わが青春の妖怪屋敷

1988

『わが青春の妖怪屋敷』は1988年にPC88用として、ドット企画から発売されました。

当時としては、かなり異質なノベルゲーであり、驚かされたものでした。

<概要>

ゲームジャンルはノベル系ADVになります。

本作を知らない人がキャラデザインだけを見ると、アダルトゲームっぽく見えるかもしれません。
もちろん、当時は18禁という区分がなかったので、ここでいうアダルトゲームとは、裸であるとか、アダルトな要素を含んだ作品を意味します。

絵柄的にもストーリーの内容的にも、当時の一般PCゲーのADVの主流路線と方向性が異なりますし、アダルトゲームの方に近い方向性のように感じますが、本作にアダルト要素は、まったくありません。
そのため、一般PCゲー方面からのアプローチ、エロゲ方面からのアプローチのどちらからも漏れやすい作品であり、それが本作のマイナー性を生み出していたのかもしれません。

<感想・ストーリー>

本作の主人公は、バンド仲間の男女4人組になります。
4人は、あるとき突然、妖怪屋敷に転送させられてしまいます。
その妖怪屋敷から脱出することがゲームの目的となりますので、物語上のジャンルとしては、館モノ、或いは脱出モノという分類になるのでしょう。

ストーリー自体は特筆すべきこともなく、平凡なものと言えるかもしれません。
しかし、バンド仲間4人組が主人公ってのがミソでしたね。

まぁ、バンド仲間という設定自体も、確かに珍しくはありましたが、だからと言って特別何かが違うとまでは言えないのでしょう。
この場合、むしろ「4人組」という部分に意味があったのです。

本作は、4人の会話が主となって進行するのですが、4人組がボケとツッコミを繰り返しながら進むので、テンポ良く楽しめるわけですね。
また、ちょっと独自のテキストでしたので、その辺りも印象的に感じたものです。

<ゲームデザイン>

さて、本作の大きな特徴たるテンポの良さ。
これを影で支えていたのが、ゲームシステムになるのでしょう。

ゲームのジャンルとしては、当時まだ出たばかりで珍しかったノベル系のADVになります。
何度も書いているので、ここでは省略しますけどね。
小説タイプのノベルウェアや、ゲームブックタイプの作品など、88年は様々なタイプのノベルゲーが出てきた年であり、本作もその中の1本になるわけです。

もう少し具体的に説明しますと、本作は実質的にオートモードに近い感覚で進行します。
というのも、基本的に4人の主人公たちが会話をして、それが自動で進み、要所要所で選択肢が出てくるのです。

画像を見れば、当時多かったコマンド選択式でないことは一目瞭然でしょう。
本作は、他のノベルゲーと異なり、自動で進む箇所が多いことから、感覚的には、今のノベルゲームを、オートモードでプレイしたようなものとなります。

そのような構造の作品ですので、当然ながら、視点みたいなのも異なってきます。
昔のADVは、プレイヤーとコンピューターのやり取りといった構造でしたので、プレイヤーの分身たる主人公「1人」の視点に縛られていたものでした。
(余談ですがそういう縛りがあったからこそ、逆に「1人」の視点を複数見るマルチサイトや、「1人」の視点を切り替えるザッピングが活きたわけですね。)
本作はノベルゲームですので、そういう80年代のADVにある「縛り」が存在しません。
だから、ごく当たり前のように4人の中の誰かの視点に変わりますし、4人の主人公たちの自然な会話によってゲームが進行するのです。

これだけだと少し分かりにくいでしょうか・・・もう少し補足していきますね。
つまり、ノベルゲーと言っても、たとえば『弟切草』や『かまいたちの夜』なんかでは、主人公が半分プレイヤーの分身であり、主人公とプレイヤーが分離していません。
他方、主人公とプレイヤーが完全に分離したノベルゲーについては、90年代後半にならないと出て来ないという見解を某所で見たことがあります。
個人的には、主人公とプレイヤーの完全分離に一体どれだけの価値があるのか疑問は残ります。
とはいえ、とりあえず主人公がプレイヤーの意思から離れることで、より小説的な構造になったとは言えるのでしょう。
そこに価値を見出せるのであれば、完全分離に価値を見出すことはできるように思います。
もっとも、そのような完全分離を実現した作品について、90年代後半まで待たなければならないというのは、明らかに誤りです。
なぜなら、88年に発売された本作の時点で、4人の主人公が勝手に会話しているわけですから、既にプレイヤーたる私たちの手を離れているのです。
だから完全分離の時期という点においても、遅くとも88年には既にあったということになります。

主人公がプレイヤーの意思に反し勝手に動くことがあると言っても、今となっては当り前すぎることでしょう。
だから、何を言っているんだと思う人もいるかもしれません。
これはいわゆる「コロンブスの卵」的なものであり、最近の人が本作をやったとしても、おそらく何も気付けないように思います。
しかし当時のADVをよく知っている人、そして当時のADVの常識に縛られている人であればあるほど、プレイしていて本作の構造に違和感を覚えるのではないでしょうか。
本作は、一見ありふれたゲームのようでいて、実は結構異質な存在だったのです。

ちなみに、私が本作をプレイしたのは、発売から10年以上経った大分後のことでした。
単純に面白いかと聞かれると微妙な部分もあるのですが、こんな作品がこの時期にあったのかと、衝撃を受けたわけでして。
一般的に語られるADVの歴史からは、明らかに異質な存在であり、様々な説明を根底から覆しかねないですからね。

もっとも、だからこそ、当時は支持されにくかったとも言えるのかもしれません。
これはもう、価値観の問題ですね。
ノベルゲーと同じ枠組みで、それ以外のADVを測ろうとして、それで頓珍漢に見えてしまう感想をたまに見かけます。
当然その逆もあるわけで、コマンド選択式が「常識」だったこの時代、突如ノベルゲーを出されても、コマンド選択式と同じ基準で見られることが多く、ノベルゲーとしての魅力が理解されにくいのでしょう。
また、主人公はプレイヤーの分身という意識が強かった時代において、4人のキャラがプレイヤーから完全に独立し、会話をしているわけですからね。
今だと普通に受け入れられそうですが、80年代のADVが好きで、ADVはこうあるべしと理想像を持っているような人だと、本作の様な存在は理解不能になりかねません。
そういう意味では、本作は時代を先取りしすぎていたのでしょうね。

<評価>

当時出始めたばかりのノベルゲームという珍しさ、主人公とプレイヤーを切り離した小説の様な展開の仕方など、当時の一般的なADVと異なる異質な要素が複数存在しますので、そういう意味では私好みの作品ではあります。
ただ、あれこれ分析する場合は興味深い作品であるものの、グラフィックやストーリーなど、個々の部分には特別秀でたところはありませんでした。
つまり、作品の構造を分析すると非常に興味深いというだけで、プレイしていて直感的に面白いと言える作品ではないわけで、なかなか単純には褒めにくい作品でもあるのでしょう。
そのため、総合ではギリギリ良作としておきます。

まぁ、世間で名作と言われるような作品だけをやって、それでその時代を知った気になる人も多いですが、名作と呼ばれる作品だけをプレイしても、歴史の一部しか分らないということですね。
本作は、当時の主流のADVが好きな人とかだと、まったく楽しめず凡作以下に感じる可能性も十分にある一方で、上記のように当時のADVの中にあっては異質な構造ないし雰囲気を有しており、個人的には点数以上に印象深い作品でもありました。

ランク:B-(良作)

Last Updated on 2024-07-29 by katan

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