『1/1彼氏彼女』は2022年にWIN用として、SMEEから発売されました。
総論としては、いつも通りの楽しさではあるのだけれど、SMEEらしさとか、いろいろ考えれば考えるほど難しい作品ですね。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
あらすじ・・・『男のモテ期は3度ある』
クラスメイトにそう言われ、何の根拠もなくそれを信じてみようと思った、ある冬の日。
俺は一人で、ずっと自身の恋愛について考えていた。
彼女は欲しい。しかし恋愛は、俺にはハードルが高すぎて難しい。
そう考える根拠は3つある。
一つは『出会い』
純粋に運によるものが大きく、こればかりは努力するにしても難しい。
二つ目は『タイミング』
意中の相手が現れても、好きになったタイミング、好意を告げるタイミング。
恋愛には常にこの『タイミング』がついてまわると思う。
そして三つ目は『ただ彼女が欲しいわけではない』
という俺自身の気持ちだった。
彼女は欲しいが、ちゃんと恋愛という名のステップは踏んでいきたい。
そんなロマンが俺の乾いた心にもしっかりとあった。
果たしてこんな俺にも、本当にモテ期が3度も来るのだろうか?
世界は常に、毎日様々な選択と決定に満ちている。
俺はそんな広い世界の中で、自分の運命を努力でもってたぐり寄せていきたい。
そんなことを漠然と思う、学園に通って2年目の冬だった。
<感想>
SMEEらしさをどこに求めるのかは、人によって異なるのかもしれませんが、もしそれがヒロインの描き方であるとするならば、おそらく本作にもSMEEらしさを感じることができるでしょうし、楽しむことができるように思います。
個々のテキストとかをみても、いつも通り楽しめましたからね。
また、本作のヒロインは学生から社会人までとなっており、比較的高めの年齢層にになっていますので、その点がプラス査定となる方もいるでしょう。
個人的にも、ヒロインの年齢の幅を広げた点は好印象でした。
個人的には、目パチ口パクがある点も、地味なところにも手を抜かない姿勢を感じられ好印象でした。
賛否が分かれるとすれば、そのゲームデザインになるでしょうか。
本作は、いわゆる脱落方式になっています。
具体的には、まず学生編が始まり、そこに登場するヒロインを選択すると、そのヒロインとのルートに入っていきます。
他方で、そのヒロインを選ばない場合には、時代が数年飛んで、20代前半の社畜編が始まります。
ここではヒロインが2人いて、どちらかを選べばそのヒロインのルートへ進みます。
どちらも選ばなければ、また時代が数年飛んで、今度は20代後半の社会人編が始まります。
いわゆる脱落方式は、こういう呼ばれ方こそ最近出てきたものですが、このような構造の作品自体は昔から存在していました。
これまで、この方式を用いる作品は、核となるしっかりしたストーリーがあり、そのストーリーを見せるための作品がほとんどでした。
そして、その途中でifとして、ヒロインらとの派生EDが用意されているものであり、つまりはストーリー重視の作品に使われてきた方式でした。
本作は、特にメインとなるストーリーがあるわけではないですし、キャラゲーに分類されるタイプの作品でしょうから、このような作品で脱落方式を採用することは、かなり珍しいと思います。
これまで、ほとんど脱落方式が採用されなかった理由は単純で、キャラゲーで脱落方式を採る理由がないからです。
特に本作の場合、そのヒロインを選ばないと、一気に時代が数年も進みます。
そのため、プレイヤーが置いてきぼりにされてしまいます。
やろうとした狙いは分からなくもないのですが、もう少し各時代のつなぎを丁寧にした方が良かったのではないでしょうか。
ちょっと唐突すぎたように思います。
結果として、3つの時代の恋愛ストーリーが同梱された、オムニバス作品のようになってしまいました。
こうしたゲームデザインには凄く疑問を抱きましたし、オムニバスならオムニバスで、そう割り切ることができていたら、1シナリオとして、恋愛以外のジャンルを混ぜることもできたでしょう。
結局のところ、本作は中途半端なオムニバスもどきということでしかなく、クリア直後の印象はかなり悪かったです。
ただ、記事を書くにあたり、ふと思ったことがありまして。
本作は、確かに出来の悪いオムニバスもどきのようでもありますし、作品の完成度としては低いと言わざるをえないのですが、時代をばらけさせることにより、結果として、一般的なキャラゲーにありがちな無駄にだるい共通ルートをなくすことは出来ているのです。
キャラゲーを含めた恋愛系のノベルゲーは好きだけれど、共通ルートがだるいよ、最初からヒロインとの個別ルートだけでも良いよと考える人もいるでしょうし、それでキャラゲー等が好きになれない人もいるでしょう。
そういう人であれば、だれる共通ルートのない本作は、かえって楽しむことができるのではないでしょうか。
そう考え直すことで、本作に対する印象は少し良くなりました。
<評価>
個々のテキストを読むと十分に楽しめる作品であり、ブランドのファンなら満足できる内容といえるでしょう。
他方で、ゲームデザインとしては疑問も残る作品であり、さらに上を目指すのであれば、複数の時代を扱った過去の名作を参考に、1本筋の通った何かを用意すべきでした。
SMEEは他所のブランドよりゲームデザインで工夫を加える傾向があり、ここが他所よりプラスになりこそすれマイナスにはならないというのが、私の抱いているSMEEらしさなわけでして。
本作はその部分でマイナスになりこそすれプラスにならないことから、私的にはSMEEらしさを感じない作品となってしまったのです。
したがって、総合では佳作とします。
まぁ、無駄に長い共通ルート排除へ向けたエロゲ業界の動き自体は、私は大いに賛成するところでして。
本作には、まだまだ改善の余地はあるでしょうが、今後のエロゲは、本作を改良したような方向性に向かっていくのかなと思いました。
歴史なんてものは、ある意味結果論ともいえるわけで、もし数年後のエロゲに共通ルートがなくなっていて、その時にSMEEが大手ブランドになっていたら、分岐点は本作だったとか言われている可能性もゼロではないかもですね。
ランク:C(佳作)
駿河屋
DL版
Last Updated on 2024-04-20 by katan
コメント
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近年のHOOKとSMEE、90年代半ば後半辺りのカクテルソフトに業界での立ち位置が似てるような気がしますが勘違いでしょうか(在籍していたクリエイターが離れていくという意味ではありません)
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主人公とヒロイン間のみという理想というか空想のラブロマンスの中で
主人公が恋とか恋愛とはと問う姿勢を見せられてもというのがまず感じられました。
SMEEを含めた恋愛ゲームジャンルの今現在の大多数の購入層が期待する
一応男女の交流を描いて心地良い気分になるという目的は果たせているのでしょうが。
長らく続く
ヒロインに少しでも男の影(過去含む)が許されずアイドル化している中で
恋愛を描くのは大変なのでしょうがどうにも恋愛ごっこに感じられしまうので。
一時期流行った
どれかはプレイヤーの嗜好に合うだろうと大勢のヒロインを用意して
コスト節約兼ねて共通部分多め個別少な目なゲームは流石に減ってきましたし
その筆頭に合った劇画のゲームも最新作ではヒロイン同士を巧く絡ませて
共通部分でも内容に変化を付けて他ヒロイン個別プレイへの動機付けをしたりして
共通ルートを存続させているところはいろいろ工夫してるなと思います。
本作を含む恋愛ゲームというジャンルの定義付けが
可愛い絵柄・声・設定のヒロインとの触れ合いのキャラゲーになっていて
ラブストーリーというよりかはラブロマンスになっている様に思えてしまう
私からのコメントなので違和感を感じられるようならご容赦ください。
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> 通りすがりさん
作風とかは全然違うので、意識したことはなかったのですが、言われてみると確かに、業界での立ち位置という意味では、あの頃のアイデスとHOOK系列は、似ているように見えますね。
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確かに立ち位置は似てますけど、まだ功罪の罪の部分が出てきてないのが気になります
90年代後半のカクテルソフトはエロゲ業界における功罪の罪の部分があまりに大きすぎる気がします
エロゲ業界全体がノベル路線に走ったのも、学園恋愛萌えゲーばっかになったのも、非攻略キャラ商法作った原因も、一枚絵重視で他の演出が疎かになっていったのも、葉を躍進させて葉信者がゼロ年代以降の歴史を捏造する原因になったのも、エロ薄路線でエロゲにエロはいらないとかいう連中を生み出したのも、ボリュームゲーのフルボイス化路線を招いたのも、クリエイターが去って行く環境を作ったのも、引いてはエロゲ業界が衰退する原因になったのも、諸悪の根源はここなんじゃないかと
一応90年代前半くらいまでは寧ろ業界を大きくさせたという功の部分が大きいのですが
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> 暗黒のチノさん
そうですね、あくまでも立ち位置が似ているように見えるというだけで、功も罪もどちらもアイデス(F&C)には、遠く及ばないでしょうね。
アダルトゲームの歴史は、エルフでもアリスでもなく、ましてや葉鍵なんかでもなく、アイデス(F&C、キララ)の歴史をまず押さえることが第一であり、あの会社は、それだけ功績も罪も大きすぎます。
挙げていただいた点については、私も同意できる点ばかりですし。
まぁ、アイデス時代は功績が大きく、97年に社名がF&Cになってからは、罪ばかりのようにも思いますけれど笑
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>katanさん
そういえばゼロ年代にみつみ系の絵の作品が増えだしたのも、原画家4人がカクテルソフトを抜けた後からですよね
移籍先でこみパがヒットしたのが悔しかったのかは分かりませんが、その後のF&Cの絵はみつみ系を真似たような絵の作品を乱発してましたし
みつみクローンがゼロ年代前半に増えたのはこの時のF&Cが行ったことが、他のブランドにまで影響を及ぼしたと、自分は考えています
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> 暗黒のチノさん
F&C側のコメントとか見ていないので、違っているかもしれませんが、F&C的には、みつみさんらのかわりは幾らでもいると示そうとして、結果的にみつみクローンの量産につながったんですかね。
F&Cが、全然異なる方向性の萌えを模索していたら、また違った未来になっていたかもと思うと、本当にF&Cは罪深いなと思ってしまいます。
ちなみに、世間ではみつみクローンとか言われたように、みつみ美里さんが一番注目されていましたが、個人的には、実は甘露樹さんや、なかむらたけしさんの絵の方が好きだったんですよね。
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やはりここは時代の潮流を読み取りつつ、どうキャラゲーとして昇華させるかを色々考えていそうです
共通ルート廃止の方向性が現在の主流のキャラゲー全体に浸透すれば、美少女系スマホゲームのような縦画面に順応させる所が多くなりそうですもんね
そのついでと言うのもなんですが、この共通ルート廃止によってストーリーがキャラに従属しない一本の筋が通ったストーリー系も一緒に増えて欲しいものです
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> からあげクン(レッド)さん
少なくとも、テンプレなキャラゲーの構造で良しとは思っていないのでしょうね。
その試みの全てが上手くいっているとは言えないようにも思いますが、いろいろ挑戦し続けているうちは、なんだかんだでファンもついていくんじゃないかなと。
ストーリー重視の作品については、SMEEにはそこまでは期待できないかもですが、業界の構造がかわっていけば、他所のブランドとかからも、もっとそうした作品も増えてくると期待したいものですね。