『ALL ONE’S LIFE』は2000年にWIN用として、BeFから発売されました。
厘京太朗さんの原画に、工夫されたシステムに、しかもメインヒロインの声がまきいづみさんということで、見所の多い作品でしたね。
<グラフィック>
当時の、そして今に通じる流行路線から様々な点で離れている本作。
その一つ目が原画なのでしょう。
厘京太朗さんの絵は頭身が高めで、登場人物の年齢が比較的高めである上に、見た目も年相応ですからね。
いわゆる萌え絵の頭身低めで、年齢より若く見えるキャラとは、明らかに方向性が異なります。
だから萌え絵が好きな人には好まれないのかもしれないけれど、逆に萌え絵が苦手な人には、大人を描ける原画として、厘京太朗さんの絵は貴重だったんですよね。
私の勝手なイメージかもしれないけれど、当時のBeFのファンって少し特殊で、もうこのブランドのゲームが出なくなったらエロゲやめるみたいな、そんな印象すらありましたから。
当時の私は、萌え系の絵も好きだったのですが、厘京太朗さんの絵はオンリーワンな魅力があったことから、これはこれで良いよなってことで非常に好きでした。
原画に関しては本当に綺麗で大満足なのですが、一枚絵の数自体は平均よりやや少ないくらいです。
もっとも、本作はゲームのボリュームが少ないので、プレイにおけるCGの密度としては悪くないのでしょう。
しかし本作には、一般的ないわゆる立ち絵がありません。
一枚絵で処理していく形式なのです。
私は汎用の立ち絵で進行するだけが正しいとは思わないし、むしろあらゆる場面で一枚絵がある方が理想だと思っています。
だから一枚絵だけで進行させる手法も方向性としてはありだと思うのですが、立ち絵を廃した分、代わりに一枚絵の数を増やすとか、差分を増やすなどの対応は欲しくなります。
しかし本作は、立ち絵を廃しただけで一枚絵の数や差分が増えたという事情はないため、全体として、やや動きが乏しく感じてしまうのでしょう。
原画自体は最高なだけにね、ここでもう一工夫あれば、グラフィックだけで名作と言えたわけで、十分満足しつつも改善の余地はあったのかなと。
ところで、原画に関しては自分の好みで良い悪いを判断する人が多いし、私もやっぱり好きな絵柄の方が楽しめるのだけれど、本作に関しては後述するようにシステム的な部分から、キャラの表情から感情を読み取らせることがありまして。
些細な表情の違いから感情をプレイヤーに判断させようというのは、原画によほど自信がないとできないですし、好き嫌い抜きにしても、上手いよなと思いますね。
<ゲームデザイン>
本作が当時の流行路線と異なる二点目は、ゲームデザインになります。
ゲームジャンル自体はノベル系のADVであり、これは主流路線と同じなのですが、細かい部分で方向性が異なっていたのです。
ノベルゲーが増えてストーリー性を重視した作品が増えるにしたがい、物語内の主人公の個性・存在が強くなっていき、プレイヤーと分離した存在になっていきました。
その結果、主人公がプレイヤーの意思を反映しなくなっていったのです。
プレイヤーの意思を主人公に反映させる重要かつ貴重な手段として、ノベルゲーには選択肢があります。
しかしその選択肢の内容に主人公が従わないような作品も、少しずつ出てきました。
翌年の某作品なんかも作品としては非常に話題になりましたが、嫌う人は主人公が選択肢通りに動かない点を指摘することが多かったですしね。
私個人はプレイヤーの意思を反映できる方が良いと思うし、そうでないとゲームでなくなってしまうと思うのですが、どうも当時の多数派の好みは違っていたようで、ストーリーさえ良ければプレイヤーの意思に反していても構わないと、プレイヤーの意思を尊重するという点は軽視される時代になったようでして。
本作はノベルゲーなのですが、発想としては当時の主流の逆でした。
本作にはエモーションチェックというシステムがあり、これは主人公がヒロインをどう思っているのか、今後どういう関係を築きたいのかを事前に設定するものです。
これにより物語の分岐も決定されることがあり、完全ではないものの、主人公の感情や行動がプレイヤーに意に沿うよう、制御することができるのです。
これまた単体で名作を決定付けるほど面白いものでもないのだけれど、ストーリー重視のノベルゲーになりつつも、その中で従来のADV的な良さを何とか取り入れようとした工夫には、個人的には好感が持てます。
こういうのは後のノベルゲーマーより、本来のADVファンである古参の方が好みそうな要素でしょう。
従来的なADVの良さという点では、本作にはもう一点特徴があります。
本来のADVって、言葉や映像のキャッチボールみたいなものであり、主人公(プレイヤー)とキャラの応酬こそが醍醐味でもありました。
つまり双方向性がADVの本質だったのだけれど、ノベルゲーは一方通行なんですよね。
本作にはモーションヴューというシステムがあり、これは特定の場面でキャラの顔のアップが表示され、会話をしつつ、キャラの変化する表情から感情を読み取るものでした。
プレイヤーの意思をキャラに伝えるだけでなく、今、キャラが何を考えどういう気持ちでいるのかを、表情からプレイヤーに読み取らせることで、双方向性を演出しようとしたのです。
ここも、作り込みが少し甘いので、この部分だけで名作とは言えませんが、ノベルゲーの中にADVの魅力を融合させようとした点は良かったと思います。
この段落で書いた内容は、ノベルゲーしか知らない人とかだと、何を言っているかすら分らないかもしれません。
分らないだろうから、ノベルゲーマーには本作におけるこの部分の良さも分らないでしょう。
逆に本来のADVが好きで、ノベルゲーに抵抗がある人の方が、この部分の良さが分かるように思いますね。
これらのシステムは改良の余地は大いに残っているものの、ノベルゲーの良さとADVの良さを何とか融合させようとしており、読むだけのノベルゲーでありつつも、根底には絶えずプレイヤーの意思があるのだと意識させた点で、とても良かったと思います。
また、エモーションチェックやコンフィグなどは全て作中のPDAで管理されており、その統一されたUIも好印象でした。
まぁ今ならタブレット端末になりそうなところ、PDAが用いられる辺りに時代性を感じちゃいますけどね。
PDAって言われても、最近だと知らない人もいるでしょうか。
当時は私も一つ持っていたけれど、ほとんど使わなかったし、一般的にもあまりメジャーではなかったですからね。
とりあえず物は何であれ、時代や作品に合わせてアレンジすることが、私は大事なのだと思います。
以上のようにゲームデザインやUIが凝った作品であり、そこに魅力を感じる人も当然いるのだけれど、当時増えていったノベルゲーマーは、こういう部分に興味がなかったですから、当時の流行からはずれていたとは言えるのでしょう。
<感想>
主人公はフリーライターとして生計を立てており、仕事で知りあった浜岡凪砂と半同棲中です。
もっとも、「先に気持ちを打ち明けた方の負け」という賭けのせいで、二人は友達以上恋人未満のような関係がずっと続いている状況でもあります。
そんな微妙なバランスで成り立つ日々が続くなか、一つの事件をきっかけに関係に変化が生じて・・・て作品ですね。
全体としてはドラマでも見ているような、恋愛混じりのサスペンスものって感じでしょうか。
学園恋愛ものが多い中で、本作のような社会人が主人公の作品は珍しいです。
またヒロインとの恋愛メインの話ではなく、サスペンスとしての物語が中枢にある点も、この時期には少数派と言えるでしょう。
この段階で、昔のPC98ゲーマーなら楽しめたかもしれませんが、当時増えていた恋愛・萌えを求めるユーザーには合わなかったでしょうし、ずれていたと言えるのでしょう。
それでもサスペンスとして優秀なら良かったのですが、ここは本作を含めたBeF作品全体に通じる欠点が出てしまったわけで。
つまり、BeF作品をプレイした人は皆共通して感じることなのですが、グラフィックは最高だけれどストーリーが短すぎるということなのです。
ボリュームを伴ったストーリーもなく、萌えもなく、派手な展開もありませんので、少なくとも当時うけやすい路線からはずれていたのでしょう。
またボリュームの少なさから描写不足もあり、良いストーリーを求める人には本作は合わない可能性は高いです。
したがって、ストーリー全体という観点からは面白いとは言えないのですが、じゃあ読んでいて楽しくなかったのかというと、全然そうではなかったわけでして。
当時の人気ゲーのような日常パートでの笑えるギャグもありませんし、萌える要素もなく、淡々としているのですけどね。
でも、どのキャラも地に足が着いているというか、存在感やリアリティがあるんですね。
どうやら、主人公なんかも実在の人物をモデルにしているようですし。
会話や態度なんかも自然で、丁寧に描写されており、キャラの一つの側面だけを突き詰めた萌えゲーのヒロインと異なり、様々な姿を見せるヒロインが凄く人間味に溢れていて、安心して読めるのです。
部分的にとはいえ、キャラの感情をこちらに読ませようという作品ですから、細かい機微にまでこだわった作品なのでしょうね。
原画の魅力もあるのでしょうが、大人なキャラたちが登場し、リアリティのある会話を重ねることで、大人の物語を読んだ気にさせられますしね。
派手なストーリーや萌えキャラを求める人には合わないだろうし、そういう作品が増えてきていただけに、逆に本作のシナリオは印象的でしたね。
まぁ本音を言うならば、当時の私自身が派手なストーリーと萌えを求めていたので、プレイ当時は何か地味だなとか思ったりもしたのだけれど、後になって良さが分ってきた感じですね。
<音声・サウンド>
テキストから伝わってくるキャラの魅力という点では、やっぱり一番はメインヒロインの凪砂なのでしょう。
凄く良い味を出していましたからね。
しかも本作には音声があり、凪砂の声をまきいづみさんが声を担当しているので、個人的には更に好感度アップです。
今ではノベルゲーにおける音声は当たり前の存在ですが、本作発売当時は、シナリオゲーではまだ一般的ではありませんでした。
ブランド側もユーザー側も音声より先に、まずボリュームのあるストーリーを優先させていたって感じでしたからね。
本作はボリュームより音声を優先させたわけですから、この時期としては、やっぱり少数派だったと思います。
<評価>
広い意味では恋愛要素のあるノベルゲーではあるのだけれど、様々な面で主流のノベルゲーの対極にある作品でした。
ぶっちゃけ2000年を最も象徴するノベルゲーは『AIR』であり、私も非常にはまった作品でしたが、そういう作品の真逆のような存在ですからね。
だからその手の作品を求めていた人には合わないだろうなと思いつつも、でも、だからこそ、本作は名作といえるのでしょう。
本作は後のノベルゲーマーにも絶賛される方向の作品ではないけれど、逆に最近のノベルゲーつまらないと離れていった人が、高く評価していたりします。
BeFの作品は、萌えとは無縁であり、大人のキャラを描きつつ、ゲームデザイン面でも毎回変化を加えてきていましたから、ある意味PC98時代の魂を宿していたとも言えます。
好みによって分かれるのは、性癖や属性だけではありません。
ゲームの、あるジャンル一つをとってみても、そのアプローチの仕方は幾つも考えうるし、ある価値観の人には全く評価されないけれど、違う価値観の人には素晴らしい魅力を感じさせる作品があり、本作もそうした作品の一つと言えるのでしょうね。
ランク:A-(名作)

Last Updated on 2025-01-27 by katan
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