなのでしょう。
ADVにおいても、作品の中で、その場面に適したミニゲームが入っているものもありますし、ゲームシステムがかわるものもあります。
そうした複合的な作品も決して少なくありません。
有名な例で説明するならば、『サクラ大戦』はADVとして紹介されていますが、厳密には、ADVパートで物語を進めつつ、その後にタクティカルコンバットの戦闘パートに移ります。
そういう意味では、厳密にはADV+SLGといえる作品です。
だからADV+SLGと紹介する人はたまに見かけますが、戦闘パートは物語を盛り上げ、ゲームにメリハリを作るためのアクセントであり、メイン要素ではありません。
あくまでもメインはADVパートであることから、SLGとして紹介されることはなく、ADVまたはADV+SLGとして紹介されるのでしょう。
本作の場合も、厳密にはADV+SLGとなりますし、純粋な育成SLGとは言い切れないことから、元祖とは言われなかったのでしょう。
それでも、この育成SLGという要素が斬新であれば、部分的であっても高く評価されるのでしょうが、キャラを育成するというのは、RPGでも普通に見かけるものであり、決して斬新なものではありません。
また、89年には育成ADVも存在しており、キャラを育成するゲームというのは、RPGにおいてもADVにおいても存在することになります。
したがって、育成というアイデアだけで評価されうるものではなく、RPGやADVとは異なる形での、一定以上の独自性と完成度を備えて初めて、異なる新ジャンルとして認知されうるのでしょう。
その条件をすべて満たした最初の作品が『プリンセスメーカー』ということであり、本作はそこまでの内容は伴っていなかったということですね。
それから、本作に関しては、絵も酷すぎて、アダルトゲームであることがちっとも嬉しくありません。
多少ゲーム部分に難があっても、可愛いキャラでエロがあれば許せてしまうのが、アダルトゲームの良いところでもあるだけに、利点を活かせなかったのは残念でした。
<感想・評価>
発想が良く、全体としても稀有な存在と言えただけに、つくづく勿体無かったですね。
珍しいから、プレイしていて新鮮な感覚で普通には楽しめます。
そのため、総合では良作と考えて良いと思いますが、名作というには、ちょっと粗が多かったって感じでしょうね。
せめてすべてのパートをSLGにして、ADV+SLGではなく、純粋なSLGにしていたら、世間の注目と評価はもっと変わっていたのではないでしょうか。
そう考えると、本当に惜しいゲームでした。
ランク:B(良作)
Last Updated on 2025-02-08 by katan
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