木洩れ陽のノスタルジーカ

2013

『木洩れ陽のノスタルジーカ』は2013年にWIN用として、STREGAから発売されました。

「おとボクシリーズ」制作者らによる、新ブランドのデビュー作であり、代表作と呼べる作品といえるでしょう。

<概要>

ゲームジャンルはノベル系ADVになります。

商品紹介・・・
機械仕掛けの少女を修理する?
コミカル且つハートウォーミングに展開する、空想科学未来ストーリー。
のり太が繊細なタッチで描く多彩な魅惑のヒロインたち。
明るく楽しく繰り広げられる、けれどちょっぴり波乱の恋愛模様。
シナリオ・嵩夜あやが描き出す独特の世界観。
「しねま」に隠された秘密とは?
小さな冒険の背後に展開する、世界に関わる壮大な物語!!

<感想>

公式上のジャンルが「空想科学組立少女ADV」とされており、近未来を舞台にした作品ですので、一見するとSFもののように感じられます。

しかしながら本作は、主人公らがアンドロイドの「しねま」を発見し、仲間らと協力しながら修理し、遂には人としての自我を得るという物語であり、しねまを中心にしつつ主人公ら仲間との絆や交流が中心となっています。
癒し、或いはハートウォーミングな要素を持った心の部分が中心になりますので、あまりSFものとは言えないのでしょう。
企画からして「ラノベ的なSF」をということで作られたようですが、単に舞台をSFっぽくしただけであり、中身がそうでないという意味では、確かにラノベっぽいと言えるのでしょうね。

本作プレイ後の率直な感想を先に書いてしまいますと、面白かった、雰囲気がとても良かった、良質なラノベを読んだような感じ、でも労力のわりに報われていなそうだなといったところでしょうか。
良い長編物語を堪能できたという点では、2013年のフルプライス作品の中でも最高峰でしょうね。

さて、舞台が近未来ですので、技術や設定面で、今にはない物が多数登場します。
それらには用語解説がきちんとなされていますし、いろいろ考えて設定しているのだなということも、そしてそれをこちらに伝えようと努力しているという姿勢も伝わってきます。
・・・が、それらの多くは物語の中枢に必ずしも必要でもないですし、逆にいちいち用語の説明を見るのが面倒とかテンポを損ねるというリスクもあり、制作側の割いた労力がユーザーの得る楽しさに必ずしも直結しないのです。
この「物語」を描くためという理由だけならば、ハッキリ言って本作のここまでの設定は不要だったと言えるでしょう。

もっとも、じゃあ設定を活かしていない駄目な作品かというと、決してそうではないわけでして。
近未来ですので通信技術とかいろいろ発展していますし、それをグラフィック上で表現していますので、単純に見ているだけで楽しめる作品なんですよね。
ゲームは小説と異なり文字以外に絵もあるのだから、絶えず絵でも楽しめるというのは必要なことです。
テキストを追うだけでは必要のない設定も、絵や音も含めた総合的なエンタメの観点からは、ユーザーを楽しませるデバイスとして機能しているのです。
本作はGUIもそれっぽくアレンジしていますし、全体の統一性があります。
本作を褒める人は、間違いなく雰囲気の良さを必ず挙げると思います。
それは仲間らの絆というテキスト部分から伝わるものは当然としつつも、他方で決してテキストだけに頼りきるのではなく、ゲーム内の画像やGUIも含めた全体的な統一感からも来るのでしょう。

ただ、私は嵩夜あやさんのテキストが基本的に合うので、雰囲気の良い作品として楽しめたのですが、本作の問題点として随所に人を選ぶ要素が散りばめられていることも、無視できないのかもしれません。
1つは、上述のように用語解説が多すぎて、SFに苦手意識のある人には苦痛になりかねないということが挙げられます。
他には、本作では突然主人公の姿が表示されたり、パートボイスで音声付きでしゃべりだします。
しかも、その音声はオフに設定することができません。
おとボクの時は、何より主人公が一番可愛かったですからねw
単純に可愛いものはもっと出せという気持ちもありましたが、野郎主人公の姿が表示されてしゃべり出すことに対しては、抵抗のある人もいるようですし。
様々なユーザーに対応することを考えるなら、オフにする機能も付けた方が良かったです。
まぁ、野郎の姿の表示の是非は好みの問題であるとしても、もっと根本的な構造の話として、主人公視点で物語が進んだかと思えば、突然群像劇っぽくなったり、そこに音声が付いたり付かなかったりでは、読んでいて落ち着かず、どうにも据わりが悪いです。
どういう形式でも構わないのですが、もう少し統一すべきだったのかなと。
この点に関しては、本作の持つ雰囲気の良さを阻害する要因になりかねません。

それと、本作は結局のところ、「しねま」を巡る物語なのです。
個別エンドで他のヒロインらとのEDは用意されているのですが、ヒロインを中心に据えた物語が用意されているのではなく、しねまを治す過程で仲良くなっていったということなのです。
だから他社のヒロインとの関係を掘り下げた作品(キャラゲー)に比べると、本作ではヒロインらの存在が弱く感じられるおそれがあります。
その意味で本作は、いわゆるシナリオゲーないしストーリー重視作品であり、決してキャラゲー目当ての人向きではないということなのでしょう。

そのストーリーなのですが、人としての自我を得て終わりなんですよね。
自我を得たアンドロイドがどうなるのかという、その後をきちんと描いていれば、それで一つのSFものとなりえたでしょうに。
また本作には情報が失われ断絶したという設定もあり、その失われた歴史が最後に戻ってきます。
その点も掘り下げれば、きちんとしたSFの作品となりえたでしょう。
SFのテーマとなりえる材料が幾つもあるのに、材料だけ揃えて調理に入る前で終わってしまっているから、SFもの足りえないわけでして。

また、しねまの個としての確立が完全に主人公らの手によるものならば、その軌跡に成長もの・ジュブナイルとしての魅力も出てきたでしょう。
しかし主人公らがするのは修理であり、肝心な部分を担うのが別人であることから、その方面の魅力も出にくいのでしょう。

だから結局は雰囲気の良さだけが残るのであり、ストーリーだけを期待する人が満足できるかも意見が分れてしまうと。
歴史的傑作に発展しうる要素は幾つもあるのに、そこまでに至らずに浅く終わってしまったのが、何とも勿体なかったですね。

<評価>

のり太さんの絵は凄く好きだし、テキストも凄く自分に合うし、絵や音を総合しても雰囲気の良さは抜群でしたしね。
もう一つ突き抜けた部分がないので、当初は良作と判断しておりましたが、テキストやグラフィック、UI等も含めて総合的にまとまり、一つの作品を形成できているのであり、その一体感を評価して、総合でも名作とします。

記事内ではいろいろ書きましたが、それらの多くは、ここを改善すれば傑作になりうるという話であり、プレイ中はとても楽しかったですね。

ただ、本作自体は名作と考えるものの、他方で、本作をプレイしていて、感じたことが一つあります。
エロゲの売り上げが衰退しているという話で、つまらないゲームを例に出せば、だったら面白いゲームを出せば売れるだろうという結論になってしまいます。
だから面白い作品があっても駄目なのだという例が必要なのであり、本作はその分かりやすい例とも言えるように思います。

つまりね、本作は非常に面白くはあるのだけれど、良くも悪くもラノベっぽいのですよ。
複数のヒロインの物語を掘り下げるのではなく、一つの物語を描く。
ゲーム性のない読み物としてのノベルであり、その内容もラノベ風。
じゃあ、ラノベの10倍以上の価格を出す必要が一体どこにあるのかと。
ラノベにはヒロインとのエロがないですから、もしエロが濃ければ、そこが違うのだと言うこともできるでしょう。
しかし、本作は常にしねまが物語の中枢にいながら、またパッケージの真ん中にも表示されていながら、しねまとのHシーンはありません。
この作品において、しねまにHシーンがないということ自体は、作品の内容・完成度という観点からはむしろ英断なのでしょう。
(まぁ、義母の篝理さんは、まきいづみさんが良いキャラを演じていただけに、個人的には篝理ルートが欲しかったところですが・・・)
本作をプレイした人ならば、しねまとのHシーンはなくて良かった、不自然に入れられるよりは、ない方が作品の質は高く維持できたと感じるでしょう。
でも、未プレイの人からすれば、本作はメインヒロインにHのないゲームでしかなく、ますますラノベの10倍以上の価格を、ラノベ風の作品に出す理由が見いだせなくなります。
私は「おとボク」シリーズでライターのテキストが自分に合うことも、また原画の絵が凄く好きなのも分っていますから、本作にも興味持てました。
既にそれなりの実績を残してきたクリエイターらの作品だから、多くのファンも本作についてきたのでしょう。
しかし、過去作を知らない人が新規に入ってくる要因が、本作は乏しいのです。
もし作品の内容の良さで売り上げが決まるなら、それこそ本作なんて年間トップ5以内に来てもおかしくないでしょう。
そうならないというのは、ファンでない新規の人に、ラノベの10倍出させるだけの理由を提示できていないからなのだと思います。
私もライターらの過去作をプレイしてファンになっていなければ、他方でメインヒロインにHがなく、加えて900Mの修正ファイルがあるラノベ風とだけ聞かされれば、まずプレイすることなくスルーしたでしょうし。

ゼロ年代前半~半ばのエロゲは、実質一本道だったり、シナリオゲーと言われても実際には出来のそこそこ良いラノベ風であったり、加えてそのような作品ほどエロが薄かったりと、エロゲとしてのアイデンティティーのない作品が多かったわけでして。
そうなれば賢明なユーザーほどラノベ等の安価で同等の物が得られる方に流れ、エロゲの売り上げが衰退するのもやむを得ないでしょうに。
ぶっちゃけ、好きなヒロイン選んでイチャラブできるって方が、よっぽどエロゲとしてのアイデンティティーを発揮していますよ。

本作に関していうならば、既に原画&ライターのファンはいますので、ファンがついてくる内は、たまにはラノベっぽいのもというのであれば、それは十分ありなのだと思います。
私も含め、ファンが納得できるだけの品質は十分に用意されてありますしね。
ただ、本作がどれだけ面白かろうとも、それは内に向けたものでしかなく、他所が真似して本作の様な作品ばかりになれば、業界の売り上げも落ちていくだけなんだろうなと改めて思ったものでした。

ランク:A-(名作)


木洩れ陽のノスタルジーカ
駿河屋
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Last Updated on 2024-11-07 by katan

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