トラベル☆ジャンクション

1996

『トラベル☆ジャンクション』は1996年にPC98用として、カクテルソフトから発売されました。

晴れのちシリーズ大人版+エルフのYU-NO。
地味ながらも優れた作品でしたね。

<概要>

ゲームジャンルはポイント&クリック式ADVになります。

主人公は大手ツアー会社の就職に失敗。
結局、自身も含めて合計4名という破産寸前のツアー会社に就職します。
そして社運を賭けて南島ツアーを企画するのですが、はたしてツアーは無事に成功するのか・・・ってのが、大まかなあらすじになります。

<感想>

南島ツアーのメンバーは、全員女性です。
晴れのち~シリーズは学園が舞台で主人公は高校生でしたが、本作の主人公は社会人であり、周りの人物も含め全般的な登場人物の年齢は高めになっています。

恋愛ゲー元年とも言われた95年以降、アダルトゲームにおいても急激に恋愛系の作品が増えました。
詳細はコラムで書いてありますので、ここでは省略しますが、アダルトゲーム内において恋愛ゲームの数が多数派になったのは、本作の発売された96年からになります。
恋愛ゲームと言っても、理論上は様々な物が想定されます。
しかし、人気路線に偏るのは今も昔も変わらないわけで、実質的には学園を舞台に高校生を主人公とした恋愛ものが非常に増えたわけですね。

95年辺りまでなら、学園恋愛ものでも全く問題はありません。
しかし96年以降となると、それでは数ある作品の一つにすぎなくなり、個性を見出せないのです。
これを逆の角度から見ると、高校生の学園物が増えたということは、他ジャンルの物語や大人を主人公とした作品が、「減った」ということにもなります。
社会人の主人公や大人の物語が相対的に個性と感じられるようになったのも、考え方によっては96年辺りからなのかもしれません。
また、96年より前は恋愛ゲー自体が少なかったことから、96年より前の大人を主人公とした作品で、なおかつ恋愛ものというのは、皆無に近いと言えるでしょう。
そのため、大人の主人公の恋愛もののアダルトゲームである本作は、個人的にはそれだけで新鮮に感じられたものでした。

まぁ私は個性を感じられたから上記のように好意的に捉えているものの、本作は良いゲームなのに世間的にはマイナーなんですよね。
これには幾つか理由があるかと思いますが、端的に言えば売れ線からずれるってことなのでしょう。
社会人が主人公のゲームって、全体的に人気がないですから。
しかし高校生が主人公なら名作で、社会人が主人公ならそうでないというのも、どう考えても変な話ではあります。
むしろ希少であることを独自性と捉えるならば、社会人が主人公であることは長所とすらなりうるでしょう。
今なら私も長所と考えるので上記のような結論になっていますが、発売当時はこの手のゲームはあまり好きではなかったので、それでプレイが遅くなってしまったんですね。
まぁ、学園物バンザイ女子高生バンザイな時期にやっても、おそらく心からは楽しめなかったでしょう。
それを考えれば逆に良かったのかもしれませんけれど。

また、設定こそ少し異なっているものの、基本的にはカクテルソフトお得意のドタバタ系ラブコメディーですからね。
さすがに当時最も得意としていた分野というだけあって、本作でも非常にテンポ良く楽しく進行していきます。

<グラフィック>

本作が同時期の他のF&C系作品よりマイナーな要因としては、グラフィックの存在も大きいのでしょう。

この年のF&C系と言えば、『PIAキャロ』や『同窓会』がありました。
どちらもグラフィックが非常に綺麗で、それに加えてキャラが可愛かったです。
もうそれだけで売れちゃうってくらいにね。

一方の本作も、塗り・演出などグラフィック全般はかなりレベルが高いです。
しかし、キャラの年齢と原画の癖もあって、うける可愛い路線≒萌え絵とはちょっとずれるんですよね。
どうにも地味に見えるんです。



96年はアニメで例えるならば、エヴァの綾波からナデシコのルリルリに人気が移ったように、時期的に萌えの対象の低年齢化も進行し始めていた頃でした。
そうなると、萌え系の絵でないだけでも売り上げが減るのは目に見えてますよね。

<ゲームデザイン>

本作は、年齢が高めという特徴のほかにも、他のカクテル系のゲームと違う点があります。
本作のシステムは基本的にはポイント&クリック(P&C)式のADVであり、これはカクテルソフトでは比較的珍しい方にあたるかと思います。

クリックする際には頻繁にカーソルが変化し、次にクリックすべき場所もわかります。
そのためどこをクリックすべきか分からないという問題はなく、ストレスなくゲームが進行していきます。

もっとも、遊びやすいよう配慮されている点は良いのですが、それはあくまでもマイナス要素が出ないための配慮なんですね。
エルフのP&C式ADVのような面白さを追求する、つまりプラス要素を伸ばす方面での配慮は、本作には足りないように思われます。
そこら辺がエルフの名作との違いにもなるのでしょう。
P&C式は個人的に好きなジャンルではあるものの、このシステムだってピンからキリまであるわけで、本作は悪くはないけど、良いとまでは言えないということですね。

ところで、本作は単なるP&C式ではなく、プラスアルファがありました。
P&C式ADVの多くは1本道だったりするのですが、本作はマルチエンドになっています。
マルチエンドのP&C式は一般ゲーを含めても非常に少なく、それだけでも貴重な存在だと言えるでしょうね。

ラブコメと書いたようにシナリオは恋愛ルートがメインになるのですが、マルチエンドということで鬼畜モードも用意されています。
表と裏というか、こういう両極端な要素は私の好きな要素でもありますが、マルチエンドの特性が生かされていて良かったと思います。

それと、もう一つ実は重要なポイントがありまして、本作ではプレイヤーが辿って来たルートが内部で記憶されていて、分岐の直前まで戻ることが出来るのです。
分岐型のゲームは何度もやり直さなければならないですからね、このシステムはありがたかったです。

ただ、このシステムに関しては、惜しかったなという結論にならざるを得ません。
本作における、プレイヤーの辿った行動の順序を記憶する、その記憶を元に過去に戻るという発想は、同年の代表作『YU-NO』の ADMSと同じなんですよね。
両者の違いは、もちろん『YU-NO』ではシステムとストーリーが融合されていて、その本質的部分での違いが一番大きいのですが、それだけでもありません。
現に、ストーリーとシステムの融合という深い部分以前に、表面的に似ているだけでも名前が挙げられている作品もありますから。
本作は厳密には『YU-NO』より先の発売ですし、少なくとも『YU-NO』の比較対象として名前が挙げられるべきでしょうに。
一応そういう意見は昔は何度か見かけたものの、今では皆無に見えます。
その理由は大きく2点あり、一つはシステム名の有無で、もう一つは可視化されているか否かになります。

本作のシステムに特別な名称はないですし、ADMSみたいにマップとして視覚的に派手に表示はされませんので、当時のプレイヤーであっても漫然とプレイしているだけだと、その機能を正しく認識されなかった可能性もあります。
また、本作をプレイしていない後の世代には、存在を知るための端緒に乏しいとも言えます。
だから、語られる機会が減っていったのでしょうね。

同じ機能を有していても、『YU-NO』はゲームとして遊べることを念頭にし、本作はゲームの進行を円滑にするためのサポートを念頭に置いており、その目的の違いが細かい部分の差異と後の大きな差にもなったのかなと。
もし本作でもゲームとして遊べることを少しでも意図して作っていたら、文句なしに傑作扱いだったのですけどね。

上記のように、本作の段階でも攻略をサポートし、一応は長所とはなるのです。
ただ、大きな長所となりえただけに、その可能性を逸したということなのです。

<評価>

以上のように、基本的にはいつものカクテル系なのですが、システム・ゲーム部分は一番凝っていると言っても過言ではないでしょう。
従来から定評のあった物語としての楽しさに、ゲームとしての楽しさも加わったわけですからね。
原画などパッと見が地味で人気路線ともずれているのですが、カクテル系の中で最も完成されたゲームは、もしかしたらこのゲームだったのかもしれません。

惜しかったポイントも幾つかありますが、エルフやアリスと並ぶ3強の一角であったPC98時代のカクテルソフトの1つの完成系として、それでも十分に名作なんじゃないかと思いますね。

ランク:A-(名作)


PC-9801 3.5インチソフト トラベルジャンクション

Last Updated on 2024-11-16 by katan

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