『真説 神谷右京3 ~Missing Link~』は、1996年にWIN用として、ALTACIAから発売されました。
真説神谷右京シリーズとしては3作目、TAKERU版を含めた神谷右京シリーズとしては、本作で5作目になります。
また、本作からWIN用となりました。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
あらすじ・・・
東京、JR中野駅の線路傍で中年男性の変死体が発見された。
自殺か、他殺か、それとも単なる事故なのか。
この事件に不信を抱いた東京地検の敏腕美人検事・甲斐伴子は、残された家族のボディガードを、学生時代の恋人(?)にして知る人ぞ知る名探偵・神谷右京に依頼する。
<感想>
真説・神谷右京シリーズの3作目になります。
前作まではPC98用であり、本作からWIN95用になりました。
WIN95用になることに伴い、いくつか注目すべき点や変更点があります。
まずはPCMによるSEが増え、MIDI対応によりサウンドが向上しました。
私個人は、あまり音源や音質とかにこだわりはないのですが、PC98後半以降、MIDI音源を増設する等して、音質にこだわるプレイヤーも少なからずいました。
そのような音にこだわるプレイヤーの反応を見ていると、本作をプレイした時、まずサウンドの向上に目が行くようです。
また、WIN95用になったことで、これまでの16色表示から256色表示にかわりました。
本作が発売されたのは1996年の9月なのですが、この時期はまだWIN用のゲームよりも、PC98用の方が主流でした。
PC98用のアダルトゲームの中で、グラフィックが最高峰として名前が出てきやすい『スタープラチナ』は、確か96年の10月の発売ですからね。
本作の方が発売が先なのです。
まだまだPC98用の作品が主流な中で、この時期の256色表示の画面は、やはり綺麗に見えました。
このシリーズは、真説以降、実写を加工した背景になっています。
(なお、6の『贖罪』からは、また変更されています。)
TAKERU版の良さを知っている者としては、実写背景に少なからず異論や抵抗もあるのですが、セミフィクションとしてのリアリティを重視する作風としては、実写背景は適しているという考え方もありでしょうし、その路線を進めるというのであれば、256色表示になり、より一層綺麗になったことは良いことだと思います。
まぁ、作品をリアルな路線に変更していくこと自体は、一つの方向性としては十分ありだと思います。
もっとも、この当時のアダルトゲーム市場は、急激に恋愛ゲームが増え、萌えキャラが支持されていくという状況でしたからね。
本作の存在というのは、アダルトゲーム全体の流れとは逆と言えますので、セールス的には人を選んでしまったかもしれません。
本作からの変更点は、グラフィックやサウンドだけではありません。
TAKERU版の頃は、40%がノンフィクションでしたが、真説になり、60%がノンフィクションとなりました。
そして本作は、タイトルでは真説の3作目なのですが、ブランド的には、真・真説と位置付けており、フィクションは2%だけで、残りがノンフィクションとなっています。
シナリオライターの藤堂信昭さんは当時現役の弁護士でもあり、実在の事件を守秘義務に反しない範囲で作品化したのが本作になります。
実体験をもとにしたリアリティのある物語がシリーズの特徴であり、その特徴はこの真・真説になり、より一層明確になったといえるでしょう。
もっとも、この辺は正直なところ、少し好みは分かれると思います。
このシリーズの魅力を突き詰めたという意味では、真・真説の方向性は正解なのでしょう。
ノンフィクションが好きな人なんかだと、シリーズ過去作よりも本作以降の真・真説の方が楽しめると思います。
他方、当然の話ですが、ノンフィクションだからといって、フィクションより面白いとは限らないのです。
むしろ推理小説は好きで読むけれど、ノンフィクションは読まないという人の方が多いでしょう。
リアリティを追求しすぎると、どうしても地味になりがちですし、また、救いのない後味の悪い展開にもなりやすいですし、何よりゲームとしての面白さの追求ができなくなってしまいます。
なお、本作の題材となった事件では、離婚調停が行われたうえ、途中で旦那が奥さんに貸金返還請求訴訟を提起しており、加えて、依頼者である奥さんの性格も破綻しているようですし、それでいてこの夫婦は同じ相手で結婚離婚を5回繰り返す等、ゲームより、もっと救いがない展開になっているようです。
このシリーズはもっと評価されるべきだとは思いますが、私個人は、ノベルゲームであってもゲームであり、単なる読み物とは異なると考えています。
そうなると、ゲームとして遊び心のあったTAKERU版路線の方が、個人的には好きなんですよね。
さて、好みの問題は置いておくとして、少し中身に入ります。
本作は変死体の発見から始まるものの、それが自殺であることは早い段階で想像できます。
本作は自殺ですから、犯人なんていません。
謎解きが目的ではないのです。
そもそも、事件の犯人捜しが目的ではないですし、実在の事件を題材にしているので、奇抜なトリックなんかありえません。
だからミステリー作品に派手な謎解きを求める人だと、本作はあまり楽しめないのでしょう。
本作は謎解きを楽しむ作品ではなく、右京もそこに関心は抱いていません。
右京が関心を抱き、作中で描かれているのは、サブタイトルにもありますが、失われた家族の絆であり、失われるに至った原因や経緯、そしてどうすれば取り戻せるかなのです。
本作は、亡くなった男性の娘でありヒロインでもある、種村美由紀の心理の変化の様子、そして右京が種村美由紀の凍てついた心を溶かすために、どのように接していくのかを描いた作品なのです。
ミステリーを好きな人は一杯いるでしょうし、私も小学生時代から海外のミステリーを読みあさる等、大のミステリー小説好きでもありました。
ミステリーが好きな方の中には、密室の謎であるとか、奇抜なトリックであるとか、犯人捜しであるとか、そうした謎解きが好きな人も多いでしょう。
しかし、私は推理小説が大好きではありますが、正直なところ、あまりトリックとか犯人捜しに関心はありません。
一つの事件が発生した、では、その事件はどうして起きたのか、その事件に関係する人々が何を考えどう動いたのか、そうした人間の心理面の方に関心があるのです。
だからこそ、私はこのシリーズが好きなのでしょうね。
ところで、本作は、作品のボリューム自体はそれほど多くありません。
しかし、私は、このシリーズを読む場合、一つのテキストを読むのにも普段より時間をかけ、じっくり読むようにしています。
というのも、最近のエロゲが過剰なまでに説明するのに対し、このシリーズは逆であり、小説でいうところの行間を読むことを求められる作品だからです。
本作はその性質上、法律等の説明や法的知識を前提としたギャグもあります。
法的知識については、脚注での説明はなされているので、縁のない人でも楽しめるように配慮されていますし、今回は特に法律云々は関係しない内容でもあるのですが、それでも全部は把握しきれない人もいるかもしれません。
私はまぁ、立場上、その辺の前提部分は全部解るので問題ないのですが、キャラクターのセリフに複数の意味合いが含まれていることが多いので、つまり行間を読む必要があるので、前提知識が完璧であったとしても、どうしても時間がかかるのです。
プレイヤーの中には、読むのが早いって人もいると思いますが、そういう人が普段と同じ感覚で読み進めてしまうと、ある程度の表面的な流れは掴めるかもしれませんが、本作の持つ本当の魅力や面白さに気付けないと思います。
私は多数のADVをプレイしていますが、テキストをここまで意識する作品は他にないかもしれないくらいなので、新規にプレイする人には、ストーリーを読み進めることだけに着目せず、一見すると何気なく見えるテキストについても、一つずつじっくり噛みしめてもらいたいなと思います。
<感想>
オンリーワンであるシリーズが、更にその特徴に磨きをかけつつ、その一方でゲームとしての幅や面白さは損なわれたということで、ハッキリ言うと、かなり偏りのある尖った作品といえるでしょう。
インストール不要のWIN95初期の作品特有の仕様であるとか、個人的に好きになれない要素もいくつかありましたしね。
この時期のWINゲーの多くが、癖のある仕様だったりするので、本作だけがどうのという話ではないのかもしれませんが、それでも、どうしても好みは分かれてしまいますね。
本作で強化ないし変更された部分が、個人的にはあまり評価につながらないこともあり、総合では良作としておきます。
なお、本作にはリメイク版があります。
本作では描き切れなかった真相を加える等の変更がありますし、今からプレイするのであれば、リメイク版の方が良いかなと思います。
ランク:B(良作)
Last Updated on 2024-11-22 by katan
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