『雪割りの花』は1998年にPS用として、SCEから発売されました。
やるドラシリーズの第4弾で、PSの同シリーズでは最後になります。
<感想>
やるドラシリーズはそれぞれ何かしらの季節がイメージされていますが、最後である本作は冬となっていますね。
さて、ADVに何を求めるかは人それぞれなのでしょうが、たぶん一番多くの人はストーリーではないでしょうか。
そして、やるドラシリーズで最もストーリーが優れた作品はと聞かれたら、この作品を挙げる人も多いのかもしれません。
このシリーズは、全て記憶障害を扱っていて、その点は『雪割りの花』も同じです。
主人公はアパートの隣人に想いを寄せているのですが、その隣家の女性は既に彼氏持ち。
ところがある日、彼女が病院に運ばれ、彼氏が死亡したという記憶が封じられてしまいます。
そこで主人公が彼氏の代わりを演じることになるのですが・・・というのが大まかなあらすじになるでしょうか。
終始重苦しい雰囲気なのも、シリーズでは異色でしたし、そういう重い恋愛物がゲーム機では珍しかったことも相俟って、好きな人は好きな作品に仕上がったとも思います。
ただ、どうしても幾つかの点が気になってしまいました。
まずはゲーム部分ですね。
本作はフルボイスフルアニメーションに特徴があるものの、基本的には選択肢で分岐するノベル系のADVと同じ構造を採っています。
『ダブルキャスト』などは選択により展開が結構変わったと思うし、「やる」ドラマというコンセプトが活きていたように思います。
しかし本作は、メインのストーリーとその他のBADという感じで、展開の幅が減ってしまいました。
これでは単純にゲームとしての幅も狭くなってしまいますし、「やる」ドラマというコンセプトからも外れてしまい、普通のノベル系のADVと変わらなくなってしまいます。
そのため、ゲーム性やコンセプトという観点からは、疑問が残ってしまうのです。
次に、グラフィックですね。
まぁ、一般にはこれが売れなかった最大の理由なのでしょう。
明らかに地味で、見栄えがしません。
これまでの可愛い系路線が好きな人は、これでは引いてしまいます。
もちろん、それは好みの問題でしかないとも言えるでしょう。
しかし根本的に、こういう動きの少ない物語を、フルボイスフルアニメーションでやる必要があったのかとも思います。
フルボイスフルアニメーションに関心がある層もいるわけで、そうした層を満足させる類の内容とは思えなかったのですよ。
80年代に演出重視のADVが流行りだすにつれ、SF系の作品が増えました。
絵と音を強調しやすいからという理由も当然あったはずで、SF系が増えたのも必然だったと思うのです。
良い作品は、伝えたいものと強調する手段がマッチしているもので、本作はその点で手段選択を誤ったように感じました。
それと、手段選択の誤りということでもう1点ですね。
フルボイスフルアニメのADVは、どうしてもボリュームが少なめです。
本作のような重めの恋愛系ならば、ノベルゲームでどっしりと書ききった方が良い作品になったと思います。
本作の構造ではボリュームが足りないために、ストーリーが物足りなく感じてしまうのです。
<評価>
全体としては、帯に短し襷に長しといったゲームでしたね。
フルボイスフルアニメの特質を活かしたわけでもなく、重い恋愛物の魅力を描ききったわけでもなく、どうしても中途半端な感じが否めませんでした。
見所もありましたし、一応は元は取れたと思うのですが、化ける可能性もあっただけに、もやもやした気になった作品でしたね。
ランク:C-(佳作)
Last Updated on 2024-12-23 by katan
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