Christmas Tina ‐泡沫冬景‐

2020

『Christmas Tina ‐泡沫冬景‐』は2020年に、PC用として、Nekodayから発売されました。

ねこねこソフトの片岡とも氏と古落氏との、日本と中国のタッグによる優れたビジュアルノベルでしたね。

<概要>

ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
なお、本作は、15分程度のチャプター形式になっています。
これは、プレイ時間の確保しにくい社会人とかには、ありがたいように思いますね。

あらすじ・・・
田舎に住む高校一年の栞奈は、夏休みに交通事故に遭い、地元に居られなくなってしまう。
中国では、大学受験に失敗した景が、渋々と仕事を続けて、1年が経とうとしていた。
そんな中、東京での好景気バブルの噂を耳にした二人。
栞奈は、高校を中退して上京することに。
景も仕事を辞め、日本を目指した。
そして二人が見つけた仕事は、古びた駅舎に「住むだけで良い」というバイト。
時給は少し安めの400円。
しかし住むだけなので、24時間と考えれば悪くない。
家賃や光熱費の心配も無い。
不器用な栞奈と、日本語は分からない景。
定員は1名。
お互いにこのバイトを譲らない二人は、佐倉の勧めもあって、渋々と二人で始めることになるのだった。

1988年のバブル期の日本。
新しいビルがどんどん建ち、皆が浮かれていた時代。
古いモノが消え、新しいモノが生まれる中で、誰もが気づかない……
もしくは、気づいていても見なかったことにした場所、人、モノ達。
そんな都会の片隅で生きる人達の、1年間の交流を描いた群像劇となります。

<ストーリー>

妹の手術費を稼ごうとしている日本人の女の子と、学費を稼ごうとして来日した中国人の男性。
何の接点もない二人が、たまたまバイトがブッキングしたことから、一緒に過ごすことに。
本作は、そんな二人の1年間の交流を描いた作品になります。

シナリオライターの片岡とも氏については、ねこねこソフトで何本も作品を手掛けているので、ファンも少なからずいることでしょう。
私自身は、『銀色』(2000年)の頃からプレイしているものの、特にファンというわけではありませんでした。
どちらかというと、年々関心は薄れていった方だと思います。
ただ、本作に関していうならば、アダルトゲームではなく一般作ということもあってか、エロゲの嫌な部分とかがなくなったというか、しがらみから解放された感があり、派手さはないものの、とても読みやすくなっており、物語に自然と引き込まれていきました。
正直なところ、良い意味で期待を大きく裏切られた印象です。

ストーリーについては、終盤にもう少し何かほしかったように思うし、途中までの良さに比べると少々雑な印象もあり、どうしてもこぢんまりとした印象になってしまうので、衝撃を受けるとかそういう作品ではないと思います。
しかし、途中までは非常に良かったわけでして。
まったく意思疎通のできなかった二人の少しずつかわっていく姿というのは、読んでいて率直に良いなと思えました。

それから本作は、上記のとおり、バブル期の日本を扱っています。
ノベルゲーの多くはアダルトゲームですが、アダルトゲームのほとんどは学園恋愛ゲームであっても、時代設定が非常に曖昧な作品が多いです。
それを一概に否定するつもりもないのですが、時代設定が曖昧であるがゆえに、どうしても半分ファンタジーのような設定になってしまいます。
キャラ萌えゲーはまだしも、真面目な恋愛ゲーとかであれば、もっと現実の特定の時代に限定すべきであると、いつも思っています。
本作は、1988年の日本というようにハッキリさせている時点で、多くのノベルゲーと異なっています。
個人的には、本作が他のノベルゲーと異なることをしてきた事に対し、とても好印象を抱きました。
特にバブル期を扱った作品なんて珍しいですからね、なんか昔を思い出しながらプレイしました。
こういう作品は、もっと増えてほしいものですね。

<グラフィック>

ライターの知名度があるので、発売前は、ストーリーに注目する人が多かったかもしれません。
しかし、本作の一番の魅力は、やはりグラフィックになるのでしょう。
本作は、グラフィックのうえにテキストが被さるタイプの、いわゆるビジュアルノベルになります。
ビジュアルノベルという構造については、私の評価はプラスとマイナスの振り幅が大きいです。
画面全体にCGを表示させ、その上に被せるようにして、何の工夫もなく画面全体にテキストを表示させる初期のビジュアルノベルは、ハッキリ言って構造的に欠陥があると考えています。
何も考えずにCGをドーン、その上にテキストをドーンなんて作品は、それだけで大幅減点ものです。
また、ビジュアルノベルという構造と立ち絵の動き重視の構造の作品というのも、非常に相性が悪いと思っています。
普通に考えて、文字の後ろでキャラがパタパタ動いても、どう考えても見辛いだけですから。
他方で、テキストが被さるとグラフィックが見えにくくなるという、ビジュアルノベルの根本的な欠点をなくす努力をした作品は、非常に高く評価できます。
だから、この構造の作品は、評価が分かれやすいのです。

本作には、立ち絵がありません。
もっとも、静止画をずっと見せられるわけでもありません。
CGを上手く使うことにより、画面上で、グラフィックは常に何かしらの動きを見せています。
そしてテキストですね、これも固定した位置に表示されるのではなく、キャラの顔とかグラフィックの邪魔にならないように、空いているスペースとかに表示されます。

一言で説明するならば、演出が良いとなるのでしょう。
CGもテキストも、画面全体を使って表現しようという姿勢が伝わってきますし、物語の魅力を効果的に表現しようとしています。
ビジュアルノベルは、こうあるべきなのでしょう。
私が普段から言っていることを具現化したような、ビジュアルノベルのお手本と呼べる出来に仕上がっています。

漫画だと、コマ割りって非常に大事ですよね。
でも、ノベルゲームの場合、画面全体を使って表現するという姿勢が、あまりにも欠如してきました。
立ち絵があるとかないとか、そんな細かい部分はどうでも良いのです。
画面全体を使って表現することが大事なのであり、他所にも本作を見習ってもらいたいものです。

<感想>

その他の感想としては、音声についても特徴があります。
本作は、日本人は日本語で、中国人は中国語で話します。
言葉が通じない二人を演出するという観点からは、こういう方法もありでしょう。
他方で、音声は両方とも自分の分かる言語にしてほしいと考える人もいるでしょう。
考え方はいろいろあるでしょうが、私個人としては、この作品に限っていえば、これで正解なのだと思います。

というのも、異なる国の人が出てくる作品については、一般論としては、言語は統一して欲しいと思っています。
しかし、本作は、その言葉のつながらない2人が、少しずつ意思疎通できるようになっていく光景自体が魅力の作品です。
また、本作は、日本と中国が協力してできた作品であり、日中合作の先駆けとなる作品といえます。
そうした製作背景等も考慮すると、この作品に限っていえば、これで正解だと考えます。

<評価>

ストーリーだけであれば良作相当の作品かとも思いますが、そこに巧みな演出が加わり、時代設定や2か国語の音声等が加わることにより、作品全体の統一感が高まった作品であることから、総合でも名作といえるでしょう。

個人的には非常に大好きな作品となったのですが、他方で、小粒な作品ですし、読んでいて満足度は高いけれど、最後にもう一つインパクトがないので、傑作とまでは言えないかなと思います。

いずれにしろ、本作には、他のノベルゲーでは得られないような、本作ならではの雰囲気というものがあります。
そして何より、最初から最後まで、作品全体を考えて作っているという姿勢が伝わってきますので、ノベルゲーが好きな人であるならば、ぜひともプレイすべき作品だと思いますね。

ランク:A(名作)



Last Updated on 2025-03-24 by katan

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