エンドレスセレナーデ

1999

『エンドレスセレナーデ』は1999年にWIN用として、DISKDREAMから発売されました。

windows時代以降の、同人から商業への流れを象徴する作品ですね。

<感想>

主人公の兄と婚約者・皐は共同でコンビニを経営するはずだったものの、その兄に突然死が訪れてしまいます。
以前から皐に想いを寄せていた主人公は、残された皐が経営するコンビニでバイトをしながら、人員不足もあり新人の指導役も兼ねることになります。
ということで、皐との関係はどうなるのかとか、ヒロインらとの間の恋愛メインの話が本作の第一部になります。

第一部というからには、第二部もあるわけでして。
本作の場合は、各ヒロインと結ばれるまでが第一部なんですね。
普通の恋愛ゲーは結ばれたらそこで終わるのですが、本作はその続きもあるのです。

問題はその第二部なのですが、結ばれたヒロインと主人公の間に問題が発生し、ここからはジャンルとしてはサスペンス(少しファンタジー)になるのでしょう。

前半が典型的な恋愛ゲーで後半がサスペンスと言われると、何だか随分変化したな~って思うかもしれません。
まぁ、でもここは捉え方次第なので、前半が共通パートのようなもので、早めにそこでヒロインとくっつき、後半は個別パートなんだって言い換えるならば、特に不思議でもないのかなと。
ノベルゲーでも、個別パートになるとガラっと雰囲気の変わるタイプがあると思いますが、そういうタイプの作品だと思っていただければと思います。
内容的には、普通に面白いってところでしょうか。

<ゲームデザイン>

ストーリーだけならば、近年の他のゲームとも、さほど変わらないような本作。
しかし、その違和感を大きくさせたのには、ゲームデザインも関連したのでしょう。

本作は基本的にはノベルゲーとなるのでしょうが、他方で公式には「デュアルノベルシステム」と名付けられていました。
すなわち、第一部はあちこち移動場所を選択し、ヒロインらと会話をしたり、バイトをすることになります。
当時よくあった恋愛ゲームの構造とも言えますね。

それが第二部になると、選択肢しか出てこない完全な読み物になります。
一部と二部でゲームシステムの構造が異なることから、デュアルノベルシステムと名付けたのでしょう。
個人的には、こういうのはありだと思います。
誰と結ばれるかに関しては、プレイヤーの意思を尊重し能動的に行動させ選ばせる。
逆にその後のストーリー重視のパートは、プレイヤーが読むことに専念できるようにするといった感じですから。

ただ、あまり馴染みのない構造だった上に、システムだけでなくストーリーも共に変化してしまうことから、一部と二部の隔たりが大きくなってしまいました。
そのために、変化についていけない人もいたのかもしれませんね。
私は統一感(えてして、それはマンネリの言い訳にもなる)よりも、変化の方を好む傾向がありますので、基本的に好意的なのですけれど。

<評価>

全体的に良かったと思います。
一般的にも99年の恋愛系のストーリー重視作品を幾つか挙げろと言われれば、まず入ってくるのではないでしょうか。

ただ、楽しめるし他との違いも示そうという部分もあるのですが、名作たらしめるほどの突き抜けた部分まではなかったのかなと。
そういうわけで、個人的には良作としておきます。

なお、作品の内容云々を別として、本作にはもう一つの歴史的側面があります。
PC98時代には同人ゲーも結構あったし、そこから商業化する話もありました。
しかしゲームを自販機で売っていたTAKERUが撤退したり、windowsになりゲーム製作が難しくなったこともあり、同人から商業への流れが一時途絶えたんですよね。

もちろん、同人作家が各ブランドに起用されることは幾つもありましたし、他にも同人から商業デビューしたブランドがあったかもしれません。
だから同人市場にあまり興味のない、同人に関してはにわかレベルの私には、そう見えたって話でもあるのですけどね。

その一度途切れたかに見えた流れがまた出来上がっていったのが、大体99年なのかなと思います。
少なくとも、同人に疎い私レベルでも気付けたのが99年でした。
99年はHon-Proというサークルが『三重奏』で評判になり、DISKDREAMというブランド名で商業デビューします。
そのデビュー作が本作なわけですね。
他にも、アニメキャラを調教するSLGで人気だったESCAPE SOFTWAREが、selenブランドとして『DEEP』で商業デビューしています。
こういう同人から商業への流れが雑誌でも特集され、同人市場の動向に興味のないにわかレベルでも知るほどに目立ち活気付き始めたのが、99年という年だったのです。

今のオタクは流行しているものに遅れずに乗っかれという傾向と聞きましたが、これは言い換えれば多数派の支持するものを支持するということになります。
しかしながら、この当時のオタクは流行になる前の物、まだ誰も知らないようなものを発掘したがる傾向があって、それでこれからは同人ゲー市場からも目を離せないとなったわけですね。
それで皆でアンテナを張り巡らしていたら、翌年に『月姫』なんかが出てきたりするわけです。
歴史ってのは流れであり、全部繋がっているんですよね。
他にもオーガストなんかも、元は同人ですよね。
PC98時代はプログラム屋が空いた時間にゲームも作ってたとかが多かったですが、ゼロ年代は同人から商業へって流れが無視できないほど大きいと思います。
そういう流れの端緒となるのが99年であり、本作はその象徴みたいな作品なのでしょう。
(まぁESCAPE SOFTWAREのルリルリもどきにお世話になっていた私なんかには、同人から商業へと言われてパッと浮かぶのはセレンの方なんですけどね。
でも時代は恋愛ノベルゲーってことで、雑誌とかの扱いであるとか、世間での印象からすればこっちなのかなと。)
というわけで作品の中身だけでなく、それ以外の点でも欠かすことのできない興味深い作品でした。

ランク:B-(良作)


エンドレスセレナーデ

Last Updated on 2025-01-14 by katan

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