『真説神谷右京 ~贖罪~』は2001年にWIN用として、ALTACIA(アルテイシア)から発売されました。
神谷右京シリーズは、弁護士である藤堂信昭さんが実際に体験した事件をもとにしたもので、セミフィクションADVと呼ばれていました。
本作は真説としては4作目、シリーズ通算では6作目になります。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
あらすじは以下の通りです。
「事件の発端は、右京が居候弁護士として、露口法律事務所に籍を置いていた頃まで遡る。
露口法律事務署では、ある会社の超過債務の任意整理を任されていた。
そしてある日、北赤羽署から刑事が二人訪れ、手形詐欺の容疑者の居所を教えてくれと頼まれる。
その容疑者は、ちょうど任意整理をしている会社の経営者、沖田だった。
露口と右京は、刑事の再三の求めに対し、弁護士の守秘義務を盾に抗し続け、任意整理を終えようとしていた。
そんなとき、沖田は突然「罪を認め、出頭したい」と翻意した。
沖田の出頭に同行した右京は、帰りに沖田の一人娘、麻衣にその旨を電話で伝えた。
それを聞いた麻衣は、「今夜一晩、一緒にいて欲しい」と言った。
そして朝を迎えた二人は、街の喧騒の中、別々の方向に消えていった。
そして、その「別れ」から5年の月日が経とうとした夏の終わり、二人は偶然、意外な形で再会する。」
<感想>
本作はライターである藤堂信昭さんにして、「最も書きたくなかった」と言わしめた事件を題材にしているとのことで、シリーズのファンとしては否が応でも期待したくなるものでしたね。
実話、しかも書いた当人の体験を元にしているため、そのリアリティは半端ではありません。
次第に解き明かされていく重い事実には、作り物にはない独特の味わいがあります。
というか、このシリーズ全体にも言えますが、安易なハッピーエンドはないんですよね。
でもそれが事実なのですから、何ともやるせないような複雑な気持ちになってくるのです。
まるでお子様向けのようなアダルトゲームが氾濫する中、これこそが真の大人のためのADVということで、本来ならば絶賛したいところでもあります。
しかし、それがそうも言えない状況があるわけでして。
本作は簡易マップから移動先を選び、キャラとの会話で選択肢を選ぶことで分岐していくADVでした。
ベストエンディングへは、藤堂さんが実際に歩んだ軌跡を同じようになぞった場合に見られます。
つまり一応は推理物のADVではあるのですが、単に事件の真相を追いかけるというのではなく、右京を通して藤堂さんが如何に考え、どう行動していったのかを追体験するという性質の作品だったのです。
そして、この追体験というのが厄介だったんですね。
藤堂さん自身はもっと膨大な情報を持っていたのだろうし、それ以上に長年培ってきた専門家としての知識と経験というものが、行動に大きく作用してくるかと思います。
しかし、ゲームで得られる情報は限られていますし、何よりプレイヤーには専門家としての知識も経験もありません。
同じように行動しろと言われても、普通に考えてそれは無理ってものです。
とはいえ、ゲームとしてきちんとEDに辿りつけるよう配慮があれば、それでも問題なかったんですけどね。
実際には正解に導くアシストのようなものはなく、ノーヒントで同じ行動をしろと言われているようなものでした。
つまり、難易度が尋常じゃないほど高かったのです。
何回、いや何十回とリトライしたのですが、ちょっとでもずれるとアウトなので、これは非常に難儀しましたね。
最終的にはヒントを元にして無事ベストエンドを見られたのですが、その頃には物語の余韻も何も吹き飛んでしまっていました。
普段は読むだけでなくゲーム性も求める方なのですが、これは本当に一気にストーリーを読みたかったものです。
ストーリー自体は絶品なはずなのですから、もっとストーリーに集中できる作りにしていれば、間違いなく名作と感じられていたでしょう。
しかしここまで難しすぎると、ストーリーの良さまで消えてしまいますよ。
<評価>
そういうわけで、総合的には良作に止めておきたいと思います。
システムさえまともだったらと思うと、実に勿体無い作品でした。
最近のアダルトゲームは、ゲーム性を捨てて読ませることにだけ特化しています。
本作もそうした完全なノベル系のシステムにしていれば、もう少し知名度も評価も上がっていたでしょう。
しかし、このシリーズは安易にその道を選ぶことはせず、いつもリアリティの追求とゲーム性の追求、その狭間で常に苦悩していたように思われます。
そこでなされた試みの多くは決して上手く機能したとは言えないのですが、小説ではなくゲームで伝えようとしたその心意気は、凄く好きな姿勢でもあったんですよね。
名作の続編でも買いたくないのもある中で、このシリーズは名作でなくとも買い続けたいと思わせる、そんな魅力があったのです。
なお、シリーズの新作としては、結局これが最後の作品となっています。
他のゲームでは絶対に代替出来ない性質のものですので、出来ればまたいつの日か新作を作ってもらいたいものですね。
ランク:B(良作)
Last Updated on 2025-02-18 by katan
コメント