『ブックオブウォーターマークス(THE BOOK OF WATERMARKS)』は、1999年にPS用としてSCEから発売されました。
国産かつゲーム機向けのオリジナルMYST系ADVという貴重な作品であり、発売前には期待した作品だったのですが・・・
<感想>
1999年というのは、いろいろと変化があり興味深い年でした。
語りだすと長くなるし本題とはずれるので細かい点は省略しますが、とりあえず関係ある事項としては、99年の変化の中に海外のADVの主流の変化があります。
WIN時代及びPS世代の時代に入ってからは、海外のADVは専らMYST系ばっかりでした。
国内のADVも当初はゲームバンクとかが頑張って移植してくれていたので、アダルトゲームを除けばMYST系がほとんどだったと思います。
しかしながらADVの種類はMYST系だけではないし、当然流行り廃りもあります。
MYST系の要はグラフィックと謎解きですが、どちらも97年の時点でやれることはやりつくした感がありました。
もっとも、斬新さは無くなっても、完成度を高めるという方向性で98年までは頑張っていた所も多かったし、実際幾つかは名作も生まれています。
ただ、その頑張りも98年までって感じでしたね。
99年になると、また昔の主流であるP&C系が息を吹き返してきました。
その光景はミステリー小説における新本格派の台頭のようなものであり、ADV界における再度の政権交代といったところでしょうか。
かように本場である海外では99年はMYST系が廃れていった年なのですが、逆に国内では日本でもこういうのを作ってみようじゃないかって流れが、出たきたように思われます。
いや、出てきたというと御幣がありますね。
既にその試みは何年も前からあるんですから。
海外のMYST系ADVが激減することで、国内のMYST系が相対的に目立ってきた。
たぶん、そんなところなのでしょう。
本作は、そんな99年製の国産MYST系ADVの1本になります。
国産MYST系のADV自体は幾つかあるのですが、家庭用ゲーム機専用ってあたりが非常に珍しくもありましたね。
初めて知ったのは雑誌だったのですが、このグラフィックは凄いなと思ったものです。
雑誌の写真だしPSという機種ですから、画質の良さまでは分かりません。
でも、このデザインセンスは良いなって感じたのです。
何でも設定のベースとなったのはシェイクスピアの戯曲『テンペスト』だそうで。
これは買おうと思いつつ、発売までに予習を兼ねて「テンペスト」を読んだ記憶があります。
つまり、それくらい期待していたわけですね。
さて、肝心なのは内容です。
私の期待値は高かったのですが、残念ながら少々期待はずれでした。
確かにグラフィックのセンスは良かったです。
国産にしては、かなり良い方でしょう。
PSだとどうしても画質が粗くなってしまうのですが、その点も結構頑張っていたと思います。
総じて、グラフィック関連は良く出来ていたと言えるでしょう。
しかし、作りがどうにも古くさいのです。
謎解きも簡単でしたが、そこはまだ初心者向けと考えれば良しといえるのでしょうが、もっと根本部分が問題だったわけでして。
MYST系はMYST系でも96年以前のMYST系ADVをやっているようで、時代錯誤な感じでした。
古臭い作りでも快適であれば人にも勧められるのですが、移動するたびにムービーでの移動になりますからね。
これは正直だるいです。
CGムービーの珍しかった頃、94年頃までなら絶賛してたかもしれないし、95年頃までなら普通に楽しめていたでしょう。
でも、人は慣れると飽きますからね。
『同級生』とかだって移動させるのがウリの1つだったけど、同じようなのをやってると移動が面倒くさくなりますよね。
それで後続の作品では、移動を簡略化できるオプションも付くようになりました。
MYST系或いはインタラクティブムービーも同様で、初期はムービーを見せることに意義がありましたが、次第に慣れて飽きてくるわけです。
インタラクティブムービーはまだしも、MYST系なんて謎解きのために何度も同じところを行き来しますからね、毎回ムービーでの移動では次第にストレスがたまってきます。
だからMYST系でも多くが簡略化モードを付けてるのです。
その辺のシステムの進化の変遷を、本作はまるで理解してないんですよね。
<評価>
そういうわけで、MYST系に慣れた人は本作をあえてやる必要はないでしょう。
ただ、長所が無くて凡作なのではなく、長短併せ持った作品ではあります。
例えばムービー移動は経験のない人には新鮮にも映りますし、わりと楽しめるものです。
そういう人はダルさも感じないだろうから、1ランクアップして考えてよいでしょう。
さらに謎解きもかなり易しいので、初心者でも楽しめるかと思います。
私の評価は散々MYST系をやりつくして、慣れも飽きも生じてきている状態でのものですからね。
そう考えると、シェイクスピアの雰囲気が好きで、MYST系に慣れていない人ならば、思いのほか楽しめるのではないでしょうか。
ランク:D(凡作)
Last Updated on 2025-01-10 by katan
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