『セミラミスの天秤』は、2014年にWIN用として、キャラメルBOXから発売されました。
のり太さん(原画)と嵩夜あやさん(シナリオ)という、おとボクシリーズの制作陣による作品ということで注目した作品でした。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
あらすじ・・・「――幻聴が聞こえる」
頭を打った影響なのか、時折ノイズ混じりに、聞こえるはずのない声が聞こえるようになっていた。
医者には 「軽傷、いずれ治る」 と言われたものの、なんとも落ち着かない―― そんな日々に “彼女” が現れる。
神尾愛生。 転校初日にクラスの男子を総て虜にした美少女。
だが、玲児だけは盛り上がる友人たちをよそに、彼女の微かに虚ろな瞳が気に掛かっていた。
夜、コンビニから帰る途中、玲児は愛生と出逢う。
「速水くん、だっけ―― キミは魔術士になれる資格があるね」
艶やかな微笑みとまったく噛み合わないその言葉を聞いて、不思議と玲児は身体が震え出すのを感じる。
独り暮らしのアパートにそのまま押し掛けられ、なぜかそのまま住み着かれるハメに陥る玲児。
だが “悪魔” を自称する愛生には、なぜか逆らえないのだ。
とにかく弁が立つし、まるで透けて見えてでもいるかのように心が読まれてしまうのだ。
「――あの子、嘘つきだね」
そんな愛生の “力” はクラスメイトたちにも容赦なく発揮されていく。
愛生と行動を共にするだけで、友人たちの恣意がまるで薄紙の裏に書かれた文字のように暴き出されていく。
もしかして本当に、愛生は悪魔なのか――
そんな気持ちさえ湧き上がってくるが、なんら超常的なことが起きているというわけではない。
ただ彼女はささやくだけ。 それだけで、玲児の周りには今までとはまったく異なる人間関係が築き上げられていく――
それはまるで、嘘で塗り固められた 優しい牢獄 であるかのように。
玲児は、そんな愛生の“牢獄”から抜け出すことは出来るのだろうか…?
<感想>
のり太さんと嵩夜あやさんのコンビによる作品としては、前年に『木洩れ陽のノスタルジーカ』が発売されており、その作品がとても面白かったわけでして。
結局のところ、このコンビの作品の最高得点は、私は『木洩れ陽のノスタルジーカ』に付けています。
その作品の後に発売されたということですから、当然注目せざるをえないでしょう。
制作陣についてもう少し細かく書くと、このコンビの代表作としては、何と言っても「おとボク」シリーズがあります。
おとボクシリーズはキャラメルBOXからの発売であり、同じ制作陣であっても、『木洩れ陽のノスタルジーカ』は、STREGAというブランドからの発売になります。
そして本作は、またキャラメルBOXからの発売となりますので、キャラメルBOXでのこの二人の作品となると、『処女はお姉さまに恋してる ~2人のエルダー~』以来となるのです。
そうなると、どうしてもおとボク路線に近くなるのかなとか、そっち系統の作品を期待してしまう人が一定数いたのも、不思議ではないように思います。
しかしながら、本作は、おとボクシリーズとも全然毛色が異なります。
したがって、おとボクシリーズの方向性で期待すればするほど、本作は楽しめないのでしょう。
そう意味では、今回は対象とするユーザーが違うといえます。
おそらく、おとボクシリーズ制作陣による新作とか、そういうことを知らずにプレイした方が楽しめるのではないでしょうか。
本作は大きな出来事とかはあまりなくて、ずっと日常シーンが続きます。
ただ、単にヒロインらとの交流を描いているだけではありません。
本作は人間の心理について扱った作品であり、どちらの考え方をするのかという選択をプレイヤーに委ねます。
自分の選択により、カオス・ロウゲージがその都度変化していきます。
上記システムは、言い換えるならば、好感度の蓄積のようなものであり、それにより展開がかわるというのは、90年代後半のノベル的な構造といえます。
また、本作は変なシナリオロックとかもなく、見たいルートに最初から行くことができますし、さらに、同じヒロインのルートであっても、選択次第で、ハッピーとバッドの両方が用意されています。
これらの構造も、ますます90年代後半っぽいといえるでしょう。
私は、ゼロ年代以降に多い、シナリオロックで全部強制される構造や、バッドとかもなく単にどのヒロインを選ぶかだけの、あまり意味のない選択という構造には否定的な立場であり、90年代後半型のノベル構造の方が優れていると考えています。
(実際、ゼロ年代型が増えるに従い、ユーザーも減っていますし。)
そういう意味では、本作の構造は好きな構造といえます。
もっとも、ハッピーエンドとバッドエンドの両方がありさえすれば、それで良いというわけではありません。
当然ながらその内容がどうなっているのかは何より大事ですし、両方のエンドの落差が大きければ大きいほど、プレイヤーに与えるインパクトは大きくなってきます。
本作にはバッドエンドもあり、ストーリー的にはしっかり描かれています。
しかし、ハッキリ言ってぬるいです。
90年代の作品を知っていれば知っているほど、どうにももの足りなさしか感じられません。
なお、念のために補足させていただきます。
ハッピーエンドとバッドエンドと両方をしっかり描く作品は、90年代後半には結構人気でしたし、自分の選択次第で天国にも地獄にもなるというのは、それこそゲームだけでしか味わえない醍醐味といえるでしょう。
しかし、時代がかわればユーザー層もかわります。
ゼロ年代に入っていきますと、恋愛を求めるユーザーは、恋愛だけで良い陵辱NGとか、エロを求めるユーザーは、エロだけで良い恋愛要らねとか、特定要素だけを求めるユーザーが増えていきます。
いや、実際にそうしたユーザーが増えていったのかは定かではないですが、ネットの普及により、両方を混ぜると騒ぎ出す輩が出てきました。
『下級生2』のディスク割り事件とか、たった1件の出来事でもそれが大々的に扱われたりしますので、同人ゲーはともかくとして、フルプライスの商業エロゲとしては、もう両方を混ぜてしっかり描いた作品を作ることはできないのでしょう。
そういう時代の変化を考慮すれば、本作はそれでも挑戦はしているのでしょう。
ただ、頭の中では、それも分かるのですが、どうしても過去を知る者としては、もの足りなく感じてしまうのです。
それから、本作は、あらすじからも分かるように、神尾愛生というヒロインの占める割合が大きくなります。
一緒にいる時間が長いので、彼女を好きになればなるほど、本作を楽しめる確率は高くなりますし、逆もまた然りということになると思います。
<評価>
制作陣のやろうとしたことは理解できますし、それ自体には好感も持てますし、本作発売時の時代背景もわかります。
ただ、やはり昔の同系統の作品とかと比べると、どうしてももの足りなさを感じてしまいました。
基本的に地味な作品であり、私の好みとも異なるということもあり、総合では凡作としておきます。
とはいうものの、嵩夜あやさんのテキストは安心して読めますし、派手さはないけれど人間心理を扱ったシナリオ重視作品って、好きな人は好きですからね。
発売当時は低めに評価されたとしても、後にプレミア化って作品も、こういう作品に多いように思いますし。
したがって、もしこういうジャンルが好きなのであれば、一見の価値はあるように思いますね。
ランク:D(凡作)
Last Updated on 2024-10-23 by katan