早乙女学園 ブルーウインド

1989

『早乙女学園 ブルーウインド』は1989年にPC88用として、全流通から発売されました。

ちょっと変わった試みのなされたノベルゲームでしたね。

<概要>

ゲームジャンルはノベル系ADVになります。

まず最初に、本作の他とは異なる特徴を書いてしまいます。

本作には準備バージョンとして、『国連宇宙軍士官学校 早乙女学園入学案内』という作品がありました。
これは「国連宇宙軍士官学校 早乙女学園」がどういうものかを紹介するもので、学校のプロフィールや施設紹介、簡単な模擬訓練を体験できるものでした。
また、早乙女学園は女性だけの全寮制の学校であり、寮や大浴場や訓練室での女の子らの普段の生活を見ることができたのです。

そして『国連宇宙軍士官学校 早乙女学園入学案内』には、「入学願書」という書類が同封されていました。
上述の体験を通じて早乙女学園を理解してもらった上で、そこにプレイヤーが考えたキャラを記載し応募することで、本編である「ブルーウインド」でも採用されうるという、いわば企画ものだったんですね。
こういう試みは、今でも珍しいように思います。

<ゲームデザイン>

さて、そうして発売された本作ですが、ゲームジャンルは上記のようにノベルゲームになります。

ただ、この辺が厄介なところでもありまして。
本作の紹介で、当時の代表的な雑誌である「テクノポリス」には、「コマンド選択方式の」って書かれていたのです。
だから私は、最初はコマンド選択式ADVかなって思ったわけでして。
全流通は後に普通のコマンド選択式ADVを作ったこともありますので、この様な記載ではコマンド選択式ADVと思われても仕方ないでしょう。

しかし、画像を見てもらえばわかりますが、本作には「みる」「きく」というような汎用のコマンドは存在しません。
もちろん、汎用のコマンドが存在しない場合でも、今のノベルゲーの選択肢のような少し長めの個別の選択肢でありつつ、それを何度も試させるという実質的なコマンド選択式という作品もあります。
しかし本作では、同じコマンドを選択する必要はありません。
基本はクリックで読み進めつつ、たまに出る選択肢を選ぶと、即座に次の展開に進んでいき、場合によりゲームオーバーになると。
つまり構造的に見るならば、マルチエンディングのノベルゲーなのです。

今ノベルゲーと呼ばれる作品と全く同じ構造の作品なんてのは、アダルトゲームでは遅くとも87年には存在します。
当時の書籍なんかを見ても、ゲームブック風だの、紙芝居だのと評される作品はありましたが、まだ一般にノベルゲーという言葉が浸透していなかったので、言葉の使い方も人により異なりうるのであり、それでコマンド選択式という言葉が用いられたのでしょうね。
まぁ、言葉自体は何だって構わないのかもしれませんが、もし本作をコマンド選択式であると言うのであれば、同じ構造を有する現在のノベルゲーの大半もまた、コマンド選択式ADVということになってしまうのでしょう。
そうでないと矛盾してしまいますから。

イメージ的にはADVの一番の根本であるコマンド入力式があり、それ以外のコマンド入力式でないADVは皆、当時はコマンド選択式扱いされていた感じですね。
選択肢で分岐するにしても、選択肢というコマンドを選ぶことには違いないですから。
だから今の知識で過去の作品を調べる場合、コマンド選択式と書かれてあるからといって、それが全て汎用コマンドによる総当たり必須の作品ではないわけで、言葉の意味するところが違う場合もあるのだという注意が必要なのです。

まぁノベルゲーもコマンドを入力するのではなく、コマンド(選択肢)を選択するという意味ではコマンド選択ではあるのですが、ノベルゲーといわゆるコマンド選択式とでは、その楽しみ方は全然異なってきますからね。
この辺はユーザーの価値観も大きく関係していて、今のノベルゲー好きにコマンド選択式ADVをやらせると、面倒臭いだの古臭いだのと言われて嫌われてしまいます。
ノベルゲーが好きな人には、コマンド選択式は評価してもらえないわけですね。
じゃあ、そのコマンド選択式が全盛期で、そういうシステムが好きな人が主流だった頃に、ノベルゲーがあったとしたらどうなるのか?
そうなると、今度は逆の現象になるわけですよ。
コマンド選択式の難しいのこそ最良と考える人にとっては、ノベルゲーは誰でもクリアできる簡単で面白さの感じられないものでしかなく、クソゲーにしか見えないのでしょう。
そもそもノベルはゲームとして認めないって人も、少なからずいたくらいですからね。
だから当時ノベルゲーを作っていた全流通作品は、当時の主流派には好まれなかったというのもあると思います。

コマンド選択式も様々であり、同じコマンドを何度も繰り返すことを強いられるタイプだったら、むしろサクサク進めつつゲームブック感覚で楽しめるノベルゲーの方が、個人的には好きですけどね。
この意見は今のユーザーならほとんどの人が納得してくれると思いますが、当時では極めて少数派だったのであり、時代が変われば価値観も異なるってことなのでしょう。

<感想>

内容的には、大雑把にはSFものになります。
時代は西暦2051年という近未来で、早乙女学園の新入生が、観光船ローレライでハレーすい星観測ツアーという遠足に行きます。
しかし、そこで海賊によりハイジャックされてしまい、仲間の女の子らが人質になってしまいます。
そこで主人公である2年生3人が身代金の引き渡しと、隠密行動で航海プログラムに細工するという任務を受け出動することになります。
具体的には一人が身代金引き渡しと細工を担当し、残り二人が人質探しに向かいます。
任務を任された3人のうち、「操」が主人公であり、物語は操視点で進みます。
身代金及び細工の方を受け持った場合は一人で行動し、人質の方を受け持った場合には二人で行動することになるわけですね。

この辺も、やっぱり色眼鏡で見られると、あまり楽しまれないよなと思うわけで。
人質となった女の子らはエロいことをされてしまうので、アダルトゲームではあるのですけどね。
基本的には任務を遂行すべく潜入するという内容であり、今風に言うならばシナリオゲーなんですよ。
だけど、80年代のアダルトゲームはエロCGを見るだけのものばかりと、そんな勘違いをする人もいるくらいですからね。
エロCGを見たいだけの人、今で言えばセーブデータで回想シーンをフル化し、すぐにHシーンだけを見たいようなタイプの人が本作をプレイしたならば、なかなかエロ出て来ないぞと、否定的に捉えてしまうのでしょう。

加えて本作は女性主人公ということで、女性同士という場面も結構あり、言うなればレズゲーでもあるのですよ。
今だと女の子だけのアニメとか漫画も増え、可愛い女の子らが戯れる光景を眺めて愛でるのも一般的になりましたし、むしろ野郎は不要というような風潮すらあるのだけれど、当時はそういう風潮はなかったですからね。
まぁ何故だかPC88やPC98ってレズゲーが定番の一つでもあったので、それなりに人気もあったのかもしれませんが、性癖を語り合える場所なんて限られていましたからね。
今でも男性主人公でなきゃ楽しめない人もいますが、レズゲーを理解できない人にとって本作は、エロの薄い作品にしか見えなかったでしょうね。
まぁ、一流作品は興味のない人にも興味を抱かせるものですが、本作はこの手のジャンルが好きな人なら楽しめる内容ではあるものの、興味のない人まで納得させるほど優れたものでもなかったですから、一部の理解できた少数派だけが楽しめたにとどまり、全体としては賛否分かれざるをえなかったのでしょう。

<評価>

当時としては珍しいノベルゲーではあるものの、全流通は何本も既に発売しています。
その中で本作は設定やストーリーにも特殊な点はなく、印象はやや薄いと感じてしまいます。

もっとも、ユーザーに募集したキャラを用いるという試みであるとか、キャラデザが崩れることも多かったこのブランドの作品にあって、本作はわりと可愛いキャラであったことから、上記の薄さをカバーするものもあったのかなと。

本作の試みは今でもユニークなものでもあり、そういった点も考慮し、総合でも良作としておきますが、まぁ当時の主流のユーザーにはうける内容ではなかったとは思いますね。

ランク:B(良作)

早乙女学園 ブルーウインド

Last Updated on 2025-05-17 by katan

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