あの日の旅人、ふれあう未来

2020

『あの日の旅人、ふれあう未来』は2020年にWIN用として、PULLTOPから発売されました。

小笠原諸島を舞台に、活きたキャラが描かれたノベルゲームで、紺野アスタさんの代表作と呼べる作品ですね。
ヒロインの藍井珠季が、とても良かったです。

<概要>

ゲームジャンルはノベル系ADVになります。

あらすじ・・・
舞台は世界遺産の島、小笠原諸島。
滝沢勇利はかつて恋人だった少女・珠季を追って小笠原諸島を訪れる。
自然消滅してしまった関係にけじめをつけるために。
山の上のホテルにいるという珠季に会いに行く途中、道端でうずくまる少女と出会うことで物語が始まる。
内気で小柄な少女・絵里と向かった先にあったのは潰れかけのラジオ局。
そこにはかつて恋人だった珠季がいて、ひきこもり生活を続けていた。
過去とのギャップに戸惑う勇利と珠季。
夢を追いつつも家族に反対される絵里。
自然豊かな南の島で、少年少女の心が交差する。
ラジオは流れていく。様々な想いをのせて――。

<感想>

本作は、『空と海が、ふれあう彼方』の続編ではないのですが、同じ舞台、同じ時間軸で進んでおり、『空と海が、ふれあう彼方』のキャラとかも出てきますので、できれば『空と海が、ふれあう彼方』もやった方が良いのでしょう。

本作は紺野アスタさんがシナリオを担当しているということで、テキストが良かったのはもちろんなのですが、それ以外にも、グラフィック(一枚絵)も良かったですし、音の使い方にも唸らされる部分がありました。

そして何より、主人公とヒロインである藍井珠季の関係性が、とても良かったわけでして。

藍井珠季は良いキャラですね。
記号化されたヒロインではなく、良い部分も悪い部分も掘り下げて描かれており、とても魅力的でした。
このような活きたキャラに、久しぶりに巡り合えたように思います。
藍井珠季という魅力的なヒロインが描かれる、すなわち、主人公に従属する構造のエロゲ的ヒロインではなく、主人公と並ぶ存在として二人の関係性が描かれることで、ストーリー全体も1本筋の通った引き締まったものになっており、とても楽しめました。

なお、本作は小笠原諸島を舞台にしており、そこでラジオ番組を盛り上げようとする物語になります。
ラジオ局をメインの題材にしたことにより、小笠原諸島を舞台にしたという意味合いは少し薄れたかもしれません。
しかし、前作キャラも登場しキャラ同士のつながりも増し、小笠原諸島という縛りではなく、小さな島を舞台にした物語としては、更に魅力が増したように思います。

『空と海が、ふれあう彼方』をプレイした時、私は、何でこれをエロゲで出さないのかと苦言を呈したように記憶しています。
というのも、『空と海が、ふれあう彼方』の時は、まだ作りがエロゲ的なところがあり、エロシーンをなくして一般ゲーとすることに、何のメリットも感じられなかったからです。
だから本作が発表された時も、実はあまり期待していませんでした。

しかし、本作をプレイすることにより、それが間違いであったように思えてきました。
紺野アスタさんの作品は、これまでにも幾つかプレイしてきました。
これまでの代表作となると、やはり『この大空に、翼をひろげて』になるでしょうか。
固定ファンのいるライターだと思いますし、魅力的な物語を作れるライターだと思っています。
しかし、これまでに発売された作品の中で、私が名作と判断した作品はありませんでした。
というのも、これまでの作品は、良い部分も多い反面、プレイしていて引っかかってしまう部分もあったからです。
その引っかかってしまう部分というのは、プロットやストーリーの段階で、一般的なエロゲの枠に嵌め込もうとすることにより生じたものであり、そのエロゲという枠組み自体が、紺野アスタさんの持つ可能性を消してしまっていたように思います。
本作は一般PCゲーであり、そうしたエロゲのお決まりのようなしがらみから解放されました。
それにより、無駄な部分が削ぎ落され、プロットやストーリーからも不自然な部分がなくなり、紺野アスタさんの良い部分のみが残ったように感じました。
私が紺野アスタさんに求めていたのは、これだったのです。

<評価>

男女の関係を描いた物語として、久しぶりに気持ち良く楽しめました。
ロープライスの小粒な作品ではありますが、ほぼ全ての要素で高水準な良い作品でした。
総合でも名作といえるでしょう。

主観的にも大満足でしたね。
私は、こういう作品をプレイしたかったのです。
恋愛ゲーが嫌いとか飽きたとかいうのではなく、今のエロゲの恋愛ゲーとされる作品の不自然さに、私は辟易としていたのでしょう。
恋愛を描く作品自体が嫌いなわけではないので、だからこそ本作にはとても満足できました。

まぁ、そういう作品なので、エロゲ的恋愛ゲーが好きで、ライターの過去作と似たものを求める人には、本作はボリュームとエロがなくなった分、薄くなってしまったと感じてしまうかもしれませんけどね。
でも、本作は一般PCゲーとして発売しているわけですから、エロゲと同じ見方をすることの方が間違っているのです。
この作品を経て、PULLTOPと紺野アスタさんが、次にどういう作品を見せてくれるのかが、今からとても楽しみですね。

ランク:A-(名作)



DL版

Last Updated on 2024-08-07 by katan

コメント

タイトルとURLをコピーしました