『電話のベルが・・・』は1993年にPC98用として、カクテルソフトから発売されました。
エロティック・BAKA・ノベルと銘打たれた本作。
アダルトゲームで「ノベル」と明示されたゲームは、おそらくこれが最初になるでしょう。
<概要>
さて、本作は上述のように「~ノベル」と明示された最初のアダルトゲームですが、この言葉自体にどれほどの意味があるのかは、人によって変わってくるのかもしれません。
今もほとんどのアダルトゲームはノベルですが、公式の表記上はほとんどがADVになっています。
でも、表記上はADVであっても実質的にはノベルゲームだろってことで、皆ノベルゲームであるとかノベルだとか、或いは揶揄して紙芝居って呼んでいるわけですよね。
80年代のアダルトゲームにも呼び方はADVであっても、その構造的には今のノベルゲーと同じものは幾つもありました。
また「マガジン」という名称を用いているものもあり、どちらも「読むこと」を主にして用いられた言葉である以上、そこに大きな違いを見出す必要はないのかもしれません。
おそらく80年代の作品を経験した人ほど、「ノベル」という言葉に大きな価値を感じていないのではないでしょうか。
他にも、本作より前に「ディスクノベルズ」という名称の作品もありますし、「ノベル」と「ノベルズ」に違いはあるのかと聞かれて、きちんと答えられる人が一体どれだけいるものやら・・・
本作は「ノベル」と銘打たれていますし、雑誌とかでも「電子ノベルス」として紹介されています。
アダルトゲーム市場における「言葉」としては新しかったはずなのですが、言葉は違えど実質的には既にこういう作品は他にあるだろうってことで、あまり言葉だけを重視することがなかったのかもしれませんね。
ところが、時代が進んでWIN95くらいになると、リーフが「ビジュアルノベル」と名付けてゲームを出します。
信者に言わせると、アダルトゲームにおけるノベルゲーの元祖とのこと。
この人たちにすれば、最初にノベルと名乗ったことが拠り所であり、「ノベル」という文字に大きな意味があるのでしょう。
・・・でもね、ノベルゲーの構造を有した作品は既に幾つもあるし、「ノベル」と名付けたゲームも、本作のように既に幾つもあったよって話なんですよね。
ましてや、本作を作ったのはカクテルソフトです。
当時のリーフのようなマイナーブランドではなく、カクテルソフトは当時の御三家、或いは3強の1つです。
今の最大手がどこかは意見が分かれそうですが、とりあえず自分の中で3つほど最大手と考えるものを思い浮かべてください。
その中の1つが新しい名称で何かやったら、実際の面白さや内容の是非はともかくとして、認知度が高くなるであろうことだけは疑いないはず。
だからPC98ゲーマーがビジュアルノベルの構造をみて、それを斬新に感じるとは思えないし、「ノベル」云々を語り始める場合、最低でもここから語りださなければ駄目なのです。
ノベルゲー云々という話でリーフから語りだすのは、泣きゲーの歴史で『SNOW』から語りだすようなものなのです。
泣きゲーの歴史でkey作品とかを完全に無視して語り出したら、何だそれ、おかしいだろって話になるでしょ。
それと同じことで、だから何でもかんでも葉鍵から論じだす人って、全く信用できないんですよね。
ちなみに、ビジュアルノベル以降にノベルゲーが増えたってのも間違いです。
面倒なので、ここでは省略しますけどね。
詳しくはコラムを読んでもらえば分ると思います。
<感想>
かなり前置きが長くなりましたが、タイトルにもありますように、ある日、主人公の下に一本の電話がかかってきます。
その電話の主は、主人公の昔の彼女であるサユリなのですが、そもそも、この電話を取るのか取らないのか。
仮に電話に出たのなら、会いたいと言う彼女に会うのか会わないのか。
逆に電話に出ないなら、1日をどう過すのか。
ゲームは頻繁にプレイヤーに選択を迫り、そして自分の選んだ選択肢の内容によって物語は変化していきます。
もしあの行動を取っていたら、或いはこっちを選んでいたら・・・
ifの世界を楽しむとでも言いましょうか。
端的に言えばマルチストーリーマルチエンディングのゲームなのですが、こういう次々に物語が分岐していくタイプの作品は、PC98時代は一時期かなり流行ったものでした。
最近は少なくなってしまいましたが、個人的には、こういう系統の作品の需要もあると思うのですけどね・・・
本作のように分岐の多いノベルゲーがPC98で極端に増えたのは、エルフ(シルキーズ)の『河原崎家の一族』を始めとして、93年以降の話です。
本作は言うなれば、カクテル版河原崎といったところでしょうか。
もっとも、繰り返しになりますが、『河原崎家の一族』よりもこっちの方が先なわけでして。
アイデスとしてはカクテルソフトの本作の他に、フェアリーテールの『奈緒美』もありますし、マルチストーリーマルチエンド系のADVに関しては、アイデス系列の方が先んじているのです。
アイデスは後にF&Cと会社名をかえ、失速して絵だけゲーを連発するようになります。
それでWINDOWS以降のユーザーには良い印象がない人も多いと思いますが、PC98時代は多くの名作を輩出し、エルフ・アリスに次ぐ3強の一角として、非常に勢いのあった会社なのですよ。
しかし書籍なんかを見ても、旧アイデス系の果たした役割であるとか、功績みたいな視点が欠けているものばかりなんですよね。
私は、各作品の評価を見ても分るように、評価的にはエルフ信者のような立場です。
主観的な好き嫌いで言うならば、断然アリスファンですし。
でも、自分がエルフ大好き人間だからといって、何でもかんでもエルフ作品を中心に語るのは間違っていると思います。
少し話がずれましたが、アイデス系が先に仕掛けていたこともあり、アイデス系作品がブームの火付け役になることもありえたのでしょうが、この分野に関しては、やっぱり火付け役はエルフなのでしょう。
本作を含めアイデス作品がマルチストーリーマルチエンディングの火付け役になりえなかったのは、やっぱり内容に問題があったからなのでしょうね。
本作は分岐していくことで28種のエンドを見ることができましたが、「エロティックBAKAノベル」の「エロティック」は良いとしても、BAKAノベルという名も伊達ではありませんでした。
基本はバカゲーであり、ぶっちゃけ、それほど面白いものでもなかったのです。
キャラは可愛かっただけに、少し勿体無かったですね。
まぁギャグは人により合う合わないがどうしても出てしまいますので、私に合わなくても、中にはハマった人もいるかもしれませんが。
ちなみに、本作は画面下部に3行ほどのテキスト欄があり、その辺も今のノベルと同じ構造ですね。
まぁ本当はこんなことを一々書く必要もないというか、88年に最初にノベルと銘打った一般PCゲームも、下部にテキスト欄を配置していましたしね。
画面全部をテキストで覆わなければ駄目というのは、初代ウィザードリィはポリンゴンを使ってないから、3DRPGというのはおかしいと言い出すくらいナンセンスなのです。
でも、そんな不可解な意見がまかり通っていた時期もあるから、世の中なんて、それだけ適当なものってことなのでしょう。
<評価>
総合的には佳作ってところでしょうか。
内容的に面白いとまでは思えなかったのですが、上述の通り絵は可愛かったですし。
それと分岐型のノベルゲーは、前に数を数えたら、90年から92年頃が一番数が少ないんですよね。
つまり、一時期途絶えかけていたこともあって、分岐型のゲームは珍しくなっていたものですから、当時はそれなりに新鮮な感じで楽しめたように思います。
一年遅ければ凡作扱いも免れないだけに、ある意味、新鮮さが最大のウリとも言えるのかもしれません。
私の場合は、多少作りが甘くても、本当に斬新なら名作扱いしてしまいます。
本作の場合は一応の新鮮さはあったから凡作ではないものの、少なくなったいた時期という意味での新鮮さであり、構造的に斬新というわけではないので、あまり高い点にならないという感じです。
もちろん、「ノベル」という形式的な文言自体には、何の価値も見出していません。
字面にこだわる人もいるから、長く書いただけにすぎないですからね。
河原崎家の例もありますから、きっちり作りこんであれば私も高く評価しただろうし、世間的にもアイデス系の新たな目玉にもなれたのでしょうが、チャンスがあっただけに惜しい作品でしたね。
ランク:C(佳作)
Last Updated on 2024-09-16 by katan
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