根雪の幻影 -白花荘の人々-

2015

『根雪の幻影 -白花荘の人々-』は2015年にWIN用として、シルキーズプラス A5和牛から発売されました。

久しぶりの館を舞台にしたサスペンスもの、そして市川小紗さんが原画ということで期待したのですが・・・

<概要>

ゲームジャンルはノベル系ADVになります。

あらすじ・・・20××年3月7日 俺こと【萩原重明】は一つ年上の彼女【上乃院華穂】と恋人になった記念旅行の為、ある山奥にあるペンション【白花荘】へ向け車で移動していた。
出会いは一期一会がモットー……地元では軽いノリのナンパ野郎で通っていた俺だったが、華穂と出会った事で初めて運命というものを感じ……口説くのに1年も時間をかけてしまった。
もちろんその期間が無駄だったとは思わない。それに時間をかけた分、今まで付き合ったどの子より好きだという気持ちが大きい上に……俺はこの先華穂よりいい女とは出会えない確信がある。
……つまり俺のナンパ趣味も、華穂を最後に店仕舞いといった所なのだ……

<感想>

本作が気になる理由は幾つか挙げられるのでしょうが、たぶん多くの人が市川小紗さんの原画を挙げると思います。
仮にストーリーで不満があったとしても、最悪CG集として楽しめれば元は取れるだろってな感じで。

個人的にも市川小紗さんの絵は非常に好きなので、グラフィックさえ良ければ大抵は満足できるように思います。
ただ、その観点からは、残念ながら今回は不満も大きかったですね。
本作は原画が一人ではなく、市川小紗さんだけではありません。
原画が複数でも、品質が同一で一定の水準以上であれば問題ないでしょう。
しかし一枚絵も立ち絵も、微妙に崩れたものが複数ありました。
良いと思えるCGは凄く良いのですが、基本CGの枚数も多めに数えても80枚と、フルプライス作品としては少なめです。
その中で崩れたCGが結構な割合を占めるものですから、市川小紗さんの美麗なCGを楽しむという目的を満たしてくれたCGは、数がグッと減ってしまいます。
CG集として楽しめれば十分と考えている人でも、これでは満足できるか疑問が残ってしまうので注意が必要と言えるでしょう。

ゲームジャンルはノベル系ADVであり、近年のノベルゲーのようにヒロインごとのルート・物語を楽しむのではなく、基本となる大きなストーリーが一つあり、主人公の行動により展開が枝分かれしていくタイプになります。
つまり、PC98時代に流行ったタイプのノベルゲーですね。
特にシルキーズには代表作たる『河原崎家の一族』がありますし、館ものという内容面及びゲームシステムの構造から、河原崎を連想する人も多数いたのではないでしょうか。
このジャンル自体は私も非常に好むところですし、以前からまた増えて欲しいと何度も書いています。
だからこうしたジャンルが出てくること自体は嬉しいのですが、当然ながら内容が伴っていなければ楽しめません。

本作は枝分かれするタイプではあるものの、END数は一桁で終わり方の幅も少ないですし、途中の行動の幅もかなり限られていますし、終盤にいたっては分岐もなくほとんど一本道ですからね。
動物園で例えるならば、いろんな種類の動物がいる動物園を作りたい、それでサル山だのサファリコーナーだのを作ったけれど、サルもライオンもいないみたいな感じで、外側だけ真似たけれど中身が全然伴っていないのです。
結果的に、この手のジャンルが好きであるからこそ、余計にも不満が大きくなってしまいました。

ストーリーに関しては、山奥のペンションを舞台にすることから、館モノとしての期待もしてしまいます。
もっとも、あまり館内を調べまわるという内容でもないですし、館モノとしての魅力はほとんどなかったように思います。

また、本作はサスペンスものとしての期待もあったのですが、こちらも期待外れでした。
ミステリーの2時間ドラマで例えるならば、開始から30分程度して、ようやく本格的に盛り上がっていくかというところで、犯人や重要人物が勝手に真相を語り出すみたいな感じなのです。
一方的に語られる真相をただ聞かされるのではなく、もう少し主人公の行動の中で判明するようにできなかったのかなと。
ライターの過去作には好きな作品もありますが、本作の出来から判断するに、ミステリー・サスペンスに関しては、致命的にセンスが欠如しているようにしか見えません。

なお、CGでホラーっぽい表現が用いられていることから、心臓の弱い方は結構驚くかもしれません。
プレイしてみるとサスペンスモノというよりも、むしろホラー色の方が強い作品ですので、未プレイの人は本作はホラーモノだと考えていた方が良いでしょうね。

それと、ヒロインの扱いにも注意が必要になります。
中央に一番大きく描かれ、主人公の彼女でもあるヒロイン。
通常なら誰が考えてもメインヒロインとなるポジションのはずですが、作中では主に寝ているだけであり、完全に脇役です。
むしろストーリー上のメインはくす葉であり、男女間のメインは桔梗といった感じですね。

私は純愛も陵辱もある作品は好きですし、そのギャップが楽しめる作品ならば、より一層好きです。
しかし本作ではヒロインらの役割は決まっていますので、プレイヤーの行動如何で純愛と陵辱が変わりうるわけではなく、当然ながらギャップを楽しめるものでもありません。
純愛のキャラには陵辱がなく、陵辱のキャラには純愛がないので、このヒロインのこのシーンが見たいという希望がある人だと、期待していたものがなかったとなりかねないので、その点は注意が必要と言えるでしょうね。

<評価>

市川小紗さんの絵が目当てだとCG集としての役割を果たせず、館モノのサスペンス風でありつつも、全然内容が伴っておらず、凌辱と純愛があるようでいてヒロインごとに偏りがあり、マルチエンドの枝分かれ型なのに展開の幅も限られており、結局のところ、誰に向けてどういう作品を作りたかったのかが、全く見えてこない作品でした。

本作をプレイした場合、おそらく多くの人がボリューム不足を挙げるかと思います。
確かにフルプライス作品としてはクリアまでの時間が短く、プレイ時間に対するコスパは良くありません。
だからボリュームを重視する人ならば、その段階で本作はスルーすべき作品となってしまいます。
ボリュームを重視する人は昔から多数いますし、その気持ちも分らないでもないのですが、個人的には特に今はボリューム自体は気にしていません。
総プレイ時間が少なくても、満足のできるストーリーの作品はありますから。
小説だって短編の名作は幾らでもありますし、ストーリーへの不満に対しボリューム不足を理由に挙げることは、大概は的外れなのだと思います。
本作も同様で、ボリュームが増えたら面白くなったかというと、そうも思えないのです。
ボリュームが増えても、上記動物園で例えるならば、サル山やクマやライオンの檻など、動物のいない檻ばかり増えていくだけにしか思えないのです。
だからボリュームが増えたとしても、昔のADV風という殻だけが大きくなるだけで、中身がスカスカのままだと思うのですよ。
まずは何か一つでも中を満たすべきであり、そうでないと根本的な解決にはならないのでしょう。

まぁ一部のCGは良かったので、多少は楽しめたのですが、もし嫌いな原画であれば駄作に感じたかもしれません。
また新生シルキーズとして独立したはずなのに、何だか過去の名作の劣化版ばかりでブランドカラーが見えてこないのが、少し気になってしまいますね。

ランク:D-(凡作)


根雪の幻影
DL版
根雪の幻影 dl

Last Updated on 2024-09-20 by katan

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