『EVER17』は2002年にドリームキャスト用として、KIDから発売されました。
ラノベの延長としてはありなんだろうけどね・・・
<感想>
ゲームの評価基準、あるいはどこを重視するのかは、人それぞれなのでしょう。
ADVにおいては、今日ではストーリーやテキストを重視する人が多数派かもしれませんが、ではシナリオが最高なら満点を与えて良いのでしょうか?
『EVER17』が発売された当時、一部で絶賛する声もありました。
しかし本作には、ゲームデザインにおいて特別なシステムは存在しません。
既存のシステムを洗練させたわけでもありません。
ごく普通のノベルゲームです。
グラフィックやサウンドも、当時の基準で考えたとしても格段に優れているわけではありません。
残るはシナリオだけです。
これもまた、終盤までは非常に酷い。
海中に閉じ込められる危険な状態下にあるという設定ですからね、パニック物のスリリングな展開になるのが自然な流れというものでしょう。
ところが、能天気にも、かくれんぼだの何だので緊張感の欠片もないのです。
リアリティがまるでないどころか、くだらなく面白みの欠片のない展開が十時間以上も続きます。
絶賛する人は言います。
途中はだれるけど、最後までやってみてと。
結局のところ、絶賛する人にしても、素晴らしいと言ってるのはラストの展開だけ。
仮にラストがゲーム史上最高の出来だったとしても、それまでの何十時間もの間は退屈なのです。
ゲームだけでなく映画でも小説でもそうですが、総時間の大半が退屈な作品に向かって最高と言って良いのでしょうか?
私には、そうは思えないんですよね。
ゲームとは様々な要素から成り立つものであり、シナリオは大きな比重を占めているとはいえ、全てではありません。
本当にシナリオだけを求めるならば、小説を読んだ方が良いに決まってます。
小説にはないプラスアルファの要素があるからゲームをやるわけで、プラスアルファのないゲームはそれだけで最高とは思えないのです。
しかもそのシナリオにしても、ラストだけが良いってだけじゃね。。。
もうこの時点で、私の中で最高傑作足りうることは絶対にありえないです。
本作のあの尋常じゃないダルさは、ギャルゲー好きでないとなかなか耐えられないでしょう。
とてもじゃないけれど、安易には普通の人には薦められません。
だりぃ~クソゲーってつきかえされるに決まってます。
無理やりやらせようとしたら、イタい奴認定されるでしょうね。
ただね、例え傑作でなくても、ストーリーが良いの1点だけで名作と判断した例はたくさんあります。
『好き好き大好き!』なんかは、グラフィック最悪~って思いつつも、ほぼストーリーのただ1点でもって高く評価してますし。
しかも、本作のキャラデザは、個人的には結構好みでして。
一般的にはこの序盤はクソゲーに属するんだろうなと思いつつも、キャラデザの影響もあって、実は私個人はわりと普通に乗り切ったんです。
そうなると、残るは素晴らしいラストの展開だけ。
様々な欠点があるにもかかわらず、その全てを蹴散らすかのように評価されている本作のラスト。
そう、これさえ本当に噂通りならば、間違いなく名作扱いだったんです。
じゃあ、実際にはどうだったのか。
基本的に言われることは、「叙述トリック+メタ的要素」でしょうか。
まず叙述トリックについてですが、このトリック、あるいは似た構造を用いたゲームは既に存在していました。
『贖罪の教室』とか『書淫、或いは失われた夢の物語。』とかね。
探せば他にもあるかもしれませんが、いずれにしろ本作がゲームに使われた初めての作品ではありません。
また、そもそも小説では幾らでも出てくるトリックですからね、これがゲームでしか出来ないというのも完全に間違いです。
申し訳ないが、これをゲームでしか出来ないと言う人は、あまりに小説を知らなすぎですし、その時点で論外です。
中には、立ち絵とかの構造を上手く用いたなんて意見もありますが、それってギャルゲオタの勝手な思い込みの裏をかいたというだけで、一般の人には通じません。
私は一般の人ではないのだろうけれど、ギャルゲオタの勝手な思い込みみたいなのはないので、全く通用しません。
本作は、例えば、ギャルゲーとはAやBやCという前提があるのだよと説明しつつ、でも実はAやBやCは嘘でしたって言っているようなものですからね。
勝手に設定を作ってそれを自分でひっくり返しているようなものですから、到底評価に値しうるものではありません。
まぁ、このトリック自体は、初見では非常にインパクトがあります。
初めて触れた時は、心底驚くでしょう。
でもね、今ではゲームでも幾つもあるんです。
その全てを絶賛してたらきりがない。
前例が幾つもあるのに、自分がたまたま初めて触れたってだけで絶賛するのは馬鹿げてるでしょう。
とはいえ、トリックが上手く使われていたら話は別ですよ。
しかし、叙述トリックとしても上述のように本作は優れているとは思えません。
このトリックは如何に騙せるかが肝です。
ネタバレなしに説明は難しいのですが、本作はルート間で登場人物も異なるのに、それを全くの同一時間軸の同一場面と考えろって方が無理です。
鼻っから同一でないと考えてるのに、ラストで実は違うんですって言われてもね~
ぶっちゃけ、ああやっぱりねって、ただしらけるだけです。
一方で、騙そうとしてるんじゃないから、叙述物ではないとの見方もあるらしいです。
それにしたって、シナリオの先が見えててしらけることに変りはありません。
特に本作の場合、いわゆる「志村現象」が酷く、しらけ具合に拍車をかけてましたし。
壮大な流れをこじつけたってだけに思えるんですよね。
もう一つは、メタ的構造でしょうか。
この言葉はゲーム用語じゃないですしね、まともにやったら説明だけで長くなっちゃいます。
とりあえずゲームに限ってみるならば、プレイヤーの存在をも考慮した作りってところでしょうか。
ん~、これもね、ゲームで散々使われてるんですよね。
そもそもADVというジャンル自体が、プレイヤーを前提としたメタ的な物ですし。
90年代に入ってストーリー重視になる過程で、むしろこうした要素が削られていった感がありますからね。
斬新というより復活って感じでしょうか。
懐かしさはあっても、決して驚きにはつながらなかったです。
古参のプレイヤーは特にそうでしょうね。
ノベルゲーや近年のADVでの使用に関しても、『Renaissance』とか『臭作』のように、既に何度か見かけていますし。
あぁ~そのネタね~みたいな今更感が強かったです。
結局ね、特にこれといったものが何も無かったのです。
新しい要素も無ければ、従前の要素を洗練させたってわけでもないし。
最後は風呂敷をたたみにきてはいるから駄作とは言わないけれど、それにしたって何か強引にこじつけたな~ってだけで。
ただこのゲームにしても、私の比較対照はPCのゲームや古いゲーム、あるいは小説だったりします。
したがって、もし「私が」PCゲーを知らず、家庭用ゲームしかプレイしていない人で、なおかつ推理小説なんて普段から読まず、あまり物事を疑わない小学生ぐらいであったならば、あるいは絶賛しちゃってたかもしれません。
言い換えると、本作は極めて子供向けの作品なのです。
つまり本作は、ゲーム機で出た作品、すなわち子供向けノベルゲーがゲーム機で出されただけと言えますので、大人がとやかく言うのは野暮なのかもしれませんけどね。
もっと早く小学生くらいの頃に出会っていたら、私の感想も変わっていたのでしょうから。
このゲームをどう捉えるのかで、プレイヤーの年代も必然的に分かってしまうのかもしれません。
あとは、上でもちょろっと書いていますが、トリック云々ではなく、最後の纏め方が上手いとか伏線の回収の仕方を評価する傾向もあるようです。
これは、発売後しばらく経ってから出てきた傾向ですかね。
最初の頃は逆だったと思いますし。
最初の頃は、トリックに驚く人はいても、纏め方なんかはありがちで強引って意見がよくありましたからね。
確かに、リアル路線でしがらみの多い中で破綻なく纏めたなら、それは評価に値するでしょう。
しかし、何でもありなSF展開で、しかもその独自理論を最後の最後に持ち出して、それで纏めましたって言われても、強引にこじつけたという感じしかせず白けるんですよね。
途中の伏線の張り方や騙し方に不満があるだけに、尚更そう感じちゃうのです。
<評価>
結局、ミステリー方面では2番煎じ、SF方面では強引にこじつけただけの、非常に途中のだるい作品って印象でしたね。
たぶん、本作は、この手の作品に触れたことがあるか否かで、それで評価が決まってくるんじゃないでしょうか。
そういう意味では子供向けのゲーム機だから通用した、本当の初心者向けのゲームなのでしょう。
いずれにしろ、自分が何も知らない頃は楽しめるけど、知ってしまうと楽しめないのでは評価しにくいわけで、総合的には凡作としておきたいと思います。
Last Updated on 2025-03-09 by katan
コメント
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人生で初めて経験する叙述トリックは本当に衝撃を受けるからなー
かくいう自分も発売当時は、あまりこのトリックに対する耐性がなくてかなり感動したんですけどね
たかがギャルゲーだろと舐めてたところもあるし
でもあの衝撃を楽しむだけなら、ゲームじゃなくて小説で十分なんだよね
このゲームで騒いでる人間に叙述トリック関係の名作を薦めたくても
薦めた瞬間にその作品は叙述トリックだよとネタバレしてるようなもんだから
教えられずにもどかしい気分になるね
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名前がないので、名無しさんとして書かせてもらいます。
> このゲームで騒いでる人間に叙述トリック関係の名作を薦めたくても
私もそう考えた時期もありましたが、無駄なようですね。
人には変われる人と変われない人がいるようで、文面からすると名無しさんは前者なのでしょう。
でもこの作品の信者になる人は後者なのです。
幾ら説明しても、次々ああだこうだと全く筋の通らない屁理屈を上げ、考えを変えようとしないのです。まず高評価ありきなので、苦し紛れな言い訳を聞けば聞くほど阿呆らしくなってきます。
だから叙述トリックの名作を薦めても、小説とゲームとは違うのだとして筋の通らない論を唱え、後発ならパクリ呼ばわりするだけでしょう。
私は別に自分の考えが絶対とは思いませんので、他者の意見を聞いてなるほどと評価を改めた作品もあります。
しかしこの作品で何かを言ってきた人でまともな説明になっているものは一つもなく、所詮はその程度なのかと飽き飽きしています。
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ネタバレして構わないので、叙述トリック関係の名作本を教えてください。
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「アクロイド殺し」以降、たくさんの本が出ていますし、私はこのトリックに対して興味を持てなくなっているので、ネットで検索した方が早いかと。まぁ、ゲーム関係という観点で言えば、「かまいたちの夜」の作者が書いた「殺戮にいたる病」もそうなので、かまいたちが好きであればオススメかと。ゼロ年代前半頃に読んだ中では、「ハサミ男」が印象的でしたかね。作者単位でいうなら、折原一さんは好んでこのトリックを使い第一人者的な存在でしょうし。古典的名作というなら、「不連続殺人事件」とか「十角館の殺人」は多くの人が挙げると思います。まぁ十角館は、「そして~」臭が強すぎて、私は全く楽しめなかったですけど。
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最近クリアして、ここ数年で最もプレイしたことを後悔した作品です。
開始数分で登場人物のトンチンカンな行動や言動にいら立ちを覚え、作り手に対する不信感を絶えず感じながらプレイしました。
伏線が凄いという予備知識もあり、我慢して最後までプレイしてみたものの
キモの部分もインパクト重視な所が強く、個人的には満足できませんでした。
例えば、この作品のメタ的要素についてはゲーム内の特定のキャラに対してプレイヤーが共感していればしているほど効果的であるように思いますが、
伏線をひた隠しにするプロット故そういった部分の配慮は皆無ですからね。
だから、「あなたは○○だ」等と言われても元々特定のキャラを同一視していないので、肝心のネタばらしでもカタルシスが生まれなかったのだと考えています。
katanさんはレビューで初心者向けゲームと柔らかい表現をされていますが、
私は「子供だまし」という言葉が真っ先に浮かんできました。
ただ、こういった作り手に対する不満より、今なおこの作品を絶賛する意見が
多数ある所に驚愕しています。
随分前から「活字離れ」だとか「本離れ」といった言葉がありますが、
その最前線を垣間見た気分になりましたね。
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>kerukeruさん
おっしゃる通りだと思います。
ただ、まぁ、自分がもし、活字を読まない小中学生だったら、絶賛してたかもしれないですね。
そういう意味では、褒める人がいても不思議ではないのかもしれません。
(ちなみに、私は変な小学生だったので、当時はアガサ・クリスティとかエラリー・クイーンとか、海外古典ミステリーを好んで読んでいました。したがって、私が小学生時代に本作をプレイしたと仮定しても、間違いなく本作を褒めていないでしょうね。)
作品については、好みの問題が左右しうる部分はありますが、本作に限って言うならば、これを褒めている人の他作品の評価は読むに値しないですし、そういう意味では、感想や評価を信頼できるか否かの分かりやすい指標になっていますね。
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お返事ありがとうございます。
さすがにkatanさんほど早熟ではないですw
まあそんなに高いレベルではなくて、ミステリに限らず一般小説をちょっと見ていれば、本作を手放しに褒めるってことはないはずなんですよね。
(ちなみに、私が小学生の頃は『ソーサリー』等のゲームブックを読んでました)
私は1980年後半~2000年代くらいのADVをやりたいと思いこのサイトを知りました。
ご存じでしょうが、漫画等と比較してこういったレビューサイトはとても少ないです。
私のようなレトロゲーム愛好家にとっては本当に参考になります。
また折を見て別作品でコメントさせていただきます。微力ながら応援してます!
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>kerukeruさん
80年代後半から90年代前半は、特に少ないですよね。
ADVが一番発展した時期だけに、非常に残念なことだと思います。
90年代後半については、いくつか良いサイトがあったのですが、次々に閉鎖してしまい、もしかしたら今後、一番情報を得ることが難しい時代になるかもしれません。
私がサイトを始めたときは、今更古い作品なんて扱ってと馬鹿にする人もいましたが、虚仮の一心で続けてきました。
何かの役に立てば幸いです。
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Ever17にD-を下してくれる、そういうレビューサイトに出会えたというのは今日一番のラッキーでした。このブログに出会えて本当に良かったです。
とても素晴らしい記事だったので他の記事も2時間ほどざっくりと読ませていただき、海外製の名作や私にとってはなじみが薄い時代における作品などなど珠玉のゲームを大量に確認することができました。また、あらかじめ地雷ゲームも確認することができてよかったです。
こういったネタバレを食らっただけであっさりと吹いていくような作品は読書経験や読解力にかけた人間ほど強く絶賛しているように思えるしインターネットの表層おいてはそういった人間の声がデカいというように感じます。こういった場所で永遠に色褪せないレビューを残してくれる方がいてくれて本当にうれしかったですありがとうございます。