『花散峪山人考』は、2011年にWIN用として、raiL-softから発売されました。
ある意味、ライターである希さんの魅力が、存分に発揮された作品なのかもしれませんね。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
あらすじ・・・―――それは過去。
けれどほど遠からぬ、この国のむかし―――
二つの大きな戦争の間。街には電気の明かり灯り、鉄とセメントの建物が目立つようになっていった時代。
一方、まだ山々には前人未踏の原生林が多く残り、その深い影の中に伝説、伝承を潜ませていた時代。
濃密に立ちこめる山気と、分厚く積もった落ち葉とを踏み乱し、駆けゆく者がある。
そう、樹々の間に間を荒々しく駆けてゆくのは、修羅だ。
復讐の炎に我が肉を炙る、鬼だ。
最愛の女を無残にも殺められた青年の、復讐の炎にドス汚れた瞳が、仇の姿を深山の中に追い求める。
仇、仇、憎むべき敵。青年が追いかけ、滅ぼさんとする仇敵とはなにものか。
人も通わぬ深山に巣くい、跳梁し、翻弄するそれは―――人か?山の怪か?それは山人。
町里に住まう人々とは異なる、不思議、異形のモノ達。―――これは、復讐の物語―――
最愛のものを奪われた青年の、山野を駆け巡り追い求め、仇はおろか、関わった者までも巻きこんで滅ぼしていく物語。
<感想>
一般的抽象的に考えてみた場合と、実際にプレイした場合が異なることは、ままあるわけでして。
だから今回書くことは、理屈になっていないのかもしれないけれど、それもまた私の率直な感想なのでしょう。
さて、本作は、広義では伝奇ものとなるのですが、より具体的には、ある男の復讐劇であり、狂気と陰鬱な展開が繰り広げられます。
ライターの希さんは、良く言えば文学風のテキストで、ファンも結構いるライターなのですが、逆に徹底した描写がくどく感じられるとか、
読みにくいと感じられる人もいるでしょうし、基本的に好き嫌いの分かれるライターだと思います。
まぁ、小説なら何ら問題はないのですが、ゲームテキストとしては異質であり、ディスプレイで読み続けるという観点からは、あまり適した文章ではないようにも思います。
その希さんの作品の中で、私が今のところ最も好きなのは、『信天翁航海録』になります。
『信天翁航海録』は明るくテンポの良い、ノリの良い作品であり、読んでいてとにかく楽しかったです。
ただ、楽しく面白い作品ではありましたが、その内容・方向性と、希さんのテキストの方向性とは、あまりマッチしていないようにも思っていました。
そういう意味では、暗く重い本作の方が、ねちっこく描写される希さんのテキストにマッチしているように思うのです。
一般的抽象的に考えようとすると、おそらくそういう風になると思うんですよね。
ただ、実際にやってどうなのかとなると、違っていたりもするわけでして。
ひたすら暗く重い展開が、ねちっこく描写されるので、次第に冗長に感じられるようになり、なんか読んでいて疲れてくるのですよ。
だから本作に対しては、希さんの本領が発揮された作品かと思う一方で、なんかテキストの持つ魅力が、今回は悪い方向に作用してしまったようにも感じるのです。
何事も塩梅が大事というか、少なくとも私には、このライターの作品は、明るくノリの良い作品の方が楽しめるような気がします。
まぁ、最近の作品は読みやすい方向にシフトしているので、そうなると、また違ってくるかもしれないし、今後も追いかけたいとは思っていますけどね。
<評価>
総合では佳作といえるでしょう。
主観的には、必ずしも楽しめた作品ではないのですが、これはこれでライターらしさは十分に発揮されていますし、オンリーワンな個性を持った作品だと思いますので。
特に、俺はシナリオ重視だと言っているような人であれば、このライターの作品はやってみるべきだと思いますね。
ランク:C(佳作)
Last Updated on 2024-12-22 by katan