下級生

1996

『下級生』は1996年にエルフから、PC98用として発売されました。

あのパッケージを手にしたときから、もう既に幸せでした。

<はじめに>

ゲームの容量と面白さは比例しません。
ましてや、パッケージの重さと面白さなんかはね。

でも、PC98時代のエルフだけは別でした。
出るゲーム出るゲーム、どれもが面白い物でした。
そして、容量が多いほど楽しい時間は増えていったのです。

この当時は、まだCDではなく、フロッピーディスクでしたからね。
容量が増える=フロッピーの枚数が増える=パッケージが重くなる・・・ってなわけです。

そのため、エルフのゲームを買って、パッケージがずしりと重いのを感じただけでも凄く期待をしたものです。

『下級生』のディスク枚数は17枚。
これは、通常販売されたPC98用のアダルトゲームでは最多枚数になります。
(※通販なら、『VIPER-CTR』の40枚があります。)
私の期待の程がわかってもらえるでしょうか?
しかも、当時はプラスティックケースが主流だった中で、厚紙の綺麗なパッケージ。
手にしただけでうっとり出来るゲームもそうはないですよ。

<ゲームデザイン>

エルフ最大の看板タイトルと言えば、やはり同級生シリーズになるのでしょう。
タイトルが類似していることから分るように、『下級生』は「同級生シリーズ」の姉妹作品になります。

ゲームの期間は1年間。
プレイヤーは卯月学園の3年生となり、1年の学園生活を過ごすことになります。

本作は時間の概念を取り入れた場所移動式のADVであり、その点で同級生シリーズと共通します。
そもそも『同級生』シリーズは、夏休みや冬休みといった限られた狭い期間内のゲームでした。
『同級生』シリーズをプレイした誰しもが、もっとあの世界を堪能したいと思ったことでしょう。
そこで、このシステムで1年間通してやってみようという実験的な作品として作られたのが『下級生』だったのです。
自分はまず、その意欲という点で『同級生2』より高く評価しています。

一見すると同じシステムでも、短期間による短期決戦のゲームと、長期決戦のゲームでは楽しむ方向性も若干異なってきます。
また、この系統で大ボリュームの作品がまだなかった時代ですから、その点で新鮮さも伴っていたと言えるでしょう。

ただ、実は本作は、『同級生』シリーズとシステムが少し異なっています
確かに、システムの基本は姉妹作品である『同級生』シリーズと近いです。
時間の概念やマップ上をうろつくあたりですね。
しかし、同級生シリーズにあった画面クリックの要素がなくなりました。
エルフのADVには画面クリックの要素が多分に含まれており、それが他にはない特徴でもありましたからね。
つまり同級生シリーズがP&C式ADVであったのに対し、本作は移動式ADVになったのです。
この変化については、従来のファンの中には、ガッカリした人も少なからずいるでしょう。
本作が『同級生2』より劣ると言う人も見かけますが、多くの場合、この部分を指摘しているように思います。

それと実験的にプレイ時間が1年間に延びましたが、それに見合うだけのイベントが若干足りなく、少々さびしい期間があったのも確かですね。
(この点は、同年の『ファイアーウーマン纏組』は、見事に克服していますけれども・・・)

<感想>

オリジナリティや独自性のある作品は完成度が不足し、完成度の高い作品は独自性が不足するというのは、いつの時代も避けて通れない課題なのでしょう。
最終的に、そのどちらを優先するのかと聞かれた場合、私は独自性や新鮮な感覚を優先します。
つまり、こんなのがあったのかという驚きを大切にしたいのです。

そういう点では、本作は鮮烈でした。
記事を書いていると『同級生』の姉妹作だから~って書いてしまいますが、実際の所、そんなのはどうでも良いのですよ。
『同級生』の姉妹品でなくとも、私は本作を発売日に買っていたでしょう。
それだけ下級生のキャラクター、パッケージデザインや広告が衝撃的だったのです。

当時は、まだまだ可愛いキャラが少なかった時代でした。
その中にあっては、門井亜矢さんの描く可愛いキャラは、私にとても刺さりました。
門井さんのデビュー作でしたので、それだけインパクトが強かったのです。

また、塗りに関してもエルフは最高峰でしたから、この原画でこの塗りなら完璧と言えるでしょう。

PC98末期、96年のエルフの新作は『下級生』と『YU-NO』になります。
エルフのPC98の最後の作品は『YU-NO』で、『YU-NO』はグラフィックも良かったですが、いわゆる可愛いキャラとは方向性が違っていましたからね。
可愛いキャラのゲームでPC98最高峰の画質の作品と限定したならば、やっぱり本作が最高峰となるのでしょう。
とにかくグラフィック面の満足度は高かったです。

可愛いキャラが多かったので、好きなキャラも多かったですね。
特に好きなキャラは、瑞穂、真歩子、静香でした。
『同級生』は、同級生と言いつつ年上の多い作品でした。
他方で『下級生』は、同級生の多い作品でした。
年下の可愛い子も良いのだけれど、これらのシリーズで二次の年上の魅力に気付いたので、静香のようなタイプは、また違った思い入れが生まれてきます。

それと、ツンデレという言葉には幾つもの意味があったり、主な使われ方も少しずつ変化していっています。
でも、最初に使われ始めた頃は、最初はツンツンしていたのに、一定の年月を経て仲が良くなると、今度はデレデレになるといったものでした。
本作における涼子は、開始時には主人公に冷たくあたるものの、終盤にはデレデレになるわけでして。
その性質から、涼子には当時から根強いファンもいましたが、仮に他のゲームに登場したら、同じキャラデザであったとしても、それほど人気は出なかったと思います。
1年という長い期間があり、長く冷たくされたからこそ、デレた時のギャップが大きくなるんですからね。
つまり涼子は、本作の1年というゲーム期間の長さにより実現できたキャラでもあり、ある意味最も本作らしいキャラとも言えるのでしょう。
ツンデレという言葉が生まれた頃には、その代表例として挙げられることも多く、こうした可愛いだけでなく内面的にも多彩なキャラがいたことが、この作品の魅力なのでしょうね。

<評価>

P&C式でなくなってしまったことから、ADVとして、その観点で考えてしまうと、どうしても『同級生2』よりも劣って見えるのでしょう。
でも、『同級生2』にマンネリ感や限界を感じていた私には、『下級生』の実験作としての意欲、可愛いキャラがとても新鮮に見えたものです。
そのため、総合でも文句なしに名作といえるでしょう。

ちなみに、同じような構造の『下級生2』の評価が芳しくない点に関し、様々な意見が出されています。
もちろん理由は一つではないのでしょう。
でもね、上述のように初代『下級生』は、意欲的で新鮮な実験作だったということが、まず一番の特徴なのです。
「同じこと」をやっているのに~というのは、その時点で実験作ではないのですから、つまりは本作の持つ最大の特徴が失われていることを意味するんですよね。
古参のファンとしては、その視点は忘れないでほしいと思います。

エルフがPC98用のゲームを出したのは96年までです。
PC98時代、常に業界をリードしてきたエルフ。
そのエルフがDOSゲー最後の年に出した作品は、そのどれもが傑作に値する出来だったと思いますね。

ランク:AA-(傑作)


 

Last Updated on 2024-11-19 by katan

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