『Missing Link -ACTUAL FACTS-』は、2002年にWIN用として、アルテシアから発売されました。
本作は1996年に発売された『真説神谷右京3 ~Missing Link~』の、リメイク版にして完全版になります。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
あらすじ・・・
東京、JR中野駅の線路上で中年男性の変死体が発見された。
自殺か、他殺か、それとも事故か。
警察による捜査が進む中、事件の背後に何かが隠れていることを感じた
東京地検の敏腕美人検事・甲斐伴子は、学生時代からの恋人(?)であり、法曹界では先輩である神谷右京に相談を持ちかける。
男が残した妻と三人の子・・・。
残された家族と会い、そこに“失われたもの”を直感した右京が動き始める。
壊れかけた家族が失ってしまった何かを探すために・・・。
しかし、捜査を進めるうち、右京は、その家族が“多重に絡み合う組織犯罪の渦”に今まさに取り込まれようとしていることを察知する。
果たして右京は、目前に迫る危機から家族を護り、その渦の流れを止めることができるのか?
<感想>
本作は、真説神谷右京シリーズの第7弾になります。
神谷右京シリーズの概要については、他の記事を参照してください。
また、本作は、シリーズ第7弾とはあるものの、3作目である『真説神谷右京3 ~Missing Link~』(以下「96年版」と言います。)のリメイク版になります。
そのため、まずはオリジナル版の記事を読んでいただきたいと思います。
私は通常、新作しかプレイせず、リメイク版はプレイしません。
リメイク作品の感想を求められることも多いのですが、上記の理由から、普段はまずプレイしないのです。
しかし、このシリーズは、もともと実在の事件を題材にしています。
しかも96年版の場合、作品の発売当時はまだ訴訟継続中であり、作品に描けない部分がありましたが、訴訟の終了に伴い、本作では新たな真相を追加することができました。
鶏が先か、卵が先か、の話ではないですが、より一層オリジナルに近いという意味では、96年版よりもこちらの方が妥当するのでしょう。
そのため、普段オリジナル版しかプレイしないものの、今回は例外的にプレイすることにしたのです。
このシリーズは、後になればなるほど、リアリティ重視になっています。
6作目である『贖罪』では、コンプリート・エンディングを採用し、右京が実際に辿った軌跡に沿った行動をとれた場合に、ようやく真相にたどり着くことができました。
制作側のその理念は理解できるものの、ぶっちゃけ他人の行動なんて完全に真似できるわけもなく、ゲームとしては非常に難しい内容となってしまいました。
もともとエロゲ業界としては異端なシリーズといえるところ、難易度の上昇により、より一層人を選ぶ作品になってしまったのです。
このシリーズって、ADVとしての面白さを追求したものではなく、ストーリーやキャラに魅力があるわけですからね。
難易度を上げて真相を見れない人を作ってしまうと、本末転倒になってしまいかねません。
そして、どうやら前作『贖罪』発売後に多くの要望があったようで、そうしたユーザーの声をうけ、本作ではシネマモードが導入されています。
これは、選択肢とか移動をなくし、一本道の物語として読めるものです。
ゲーム性を完全に廃してしまったわけですが、この作品に関しては、それで正解かもしれませんね。
いずれにしても、シネマモードにより、誰でも最後までプレイできるようになりました。
本作をプレイして、まず気が付いたことは、グラフィックの向上ですね。
前作は、良くも悪くも普通のADVなのです。
つまり、背景に立ち絵があって、イベントでは一枚絵が使われるもので、多くのADVと同じ構造です。
ADVを多くプレイしていると、その構造に違和感を持たなくなり、或いは脳内で勝手に変換してしまっているのかもしれません。
簡単な例でいうと、数名で話をしているシーンにしても、ほとんどのエロゲの場合、背景の前に立っている立ち絵を表示しています。
しかし、実際はそうではないですよね。
学校で友人たちと話をするにしても、会議で同僚らと話をするにしても、机を挟んで椅子に座っているでしょう。
本作は一枚絵が豊富に用いられており、その場面その場面がきっちりと描かれています。
キャラデザとかは、正直なところ、TAKERU版が一番で、作品ごとに少しずつ好みと離れていっているのですが、それでもきちんと場面を描いているのは好印象です。
仮に本作のシナリオが96年版と全く一緒だったとしても、このグラフィックだけで本作を購入する価値があります。
次にストーリーですね。
大雑把なあらすじは、96年版とかわりません。
しかし、96年版の発売時は、裁判の係争中だったことから、核心部分について削除したり変更をせざるをえませんでした。
本作では、当時削除し、変更せざるをえなかった部分について、加筆修正されています。
まぁ、事実を一部創作に変更したからといって、質が下がるとは一概に言えません。
創作することで良くなることなんて、いくらでもありますし、むしろその方が多いでしょう。
ただ、このシリーズの場合、ライターは創作が本業ではないですし、リアリティが魅力のシリーズなわけですから、よりオリジナルに近付ける方が説得力が増すのでしょうし、キャラも活きてくるのでしょうね。
本作のスタッフがHPで語った、「『“何も足さない、何も引かない、何も変えない”藤堂シナリオ』って・・・、いいですね。」というセリフ、それこそが、本作を象徴しているように思いますし、本作により、藤堂シナリオの真価が発揮できたといえるのでしょう。
<評価>
96年版をプレイしている方でも満足できる内容でしょう。
いや、むしろ96年版をプレイし、両者を比べることにより、何も足さない、何も引かない、何も変えない藤堂シナリオとは何なのか、作品の持つ真価や魅力に気が付けるのかもしれません。
もちろん、96年版なんて知らないって人も全く問題ありませんので、今からプレイするのであれば、本作だけで良いと思います。
というわけで、内容に関しては、とても満足できる作品でした。
ただ、システム面で他にはない便利機能がある一方で、他所が実装しているような機能がなかったりで、UI関係はちょっと弱いように思いますし、完全新作とまでは言いきれないこともあり、便宜上、良作としておきます。
96年の時点でこれが出せていれば文句なしですが、少し遅れるにしても、あと数年早ければ名作扱いにしていたかもですね。
このシリーズが好きそうなユーザーって、90年代後半の萌えゲーの増加の時点で、エロゲには早々に見切りをつけていそうですし、今のエロゲユーザーには、こういう作品は受けないのでしょう。
だから語る人もいなくなっていくのですが、このシリーズの魅力が分かる人の他の作品の批評は、信用できるように思いますね。
そういや、このシリーズのファンって、結構女性が多いと聞きました。
エロゲのヒロインは男性の理想像であって、ある意味非現実的であり、女性ユーザー受けしにくい部分は否めないのでしょう。
他方で、生の女性の心理を深く描いているこのシリーズは、そう考えると女性ユーザー受けしやすいのかもしれません。
最後に、これ、何でタイトルから神谷右京の文字を外したんでしょうね。
私もずっと本作のこと知らなかったですし。
神谷右京って入れてくれてたら、おそらくすぐ購入したでしょうに。
結局、『象牙の塔』のACTUAL FACTS版は未発売のままです。
シリーズファンとしては、非常に残念でしたね。
Last Updated on 2025-04-29 by katan
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