紙の上の魔法使い

2014

『紙の上の魔法使い』は2014年にWIN用として、ウグイスカグラから発売されました。

体験版の良さで話題になった作品であり、個人的には過去作が好きだったことから期待した作品だったのですが・・・

<概要>

ゲームジャンルはノベル系ADVになります。

あらすじ・・・その島には、小さな図書館があった。
とある少女のためだけに用意された、遊行寺家の個人図書館。
そこには物珍しい書物がたくさん蔵書されていて、読書好きな人間にしてみれば、この上ない幸せの場所である。
そして、そんな素敵な個人図書館には、素敵で愉快な住人がいた。

まるで導かれるように、彼らは出会い――
そして、“本が好き” であることをきっかけに、彼らの青春は始まる。
初めは寂しげだった図書館だが、外部から光が差し込んで。
気が付けば―― 彼らは、幼なじみとも呼べる親しい間柄になっていた。

それから、2年後。家庭の事情から島を離れていた主人公は、久しぶりにあの図書館へ帰ってくることとなった。6年前とは何も変わらずに、あの図書館も親愛なる幼なじみたちも、変わらずにいてくれて。
しかし、6年前には知らなかった “図書館の秘密” が主人公を待ち受けていた。
「本に書いてあることが、現実に再現されてしまいます。そう、どんなことでさえも」
甘酸っぱい恋愛系のお話なら、奇跡のようなラブロマンスが。
驚きのファンタジー小説ならば、明日には吸血鬼が現れて。
ちょっぴり怖いホラー系の物語ならば、あなたの後ろで幽霊が手招きをする。
その本は、現実に物語を開くのだ。「それが、“魔法の本” 」
瑞々しいほどの青春と、切ない感情に揺さぶられた、小さな図書館の物語を。
さぁ―― キミと本との恋をしよう。

<感想>

伏線が随所に散りばめられ、そして二転三転するストーリー。
好意的に解釈すればそうなるのだろうし、プロットの凝り具合は、この年の作品の中でもトップクラスなのでしょう。

ライターの過去作が好きだっただけにね、本来なら、こんな作品が出てきたら、凄く喜んでいるはずだったのだけれど・・・あれ?

何だろうな~何であまり楽しくないのかな。
本作にはバグとかあって、その時点で難色を示す人もいるだろうけれど、個人的にはあまり気にしないし、対応されれば問題なしと考えます。
しかし、このライターって、もっと文章が面白かったと思ったのだけれど、何か全体的に過去作より雑になった感じ。まるで推敲前の文章のように。

まぁでも、私はあまりノベルゲーで文章力云々は気にしない方なので、もっと違う部分が引っかかっているのだろうか?
あぁそういや、『Minstrel』などの最初の頃は、エロゲ臭くない所に好感が持てていたのか。
ライターの商業デビュー作である『運命予報をお知らせします』も、見た目は普通の恋愛ゲーっぽいのだけれど、ちょっと変則的でしたからね。
自分は、そういうエロゲ臭さを感じさせないところが好きだったのかも。
それがすっかり、典型的なエロゲ染みたキャラを描くようになったと。
もちろん、その方向でしっかり描けば問題ないのですが、キャラに対する描写が少ないものだから、方針転換だけで中身が伴っていない、ガワだけエロゲっぽくなったような空虚な印象になってしまったのかな。
自分でも良く整理しきれていないのだけれど、大雑把には過去作より雑な印象が強く、悪い意味でエロゲに染まった感じで、それで楽しめなかったというところでしょうか。

シナリオに関してはそんなところでしょうか。
次に物語全体における一連の主人公の動き、つまりストーリーなのだけれど、ストーリーも少し強引なものだから、ユーザーがおいていかれるような印象にもなりやすいし、それが体験版詐欺のような印象も生み出したのでしょう。
もう少し肉付けして、段階を踏んだ方が良かったと思うのですが。

またプロットに関しては、凝っているという点で、良いと評することもできるのですが、全く問題がないというわけではなく、少し注意も必要なのかなと。
今までの経験上、本作は、たぶん一般的にはエロゲユーザーに、伏線凄いとか言われるタイプの作品なのだと思います。
でも、単に伏せた上で実は~ってパターンなので、こんなの伏線とは違うよなと。
少なくとも私は、伏線が凄いとされる小説を普段から読んでいるような人に、この作品が良いと薦めることはしないでしょう。
また怒涛の展開と言えば聞こえは良いけれど、ネタがネタだけに全てが無意味で茶番に見えるおそれもありますし。
そしてこういう作品はミステリーっぽくも感じる人もいるかもだけれど、本作は決してミステリーものではなく、あくまでファンタジックな恋愛ものと考えるべきなのでしょう。

総じて、物語全体としては、プロットは良いと考えることができるとしても、ストーリーは少し強引であり、それに加え個々のシナリオ(テキスト)も弱いという感じなのでしょうか。
近年のノベルゲーは、個々のシナリオは良いけれど、プロットに独創性のないものが多いように思うわけでして。
本作は逆なので、最近では少し珍しいパターンですね。
まぁ、不満っぽいことが中心になったけれど、それはあくまで過去作との比較であり、本作単独で考えればそれなりには楽しめるレベルではあると思います。

<グラフィック・サウンド>

だから他の要素次第では、良作もありえたと思うのですが、サウンドを含めた演出は全般的に弱いですね。

グラフィックも、キャラデザは一般受けしそうな萌え絵になったのですが、イベントCGとか似たようなものばかりだし、そもそもそれ以前の問題として、きちんとシーンの状況を表現できていないわけでして。

っていうか、キャラデザは好みではあるのだけれど、ハッキリ言ってグラフィックは近年でも最低の部類です。
綺麗なお空などを背景に、画面全体を埋め尽くすように斜めにキャラをアップでバ~ンと表示すれば、それでCGはOKとでも思っているのでしょうか。
似たようなCGが多いことも問題ではあるのだけれど、それ以前に、イベントCGで、それが一体どういうシーンを描いているのかが、こちらに全く伝わってこないのですよ。
仮にキャラデザが自分の好みと違っていても、多少デッサンが崩れていても、CGの枚数が少なかったとしても、それがどういうシーンなのかを描こうとしている作品、物語の内容を表現しようとしている作品の方が、グラフィックとしては評価できるでしょう。
本作は、それが全くできていないのであり、物語を印象付けるような絵が何もないのだから、点の付けようがないのです。

したがって、絵そのものにも問題がある上に、絵や音などがテキストを後押しできる状況になっておらず、テキストの方でも絵や音を活かそうという意思が感じられないために、完全にテキストだけの勝負になってしまっていると。
だからストーリー・テキストにしか興味のない人なら楽しめるのだろうけれど、ノベルゲーとして全体で把握する人には辛くなるのでしょう。

<OP・ED等>

本作には、OPやEDロールがありません。
まぁ、OPムービーに無駄に金をかけるくらいなら、もっと違うところに金と労力をかけろよと思う派なので、OPがないこと自体を否定するつもりはありません。

ただ、例えばPC98までのADVだと、最初の段階で目的が示され、それがプレイ意欲を湧きたてます。
WIN時代になって、それがなくなったのが私は不満なのだけれど、OPムービーがある程度代わりの役割を果たしていたとは言えるのでしょう。
OPムービーによって、さぁこれから新たな物語が始まるぞと、ユーザーを作品の世界に引き込むわけで、その機能・役割は否定できません。
ストーリー上の工夫でもOPムービーでも手段は何でも構わないけれど、何かしらのプレイヤーを作品に引き込む努力というのが、この作品には欠けていたなと。

他方で、ギャラリーや回想が見られない問題はパッチで解消されたようだけど、各種オマケやENDロールとかは、物語が終わった後もユーザーを余韻に浸らせ、作品を少しでも長く楽しんでもらう要素と言えます。
本作はこの部分も適当なものだから、作品全体を通じて俺様の考えたプロットだけ読んでろ、それで十分だろって意識ばかりが目立ってしまい、ノベルゲーという一つの作品としては、どうなのだろうという疑問が出てしまいます。

<評価>

結局のところ、グラフィックも駄目、サウンド、演出なども駄目、ノベルゲーとしての相乗効果・全体の融合という観点からも、駄目な作品なんですよね。
特にグラフィックは、長年プレイしてきた中でも最低ランクだし。
そうかと言って、文章だけで勝負できるのかと言えば、テキスト表現も今回は雑で難があるためテキストも駄目で、展開に強引なところもあるからストーリーも微妙ですし。
その一方でプロットは、まぁ示し方に問題はあるものの、凝っていることだけは確かなので、そこだけは一応良いとは言えるのでしょう。
以上から、本作は全体としては極めて歪な作品なのです。

こういう作品を高く評価するということは、プロットにしか興味がないよということを意味してしまうのでしょう。
まぁ、一昔前には、シナリオ重視とか言って、プロットやストーリーが他所から拝借したような物でも、シナリオ(テキスト)にライターらしさがあれば良いのだと、そんな人の声が大きかった時期もありましたからね。
独創性を感じられないシナリオ重視作とやらよりも、プロットだけでも凝っている本作の方が、まだ印象は良いですけどね。
だから物語に対しては一応の満足は得られたのだと思いますが、一つのノベルゲーとしての作品としては、やっぱり駄目だよなと。
悪い意味で小説的でしかない本作は、普段の自分の基準からは高く評価することは断じてありえないし、こういう方向性に進むのであれば、次回以降にも期待が持てません。
ついでに、もし本作を高く評価する人がいたとしたら、私とは見ているポイントが全然違うということになりますし、個人的にはその人の意見は参考にならないだろうなという指標になるのかなと。
そういう意味では、便利な作品かもですね。
総合では、最初は佳作だと思っていたのだけれど、何か書いているうちに、ダメじゃんこれって感じが強くなってしまったので、佳作に近い凡作としておきます。

いつかブレイクするかなと思っていたライターでしたが、進化したのは宣伝の上手さだけでしょうか。
同人時代などは、テキストだけでなく、もっと演出やグラフィックなどの見た目や、ノベルゲーとしての全体の相乗効果の重要性を大事にしていたと思うのだけれど、商業になって逆に軽視し、ストーリー一辺倒になったように感じてしまいます。
今世紀になってからの、いわゆるシナリオゲーとやらで時々気になるのですが、俺様のシナリオさえ読めれば、他はどうでもいいだろ、お前らもそれで満足なんだろと、そういう姿勢の見える作品が結構あり、本作はその傾向が顕著なわけでして。
ストーリーはね、幾ら尖っていても構わないのですよ。
そこでライターが妥協したら駄目だし、自分の想いをどんどんぶつけて構わない。
むしろ、そういうのを、こちらも求めているわけだし。
でも、その尖ったストーリーを楽しんでもらうための作品作りの努力は、怠ってはいけないと思うんですよね。
自分が書きたい「物語」を書くのと、ユーザーが喜ぶ「作品」を作るのは、決して相反するものではないですから。
ノベルゲーでも女性向け作品は、その辺が上手くいっている物が増えているのだけれど、男性向けはどうもごっちゃになっている作り手が多いのが気になります。
プロットで惹きつけるライターも減っているだけに、貴重な才能とも言えるし、このままでも一定の需要はあるのかもしれませんが、才能を叩きつけるだけでは良い作品にはならないし、今のような方向性に進むことは個人的には残念で仕方ないですね。

ランク:D(凡作)


紙の上の魔法使い
DVDソフト紙の上の魔法使い

Last Updated on 2024-10-19 by katan

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