早咲きのくろゆり

2023

『早咲きのくろゆり』は2023年にWIN用として、1000-REKAから発売されました。

同年を代表する百合ゲーの1つですね。

<概要>

ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
もっとも、少々特殊であることから、詳細は後述します。

あらすじ・・・
それは冬に早咲きした黒百合の呪いだったのかもしれない――
未成年の5割以上が亡くなった脅威の新型ウイルス「CLII」が完全収束してから18年。
人々はすっかり日常を取り戻したが、社会には大きな爪痕と問題を残していた…。
「笹森 花」は札幌の私立苗代高等学校の3年生。
ちょっと物静かだけど、心の中はいつも慌しい女の子。
卒業まで残り僅かな時、花は同じ日を繰り返す中である感情に気が付いてしまう。
「そうだ。 わたし、樹ちゃんが……好きなんだ 」
昔、自分を救ってくれた”樹の幸せ”を強く願っている花。
大袈裟でもなんでもなく、そのためならなんだってすると思っていた。
花は思う。「きっとこの気持ちは樹ちゃんを幸せにしない……」
認めちゃいけないものだと心に蓋をし「思春期のきまぐれ」で終わらそうと思っていた。
しかし、その気づきは深い深い「呪い」へと連なっていく…。
これはそんな「好き」と「呪い」をつらぬき通すために、二人の間を紡ぐ恋の物語です。

<グラフィック>

率直な感想から入りますと、良い時代になったよなと。
あらすじを見てわかるとおり、本作は百合ゲーになります。
百合ゲーは属性として後発というのもありますし、過去の作品をみてみても、音声については比較的恵まれた印象はあるものの、グラフィック、特に技術的な部分に関しては、大手の萌えゲーとかと比べると見劣りするものが多かったわけでして。
グラフィックで技術面で見劣りしない百合ゲーが増えることを夢見ていた時期もありましたが、2023年は、本作を含めグラフィックの良い百合ゲーがいくつかあり、時代はかわったなと、しみじみ思ったものでした。

その本作のグラフィック。
キャラデザが良いなというのは単に私の好みだとしても、立ち絵も絶えず動き、目パチ口パクもありますので、客観的にみても、標準的な他のノベルゲー以上であることは間違いないでしょう。
なお、立ち絵が動くと言っても、大きく2種類あると思います。
1つは、ひと昔前に流行った、立ち絵をパタパタ頻繁に動かすタイプで、もう1つは、自然なアニメーションで動かすタイプです。
それぞれ一長一短ありますし、物語によって合う合わないもありますので、どちらが良いと一概に決めつけることはできないのでしょう。
ただ、雰囲気が大事な百合ゲーについては、後者の方が合っていると思いますし、実際、本作も後者であることから、作品にマッチしていてとても良かったと思います。

上記のとおり、本作の立ち絵は高水準だといえるでしょう。
一枚絵の方も、きちんとシーンが描かれていて、こちらも良かったです。
ただ、一枚絵の方には動きはなく、口パク等もありません。
一工夫加えられてはいるので、水準以上とは言えるものの、グラフィックが絶対的な長所とまではいえないように思います。
この、一工夫加えられたことにより基本的には水準以上で良いのだけれど、長所と言い切れるほどでもないというのが、良くも悪くも本作の特徴といえるのかもしれません。

<感想>

ストーリーは、先ほどから百合ゲーと書いているものの、百合だけを描いた作品というのではなく、百合+ループとなります。
むしろ途中においては、悲劇を避けようと奔走する、ループゲーとしての色合いの方が濃いです。
昔、『シャドウオブメモリーズ』という作品がりましたが、誤解を覚悟で書くならば、その作品の百合版みたいなものでしょうか。

この辺もね、単に百合のノベルゲーにループを混ぜてみましたというのとは違うんですよね。
というのも、ループについては、後述するようにゲームシステムと絡めることで、強調することに成功しています。
こうした一工夫加えるところは、本作の良いところだと思います。

また、肝心の百合については、本作では、舞台を近未来に設定し、同性愛について現実より厳しいものとしたうえで、その中で百合を描こうとしたことで、百合の尊さがより鮮明になっています。
甘酸っぱい青春を描いた百合という感じで、キャラデザの雰囲気と相まって、尊いって気になってくるんですよね。

かように、基本的に良くできているのですが、問題は終盤でしょうか。
ループという要素と百合という要素が、上手く融合できていないようで、人によっては異物を混入されたようの感じてしまうかもしれません。
マイナス要因になるほどではないと思いますが、結局のところ、もの珍しいという域を出ておらず、百合+ループとしての独自の魅力にまでは昇華できていないように思いました。

ゲームシステムは、基本的にはノベルゲーなのですが、場面によっては、画面を直接クリックすることもあります。
こうした状況に応じてシステムをかえる姿勢は、単なるノベルゲーよりは好印象です。
ただ、この画面クリックについても、あくまでも補助的なものであり、本格的なポイント&クリック式ADVと比べられるほどの水準ではないといえるでしょう。

ゲームシステムについては、もう一つ大きな特徴がありまして。
本作では、テキスト中に、キーワードとなる言葉が出てくることがあります。
それらのキーワードを記憶し、適切な場面で任意で選択肢を発動させ、文字入力することにより、その後の展開をかえていくことができるのです。
自転車創業の作品が好きな人なんかは、好みそうなシステムですね。
このシステムは、ループしながらやり直し悲劇を避けるという、本作のストーリーとは相性がとても良いと思いますし、システムとストーリーが上手く融合していると思います。
ただ、システムが洗練されているとはいえず、これもまだまだ改善の余地はあったように思います。

<評価>

総じて、ほとんどの要素で水準を超えており、百合ゲー好きならプレイして損のない作品といえ、良作といえるでしょう。

特に、恋愛要素抜きにしても楽しめるほどのストーリーがありつつ、そのうえで百合成分も充実していれば最高と考えるタイプの人には、本作はもってこいの作品だと思います。

ただ、プレイしている分には楽しかったですし、どの要素も水準以上だし、いろいろ工夫のあとも見られるのだけれど、それが作品の特徴として昇華しきれていないようで、こうして文章化していると、もやってくるタイプの作品なんですよね。
いろいろ惜しいというか、もう少し工夫していたら、一気に点が跳ね上がったかもしれないだけに、ちょっともったいなかったですね。

ランク:B(良作)

Last Updated on 2024-11-29 by katan

コメント

  1. この作品と『嘘から始まる恋の夏』は、個人的にも甲乙つけがたい良質な百合ゲーでしたね。
    クラウドファンディングでユーザーから資金を募った作品って、商業作品とかでは「どこに金をかけたの?」って作品が多いですが、この二作品はちゃんと作品の出来にも反映されていて好印象でした。

    なるほど、プレイしている時は頭に浮かびませんでしたが、主人公が不幸を回避するために奔走するという点では、確かに『シャドウ オブ メモリーズ』との類似もありますね。
    シリアスな本作に対し、あの作品もシリアスなはずなのに爆笑しながらプレイした記憶がありますねえ。

  2. >yukimuraさん

    この2つに関しては、若干方向性も異なりますし、あとは好みでしょうね。
    どちらも、きちんと作品を作ろうという姿勢が伝わってきて良かったです。

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