うつせみ ~空蝉~

1999

『うつせみ ~空蝉~』は1999年にWIN用として、BLACK PACKAGEから発売されました。

この頃、なぜか大正時代を扱った作品が増えたように思います。
本作もそのうちの1本であり、雰囲気の良い作品でしたね。

<概要>

ゲームジャンルはノベル系ADVになります。

舞台となるのは大正時代。
主人公は作家を目指して修行中の身。
ある日、師匠に言われて、巷で人気の少女だけの劇団である、『花鳥風月演舞団』の取材に行くことになります。

主人公はいつも、作家の修行として、仕事に必要な資料集めをさせられていますが、今回の『花鳥風月演舞団』での資料集めは、主人公の作家としての試験も兼ねていると言われます。
ちなみに、その資料集めの題目が『うつせみ』になっています。

緊張しつつも、やる気満々で花鳥風月に向かった主人公。
そこへなぜか師匠の一人娘である歌穂までついて来てしまい、演舞団に体験入団してしまいます。
主人公は歌穂の面倒を見つつも、与えられた課題を達成するための資料集めを開始することに。
ところが、この取材という名の試験が、『花鳥風月演舞団』の関係者達の織りなす愛憎劇の幕開けだったのです。

<感想>

大正ロマンに女の子だけの劇団。
雰囲気は抜群でしたね。
舞台が劇団ということもあり、夢を追い続ける人の苦悩みたいなのがテーマにあって、女の子たちの人間関係とかを楽しむ作品でした。
各章ごとに1人のヒロインに焦点を絞って話が展開されますので、メリハリが付いていてテンポ良く楽しむことが出来ましたね。

各章単位で捉えた場合には人間関係を楽しむ作品でありましたが、設定的に全体としては取材活動も必要になってきます。
各章におけるヒロインの悩みを解消しつつ、師匠から命じられた情報収集もしなければならないのです。
師匠に提出できる情報量は限られていますので、ちゃんと考えてプレイしなければなりません。
取材を通じて次第に謎が暴かれるという側面もありますから、全体としてはミステリーとなるのでしょう。

ストーリー全体としてのミステリーの構図、各章単位の人間関係を楽しむ構図。
マクロな観点とミクロな観点が上手く使い分けられ、終始飽きさせないでプレイできましたので、ここら辺は結構上手かったかと思います。

また、どのヒロインも可愛かったし、各章ごとに1人に焦点をあてることから、Hシーンもバランスよく配置されていました。

うん、これは楽しかったです。
楽しいかと聞かれたら、素直に楽しいと言えます。
ただ、あんまり名作との声が聞かれないのでは、ラスト部分が問題なのだと思います。

全体的なミステリーとしての側面では、決して悪くはないけれど、それだけで名作と呼べるほどには傑出していません。
そしてそれ以上に問題だったのは、師匠の愛娘である九條歌穂の存在です。
彼女は主人公を慕って追いかけてきて、主人公と行動を共にします。
この子が可愛くってね、魅力的なヒロインの多い本作の中でも、メインヒロインとしての存在感は抜群でした。
ラストは当然、この子のHシーンがあると誰しも思うはずですが、残念なことにそれがなかったのですよ。
PC98時代ならまだしも、この時代になって、まさか攻略不可能なメインヒロインなんてものが出てくるとは・・・
これはもう、あっけに取られましたね。
ここまで面白かったわけですが、感情的にここで大減点になっちゃいますよ。
たぶん同じように思った人も多かったでしょうし、非常に勿体無かったですね。
まぁ、感情面は抜きに考えても、ラストの展開自体が不十分でしたからね。
そこにあるべきもの描かれるべきものがないというのは、作品としてどうなのかとなってしまうのは仕方ないでしょう。
起承転結の起承転まではとても良かったのに、結の部分がストンと無かったような作品でした。

<グラフィック>

キャラについては、グラフィック全般はキャラデザも塗りも演出効果も、どの部分も良かったかと思います。
サウンド面も良好でしたしね。

<ゲームデザイン>

システムは選択肢を選びつつ場所移動の要素もある、変則的なノベル系ADVと言えるでしょう。
もっとも、当時はわりとあったパターンでもありましたけどね。

ちょっと変わっているのが、集めた情報のどれを提出するかという要素です。
これは、各地で得た情報を章の最後で師匠に報告することになるのですが、その報告できる内容には限りがあって、しかもその内容次第で次章に影響を及ぼすことになるというものです。

こう書くと結構興味をそそられますよね。
推理ゲー好きな私が本作を購入した1番の動機も、実はこの部分に期待したからだったりします。

そしてこの部分をしっかり作りこんであれば、おそらくゲームとしても楽しめるADVとして高い評価を得たのでしょう。
しかし、実際には普通にやっていればすんなり進めてしまいますので、ゲームとしてあまり意味をなしていませんでした。

それとも関係あるのですが、本作はバッドエンドがあるので一応マルチエンドのADVです。
もっとも、バッドエンド自体は見る価値はなかったし、普通にプレイしていれば見ることもないでしょう。
プレイした感覚としては、実質的には1本道と考えて間違いないかと思いますね。
そういう構成で、最後の締めは歌穂にって流れに仕向けておいて、それで肝心の部分が欠落しているわけですからね。
いくらその過程が楽しくとも、えっ?ってなっちゃうのも当然でしょう。

<評価>

総じて、どの要素もレベルは高かったし面白かったです。
ただ、前述のとおり、最後にふざけんなぁ?って展開があったのと、もう1つ名作と言い切れるほどの明確な特徴がないので、結論としては良作と判断しておきます。

個人的には好きな作品で、大正ものというとすぐにこれが浮かんでくるのですが、それだけに余計にも勿体無い作品でした。

ランク:B(良作)


空蝉
うつせみ

Last Updated on 2024-05-08 by katan

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