『黒猫館』は1993年にPC98用として、フェアリーダストから発売されました。
館もの、メイドものの古典的代表作。
OVAの1作目と続編とをつなぐ、オリジナル作品になります。
<概要>
そろそろ知らない人も増えていると思うので、少し説明から入ります。
かつて、アダルトアニメと言えば「くりいむレモン」シリーズというくらいに、非常に有名だった時代がありました。
仮に見たことはなくても、二次オタなら名前くらいは知っている。
他のアダルトアニメは知らなくても、このシリーズだけは知っている。
それくらい有名なシリーズでした。
この「くりいむレモン」シリーズは、84年から続いています。
もっとも、『くりいむレモン』という名前自体は、フェアリーダストの制作するアニメシリーズという程度の意味合いであり、シリーズ内の各作品は全く関係ない場合もありました。
その「くりいむレモン」シリーズの中の一つとして、86年にOVAの『黒猫館』が発売されます。
そして93年にOVAの『続・黒猫館』が発売され、同じく93年にPC98版のゲームである『黒猫館』が発売されたのです。
『続・黒猫館』は初代『黒猫館』の30年後であり、ゲーム版は、そのアニメ版2作品の間の期間を埋めるという位置付けのオリジナルストーリーとなっています。
したがって、OVAの初代『黒猫館』とゲーム版はタイトルは同じなものの、内容的にはゲーム版は初代の続編ないし外伝といった扱いになります。
なお、ゲーム版は2部構成となっており、1部はアニメ『黒猫館』の直後の話であり、2部はアニメ『続・黒猫館』の直前の話となっています。
大雑把な作品の位置付けはそんなところなのですが、ややこしいのは、もっと広い視点での影響になるのでしょうか。
アニメ『黒猫館』は、主人公・村上が鮎川邸(別名・黒猫館)に書生として訪れることから始まります。
そこで女主人とその娘、それにメイドを交えつつ、住人らとの淫靡な日々が繰り返されることになります。
このアニメ版だけならば、おそらく女主人や娘に目がいくでしょうし、淫靡で退廃した雰囲気の中での親子丼って作品にも見えるでしょう。
他のキャラとしてメイドは登場しますし、しかも主人公が真実を知るきっかけになるのですが、あまり大きな存在には感じられないと思います。
つまり、女主人とその娘がヒロインであり、メイドがサブヒロインとモブの中間的な存在ということですね。
しかし、この作品には小説版もありました。
根本部分はアニメ版を踏襲しつつも、30分しかないアニメより分量を増やせるという小説のメリットを活かし、大幅に肉付けされて良い内容だったみたいなんですね。
残念ながら私は、OVAの2作は見ているものの、その小説版を読んでいないので詳しくは分かりません。
しかし、この小説版の存在もあって、熱心なファンの間では、そのメイドこそが正ヒロインという扱いになっているようです。
(それ故に、ファンであればあるほど、アニメ版の続編の内容に怒りがあるようです。)
そうなると、『黒猫館』は、メイドに焦点を当てた館ものというジャンルにも見え、後のアダルトゲームにおける館もの・メイドものブーム、例えば館・メイドものとしての『禁断の血族』『河原崎家の一族』、メイドものとしての『殻の中の小鳥』などの、先駆けとしての存在とも考えられるわけです。
特に1997年の代表作の一つとされる『女郎蜘蛛』などは、大雑把な設定・あらすじは『黒猫館』とかなり被りますからね。
このシリーズの影響をモロに受けた作品と言えるのでしょう。
(ちなみに、この点をもって『女郎蜘蛛』は単なる2番煎じと捉える見解も理解できますが、両作品ともストーリーそのものではなく、作品の持つ雰囲気が一番の長所と私は考えています。
そして、『黒猫館』は妖しい洋館の魅力であり、『女郎蜘蛛』は大正時代の持つ雰囲気なので、一番の長所が異なると考えることから、私は単なる2番煎じとは捉えていないですけどね。
ただ、あらすじ似ているよねって言われれば、うんと言いますけれど。)
というわけで、アニメとゲームは別物として考える人や、或いはアニメだけを取り出してみると特に感じないのですが、広く二次元という文化全般で考えるならば、アニメ・ゲーム・小説全体を通じた「黒猫館」というコンテンツは、その後の人気路線に大きな影響を及ぼした作品とも考えられるのでしょう。
<ストーリー>
前提部分の方が長くなってしまいますが、今回はゲームそのものよりも、一連の流れや立ち位置の方が大事だと思いますので、多少は仕方ないですね。
そういうものだと思って、お付き合いいただければと思います。
さて、ここからゲーム版の中身に入りますが、本作の主人公は沖田と言い、アニメ版主人公・村上の親友になります。
沖田もまた、誘われて黒猫館を訪れるのですが、ぶっちゃけ本作前半の1部に関しては、アニメ版のキャラを置き換えただけのダイジェストみたいな感じですね。
アニメと同じような展開で、女主人らと淫靡な性行為が繰り返され、最後はメイドのあやの助言を受けて脱出となります。
したがって、大きな意味があるのは、2部の方になるでしょうか。
舞台は1部から数十年後になります。
黒猫館での思い出が忘れられない沖田は、社用で伊豆に行った際に、道を間違えて黒猫館そっくりの建物を見つけます。
ラストで炎上し、なくなったはずの建物が何故ここに?
・・・ということで、沖田がその館を訪れると、そこには、あの女主人冴子が昔と全く変わらない若さでいたわけでして。
そこから、また乱れた性行為が繰り返されるのですが、何故冴子・亜理沙親子が昔と変わらない姿を維持しているのかとか、主人公を死に至らしめるワインの秘密は何なのかといった、物語のキーとなる部分がここで語られることになります。
このシーンは、ちょっとしたグロっていうか、私は発売して数年経ってからプレイしたので、アニメのエヴァの綾波が一杯いるシーンを思い出してしまいました。
まぁ、本作は93年の発売ですので、リアルタイムでプレイしたらそんな感想を抱くはずはないのですが、95年以降にプレイした人なら何人かは分かってくれるのではないかなと。
そのため、もし本作を先にプレイしていたら、エヴァの綾波の一杯いるシーンを見て、おぉ、黒猫館じゃんって思ったかもですね。
<ゲームデザイン>
ゲームジャンルはノベル系のADVになります。
一応部屋移動といった行動の概念も少しは含まれているのですが、基本的に読み進めつつ、たまに選択肢に応じるという感じですね。
ゲームオーバーもありますが、すぐに分かるので問題はないでしょう。
画面のレイアウトは、基本的には画面下部にテキスト欄が表示される、スタンダードなタイプです。
もっとも、回想シーンなどでは、上の画像にあるようにテキストの割合が多くなっています。
<感想>
その他の感想として、グラフィックやサウンドなどは、ゲームとしては間違いなく水準以上なのだけれど、アニメ版と比べると、動きが乏しい分、どうしてももの足りなくなるのは仕方ないのでしょうね。
なお、本作にはサンプリングされた音声が一部でついていました。
パートボイスとはいえ、PC98の作品としては非常に珍しいと言えるでしょう。
まぁPC98の作品なので、音質はあまり良くないですけどね。
あとはそれをどう捉えるのか。
エロボイスがつくことで他のゲームよりエロく感じられた人もいるでしょうし、アニメ版よりもの足りないなって感じる人もいるでしょう。
ここはもう、人それぞれになると思います。
<評価>
どうなんだろうな~
コンテンツ全体で捉えることに意味がある作品だけに、ゲーム単独の評価というものに、一体どれだけ意味があるのかは分かりません。
上述の様に、広い意味での『黒猫館』というコンテンツそのものは、かなり大きな意義を有しているのかもしれません。
今は、アダルトアニメが廃れましたし、たまにあってもエロゲ原作がほとんどです。
オリジナルで名が知れ渡るほどに有名なアダルトアニメなんて、ほとんど存在しないでしょう。
まぁ、一般のアニメもオリジナルが少なくなってきていますので、全体的にオリジナル作品が不足しているのでしょうけれど。
しかし、80年代にはオリジナル作品のアダルトアニメもあり、今は失われ語られることも少なくなりましたが、これはこれで1つの文化だったのでしょう。
OVA『黒猫館』は、その中の代表作の1つですからね。
上述のように後に与えた影響もありますし、決して忘れられないコンテンツです。
しかし本作そのものは、その大きなコンテンツの中の一部でしかなく、アニメや小説を主とした場合の従的な存在でしかありません。
単体では特に意義があるわけでもないのだけれど、コンテンツ全体を理解する上では触れた方が良いのかなって感じなんですよね。
特に真相云々はここで語られますので、無視もできないですし。
ここでは本作単独の評価として良作としておきますが、私個人の好み等を捨て去り、客観的に果たした役割などで判断すると、二次元の文化全体という意味では、「黒猫館シリーズ」は間違いなく名作と言えるでしょう。
そのため、その点をどう評価するかで、どうしても人により本作に対する扱いが変わらざるをえないのかもしれません。
とりあえず知らなかった人には、昔こんなのもあったのだよと知ってもらえれば、それで十分かもしれないですけどね。
逆に、このジャンルに興味のある人には、せめて初代のOVAだけでも見てもらいたいですね~
個人的には、いつか小説版というのを読んでみたいものですね。
※この記事は、もともと2013年に公開されたものであり、ここからは加筆になります。
もう、動きがないと思われていたこの作品。
なんと、2020年になって、動きが出てきたわけでして。
そもそも、『黒猫館』の小説版等を手掛けていた作家は、倉田悠子さんという方になります。
小説版は高い支持を得つつも、倉田悠子という名前は、その後、きかなくなります。
ところが後に、倉田悠子は、小説家である稲葉真弓の変名であることが判明します。
稲葉真弓さんは、数々の文学賞を受賞し、2011年には谷崎潤一郎賞を受賞、2014年には紫綬褒章を授与されています。
そうした事情もあり、小説版はますます希少になっていき、欲しくても手の届かない存在となっていました。
そんな小説版が、2020年に復刻したのです。
小説の復刻を聞いて、これほど興奮したことも他にないかもしれません。
ゲームの話から逸れてしまいますが、OVAと小説版は、ぜひとも触れてもらいたいと思いますね。
ランク:B(良作)
Last Updated on 2024-09-10 by katan
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