『不確定世界の探偵紳士』は2000年にWIN用として、デジアニメ・コーポレイションから発売されました。
結局未完に終わってしまいましたが、菅野さんの新シリーズの1作目でした。
<概要>
ゲームジャンルはコマンド選択式ADVになります。
あらすじ・・・
主人公・悪行双麻は、アイドラー(IDLA)と呼ばれる国際的な探偵組織に属するディテクティブ。
彼は日本でふたりしかいないというクラスAライセンスを保有する、数少ない凄腕の探偵。
当然その名声目当てに、ものすごい数の依頼が彼の事務所へやってくる。
しかし彼は探偵事務所を他の人に任せ、自分は場末の小さな事務所に引っ込んで、一般の依頼はほとんど受けない。
その理由は、彼にはちょっと変わった才能があるからだ。
彼は凄腕の探偵だが、どういう訳か事件の方から彼にラブコールをする傾向が強い。
降りかかる火の粉を払うだけで手一杯。
依頼なんて受けなくても、次々と事件が向こうから出向いてくる。
そうした理由から、彼はここ数年で結果的に数多くの事件を解決してきた。
彼に言わせれば「降りかかる火の粉を払っただけ」なのだが、アイドラーという組織に言わせると「おびただしい戦果」ということになってしまう。
謎解きあり、ホラーあり、恋愛あり、ハードボイルドあり。
多種多様の不可思議な事件を通して、悪行双麻の息づく世界を体験せよ!
<感想>
基本的にはコマンド選択式のADVなのですが、部分的にノベルっぽくしていました。
これにもう1つ特殊性が加わってきます。
具体的には、本作には複数の事件が用意されていて、その事件を任意のタイミングで引き受けることができるのです。
ゲームには日付がありつつ、クリア時期により報酬が変わることから、いつどのタイミングで引き受けるかが重要となりました。
この点に関しては、簡単に言えば『同級生』や自由度重視のRPGで見られる、マルチフラグメントシステムを採用したと考えれば大丈夫でしょう。
それを推理ゲームでやったということですね。
かように、システム的には従来からあったものですが、これまでのADVでの用い方は、ヒロインの攻略フラグの掛け持ちというものでした。
本作では複数の事件を掛け持ちできるという風に用いているので、使われ方の違いという点で新鮮に感じられました。
あまり多くないシステムだけに発展の余地は大きく、個人的にも興味は大きかったです。
しかし、本作では報酬の使い道が限られていることもあり、結果としてどの時点で引き受けるかに大差が生じず、完全にはマルチフラグを使いこなせていなかったように思います。
その辺りが、導入したシステムを存分に使いこなしていた『EVE』や、『YU-NO』との違いになってしまうのでしょう。
まぁマルチフラグの新たな使い道を示したとまでは言えなくても、その可能性ぐらいは示したように思いますし、個人的にはそれなりに遊べたから並のADVよりは面白かったけど、この点だけで名作と呼べるほどではないというところでしょうか。
それと、システム面ではもう1点特徴があります。
PC88時代のコマンド選択式ADVでは、まだマウスが標準でなかったこともあり、キーボードでの操作を念頭に作られてありました。
そして、各コマンドにはテンキーの番号が割り振られていたんですね。
本来のコマンド選択式ADVというのは、そういう構造なのです。
テンキーが各コマンドに割り振られてありますと、そのコマンドを選択するのに1つの動作で済みます。
しかしマウスでの操作、或いはゲーム機のようなコントローラーの操作になると、マウス等を移動させる動作とクリックの動作という、2つの動作が必要になります。
それだけ書くと、大した手間に思えないかもしれません。
しかしこの単純な動作を、ADVでは10時間以上も繰り返すのです。
動作の数が多いと、それだけ手間が増え労力が増します。
次第にコマンド選択式を疎んじる人が増えたのも、その労力の煩わしさが原因の一つとして挙げられるでしょう。
それでいて、次第にキーボードへの割り振りは消えてしまいますからね。
昔のコマンド選択式は1動作で済んだのに、マウス前提の時代になることで、かえって作業が増えてしまいました。
UIや操作性という観点からは、実はコマンド選択式は90年代の方が退化しています。
コマンド選択式ADVというのは、本来はキーボード操作にこそ最適なシステムなのですよ。
本作は上記のように、コマンド選択式です。
もちろんマウスでもプレイできますが、各コマンドにテンキーも割り振られていました。
そのため、快適にプレイできたのです。
それにしても、この機能は便利だと褒める意見は各所で見たものの、それを新鮮とか新しいと捉える人が多かったんですよね。
コマンド選択式の名前自体は知っている人も多いし、もう知り尽くしたつもりの人も結構いるのだけれど、案外そうでもないというか、ノベルゲーが増え始めることで認識も変わってきたんですかね。
いずれにしろ、かつてはあったものを復活させただけなので、大きく評価できるものではないでしょう。
しかし、失われていた便利機能だっただけに、この復活はありがたかったものです。
本作は、上記のようにシステム面でも特徴はあるのですが、どちらかというとストーリーを楽しむ作品なのでしょう。
剣乃さんが菅野さん名義になってからは、いまいちパッとしない作品も続いていたわけでして。
その点本作は、ストーリー面でもテキスト面でも、かつての良さが戻ってきていました。
完全復活か?って、ゲームの出来以上に、そっちが嬉しかったものです。
もっとも、ストーリーもテキストも良かったのは確かなのですが、探偵物ということもあってか、『EVE』と比べちゃうわけでして。
そして、どうしても劣化版EVEの印象が拭えなかったりします。
途中までは同レベルにあるとしても、本作がこれで完結していない時点で満足度に違いが出てしまいます。
それと『不確定世界の探偵紳士』以降、菅野さんは、『ミステリート』等、ミステリー路線を続けていたのですが、根本的にミステリーよりもSFの方が性に合っていると思うのですよ。
この人の魅力は緻密な論理の積み重ねにあるのではなく、壮大なハッタリにあるのですから。
だから面白くはあるけれど、一番の魅力が出し切れていないように感じました。
<評価>
ストーリー、テキストが良かったところに、システム面でも見どころがあることから、総合でも名作とします。
総じて、面白くはあったし名作だとは思ったものの、過去の代表作ほどではないって感じでしょうか。
ランク:A-(名作)
Last Updated on 2025-01-20 by katan
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