『TO FIVE ~夏の扉の向こうに君を見つける~』は1994年にPC98用として、パームツリーSOFTから発売されました。
妹のように慕ってくる幼馴染は好きですか?
<概要>
パームツリーSOFTの第5作目。
ここのブランドの作品については、以前に『パソコミック パープルCAT VOL1』を扱っています。
パソコミックというのは、ゲームと漫画を融合させたような試みで、ゼロ年代で言えばLittlewitchの『白詰草話』みたいな感じですね。
そのパソコミックを4作発売した後に作ったのが本作なので、まともなADVはこれが初めてになります。
あらすじはシンプルで、高校3年の主人公の最後の夏の体験を描いた、恋愛ものになります。
<感想>
ちょっと別の記事を書いていたときに、ふと考え込んだのです。
幼馴染キャラは定番の属性となっていますが、幼馴染ヒロインが出てくるのはどこからだろうって。
80年代の作品ではパッと浮かぶものがなく、90年代頭にはあることはあるのですが、寝取られゲーだったりします。
ヒロインとして登場し、恋愛の対象になる作品となると、意外と古くない属性なのかなと。
その時の記事では94年辺りが実質的な元年かなと結論付け、94年には『闘神都市2』や『ドラゴンナイト4』があったと振り返ったのです。
そこでもう少し思い出してみたら、そういやこれがあったよなと。
『TO FIVE』は、ボーイミーツガール的に主人公がお嬢様と出会うのですが、主人公は結局そのお嬢様ではなく、身近にいる幼馴染の女の子を選び結ばれます。
幼馴染との恋愛を描いたという意味では、仮に元祖でないにしても大分早い作品になるのかなと。
また、幼馴染と言ってもいろいろあるわけで、その中には主人公を無条件に慕う妹のような幼馴染というものがあります。
本作のヒロインは、主人公の家の隣に住んでいる「中学生」の女の子で、主人公に日頃からアピールしています。
しかし、主人公の方が恋愛対象としてみていません。
見た目は中学生どころか、もっと下に見えますからね。
ロリよりお姉さまだろと言うことで、これは仕方ないのかもしれません。
まぁゲーマーの中にはBBAよりJCに決まってるだろという方も多いかもしれませんが、たぶん一般的には近所の年上のお姉さまに憧れたりするものでしょう。
そんなごく普通の感性の主人公なのですが、同級生から告白されたり、隣の家の憧れのお姉さまが他の男とやっているのを見て失恋したりと、様々なことを経験します。
そうする内に、次第に幼馴染の存在が頭から離れなくなり、ようやく幼馴染を恋愛対象として認識するようになるのです。
妹属性も兼ねた幼馴染なんてのはある意味最強っぽいですが、本作はまさしくそれなのです。
『闘神都市2』や『ドラゴンナイト4』にも幼馴染は出てきますが、妹属性ではないですからね。
妹属性の幼馴染ヒロインとなると、本当にまだ珍しかったはず。
こういうのもちょっとした流行の変遷があるもので、『闘神都市2』の葉月にしても『ドラゴンナイト4』のナターシャにしても、どちらかと言うと主人公をリードするお姉さん属性の幼馴染です。
当時は私も引っ張ってくれるような幼馴染に惹かれていたので、妹属性の幼馴染にあまり魅力を感じていなかったのですが(翌年の同級生2の唯にもそれほど魅力を感じていなかったくらいですし)、今になってみて本作の特徴に気付けたように思います。
ストーリーそのものは大したことはないのですが、この設定を作ったことは新鮮で印象深いと言えるのではないでしょうか。
<ゲームデザイン・システム>
ゲームジャンルはポイント&クリック式のADVになります。
もっとも、その画面内でクリックできる箇所は非常に限られていますので、あちこちクリックしてその反応を楽しむという作品ではありません。
カーソルが変化してクリックできる場所は容易に分かりますし、その場その場でクリックできる箇所は一箇所程度ですし、つまることなくどんどん先に進んでいくんですよね。
感覚的には、一番近いのはノベルゲーなのでしょう。
こういうのは、時代によって受け取られ方が全然違います。
今だったら総当りさせられるようなコマンド選択式はもちろんのこと、フラグ管理が厳しいような難易度の高いADVは嫌われるでしょう。
逆に、単純に読むだけのノベルゲーが好まれやすいです。
でもね、昔を知らない人には理解しがたいかもしれませんが、異常に難しいのが好まれた時代もあったのですよ。
コマンド選択式も厳密にはいろいろあって一概には言えないのですが、全般的には今よりずっと好意的に思われていました。
本作が出た94年なんてのは、激ムズなアダルトゲームが多数登場し、そういうのが好まれた時代でもあったわけで。
そういう時代の場合、逆にサクサク進むような作品は、物足りない駄目なゲームと解釈されやすいんですよね。
難しく複雑になりすぎて、もう面倒になったと言う人が増えて、それでノベルゲーのようなお手軽な作品が好まれやすくなったのですが、それはまだ先の話。
94年の時点では、やっぱりサクサク読み進めるのは好まれなかったでしょうね。
それが本作の今の無名っぷりにもつながっているのでしょう。
昔の名作というのは、当然ながら当時のユーザーの視点で語られるので、今のユーザーと視点が異なるのですよ。
だから昔の名作をやっても今更楽しめないってこともありますが、逆もまたあるんですよね。
当時のユーザーには見向きもされなかったけれど、案外今のユーザーの方に好まれやすそうな作品っていうものが。
本作はストーリー等も含め総合的に見れば物足りないでしょうが、システムに関してだけ言えば当時より今の方が好まれやすいように思うのです。
<グラフィック>
画質や原画自体は普通なのですが、レイアウトが少し変わっていましたね。
背景が小さく、その中にキャラが描かれることもあるのですが、多くの場面で立ち絵が手前に大きく表示されます。
良し悪しはともかくとして、PC98時代にたまに用いられた手法であり、今は見なくなった手法ですね。
この作品ならではという面では、黒背景に白抜きのアニメーションは驚きました。
手抜きと捉える人もいるでしょうし別に凄いと言いたいのでもないですが、単純に見てビックリというやつです。
もう一つ特徴がありまして、画面右下に主人公のSDキャラが表示されます。
テキスト欄はキャラの会話部分であり、主人公の内面はこのSDキャラの噴出し部分に表示されます。
表示部分を分離し別途枠を用意しているだけあって、本作は主人公の心理描写が多めになっています。
ここも、時代というものが大きくかかわってきます。
昔はあまり、主人公の内面描写は重視されていませんでした。
特にゲームの場合、主人公≒プレイヤーのような関係にもあり、どう考えるかはプレイヤーに委ねよという風潮でもありましたから。
アニメの分野では95年にエヴァが放送され、そこから男性主人公の心理描写に注目しだすオタクが急激に増えます。
そのオタクらが萌えに釣られてエロゲにも手を出すようになり、やがてエロゲでも主人公の心理描写を過度に珍重するようになっていきます。
心理描写が~心理描写が~って、そんなに主人公の内面が大事かよと、私なんかは冷ややかに見ていましたけれどね。
でも、心理描写を重視する風潮が出てきたことは事実なのでしょう。
もっとも、それもエヴァ以降の話です。
エヴァ以前にそんなゲームがあっても、ユーザーは見向きもしないし、気付かれないのです。
そして本作はエヴァ以前の94年の発売なのです。
<評価>
基本的に小粒な作品ですし、名作とは思っていません。
でも、冷静に振り返ってみると見るべき点が意外と多かったのかなと。
そのため、総合でも良作とします。
大事なことは昔の名作と呼ばれた作品や、当時のユーザーの視点だけで全ての作品を捉えることは不可能であり、作品の特徴すら理解されないままに埋もれていった物もあるということですね。
今はネットがあるので埋もれにくい時代になっていますが、それでも流行路線からずれた内容で、しかも一般販売や同人販売だと、どれだけ凄いのが出てもマイナーになりがちでしょ。
この時代なら尚更のこと埋もれやすいということなんですよね。
ランク:B-(良作)
Last Updated on 2024-10-07 by katan



コメント