最果てのイマ

2005

『最果てのイマ』は2005年にWIN用として、XUSEU(ザウス)から発売されました。

特殊な構造の作品であり、SF好き向けの作品でしたね。

<概要>

ゲームジャンルはノベル系ADVになります。

あらすじ・・・彼らはいつも7人だった。
幼い頃、とある施設で育った主人公「貴宮忍」には友達と呼べるものはいなかった。
そんな忍が、姉の「千鳥」と共に施設を出て最初にしたことは、友達を作ること。
近所に住むボーイッシュな少女「紅緒あずさ」。
同じ飼育委員となった、寡黙であり辛辣でもある「本堂沙也加」。
地域でも有名な一族に属している兄妹「塚本斎」と「葉子」。
似た者同士といった感じで惹かれ合った「樋口章二」。
そして、偶然の出会いから近付いた「伊月笛子」。
彼らと忍、合わせて7人。
共に友人に恵まれなかった面々が、知り合い、仲間となり、早数年。
物語は、黄昏に彩られた静かな街で幕を開けた。
7人の間で繰り広げられる理解と共感、反発と衝突。
そして思春期の淡い恋愛感情。永遠に続く友情。
そんなまどろみのような幸せの中に、ずっといられる――はずだった。
――『敵』がその姿を現すまでは。
7人の輪を掻き乱す『敵』。忍は、それを許さない。仲間を傷つけるものを許さない。
心を傷つけるモノを許したくない。それに気付いたとき、忍たちを取り巻く世界が変わる。
そこにあるべき新たな世界……聖域……に辿り着く。
これは、そんな。心を描く物語。心の果てにあるものを描く、物語――

<感想>

まず、ゲームデザインについて、ジャンルは一応ノベル系のADVで良いかと思いますが、通常のノベルゲーのような選択肢は出てきません。
テキスト中にリンクのある文字があり、その文字をクリックすると別画面が出てきます。
昔で言うハイパーテキスト、ハイパーリンクを用いた手法ですね。
このリンクをクリックするか否かで、各ヒロインのルートに分岐していくことになります。

このゲーム、とかく難解だと表現されています。
というのも、本作はストーリーが時系列順に進むわけではなく、かなりバラバラに進行します。
難解だと言われていることの大部分は、この時系列がバラバラという部分に由来するものであり、おそらくほとんどの人が混乱するでしょう。
つまり、難解と言われている要素は故意に作られたもので、あえて難しくしているわけですね。
文章というのは読み手に理解させるために書くものです。
普通にやれば大した内容でもないものを、それをあえて混乱させるように仕向けることは果たしてどうなのか?
その時点で少し問題がないとは言えないでしょうが、まぁそれは良いとしましょう。

ここを肯定的に捉えるならば、与えられた断片を自分で組み立てていく、そうしたパズル的楽しみ方が出来ると考えられるでしょう。
実際、私はそういう試み自体はわりと好きだったりします。

似た様なのでぱっと浮かぶのは、PSで出た『serial experiments lain』でしょうか。
『serial experiments lain』も断片を集めていく形式でしたが、個々の映像や音声だけでも十分に楽しめましたので、その断片集めという行為自体を楽しむことができました。
また、自分で収集していくので、一応はゲームっぽくもありますしね。

一方の本作は、声はなく映像も乏しいので、どうしてもテキストによるイベントの収集という地味な印象になります。
それでも、この過程が楽しければまだ問題はなかったんですけどね。
ライターのロミオさんによるテキスト自体は、本作では良かったのですが、ストーリーが無駄に冗長すぎました。
そのため、結果的にプレイしていてかなり眠かったです。
しかも本作はループっぽい構造なので、何度も見る部分は更に苦痛ですしね。
また、イベントの収集も結局は1本道に近い構造ゆえに、断片を収集するのではなく断片を与えられるという感じになりました。
つまり、パズルを組み立てる楽しみはまだしも、パズルのピースを集める楽しみはほとんどないわけです。
時系列をバラバラにして自分で組み立てさせる発想委自体は良いとしても、個人的にはこのゲーム的な側面でかなり不満に感じてしまいました。

後半は戦争編に入っていきます。
何十時間も費やした後でようやく本番って感じですね。
内容的にはSFとなるわけですが、この部分は普通に面白かったです。
しかも、アダルトゲームにしては珍しいハードSFです。
ハードSFってことで逆に人を選ぶのは間違いないですが、ハードSF好きなら十分楽しめるかと思います。
ただ、ネタの関係もあるのですが、画面が何か抽象画っぽいのばっかでして。
ハッキリ言ってグラフィックが意味をなしていません。
このゲームは音声もないですしね。
絵と音に大して意味がないのなら、もう普通に小説で良いじゃんよって思っちゃうのです。
序盤の量をぐっと減らしつつ時系列順に並べて、その上でこの戦争編主体のラノベを出していたなら、たぶん私は、この本は当たりだったって素直に褒めていたと思います。
でも、これはゲームなわけで、設定さえ良ければ全部OKとはいかないのです。
素材となる設定部分が良いだけにね、何でこんな下手な味付けになっちゃったのかと思うと、非常に勿体無いですね。

毎回思うのですが、ロミオさんのゲームはどれもゲーム作りが下手です。
ストーリーが良いなと思った作品でもゲーム作りは下手だったのですが、その悪い傾向は今回も出てしまいましたね。
もっと言うならば、今回は素材の集まりでしかないです。
まだまだ未完成の作品であり、きちんと仕上げていればかなり良い作品になれる可能性もあったのではないかという印象を抱きました。

<評価>

総合的には、佳作とします。

自分で時系列を組み立てていくSF系という同系統のゲームとして、『ODEON』という電波ゲーがありましたが、あれはグラフィックは抜群でしたので、その面での楽しみもありました。
『lain』は音や絵を楽しみつつ、更に収集の過程も楽しめました。
このゲームにはそういう要素はありません。
いざ組み立てたとしても、ストーリー自体が特別とまでは思えませんでしたし。
混乱させる要素や専門用語で目くらましをしているから、それで騙されちゃいかねないですけどね。
そういうわけで、ここまでなら駄作~凡作ってところなのでしょう。
ただ、本作は非常に珍しいハードSF作品ですので、たぶんSF好きにはオススメできるかと思います。
たぶんってのも曖昧ですが、本作の魅力は結局のところジャンルがハードSFであることだけなわけでして。
本作の場合、「アダルト」「ゲーム」で出したことに何の付加価値も見出せないどころか、逆に七面倒臭い構造で読んでて疲れてしまうわけです。
どうしてもアダルトゲームでSF作品をやりたい人にはオススメでしょうが、そうでなければ、面倒な思いをするくらいなら素直に他のSF小説読んでた方がマシって人もいるでしょう。
まぁ、個人的には一応前者に近い立場から希少さを評価しまして、最終的には佳作と判断したということですね。

それにしても、同じロミオ氏の『クロスチャンネル』なんかは、ドラマ性を重視しすぎて、その分設定がいい加減すぎてマイナスが大きかったわけですが、本作はその逆なんですよね。
設定はしっかりしているのに、ドラマ性が希薄だったり、余計な部分でマイナスになる部分が多いわけでして。
良い部分だけが組み合わされば間違いなく名作だと思うだけに、非常に勿体無く感じちゃいますね。

ランク:C-(佳作)


最果てのイマ

Last Updated on 2024-06-12 by katan

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