『BLACK WOLVES SAGA -Bloody Nightmare-』は2012年にWIN用として、Rejetから発売されました。
狂気という点で注目された作品であり、個人的にはノベルゲーとして現時点での一つの理想形なのかなと。
<概要>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
あらすじ・・・美しい城に隠された陰惨な秘密
狂っていく双子の白猫
おぞましいまでに血で穢れた、狂愛の伝承。
「狼狩りの令(ジェノサイドウルフ)」の熱狂から数年後―――。
美しき森、シャルメッセンの城に一人の少女が暮らしていた。
彼女の名は、フィオナ・ガーランド。
エドガー・ガーランド伯爵の一人娘である彼女は、父親の寵愛の元、様々な事情故に塔の中で幽閉されるように育てられていた。
そんな彼女の望みはただ一つ。―――外の世界を、見てみたい。
そんな彼女の願いが叶う日がやってくる。
彼女の16の誕生日、庭で行われる晩餐会に参加することを許されたのだ。
外の世界に出ることを許された彼女は、胸を高鳴らせてその日を待つ。
だが。その機会は永遠に失われる。誕生日の前日、嵐の夜。
家族と過ごす穏やかな夕食。そこに現れた闖入者は――…、白猫の姿をしていた。
「フィオナ・ガーランド。きみを魔女の嫌疑で――…逮捕するよ」
そして、物語は再び動き出す。
<感想>
本作は女性向けの、いわゆる乙女ゲームになります。
一般向けの作品ではあるものの、「どこまでも過激に、狂気の愛情を描く」物語ということで、精神的な痛さも肉体的な痛さも結構あります。
個人的には、これなら年齢制限があっても良かったかなと思うくらいですしね。
いやね、自分はこれ大好きだけどさ、これやって最高って叫ぶJCとか、何か想像するの怖いし。。。
本作はファンタジーものであり、凄く簡単に言ってしまうと猫族と狼族が争っている世界なんですね。
まぁ、かなり鬱な作品なので、ファンタジーの中でもダークファンタジーになるのでしょう。
ちなみに、PC版では猫側の視点が中心となって描かれていて、PSP版では狼側の視点になってテーマも変わってきます。
本作はストーリーに大きな仕掛けがあるというよりも、キャラの魅力や狂気で魅せるタイプの作品でして。
もちろん、鬱でダークなストーリーも良いのだけれど、どちらかというとキャラを存分に活かすための土台として、しっかりと堅実に世界観を構築してきたなって印象が強いです。
後述するようにキャラがマジキチなので、これで世界設定が弱いと無茶苦茶になりかねません。
世界設定という土台作りがしっかりしているからこそ、その上でキャラがどれだけ暴れても上手く纏まるのでしょう。
キャラは、良く言えば皆個性的なのだけれど、ハッキリ言って変人ばっかですねw
狼側はまだまともなのだけれど、本作がメインで扱う猫側の、特に中心であるメヨーヨとオージェ兄弟の二人が完全にいってまして。
弟の方なんてマジキチすぎて、すげぇ屑です。
でも、屑すぎて屑すぎて、逆にかえってスカっとするような。
中途半端な屑は胸糞悪いだけですが、何事もやるなら徹底的にということですね。
かように、一応攻略対象とされている野郎共の狂気と残虐性を楽しむという、何とも素敵な作品ですが、ここで注目したいのは、それを身をもって体験する主人公の方でして。
狂気染みたキャラたちも、周りには厳しくとも主人公には優しいかというと、決してそうではなくて、主人公のすぐ周りの人が殺されたり、主人公も首筋に焼き印を押されて、精神的に壊れてきたりと、結構凄いことになってます。
・・・うん、乙女ゲーの定義から考えると、すげぇゲームですなw
その、全てに絶望していく主人公の姿が、何とも愛おしくってね。
ゾクゾクっときてしまいました。
そこで思ったわけですよ。
最近の男性向けアダルトゲームでは、何故か知らないけれど、主人公である男性が虐められるマゾ向けゲームが多く、逆に女性ヒロインを虐める調教ゲーが圧倒的に少ないです。
男性の草食化が嘆かれる今日、その波はエロゲにも蔓延しているのでしょうか。
理由は知らないけれど、まぁマゾ向け作品も、それはそれで楽しめるので、結構プレイしているんですけどね。
でも根本的なところで私は、自分が虐げられるよりも、女性を虐げる方が圧倒的に好きなんですよ。
そうなると、サド向け作品となるのだけれど、男性主人公のサド向け作品って、仮に心理描写があるとしても、大半は主人公である男性の内面が描かれるわけでしょ。
そんなの、いらんのですよ。ペペっですよ。
いちいち描かれなくても、そんなの既にわかりきってるし。
見たいのは変態なオッサンの内面ではなく、徹底的に虐げられて、希望を失って絶望していく女性の内面なんです。
そうなると、男性向けでも女性主人公の陵辱ものとなりそうですが、それじゃ駄目なんですね。
エロゲの女性主人公の陵辱ものだと、どうしてもエロありきになってしまい、結局は犯されて感じて墜ちること前提に男性に都合よく作られた女性ですから、あまりグッとこないのです。
まぁ最近のというか、ゼロ年代に入ってからのエロゲの陵辱ものだと、そもそも、きちんとしたストーリー性のある作品を書けないとか、まともにキャラ作りがなされていない作品が多いってのもありますしね。
そう考えると、女性向け作品の女性主人公で、なのに虐げられて絶望するというような本作のようなタイプだけが、自分の求める要求に応えうるのかもしれません。
本作をプレイしていて、これだよこれと、つくづく思ったものです。
<グラフィック>
本作は特徴・魅力の多い作品なのですが、最初に興味を抱いたのはグラフィックでした。
まず印象的なのは塗りですよね。
この色使いだけで誰の作品か分るようで、こういう特徴のあるグラフィックは非常に好きです。
もちろん、作品の雰囲気にも合っていますし。
それとね、男性向け作品では10年以上前から萌え絵だらけになって、シリアスな作品とかで、物語の雰囲気と合わない作品も増えました。
最初はそれに大きな抵抗もあったのだけれど、そんな葛藤は10年以上前に通り過ぎた道でもありまして。
今はもう慣れたというか、そんなもんなんだろうなということで、あまり気にしなくなっています。
それなのに、グラフィックで楽しめる作品が減っていまして。
これはもう萌え絵がどうのとか、そういうキャラデザの次元の問題ではないのです。
むしろ一枚絵の構図全体の問題ですね。
ただ単純に、一枚の絵として見入ってしまうような、心から惹かれる構図の作品が、今は非常に少ないのです。
本作をプレイしていて、まず何よりグラフィックが綺麗であるだけでなく、一枚の絵として鑑賞していても楽しめるわけでして。
最近は原画集とか全く買わなくなってしまったのですが、買わなくなったというより、買いたいと思う物がなかっただけなんですね。
本作は久しぶりに、これは画集が欲しいよなと思ってしまうくらい、非常に良かったです。
また、一枚絵だけでなく、立ち絵の変化も豊富でした。
そしてこれはRejet作品の特徴でもあるのですが、立ち絵で目パチ口パクも完備しています。
私は絵と音の連動という観点からは、口パクは大事だと思うわけでして。
目パチ口パクって、男性向けだとPC98時代まではわりと多かったのに、逆に音声の付き始めたWIN以降に廃れてしまいました。
音声のなかった昔は別に口パクがなくても気にならないのだけれど、音声の付いた作品こそ私は口パクが必要と思うのですけどね。
バーンとド派手な演出に比べると地味で後回しになりがちな所なのでしょうが、本作はこの点もきちんと対応しているのは好印象でしたね。
それから、これはゲームデザインとも関連するのだけれど、CGモードとかでCGをクリックすると反応が返ってきますので、その反応を見て楽しむことができます。
見るだけのCGではなく、プレイヤーに楽しませるって点も好印象でしたね。
<サウンド・音声>
最初に関心を持ったのがグラフィックとするならば、プレイを進めるにつれて関心が高まっていったのが、サウンド・音声になるでしょうか。
まず、声優さん、よう頑張ったw
オージェの笑い声ばかり集めた動画とかもあるようだけど、あれ聞いてるだけで、こっちまで笑えてくるし。
元々、女性向けより男性向けノベルゲーの方が先に進化していったので、男性向けノベルで音声が標準化され始めた頃には、女性向けノベルではまだ音声が付いていないケースも多々ありました。
しかしながら、女性ユーザーの方が声に対する意識が高いことから、それがゲーム作りにも反映されていったのでしょうか。
男性向けノベルの場合、音声が付いた段階で満足してしまった感じでして。
まぁBGVなどの多少の進化はありますが、結局は音声を付けるという段階から先には進んでいないのですよ。
それに対し、女性向け作品の方が、もっと音声で遊ぼうぜって意識が全体にあるんですよね。
もちろん、作品により細かい内容は異なってくるのだけれど、例えば本作ではオマケにエクストラボイスがあって、いろんなセリフを聞けたり、上記のCGクリックでも、クリックすることでストーリー上のテキストとは異なる会話を音声で楽しめます。
後述するグルーミングシステムなんかでもそうだし、本作は画面をクリックして音声で返ってくるのを楽しむ方向性が、比較的強くなっています。
私は音声に強いこだわりのあるタイプではないのだけれど、この音声を有効活用しようという姿勢はこちらに強く伝わってきましたし、その様なこだわりの姿勢には好感を抱いたものです。
サウンドでは、光田康典さんがかかわっているようでして。
私はPS時代のスクウェアのRPGとかで凄く好きな物も多いのだけれど、その理由の一つに光田康典さんのサウンドが好きだったってのもありますからね。
もちろん今でもゲーム音楽を手がけているようですが、最近は自分のプレイしないような作品と関わっていることが多いようでして。
それだけに、まさかこんなところでノベルゲーで遭遇するとは、全く予想もしていなかったし、嬉しかったですね。
<ゲームデザイン・システム>
ゲームジャンルはノベル系ADVになります。
次の選択肢まで一気に飛ぶ高速スキップなどもありますので、システム周りも良い方でしょう。
もちろん、今までに見たイベントシーンも見ることができます。
何故か男性向けノベルではHシーンの回想しか用意しないのだけれど、まぁ抜きゲーならそれでも良いのでしょうけどね。
ストーリー重視の作品はストーリーが一番なのだから、ストーリー上の各イベントも全部回想できるようにして欲しいですし、それが男性向けノベルに対する大きな不満でもあるわけです。
女性向け作品の方が、その点は発展していて、本作にもイベントを全て振り返る機能が付いているのです。
ここまでだと、ちょっと便利なノベルゲーってところなのだけど、違いがあるとすれば、むしろオマケなのでしょう。
まずゲーム本編に登場する一枚絵は、これは後にCGモードで確認できますが、その際にクリックすることで本編にない会話を楽しめます。
まぁ、まだまだ改善の余地も残っていますし、個人的には本編に組み込んで部分的なP&C式という構造にしても、それでも良かったかなとも思いますけどね。
でもそれは私の発想であって、女性向け作品にはP&C式ADVの文化がなかったのだから、本編に組み込ませると余計な混乱を招くおそれもあります。
その点も考慮するならば、オマケとして分離するのもありなのでしょう。
他にもグルーミングシステムというのがあり、これはキャラのあちこちをクリックして、その反応を楽しむものです。
本編では味わえない、ギャップのある反応が何とも楽しく、ついついグリグリと撫でまわしたくなります。
<評価>
ほぼ完璧ですね。
現在におけるノベルゲーの一つの理想形ではないでしょうか。
文句なしに名作といえるでしょう。
PSP版の方のストーリーもこちらに織り込んであれば、もっと評価は跳ね上がったんですけどね。
そのためストーリーの点は抑えめになっていますし、ストーリーだけなら他にも面白い作品はあるかもしれないけれど、それでもキャラ・グラフィック・サウンド・ゲームデザインなど、ほぼ全ての項目が良かったですから、それだけで傑作と言えるでしょう。
ノベルゲーは紙芝居と揶揄されることもあって、それでフルプライスは高いと言う人もいます。
そう言うと、すぐにやれRPGだ、やれSLGだと、短絡的に違うジャンルにしろと主張する人もいるのだけれど、何も基本をノベルゲーから変更することもないのでしょう。
ノベルゲーでありつつも、そこに便利な回想モードを入れて小説を読み返すより利便性を高めたり、キャラの魅力を更に引き出すオマケのミニゲームを付け加えたり、様々な付加価値を加えることで、十分な満足感を生み出せると思います。
本作はそれが比較的しっかりしているわけで、だからこそ現在の一つの理想形と思ったんですよね。
もちろん、これで完成形ではなく、部分的にはまだ発展の余地はあります。
でも相対的には、現状でここまで揃っている作品も他にないでしょう。
単に俺の書いたシナリオ読んどけっていうのではなく、ノベルゲーとしての全体としての作品作りとは何かを、この作品は示してくれたように思うのです。
ランク:AA(傑作)
Last Updated on 2024-12-01 by katan
コメント
以前、ブログでこの作品の記事を読んでいた時は、乙女ゲームに興味がない時期で、普通にスルーしてしまっていました。
でも今は、この作品は乙女ゲームもプレイする身になって、避けて通れぬ気がしています。
なんといっても、この記事を書いてるkatanさんが楽しそうです。
私はどちらかといえばM気質なので作品自体合わない可能性があります。
けれでも、怖いものみたさもありますし、振り切ってるキャラがどれ程のものなのか…
ノベルゲームだけに留まらないクリエイターさんの遊び心も気になりました。
PSP版も手元にあるので、まずはPCをプレイした後にPSP版もやろうと思います。
>メガドラさん
ぜひプレイしてみてください。
システム的にも、もともと乙女ゲーは男性向けよりもBLゲーよりも劣っていたのですが、次第に見劣りしなくなり、中には超えるものすら出てくるようになりました。
ちょうどその超える時期が、10年代前半のこの頃ということもあり、システムの変遷という観点からも興味深いと思いますね。